月下の一族 ~第一夜~不思議なふたり 1

この話、とある漫画のパロディです。

先日の皆既月食の赤い月と、ハロウィーンの時期であるということと、さらに別な連鎖現象により、ある名作漫画を思いだし、唐突に生まれてしまいました………




パロディの割には妙にシリアステイストです。だって、〇〇ですもん(^^;
幻想かつ耽美(?)……それでイリコト!?

※※※※※※※※※※※※※※※※※




それは1985年の春のことだった。

僕は今まさにヒースロー空港を飛び立とうとしている機内にいる。

ロンドン在住の、依頼人の元配偶者から幾つかの書類にサインを貰うというだけの仕事を全うして、漸く日本に戻るところだ。
ロンドン滞在8時間。
そして片道12時間のフライト。
僕は往路の時差ボケが治らないうちに帰路の便に乗り込むというタイトなスケジュールに少々の疲れを感じながら、搭乗券片手に自分の席を探していた。
三人掛の通路側--あった。ここだ。

既に他の席には二人の先客がいた。
窓際には栗色の長い髪の少女。真ん中の席には随分と端麗な顔をした美しい青年が座っている。

………日本人、だよな?

二人ともアジア系なのは間違いないだろう。恋人? 兄妹?
ピンクの可愛らしい花柄のワンピースを着た少女は、上から下まで真っ黒な衣服に身を包んだ青年の腕にすがり付いて寄りかかっている。

「失礼します」

僕は席上の収納棚にアタッシュケースを入れると、自分の席に座った。
隣の青年が一瞬ちらりとこちらを見たが、軽く会釈をしただけですぐに傍らの少女に視線を戻す。

「入江くん……」

「大丈夫だ、琴子」

飛行機が怖いのかな?
隣の彼の腕にしがみついてかたかたと震えている。

やがて飛行機は徐々に加速を続け、ふわりと地上から解き放たれたのを感じた。

暫く上昇を続け、気圧の変化に耳の奥の違和感を紛らわそうと唾を飲み込む。

隣では相変わらず少女が青年にすがり付いている。ぎゅっと目を瞑り顔を青年の肩に押し当てていた。

けっこう、可愛い。

目を瞠るような物凄い美少女という訳でもない。だが苦しげに顔を歪ませて何かに耐えている様子は、妙に嗜虐心をそそるというか……艶っぽい。
すると、まるで僕の邪な想いに気がついたかのように、隣の青年がギロリとこちらを睨んだ。

げ、こえーっ

な、なんだ、この刺すような冷たい視線は!
なまじっか容貌が綺麗なだけに射抜くような瞳に背筋が凍りついた。


彼は僕から彼女が見えないよう背を向けて彼女に覆い被さる。
シートベルトがあるから体勢がきつそうだが、背凭れと彼女の隙間に腕を差し込み完全に自分の胸に抱え込んでいるようだ。

僕はなるべく隣を見ないように目をつぶった。流石に疲れていたのか、シートベルトサインが消えるのも気がつかないくらい、すぐに意識が遠のいた。



「orange juice and coffee ,please」

機内サービスの声でうつらうつらしていた意識が呼び戻された。
隣二人が注文したらしく、僕の目の前を通過してドリンク二つが彼らの前のテーブルに置かれる。
僕もコーヒーを注文した。

水平飛行になって彼女も落ち着いたらしく、先ほどの青冷めた表情とはうって変わってにこやかな顔となっていた。
大きな瞳に、愛らしい笑顔。やっぱ可愛いなあ。
しかし隣の青年にまた睨まれるんじゃないかと、なるべく見ないように心掛ける。
……兄妹じゃないよな。
何となく二人の雰囲気から察してしまった。
多分、恋人同士。海外に婚前旅行か。いい身分だなぁ、若いのに。

「日本の方ですよね? ロンドンへはお仕事ですか?」

意外なことに声を掛けてきたのは彼女からだった。

「はい。まあ、1日も滞在してなかったんですが」

「そーなんですか? じゃあビッグ・べンも大英博物館も行ってないんですか?」

隣の彼の向こうからひょいと愛らしい顔を覗かせる。

「はい。行かれましたか? どうでした?」

「いえっあたしたちも行ったことないんです。だって、入江くんが博物館はミイラとか怖いのがいっぱいあるっていうし、ロンドンも街中はお化けや幽霊がいっぱい出るって脅かすんですもん。だから30年も住んでた割に一度も観光したことなくって」

「琴子!」

青年が遮る。
--30年!?

