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個別記事の管理2015-02-25 (Wed)


やっと終わりました。結局2ヶ月以上かかってしまいました。おかしいなあ~?
最初の頃の秘かな野望としては、結婚記念日のお話を4話くらいで終えて、すぐに連載始めて、毎日更新して(出来上がったものなんでちゃちゃっと校正してアップできると思ってた)そして、ちょうどクリスマスイブに最終回! ……のつもりでしてた。
ま、『20th anniversary』が予想外に長くなったあたりから、クリスマスイブ最終回は無理だな、とは思ってたのですが。けれど、結局2月……しかもバレンタインも過ぎるとは……(°Д°)
どうも手直ししながら書いていく、という作業が、実は勢いで書いてささっとその日にアップするってのよりも大変だった、ということですね(^^;何度ラビリンスに入り込んだことか……


さて。
このお話は元々、結婚後の未入籍エピにムカッとして出来たものです。
もう、勝手にイタキスファンの総意だと思ってますが(^^;

ええ、琴子ちゃんが可哀想で可哀想で。
結婚前散々冷たい仕打ちを受けて、何だかワケわからないうちにプロポーズ、結婚式、ハネムーン……そして日常に戻った途端に冷たく放置。甘々期間は一体何週間? ずっと入江くんとの結婚が夢みたい、と思ってた琴子ちゃん。これじゃ本当に、あれ、やっぱり夢だったんだーって思ってしまうよ?
と、いうわけで琴子ちゃんがエンドレスループの夢の世界へ入り込んでしまうという世にも奇妙な話が生まれてしまいました。

この話のタイトル『彼女は美しい夢を見る。』初めは『beautiful dreammer』でした。そしてそれは、今から遥か30年前のアニメ映画『うる/星や/つら2 ビュー/ティフ/ルド/リーマー』から、だったりします^-^;
実を云いますと、あまり話の内容は覚えてなかったのです。ただ、キャラたちが不思議な夢の世界に迷い込んでしまうという、それくらいの曖昧さ(^^; けれど妙に友人からダビングしてもらったサウンドトラックの幻想的でアンニュイなピアノ曲が未だに耳から離れなくて。そのイメージから生まれた物語、ということで、『beautiful dreammer』にしようかと思っていたのですが、まんまなのはあんまりなので、日本語にアレンジ。美しい夢見人? それもどうかと思い『彼女は美しい夢を見る。』となりました。

そして、昨日最終回アップし終わった後に、ウィキでうる星2を調べたところ(まあ、丁寧にあらすじのってました!)何となく似てる部分がありましたね。
文化祭前日の1日が毎回繰り返されるタイムループとか。
夢邪鬼という妖怪が人の心の中にすんで悪夢を見させるとか。
いや、別に速川が妖怪というわけではありませんが(^^;
でも、ミュータントとかモンスターとが散々化け物扱いだったもので、彼女f(^_^)
実は結構私の中では普通の女の子だったのです。女の子って、誰でも意地悪な部分とか持ってるじゃないですか。それが少し露骨で、若干境界線はみ出し気味。現実にはあまりたいしたことは出来なくて、嫉妬や妄想だけが大きくなって意識下の世界で深い闇を作り出してモンスターになっていく……臆病な少女。そんなイメージです。まあ、ちょっとリリカルな部分もありまして。
『大好きな彼をずっと見つめていて。だからわかってしまった。彼が誰を見つめているのか』←ほら、乙女チック(爆)
いえ、こんな感じの三行ラブレターがあったような(^^;
元はそんな感じでございましたので、琴子ちゃんの天使のような慈愛に満ちた心に触れてあっさり浄化。いや、あっさり過ぎて大丈夫かい?と思いましたが、普通に受け入れられたようで少しほっとしました^-^;

