2014.09.27 (Sat)
19930928 ~誕生日にはカプチーノを (後)
「ただいま~」
琴子が入江家の扉を開け、しんと静まり帰った玄関に入った時、ポーチライトは点いているものの誰もいないのは明らかで、それでもいつもの癖でいつもの挨拶をしながら靴を下駄箱に仕舞う。
重樹が入院して以来夕飯の仕度は琴子の役目だが、今日のように出掛ける日は、紀子が一度裕樹を連れて病院に行き、弁当など買い込んで重樹の個室で皆で食べたりしているようだ。
直樹は最近はとみに忙しくて、家で食べる機会はぐんと減った。
それが仕事のせいなのか 、見合い相手とのデートのせいなのが分からない。
ただ琴子の料理が不味くて食べたくないから帰らない――とは、思いたくはなかった。少なくとも、琴子が夕飯担当になって以来、直樹は料理については一切文句も云わず完食してくれた。自分でも相当ひどい出来だと感じた時でさえ。
誰もいないリビングの灯りを点けて、とりあえずキッチンに行き、水を一杯飲む。
時間は午後9時。そんなに遅い時間ではない。紀子と裕樹もそろそろ帰ってくるだろう。明日も学校はある。
琴子も前期試験が終わるのが明後日で、じんこも理美も「どうせ勉強してもムダ」と、琴子の誕生日の為に目一杯お祝いしてくれた。
金之助の作ってくれたケーキも美味しくて、店のカウンターの片隅で、少し目を潤ませながら食べた。
少なくとも…寂しい誕生日ではなかった、と思う。試験の出来はともかく、幸せな1日だったと。
…直樹は今日も遅いだろう。最近余り顔を合わせていない。夏休み中は会社でアルバイトをしていたから、ほぼ1日共に過ごすことが出来た。
重樹が入院し、会社が大変なことになり、でもその結果直樹が一人暮らしをやめて家に戻り、新婚生活の真似事が出来、会社でも一緒に居て――ちょっと浮かれていたのかもしれない。
――だから、バチが当たった。
直樹が医者になる夢を諦めなくてはならなくなって。
琴子が直樹のことを諦めなくてはならなくなって。
――これは天罰だ。
「ふう…」
コップを洗い軽くシンクを拭いた後、ダイニングテーブルの上に散らかっていた裕樹の教科書やノートを片付ける。どうやら紀子が迎えに来るまで宿題をしていたようだ。
そして、ふとテーブルの上に箱と置き手紙があることに気が付いた。
「…これ…!」
『琴子ちゃんへ お誕生日おめでとう。今年はちゃんとお祝いしてあげれなくてごめんなさい。ささやかなプレゼントです。受け取ってね』
『琴子、またひとつババァになったな』
紀子の綺麗な文字と裕樹の幼い文字が並ぶ。
箱の中味は以前琴子がファッション誌を見て可愛い!と叫んでいたピンクのポシェットだった。
その横には裕樹が作ったらしいミサンガ。三色ほどの紐を編み込んで、でこぼ
こしているが素朴な風合いがある。
手紙を何度も何度も読みながら、ぽろぽろ涙が零れ落ちる。
――ありがとう、おばさん、裕樹くん。
自分は本当に幸せ者だと思う。
多くの人に自分の生まれた日を祝ってもらえる幸せ。
ただ一人の人に祝ってもらえなくたって、全然平気だ。大丈夫。
――大丈夫だから。
かたん…
階下の物音に、はっと琴子は机から顔を上げた。
「やばっもう11時!」
試験勉強をしていて机に突っ伏して眠ってしまったらしい。紀子たちが帰ってきたらお礼を言おうと思っていたのに気付かなかったようだ。
今の物音は紀子だろうか。裕樹はもう寝たかもしれない。
慌てて階下に降りる。
「……入江くん?」
そこにいたのは直樹だった。
久しぶりに見る直樹の顔。パジャマ姿で風呂上がりらしい。