「3年だろう、琴子。ずっと郊外に住んでいたので余り街中には行ってないんですよ」

青年がすかさずフォローする。

「お仕事ですか?」
僕が訊ねると、彼は「ええ、まあ」と言葉を濁す。ビジネスマンというよりは留学していた学生といった方がいいくらいだが。

そして僕たちはやっと紹介をし合う。

「入江直樹です。こちらは妻の琴子」

「妻!? 結婚してるんですか?」

つい叫んでしまった。

「おかしいですか?」

彼があからさまに眉を潜めた。

「や、やっぱりあたしたち夫婦に見えません?」

彼女の顔はあからさまにガックシ落ち込んでいる。

「これでももうかれこれ400年も夫婦やってるんですけどね……」

はい?

遠い目をしている彼女の頭をぺしり、と彼が叩(はた)いた。

「失礼、4年です」

やはり彼がすかさず訂正。
彼女、ちょっと不思議ちゃん?

「いえ、奥さんがご主人のことを入江くんとか言ってるのでただの恋人同士だろうと……」

僕の言い訳に、彼女は再び目を輝かして、「恋人には見えたんですか?」と、嬉しそうだ。

「ふふっ 昔は直樹さんって言ってたんですよ。でも、幕末の頃に『君づけ』が流行ったじゃないですか。それからちょっとこの呼び方にハマっちゃって、ずっと『入江くん』なんです」

はあ。 幕末………?

また、ぺしり、と彼が彼女の頭を叩いた。
「入江くん、いたーい」

「……ただの冗談です」

「面白い奥さんですね」

やっぱり不思議ちゃん………

「でも結婚して4年も経っているんですね。随分お若く見えますけどお幾つですか?」

「えーと………」
彼女が指を折って数えようとしているのを無視して彼がさっさと答えた。

「私が24で、琴子が22です」

「そうなんですか。奥さん、可愛らしいからまだ10代かと思いました」

「いやーん、可愛らしいだって!」

今度は彼女が彼の肩をぺしっと叩いた。


その後も時折彼女とお喋りをした。日本語で話すのが久し振りらしく、ころころと鈴のように他愛ない話を繰り返す。
そしてたまに?と思うような不思議ちゃん発言があったが、そんな時はすぐに御主人が訂正していた。



12時間あまりのフライトでいつまでも喋ってばかりではない。狭い空間の中でトイレ以外は動くこともなく、少し眠っては機内食の提供で起こされ、少し眠ってはまた食事、と何だか養豚所の豚になった気がしてきた。大して腹も空かないが、とりあえずやることもないので肉か魚を選び、料理をつつく。
隣を見ると、最初は料理を頼んだものの、申し訳程度に口にしただけで、その後の食事は全て断っていた。
まあ、確かにこんな環境じゃ腹なんて空かないけど……ほとんど食べないってのも、どうかなぁ?

機内のあちこちの小さな窓から光りが漏れだした。どうやら朝らしい。周りの乗客もちらほらとシールドを開けて外を眺めている。まあ雲しか見えないだろうけれど。
僕たちの席の窓のシールドは開く様子はない。ぴしりと締め切られたままだ。まあ、太陽のある側は眩しすぎるから、こっちの列のはみんなすぐに閉めてるけどね。

「……琴子、大丈夫か?」

どうやら奥さんの具合が又よろしくないらしい。
顔を真っ青にして随分苦しそうだ。
身体が弱いのかな?

「大丈夫ですか? スチュワーデスさん、呼びましょうか?」

僕は心配になって声をかける。

「いや、大丈夫………」

彼は僕を一瞬見て--そして暫く何かを考えているようだった。

「………?」

すっと、彼の手が僕の方に伸びた。
指先がふわりと項にあたる。

「----!」

彼の瞳がすうっと細くなり、そして赤く光ったような気がした。
その瞬間、僕はくらりと目眩のようなものを感じた。血の気が引くとはこのことか。

「………失礼。ゴミが付いていたもので」

彼がさっと手を引くと僕は一瞬のうちに例えようもない疲労感に襲われ、そのままシートにどっしりと背を預ける。

--なんだ? いったい……

僕はちらりと横を見る。
すると。

--おいっ何やってんだよっ!

何とこの夫婦、熱い口づけを交わしていたのだった。
ちょっと奥さん、具合悪いんじゃ……?
なんかぴちゃぴちゃと淫猥な音が……めっちゃディープなキスしてませんか?