とりあえず、このお話の目的は年内入籍だったので、それが達成出来て良かったです。
原作で、直樹の仕事が片付いて、やっと家に戻れてキスして爆睡ーーの後の、『1ヶ月後』の表記にまたちょっといらっとしたんですね。1ヶ月!ここからまた1ヶ月待たせるんかい! そりゃあね、きちんと結果出てからという気持ちはわかるよ。琴子ちゃんにも説明したしね。でもどーせ、結果はわかってるんでしょ?直樹さん! 自信あるくせに! 1ヶ月また待たせて何かあったらどうするの!ーーと、思ってまして。(ドラマでもちゃんと『1ヶ月後』だったなー)
なので、1ヶ月待たせずに、年内のうちにさくっと入籍させたかったのですよ。目標完遂です(^^)v
他にも色々と引っ掛かっていたあれこれも書けてよかったです。
結婚後の生活設計問題とか。
重雄さんの想いとか。
心残りは……紀子ママ一人あまり反省させられなかったことでしょうか?
彼女は……とりあえず琴子ちゃんが無事でちゃんと家に帰ってくる以上あまり堪えない気が……f(^_^)

あと自分で早く書きたくてたまらなかったのは3つのミッションでした。
1回転して愛妻キャッチ。あの一言を欄外に書くのがもう楽しみで楽しみで。
とりあえず琴子の無傷の謎を解明する重要なシーンですが、あの一言を書きたいが為のようなシーンでした(笑)
逆にラストミッション『速川の救済』はこれ、入江くん、何もしてないよね?と密かに自分で突っ込んでましたが……^-^;


ラストシーンは一応シリアスにドラマチックに、という感じで終わらせました。
お陰で直樹さん、夜のシーンはカットです。前夜もベッドで抱き締めただけの地獄のお預け。
ええ、ザマーミロ……ですね(^^)b

しかしこのイブの夜は……ハネムーン以来ほぼ1ヶ月ぶり。病み上がりの琴子ちゃん……大丈夫でしょーか?


とにかく未入籍事件鉄槌友の会として、なんとか直樹さんにギャフンと言わせることが出来たのでは、と思ってます。
共に直樹さんへの怒りを共有してくださった皆様ーー特に毎回熱いコメントを下さったN様、T様本当にありがとうございました! とても励みになりました(^^)
そして、コメント、拍手、とってもたくさんいただいて、続きを読みたいと言ってくださった皆様。とても嬉しかったです。早くお届けしたいという原動力となりました。
こんな拙いお話を読んでいただいただけで光栄です。
最後までお付き合い、本当にありがとうございました♪

次はしばらく短編を書きたいと思ってます。
長編書き出すとどうにも他のが書けなくて。いえ、私の中では『カノユメ』は中編くらいのイメージなんですが……これで2ヶ月かかってるってことは、長編書くとマジに1年コースかなあと思ってなかなか書き出せない……(-.-)

本当はこのあと、前にちょっと呟いてた『ドラマを観て思いついちゃった話』を書こうと思ってたのですが(それも中編くらい)……予定変更(^^;多分しばらくその話は保留です。何故?実はそのドラマNHKで前クールにやっていた『さ●なら私』というドラマで。検索してあらすじチェックしてみると、保留にしたわけが分かるかも……? とりあえず書き出してなくてよかったと心底思ってます(^^;

他にも書きたいものが色々あるので。
何から手を出そうかずっと悩んでます。
数本短編書いてから、また連載始めようかなとは思ってます。
家出事件の時、チビと裕樹くんが車を見失って助けに来なかったら琴子ちゃんどーなる!?みたいな……(あの時も直樹さん冷たいしね。いえ、直樹さんが正論で、琴子ちゃんの方がかなりのうっかり迂闊ものなんですが)そーゆー、もしもなシチュ、考えるのが楽しいのです。
ちょっと甘々不足な気もするので、甘いえろ(?)も書きたいとは思いますが……そっちは短編で。

もっとも息子の学校、早々と春休みになり、寮から帰ってまいりまして。(とりあえず妹の家庭教師をしてくれるので助かる……)若干生活パターンが崩れて思うように更新が出来ないかもしれませんが、なるべく早く新しいお話を届けられるよう頑張りますので、宜しければまた覗いてみてくださいね♪

それでは長々と失礼しました(^^)




ののの








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* Category : 彼女は美しい夢を見る。
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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、マロン様も鉄槌友の会のプラチナ会員でございますよ♪
本当にこの男のけじめには苛っとさせられました。そんなものののせいで琴子ちゃんがどれだけ泣いたことかっ!
ふふふ、突っ込み処満載のお陰で二次の幅も深まりますよね。多田先生ありがとうございますと声を大にして言いたいです(^^)v
家出エピも直樹さんには色々言いたくなってしまいます。弟に任せっぱなしだし。けっこー酷いこと言ってるし!
次に書けるといいなーと密かに思っておりますが……f(^_^)

そうですね、原作未来の話も妄想沢山出来ますね♪時間があったらどんどん妄想放出したいです!