キッチンでコーヒーをれていたようだ。
「あ、あたしやるよ!」
慌てて駆け寄る。
「…いいよ、もう淹れ終わるから」
ほぼケトルのお湯を注ぎ終わり、ドリップからは黒い雫がぽたぽたと落ちている。サーバーには一人分より少し多目のコーヒーが出来上がっていた。
直樹は棚から自分用のマグカップ取りだし、コーヒーを注ぐ。ステンレスに黒い英字が刻まれたシンプルなマグは、以前琴子が旅行に行った際にお土産としてあげたものだった。
琴子はコーヒーの芳醇な香りが立ち込める中で、ぼんやりと直樹の手元を見ていた。
いつも自分がコーヒー係だった。この家の中で唯一自分が自信を持って出来た作業だった。でも、それすら実は直樹の方が上手なのかもしれない。自分の淹れた方が美味いな、と思いながらも面倒だから琴子のコーヒーを我慢して飲んでいたのかもしれない。
ふとそんなことを思って少し悲しくなった。
「…おまえも飲む?」
「え? え?」
不意に直樹に訊かれて、琴子は一瞬何のことか分からなかった。
サーバーにまだ少しコーヒーが残っているのを見て、自分な勧めてくれたのだと思い至る。
「今から飲んだら眠れなくなっちまうか」
「…え、あ、ううん。まだ少し勉強したいから、飲みたい! 飲ませて下さい!」
慌てて直樹に追い縋る。
その様子を見てくすっと笑うと、「そっか、今試験か」と、少し寂しげな表情になる。
試験を受けたくても学校にも行けない状況の直樹に、琴子は申し訳ない気持ちになった。
「おまえ、カフェオレとかの方がいいんだろ?」
「え、あ、うん。いいよ、あたし自分でミルク入れる」
冷蔵庫に手を伸ばそうとした琴子を直樹は制し、「いい、おまえ座ってな」と、ダイニングテーブルを顎で指し示す。
「でも」と、尚も食い下がる琴子を無視して、直樹はさっさと冷蔵庫から牛乳を取り出すと、耐熱カップに注いで電子レンジに入れた。その間に流し台の引き出しから小さなスティックタイプの電動泡立て器を取りだし、温まった牛乳をしばらく撹拌する。
琴子は流れるような直樹の手際の良さにぼんやりと見とれていた。
コーヒーの入った琴子専用の花模様のマグカップに、撹拌したホットミルクを注ぐと、コーヒーはふわふわの白い泡に覆われた。
直樹は製菓グッズやスパイス一式の入った引き出しからココアの粉末の小瓶を取りだし、泡の上にぱらぱらと振りかける。
「はい、カプチーノ。……まあ、本式はエスプレッソだけどね。あ、砂糖入ってないから自分で入れろよ」
「すごーい! 入江くん、バリスタみたい!」
あっという間に出来上がったカプチーノ。カフェオレよりも一手間掛けてくれたことが信じられないくらいに嬉しい。
琴子の座ったテーブルの上にマグカップを置き、角砂糖の入ったシュガーポットとティースプーンを手渡す。
そのまま直樹は自分のマグを持って上に行ってしまうかと思いきや、琴子の前にあっさり座った。
こんな風に差し向かいで対峙するのは久しぶりだった。
真夜中に二人きりという状況にもどぎまぎしてしまう。
直樹は自分のコーヒーを一口飲むと一瞬眉をひそめた。
直樹はブラックだ。苦いのは当たり前。なんでそんな表情をしたのかと不思議に思いながら自分はカップにぽんぽん砂糖を入れる。
「幾つ入れるんだよ?」
「へ?」
「砂糖」
「ああ、3つ」
「もう4つ入れてるけど」
「えー! あ、でも、甘いの摂った方が頭に良いよね?」
「夜は脂肪になる方が多いだろうな。糖分摂取するなら朝に摂れよ。試験の時に効果出るぞ」
「そ、そっか、へへへ」
そう言ってスプーンでかき混ぜ直樹の作ってくれたカプチーノを口に含む。
