20141001~シンデレラ・エクスプレス


祝、東海道新幹線開通50周年……と、朝から新聞誌面がその記事で賑わっていたので……つい、なんとなく(^^)

ちょっとした小話です(^^;

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「入江くん、新幹線、今日で開通50周年
何だって」
寝室のドレッサーの前で髪をとかしていた琴子は、ベットで本を読んでいた直樹に話し掛ける。

「らしいな」
本から目を離さずあっさり答える直樹に、
「あーやっぱり知ってるんだ。なんか、あたしが入江くんに教えてあげれることってないよね」
少しがっかりする。

「……子供たちのことはオレよりおまえの方が知ってるだろうが」

「そ、そっか。そうだね」
そしてその言葉にあっさり浮上。
新幹線より8歳年下だけとは思えない少女のような笑みに、直樹は見ないふりをしつつも、しっかり囚われている。

「新幹線にいっぱいお世話になったよね、20年くらい前……」

神戸に研修に行っていた時のことだと思い至る。20年を越える結婚生活の中で、1年も離れて暮らしたのはあの時だけ。

あの頃よりも随分東京ー神戸間も近くなったことだろう。

「…新幹線を見るとね、今でもちょっときゅんってしちゃうの。あー、これに乗ったらもうすぐ入江くんに会えるんだあ♪って思ったこととか、これに乗ったらまた入江くんと離れちゃうんだ、って寂しくて寂しくて堪らなくなったこととか」

まるで20年の時を越えてその瞬間に降り立ったように琴子の瞳は切なげに潤んでいる。
一瞬で、あの時の状況を思い出し、すっかり当時のCMのヒロイン気分の妄想に浸っているのが分かる。

「辛かったけど、苦しかったけど、あの時あたしたち頑張ったよね?」

目尻にひかった涙をふき、にこっと微笑む。


ああ、まったく、この奥さんは。
明日はオペがあるから控えようと思っていたのに。

「……新幹線の扉が閉まる瞬間までキスしてたり?」

ベッドに入っていた筈の直樹がいつの間にか琴子の後ろに立ち、そしてふわっと背後から抱き締める。

「え…?」

20年前と何ら変わりない体型と容姿。
3人もの子供を生んだとは思えない。
肌も艶やかで、アラフォーとは誰も信じまい。琴美と並んでも姉妹と間違えられるのだから。

首筋にキスされて、軽く身じろく。

「入江くん、なんで……」

問い掛けの言葉はキスで簡単に塞がれる。そのまま抱き抱えられて、ベッドに直行。

「入江くん、明日オペじゃ……」

「大丈夫、まだまだ体力は衰えてないし」

にやっと笑う。
彼もやはり20年前と変わらない体型と容姿と、そして頭脳と体力。巷で年を取らない化け物夫婦とも囁かれていることを知っているのか知らないのか。

「…でも、睡眠不足はマズいから、新幹線モードで行くな?」

直樹の手はさっさと琴子のパジャマの釦を外しに掛かっている。

「でも、あんまりあっという間だと申し訳ないから、各駅停車レベルで」

――なんで新幹線の話を振ったらこんなことに?

琴子の疑問は直樹の唇や、指先の甘やかな動きによってかき消され、やがて何も考えることなど出来なくなったとさ。


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おそまつでした…………
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19990506~ナンジャモンジヤの木の下で 2


やはりアメリカは遠い。
神戸の時のように毎日留守電に電話することもままならず、当然直樹からは一度も連絡はなかった。
それでも一回くらいは掛けてきてくれるのではと僅かな希望を抱いたりもしたのだ。自分が直樹の声を聴きたいと思うように、直樹も自分の声を聴きたい筈だと。

………なわけないか。そう思った一分後に自分でさっさと一蹴して自爆する。

旅の日程表なんて気の利いたものを置いていくわけもなく、今何処にいるのか、何処のホテルに泊まるのか、いつの飛行機に乗るのか知らないまま10日が過ぎた。そして、今日一体いつ到着するのかも分からない。
連絡してくれれば成田にだって出迎えに行くのに、横断幕つきで。(だから教えてもらえないのだが)
――と、切なく何度目かのため息をつく。

今日半休になったのは、直樹が帰って来るからというのもあったが、もとは婦長の配慮からだった。ゴールデンウィーク中、琴子は直樹が居ないこともあって夜勤の多い変則的なシフトを受け入れた。
連休期間休みを取りたいナースたちが多かったためだ。
その疲れと折からの食欲不振も重なって、昨日は目眩で倒れかかって点滴を受ける始末。
人手不足もあって1日は無理だが今日は午後から休みなさいと云われていたのだ。

