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ぴんく★りぼん (前)

2014.10.16(22:47) 22


……決して琴子ちゃんがぴんくのりぼんに緊縛される話ではありません……(^^;




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彼の大きな手がゆっくりと彼女の胸の上を這い回る。
三本の指先を合わせ、小さな可愛らしい乳輪の回りを強く押し、感触を確かめるように丁寧に移動させていく。触れてない箇所がないように、確実に………。
さらには乳房の上部、胸骨の浮き上がるあたりまで手のひらで確かめ、そして腋下へと這わせる。腋下は重要だ。
恥ずかしがる彼女の両腕を頭の上に上げさせて、シーツに縛り付けて、右、そして左と腋下から乳房にかけてのラインをなぞっていく。

「痛いっ……入江くん、強く圧しすぎ…」
琴子のクレームに、
「我慢しろ、すぐ終わる」と、直樹はあっさり一蹴。

………あ、本当だ。終わった……

琴子は直樹のもたらす指先の感触から、さっきまで医者の行為だったものが、男のそれに変わったのを感じた。
皮膚下の何かを探っていた指先が、ただ優しく小さな隆起を包み、琴子の快感を引き出す為だけの動きへと変わるのだ。
強く圧しすぎた箇所を労るように、直樹の唇が落とされ始めた。

「…入江先生、大丈夫だったでしょ?」

なし崩しに琴子に覆い被さってきた直樹を制するように云うと、
「もう、先生はおしまい。それともお医者さんごっこモードでこのまま行くか?」と、耳元で囁かれ、
「……遠慮します」
と、応え--。




「…何か不満そうだな、奥さん? 物足りなかったか?」

情事の後のいつもの癖で、抱き抱えたままの琴子の髪を優しく手櫛ですきながら、意地悪そうな笑みを浮かべて妻の顔を伺う。

「…だって、入江くんいつも触診の後、電気点けたまんまで……消してくれないんだもん」

「そりゃ、触るだけじゃなくて、視認も必要だからな。凹みとかひきつりとか……」

「……もうっ…そんな状態だと手遅れじゃないの? それに電気は触診の後に消してくれてもいいじゃない!」

「……それこそ今更恥ずかしがらなくてもいいじゃん」

ぷくっと膨れた琴子の頬をつんと突つきながら面白そうに笑う。

「…だいたい、あたしもちゃんとお風呂で自己検診してるよ? こんなに頻繁に触診しなくて大丈夫だよ」

「……念には念を、だ。用心するに越し過ぎることはない」

直樹が乳癌の触診をマメに行う理由は分かっている。
琴子の母がその病で幼い琴子を遺して旅立っていったからだ。
乳癌は自己検診で発見できる唯一の癌だ。早期ならば乳房を失うことなく完治することが出来る。
だが発見が遅れるとリンパを通して全身に転移してしまう恐ろしい腫瘍だ。
無論全ての癌に遺伝性があるとは限られた訳ではない。遺伝性乳癌は全体の5%から10%だ。ほぼ9割が親が乳癌であろうが関わりがない、ということになる。にも関わらず、近親者に乳癌や卵巣癌患者がいる場合、いないものと比べて2倍発症リスクが高くなるというのもまた事実でーー。

琴子の母の死因が乳癌だったと知った時から、直樹は月に一度は触診を行う。
どうせ、脱がせて触ってなんやかやという行為になだれ込むのだから、そのついでである。
それに医者である以上専門外といえど、早期発見出来る病を見逃してなるものかという思いもある。それが愛する妻ならば尚更だ。

無論年に一度の乳癌検診も、母紀子とともに受けさせている。どちらかといえば年齢的にも紀子の方が心配ではあるが。

親父もちゃんとお袋に触診するように云っとかないとなーー

20代で検診を受ける者は少ないが、看護師という職業柄、受けやすい環境ではある。乳房摘出患者の精神的フォローをする為の看護セミナーにも参加しているし、一般の女性より知識はある筈だ。
そして当然のことながら、検診は女性医師に当たるように直樹によって采配されていたのだが、それは琴子の預かり知らぬ話である。

「--絶対にお前の胸を切らせたりしないから」

早期に発見出来れば乳房温存治療が出来る。

「………あるかないかわかんないようなちっちゃな胸だけど………切り取られるのはやっぱ嫌だもんね…」

母は左乳房を全摘したにも関わらず、三年後再発し、骨や肺に転移したという。
しかし琴子の記憶の中には、病と戦い苦しんでいた母親の姿はない。
家でも病院のベッドの上でもニコニコと笑っていたような気がする。多分娘には決して苦しむ姿を見せまいとしていたのだろうが。

「……小さいけど、形は綺麗だし、ここの色も可愛いピンクで、何より……」

直樹の指先がぎゅっと琴子の胸の、その可愛いピンクの実を摘まむ。

「……や…んっ」

「この感度の良さが最高……」

「…もうっ!」

「…これを無くしてシリコン入れるなんてこと、絶対にさせないから」

「…うん……」

自分の胸に顔を埋める直樹の頭をかき抱きながら、琴子は想う。

--大丈夫。あたしは少しも不安じゃないよ。
入江くんが、あたしも、あたしたちの家族も--きっと、ちゃんと、守ってくれる--。

忙しなく這い回る直樹の指先をその胸の上に感じながら、ゆっくりと瞳を閉じる。

--ね? お母さん……あたしは大丈夫だよ--。






それから二ヶ月ほどしたある夜のことである。

「…ねぇ…入江くん……」

風呂から上がってきた琴子が、髪の毛をごしごしとタオルで拭きながら、ベッドの背に凭れて本を読んでいた直樹の隣にペタッと座る。

「おまえ、ちゃんとドライヤーで乾かせよ」

「……う…うん」

タオルからはみ出た髪の幾筋かが肩に落ち、彼女のパジャマを湿らしていた。

「…あの…さっきお風呂でね…」

言葉を選ぶように、おずおずと話し出す琴子。

「自己検診したんだけど……なんかね…」

本から離さなかった直樹の瞳が、大きく見開いて琴子を見つめる。

「…………しこりがある気がするの」

ばさり、と。
直樹の手から本が滑り落ちた。






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Snow Blossom


2014年10月16日
  1. ぴんく★りぼん (前)(10/16)