「美味しい!」
口元に泡をいっぱい付けて琴子は満面の笑みを浮かべる。
その様子に直樹は軽く口角をあげると、
「おまえの淹れたヤツの方が美味いけどな」と、ボソッと呟く。
「不思議だよな。豆も同じだし、淹れ方もちゃんとレシピ通りの手順でやってみたのに何が違うのかな?」
独り言のようにコーヒーを見つめながらぽつぽつと話す。
「そういやおまえ、緑茶とかも淹れるの美味いよな」
「…緑茶は父さんに仕込まれたけど、コーヒーはおばさんだよ。おばさんに教えてもらった通りにやってるだけ。だから、おばさんと同じ味だと思うけどなぁ」
「それが不思議と違うんだな…」
心底不思議そうにカップの黒い液体を眺める直樹を見つめ、どうやら自分のコーヒーを褒めてくれたらしいことに気が付いて少し顔が赤くなる。
その後は、二人でとりとめのないを続けた。もっぱら試験の話題が中心になる。
「出来はどう?」
「まあまあ…かな?」
「明日のは何? 大丈夫なのか?」
「国文学概論。うーん、資料持ち込みO.K.なんだけど、何を勉強していいのか分かんなくて」
カプチーノを飲みながら上目遣いで直樹の顔を伺うが、流石に勉強見てやるとは言ってくれない。……当たり前だが。
会話が途切れた時、話題をどうしようと悩み、直樹の近況を訊こうと言葉を紡ぎかけ、しかしやはり自分の中で待ったをかけた。
もし、彼女とのデートの話が出たら――そう考えただけでも胸が締め付けられる。
しばらくの沈黙の後。
「…それ……」
「…え? あ、これ?」
裕樹のくれたミサンガに直樹の視線はあった。もし裕樹が起きていたら見せようと腕に着けていた。
「裕樹くんが…」
「…知ってる。編み方調べるの、手伝ったから」
「えっ!? ウソっ」
「なんで嘘つくんだよ」
直樹のムッとした顔に、慌てて謝る。
「ごめ…入江くんが手伝ってたなんて思いもよらなくて」
つまり直樹も今日が琴子の誕生日だと知っていたということか。
では、もしかして――。
琴子はあと少しで飲み終わってしまいそうな、泡だけふわふわ残っているカップの中を見つめる。
「知ってるか? それつけたら自然に切れるまで付けっぱなしなんだぜ?」
「…知ってるわよ。切れた時に願いが叶うんでしよ?」
Jリーグが開幕したこの年、選手たちが身に着けていたミサンガが話題になった。サッカー選手の名前を少しも覚えられない琴子だってそれくらいは知っている。
「何か願い事したの?」
「…ナイショ」
少し顔を赤らめてそっぽを向く。直樹はそんな琴子の様子を見て微かに笑った。
「じゃあ、オレもう上に行くわ。仕事持ち帰ってるし」
立ち上がった直樹につられ自分もつい立ち上がる。
「入江くん、ありがとう! カプチーノ、凄く美味しかった!」
頬を染めて礼を言う琴子を一瞬見つめたあと、薄く笑う。
そして。
「ひげ、付いてる」
琴子の口元にふっと指を差し伸ばすと、その回りに付いていたミルクの泡を拭い取ってへペロリと舐めた。
「………………!!!」
「甘いな。ミルクには砂糖入れてないのに」
余りに自然な直樹の行動に、琴子はただあたふたするだけで、顔がかあっと熱くなっていく。
「じゃあな。試験頑張れよ」
「うん、おやすみ」
直樹はそのまま琴子の顔も見ずにさっさと背を向けて行ってしまった。
琴子は火照った顔を隠すように頬を両手で覆う。
誰もいなくなったダイニングに琴子はしばらくひとりで座っていた。
空っぽになって、すでに冷たくなったカッを両手で持ったまま。
これは……誕生日プレゼントのつもりだったのだろうか?