いや、僕も隣をガン見してるどころではなく、いまいち倦怠感が治らない。こんな感じは初めてでちょっと慌てるが、それ以上に隣のねちっこいキスも気になる。

そして、僕は気がついた。

彼の背中に回された彼女の腕。
何だか老婆のように骨ばってかさかしていたのだった。シミも幾つかついている。
それが。
熱いキスを交わしているうちに、徐々にシミが消え、肌がじわじわと白くなり瑞々しさが増していくのだ。

そして二人が唇を離した後にはすっかり彼女の腕は元の艶やかな十代の肌に戻っていた。

………いったい何だ……? この二人。

彼はぽかんとした僕を見ると、軽く唾液に濡れた唇を拭う。

「大丈夫ですか? 顔色悪いですよ。少し眠った方がいい」

ふっとやさしく声を掛けてくる。

「……いや、僕は大丈夫だけど……奥さんは?」

「ああ、もう大丈夫です。流石にここは太陽が近すぎた。もう飛行機での移動は慎まねば……」

「………???」







やがて飛行機は無事成田に到着し、僕たちはぞろぞろと外に出ていく。
席順の流れから、入国審査もそのまま、この奇妙な夫婦と連れだっていた。

そしてまた不思議な出来事があった。
もうすぐ審査の順番、という所で彼女がパスポートを落としたのだ。
僕はそれをさっと拾い、彼女に渡した。
機内での青白い顔が嘘のように、血色の良い艶やかな顔を僕に見せて、申し訳なげに眉を下げる。

だが……僕は呆然として、暫く身動きがとれなかった。
見てしまったパスポートの中………
その写真が、彼女の顔とは似ても似つかない顔--間違いなくアカの他人のものだった。そして名前も違っていた。

--どういうことだ?

僕は固唾を飲んで、彼女が入国審査官にパスポートを渡す様子を見ていた。彼女の前に御主人が何の問題もなく通りすぎていた。
しかし、彼女は他人のパスポートだ。入国できる筈がない。

だがしかし。
入国審査官は、パスポートと彼女を比べ一言二言言葉を交わし、パスポートに印を捺すと何事もなく彼女に返した。

……どういうことだ……? いったい……

不可解なことばかりだ。
僕は釈然としないまま、荷物を取りにバケージクレームの前に行く。
少しばかりイライラして待っていると漸く僕の黒いスーツケースが現れて、さっさと受け取る。
しかしかの夫婦の荷物はもっと早々と出てきたようで、僕が待っている間に既にその姿はなかった。

入国ゲートから出て、空港バスのターミナルに向かって歩いて行こうとした時である。

「渡辺さん」

声を掛けてきたのは件の夫婦だった。
空港を行き交う人たちがみな、この綺麗な顔の旦那を一瞥していく。多分芸能人か? と一瞬思うのだろう。

「……入江さん?」

「さっき、顔色が悪かったようなので、これを差し上げようと」

「………え?」

差し出されたのは、滋養強壮ドリンク………なんで?

「献血したあとって、何か貰えるのでしょう?」

「献血……?」

「いえ、こちらのこと。とりあえずお大事に。では」

「さようなら、渡辺さん」

にこっと愛らしく頭を下げる奥さんの腰にすっと手を回すと、二人ぴったりと寄り添って空港の雑踏の中に消えていった。

--不思議な出会いだった。
だが、再び彼らと会うとは思いもしなかった。





ロンドンから戻って僅か二日後のことだった。
僕が勤める法律事務所のボスが、ちょいちょいと手招きをする。

「渡辺くん。ちよっと君に頼みたい仕事があるんだが、いいかな」

「はい?」

「実はうちの事務所が管理している屋敷があるんだが」

そういってボスは僕に書類を渡す。入江家管理--そう書かれた封筒。入江って……うちが顧問弁護士をしている財閥だよな。

「30年程前に亡くなったこの家のかつての当主が実に奇妙な遺言を遺していてね。現在の当主の祖母にあたる人だ。 世田谷にある古い屋敷だけは、誰も住まわせず、ずっとうちに管理させてきたんだ。
そして彼女が遺した言葉ってのが『もしこの先入江直樹、琴子と名乗る夫婦が現れたら、この家の鍵を渡し、住んでもらうこと。彼ら以外にこの家には誰も住まわせてはならない』ってものでね」

「なんですか? そりゃ。相続人たちは何も言わなかったんですか?」

「入江財閥の礎を作ったゴッドマザーの遺言だからな。誰も逆らえないんだろう」

へぇしかし、変な遺言………え? 入江直樹、琴子って言わなかったか? 今!
なんかその名まえ最近聞いたぞ!

「そして、本当に来たんだ。その入江直樹、琴子って夫婦が。その屋敷の鍵をくれと--」



まさか彼らと再び会うことになるなんて。
僕は呆然と、その封筒の中の鍵を見つめていた--。




※※※※※※※※※※※※※※※

すみません、耽美をはきちがえてましたね……(^^;


一話完結の三部構成の予定が、一話で終わらなかった………




ところで最近イタキス業界で流行りらしい、えすえむ診断……あたし、サド度0、マゾ度100 真性M!! と出たんですが……あたしっていったい……!?



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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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