「あんた、お昼ご飯は? うち帰って食べるの?」

「あーどうしようかな? うち帰っても2時過ぎるよねぇ?」

「アタシ、今からお昼だから一緒に食べる?」

「うん、そうしようかな…」

そう云って漸く窓の近くから離れようとした途端、パタパタと足音がし、二人しかいない休憩室の扉が微かに動いた。

「いた?」

「え? あのひと?」

「うそ!」

「まじっ?」

「えーなんで? 有り得ない!」

「それが本当なのよ、信じられないことに」

部屋に入るでもなく、扉の隙間から覗くような影と、ぼそぼそと聴こえる声。
途端に琴子の顔が再び曇る。

眉をつり上げた幹がツカツカと扉の方に行き、ばんっと扉を全開する。
弾みで四人のナースたちがそのまま部屋に転がり込んだ。

「何か用かしら? 外科病棟のナースじゃないようだけど?」

「耳鼻咽喉科です。ごめんなさい、新人の娘たちに病棟案内を……」
一人が先輩看護婦らしい。琴子より大分年上だろう。しかし残り三人は初々しい。

「…今頃病棟案内…ですか?」

幹が鼻で笑う。もう五月だ。そんなのは配属一日目で終わっている筈。

「入江先生の奥さん見学ツアーてとこですか?」

図星だったようで、四人は「ごめんなさい」と頭を垂れる。

「見学に来るなら本人には絶対分からないようにこそっと来るか、もっと大胆に堂々と来るかどっちかにしてもらえません?」

軽蔑しきったような冷たい眼で幹が見ると、「スミマセン」と再び頭を下げてバタバタと走り去って行く。

「…ったく、暇な連中…」

自分も昔、あわよくば妻の顔を見たいと入江家見学ツアーを行ったことがあるので、気持ちは分からなくもない。(しかも当の妻を引き連れて!)
しかし学生時代とは違い、ここは職場である。

琴子を見ると、再びずんっと暗くなっている。さながら漫画のタテ線が何本もさーっと引かれているような。

「もしかしてあーゆーの、初めてじゃないって感じ?」

幹が訊ねる。

「うん……新人たちが職場に慣れて夜勤とか通常のシフトに入り始めてから…ちょいちょい」

「仕事でいっぱいいっぱいだったのが、ちょっと余裕出来てきて、色恋の情報を収集し始めたってところね」

どうやら琴子がブルーなのは直樹不在だけが原因ではないようだ。



えー、あんなのが入江先生の奥さんなの? 趣味わるーい!

あれならあたしでも勝てるかも。

えー略奪?

楽勝じゃない?

なんか仕事も出来ないらしいわよ、ドジばっかりで。

やだあ、入江先生、可哀想!



囁かれた言葉の数々が、琴子の耳に残り心を抉る。

「大丈夫。そんなの気にしてないから。いつものことだし」

無理して笑顔を作っているのがありありである。

「……それに実際、採血とか点滴とか、未だ上達しなくてあの娘たちの方が上手いかも」

自嘲気味に笑う。

「…馬鹿にされても仕方ないかな…」

4月になるまで自分が先輩になることを心待ちにしていた琴子に、皆は「後輩に馬鹿にされないように気をつけなさいよ」と揶揄していたが、どうやら周囲の予感は的中し、琴子の先輩としての自信はあっという間に粉砕したようだった。

「…あたしなんて入江くんの奥さんにちっとも相応しくないもんね…」

直樹が傍に入ればすぐさま浮上するポジティブさがあるのに、彼の居ない今はとことん落ち込む一方のようである。

「今日だって、外来への伝達事項が不十分で、皮膚科外来の榎本さんにめっちゃ怒られたし」

確かシングルマザーのナースだったわね、と斗南病院の職員名簿をすべて把握しているのではないかといわれている情報屋幹はすぐに頭の中で検索する。
外来は子供のいるパート看護婦が多い。午前中で帰れるからだ。しかし五連休の後の狭間の平日である今日は、外来患者が殺到し、時間通りに帰れず気が立っている看護婦もいることだろう。

「まあ…今日は外来のナースはみんな忙しくてイライラしてんじゃない?」

「そうだね。うちも連休中の救急患者結構回ってきたもんね。ああ、なんか半休貰うの申し訳なくなってきた」

「気にすることないわよ。あんた連休中休みなしでしょ?」

「うん、明日やっとお休み」

――それは正解ね。なんてったって入江さん二週間ぶりの………だもんね。

「あ、ご飯の前にあたしの担当引き継いでくれる竹原さんに申し送りしとかなきゃ!」
早めに昼食に入ったのでもう戻っている頃だろう。

「よしっ」と、気合いを入れて自分の頬を両手でぱんっと叩くと、「モトちゃん行こっ」と促す。

そしてふっと思い出したように窓の方を振り向くと、
「ねえ、モトちゃん、あの窓から見える白い雪みたいな花の木、何て言う名前かなぁ?」唐突に問いかける。

「ああ、確か……へんな名前だったのよ。入江先生が教えてくれて…」

「…ええ? なんで入江くんがっ? モトちゃんに?」

「たまたま居たから訊いたのよ。さすが入江さん、即答だったけど……そうそう、
あれよ、『ナンジャモンジャの木』!」

「ナンジャモンジャ? 何それ? 入江くんにからかわれたんじゃない?」

「何いってんの、入江さんがアタシなんかに冗談言うわけないじゃない! ナンジャモンジャは俗称で、正式名称を聞いたんだけど……忘れたわ!」

「ふーん、ナンジャモンジャねぇ…?」

「そういや、あんた最近よくあの木の下立っているわよね? 何してんの?」
思い出したように幹が訊ねる。
一時期裏庭の木の下に幽霊がいるとちょっとした騒ぎになって、琴子が「えーあたしよくあの木の下に行くのに! こわーいっ」と言ったことから幽霊は琴子だったと判明――などというショートコント的顛末があったのだ。

「べ…別にっ! ちょっと愚痴ってたのよ!」

「はあ? 樹を相手に?」
呆れたように幹が叫ぶ。

「…そうよ、悪い?」
むくれ顔の琴子がぷいとその顔を反らす。

「裏庭には人が滅多に来ないでしょ? 溜まっているもの吐き出すのにちょうどいいのよ」

「…まったく…」軽くこめかみを押さえてから、琴子の背中をばんと叩く。
「今から聞いてあげわよ! 愚痴は生きてる人間に言いなさい!」



そして二人は食堂に向かった。




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管理人の、のののです。イタズラなキスにはまって、二次創作を始めました。

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