それともただの気紛れだったのか。
「どっちでもいいや…」
たまたま誕生日に直樹がカプチーノを作ってくれただけ。それだけでも、一年分の幸せを貰った気分だ。
「お母さん…今日は素敵な1日だったよ」
腕に着けたミサンガを優しくなぞる。
願い事はただひとつ。
――来年の今ごろ、この家に住む人たち全員が心から笑っていられますように…
****************
スミマセン、バースディイブなのに、ほろ苦い話で(..) なんだか、素敵サイト様のブログタイトルのような話になってしまいました。カフェラテにしようかな、とも思ったのですが、やっぱり泡立てるという一手間を直樹にして欲しかった…
明日は極甘スイートな一年後の話です。
一話で明日中に更新したいなぁとは思っているのですが^^;
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2014.09.27 (Sat)
19930928 ~誕生日にはカプチーノを (前)
「おはよう、お父さん」
朝一番に父重雄の寝起きする和室に入って来ると、琴子はゆっくりと仏壇の前に座った。
「おはよう、琴子・・・それと、誕生日おめでとう」
「ありがとう、お父さん」
ふんわり微笑んだ後、仏壇の小さな写真に手を合わせる。倒壊した家の中から探し出したアルバムの殆どが土にまみれ、唯一無事だった母の写真は小さな集合写真のみで、拡大しても少しぼやけている。
重雄も敷いていた布団を押し入れに仕舞うと琴子の隣に座る。
ローソクに灯をともし、線香を立てた。
「お母さん、おはよう。あのね、あたし、今日で21歳になったよ。お母さんには想像もつかないよね? 大人になったあたしなんて。でも、お母さんはあたしの歳にはお父さんと一緒に暮らしていたんだよね。あたしも・・・お母さんみたいに好きな人と両想いになりたかったな・・・」
琴子が一心不乱に心の中で想うことは、ぶつぶつと言葉になって隣の父に丸聞こえだった。
「お母さん、産んでくれてありがとう。あたし、今はちょっと色々としんどいけれどいつかきっと笑って歳を重ねて行ける日が来ると思うの。少し時間がかかるかもしれないけれど待っててね」
誕生日の朝に恒例のように繰り返されてきた琴子の母への言葉。
――産んでくれてありがとう。
いつもはにっこりと告げる言葉が、どことなく寂しげで、重雄は娘の負う傷の深さに、自らの胸も何か大きな塊が鎮座しているように、ずしりと重い。
「今日は大学終わった後は店に来い。金之助がケーキ焼くとか言ってたぞ」
「えー、金ちゃんケーキも焼けるの ? スゴーイ!」
そう言った後で「あ、じんこや理美たちも約束してるんだった。二人が帰りにカラオケでパーティやろうって」慌てて父を見る。
「一応まだ、明日も試験あるから、そんなに遅くならないよ」
「その後でもいいから、店には顔を出してくれ」
「うん、分かった。ありがとうね、お父さん」
少しはにかんだように笑う。
「・・・昔に戻ったみたいだね」
「そうだな」
昔・・・4年前までの、二人きりで暮らしていた頃の、誕生日。
あの頃も、友達にお祝いしてもらった後で父の店に寄り、ささやかな祝い膳を出してくれた。
入江家に同居しはじめてから、誕生日はまるで小学生のお誕生会のように賑やかで楽しいものだった。紀子の仕切りで横断幕や部屋の壁いっぱいにつけられた折り紙が、入江家のリビングを保育園のプレイルームのように彩り、オモチャ箱の中に住んでいるようにわくわくとした。
手作りのケーキ、食べきれないくらいのご馳走、紀子からのプレゼントはいつもセンスのいい雑貨やアクセサリーだった。
そして渋々といった風に、それでも必ず参加してくれた直樹。
プレゼントをくれる訳でもなく、しかめっ面を崩すこともなく、例え紀子に脅されたのだとしても――必ず居てくれた。それだけで十分だった。
去年の誕生日は最高だった。素敵なドレスを誂えてもらい、皆から祝福され――そして直樹がプレゼントと称して一晩中試験勉強をみてくれた。
もう、あんな日々は二度と来ないのかもしれない。
直樹の父、重樹が倒れ、直樹は会社を立て直す為に、医学部に転科したばかりの大
学を休学した。そして会社の為に見合いをして――。
この嵐のような夏から秋の出来事は、あんなに明るかった入江家に陰を落とし、常に琴子のことをあれこれ気遣っていた紀子ですら、彼女の誕生日を思い出すことはなかったようだ。
それはもう、仕方のないことだ。
寂しいとか切ないとか、そんな風に思う訳ではない。
ただ昔に戻っただけ。
――入江くんは覚えているのかな? 今日があたしの誕生日って。
・・・ 覚えてる訳ないか。
考えた瞬間、自嘲気味にソッコー否定。
記憶力のいい直樹のことだから、琴子の誕生日が何月何日と直ぐ様言えるだろう。しかしきっと今日がその日だという認識はないに違いない。
それくらい彼は忙しくて。
それくらい彼は琴子のことなど眼中になくて。
そんなこと分かっていたハズ。
今更、寂しいとか悲しいとか思わない。
――ただ、あまりにも心が空虚で――やりきれないだけ。
朝一番に父重雄の寝起きする和室に入って来ると、琴子はゆっくりと仏壇の前に座った。
「おはよう、琴子・・・それと、誕生日おめでとう」
「ありがとう、お父さん」
ふんわり微笑んだ後、仏壇の小さな写真に手を合わせる。倒壊した家の中から探し出したアルバムの殆どが土にまみれ、唯一無事だった母の写真は小さな集合写真のみで、拡大しても少しぼやけている。
重雄も敷いていた布団を押し入れに仕舞うと琴子の隣に座る。
ローソクに灯をともし、線香を立てた。
「お母さん、おはよう。あのね、あたし、今日で21歳になったよ。お母さんには想像もつかないよね? 大人になったあたしなんて。でも、お母さんはあたしの歳にはお父さんと一緒に暮らしていたんだよね。あたしも・・・お母さんみたいに好きな人と両想いになりたかったな・・・」
琴子が一心不乱に心の中で想うことは、ぶつぶつと言葉になって隣の父に丸聞こえだった。
「お母さん、産んでくれてありがとう。あたし、今はちょっと色々としんどいけれどいつかきっと笑って歳を重ねて行ける日が来ると思うの。少し時間がかかるかもしれないけれど待っててね」
誕生日の朝に恒例のように繰り返されてきた琴子の母への言葉。
――産んでくれてありがとう。
いつもはにっこりと告げる言葉が、どことなく寂しげで、重雄は娘の負う傷の深さに、自らの胸も何か大きな塊が鎮座しているように、ずしりと重い。
「今日は大学終わった後は店に来い。金之助がケーキ焼くとか言ってたぞ」
「えー、金ちゃんケーキも焼けるの ? スゴーイ!」
そう言った後で「あ、じんこや理美たちも約束してるんだった。二人が帰りにカラオケでパーティやろうって」慌てて父を見る。
「一応まだ、明日も試験あるから、そんなに遅くならないよ」
「その後でもいいから、店には顔を出してくれ」
「うん、分かった。ありがとうね、お父さん」
少しはにかんだように笑う。
「・・・昔に戻ったみたいだね」
「そうだな」
昔・・・4年前までの、二人きりで暮らしていた頃の、誕生日。
あの頃も、友達にお祝いしてもらった後で父の店に寄り、ささやかな祝い膳を出してくれた。
入江家に同居しはじめてから、誕生日はまるで小学生のお誕生会のように賑やかで楽しいものだった。紀子の仕切りで横断幕や部屋の壁いっぱいにつけられた折り紙が、入江家のリビングを保育園のプレイルームのように彩り、オモチャ箱の中に住んでいるようにわくわくとした。
手作りのケーキ、食べきれないくらいのご馳走、紀子からのプレゼントはいつもセンスのいい雑貨やアクセサリーだった。
そして渋々といった風に、それでも必ず参加してくれた直樹。
プレゼントをくれる訳でもなく、しかめっ面を崩すこともなく、例え紀子に脅されたのだとしても――必ず居てくれた。それだけで十分だった。
去年の誕生日は最高だった。素敵なドレスを誂えてもらい、皆から祝福され――そして直樹がプレゼントと称して一晩中試験勉強をみてくれた。
もう、あんな日々は二度と来ないのかもしれない。
直樹の父、重樹が倒れ、直樹は会社を立て直す為に、医学部に転科したばかりの大
学を休学した。そして会社の為に見合いをして――。
この嵐のような夏から秋の出来事は、あんなに明るかった入江家に陰を落とし、常に琴子のことをあれこれ気遣っていた紀子ですら、彼女の誕生日を思い出すことはなかったようだ。
それはもう、仕方のないことだ。
寂しいとか切ないとか、そんな風に思う訳ではない。
ただ昔に戻っただけ。
――入江くんは覚えているのかな? 今日があたしの誕生日って。
・・・ 覚えてる訳ないか。
考えた瞬間、自嘲気味にソッコー否定。
記憶力のいい直樹のことだから、琴子の誕生日が何月何日と直ぐ様言えるだろう。しかしきっと今日がその日だという認識はないに違いない。
それくらい彼は忙しくて。
それくらい彼は琴子のことなど眼中になくて。
そんなこと分かっていたハズ。
今更、寂しいとか悲しいとか思わない。
――ただ、あまりにも心が空虚で――やりきれないだけ。
2014.09.27 (Sat)
はじめまして
この度は当ブログをご訪問下さりありがとうございます。
管理人の『ののの』と申します。
当ブログは、イタズラなkissの二次創作サイトです。イタズラなkissに御興味のない方、二次創作に不快な思いを感じられる方の閲覧はご遠慮下さるようお願い申し上げます。
ちなみにこのブログの性質上、下記に該当する方のご訪問を熱烈歓迎致します。
1 ) IFでもパラレルでも何でもオッケー
2 ) 原作のイメージとかけ離れても大丈夫!
3 ) 琴子ちゃんが不幸な目にあっても(病気やら事故 やら記憶喪失やら)最後がハッピーエンドならどんとこい。
4 ) たとえ 沙穂子さんと直樹が結婚しても最後は琴子とハッピーエンドならどんとこい。
5 ) なんか似たような話読んだことあるぞ、と思っても気にせずスルーできる方!
6 ) なんかこの人の話好きじゃないや、と思ったら何も語らず立ち去っていただける方(..)
以上、つまるところどんな話でもどんとこいの方、歓迎です。
なんか注文の多い料理店みたいでスミマセン(..)
切ない系パラレル長編が多いかも、ですが、基本イリコトラブラブハッピーエンドです。それは絶対!!です。
ちなみに私、PCスキルゼロです。なのでひたすらスマホから投稿する予定。かといってスマホのスキルがあると言う訳でもなく、PCより文字打ちが多少速いだけ。でもスマホはやはり誤字が多くて(..)しかもハード面の問題が山積みで、解決されないまま、えーい行っちゃえと見切り発車です。取り敢えず琴子ちゃんの誕生日までにお話アップしたかったんですっ(^^;
恐らく更新も亀のようにのろいことでしょう。
こんなざっくりしたブログですが、お付き合い下さる方がもしいらっしゃったならとっても幸せです。
尚、多田先生の公式サイトや関係者各位とは一切関係ありません。
すべては私の趣味と妄想の世界です。
原作のイメージを大切に思われる方はくれぐれもスルーでお願いします。
ののの
管理人の『ののの』と申します。
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ちなみにこのブログの性質上、下記に該当する方のご訪問を熱烈歓迎致します。
1 ) IFでもパラレルでも何でもオッケー
2 ) 原作のイメージとかけ離れても大丈夫!
3 ) 琴子ちゃんが不幸な目にあっても(病気やら事故 やら記憶喪失やら)最後がハッピーエンドならどんとこい。
4 ) たとえ 沙穂子さんと直樹が結婚しても最後は琴子とハッピーエンドならどんとこい。
5 ) なんか似たような話読んだことあるぞ、と思っても気にせずスルーできる方!
6 ) なんかこの人の話好きじゃないや、と思ったら何も語らず立ち去っていただける方(..)
以上、つまるところどんな話でもどんとこいの方、歓迎です。
なんか注文の多い料理店みたいでスミマセン(..)
切ない系パラレル長編が多いかも、ですが、基本イリコトラブラブハッピーエンドです。それは絶対!!です。
ちなみに私、PCスキルゼロです。なのでひたすらスマホから投稿する予定。かといってスマホのスキルがあると言う訳でもなく、PCより文字打ちが多少速いだけ。でもスマホはやはり誤字が多くて(..)しかもハード面の問題が山積みで、解決されないまま、えーい行っちゃえと見切り発車です。取り敢えず琴子ちゃんの誕生日までにお話アップしたかったんですっ(^^;
恐らく更新も亀のようにのろいことでしょう。
こんなざっくりしたブログですが、お付き合い下さる方がもしいらっしゃったならとっても幸せです。
尚、多田先生の公式サイトや関係者各位とは一切関係ありません。
すべては私の趣味と妄想の世界です。
原作のイメージを大切に思われる方はくれぐれもスルーでお願いします。
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