労いのお言葉ありがとうございます(^^)
今後もぼちぼち書いていきますので宜しくお願いします(^^)

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

紀子ママさんにすっきりしていただけたなんて本当に嬉しいです!書いてて良かったー♪

はは、『さよ●ら私』……なるほど、松本姉とチェンジ、というのも面白そう。けれど、私が妄想してたのは、まさかのあの方。はい、P様と思いっきり被ってしまって……(でもおんなじこと考えてたのねーとちょっと嬉しい)保留です。もっとも私の妄想は結婚後で看護師になった後の時期で、割りとコメディチックで考えてました。あの方にイリコトのラブラブを思い知らしめるだけの(^w^)
そう、家出エピも色々と謎が多いし直樹さんの言動にもやっぱり腹立ちますよね。ご都合主義満載で何事もないですが、チビの鼻が利かなかったらどうなってたの?琴子ちゃんっ!って感じです。これもちょっと直樹さんに慌てふためいてもらいたくてお話考えてます♪いつか始めますね(^^)

そんな、たまちさんと二人ではまりまくってなんて、とっても嬉しいお言葉!
こちらこそお二人にずっと熱いコメントいただいて、凄く励みになりました。
本当にありがとうございました(^^)

Re.ゆうようらぶまま様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます♪

お忙しい中、ご訪問下さりありがとうございます♪楽しみにしてくれていたなんて、嬉しいです(^^)読み逃げなんて、とんでもない、本当に読んでいただけるだけで嬉しいです!
そうです、男のけじめはいいとして説明せずして何がケジメだよ!ですよね。そんな怒りから生まれたこのお話を楽しんでいただけたなら、とても良かったです(^^)v
また、これからも訪問下さると嬉しいです♪

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Re.ねーさん様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

ふふふ、私が長編メールを作成している中、ねーさん様もこのコメント書いて下さってたのですね♪
なんか想いあってるように(き、気持ちをワルイですかっ?(^^;)気が合っちゃってますねー私たち(爆)
はい、頑張って長編挑戦したいと思ってます。そっちが書きたくてブログはじめたのにスゴく書きたいものに少しも手を付けてないのでf(^_^)私も計算出来なくて、だいたい想い描いていた話数の倍くらいにいつもなっているので、どんなことになるか分かりませんが……もう少ししたら、長いものにチャレンジしますね♪
また、宜しくお願いします(^^)

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Re.あおい様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

いえいえ、読んで頂いただけでも嬉しいです。
夢と現実が錯綜した、我ながらかなり不思議テイスト過ぎるお話だと思っていたので受け入れて頂いて、本当に嬉しかったです。
まあ、溜飲下げて頂けましたか! それはよかったです(^^)v
悦子さんもさりげなく見守っていました。どんなお話でも琴子ちゃんや直樹がピンチの時には見守ってくれる守護女神さまのような存在ですよね(^^)
このお話がご縁でリンクが出来て、本当に幸せです。それだけでも書いてよかった~~!と思います。あおい様のお話の続きも楽しみにしてますね(^^)

個別記事の管理2015-02-23 (Mon)






「はい。確かに受理しました。おめでとうございます」

二人揃って区役所に婚姻届を出した後。

「へへっ奥さんって言われちゃった」

ふわふわと夢見心地で歩く琴子の腕を掴まえて、「危ないだろうが。ちゃんと前見て歩け」と自分に引き寄せる。

「本当に…あたし入江琴子なんだね」

うっとりと直樹の顔を見上げる琴子。

「ああ、早いとこ名義変更しないとな。通帳とか、保険証にパスポートとか。あと大学の学生課にも」

「うんもうっそーゆー事務的なことじゃなくてぇ」

「大事なことだ」

「わかってるよー」

他愛ない話をしながら二人手を繋いでクリスマスに彩られた街を歩く。

「真っ直ぐ帰るか?  それとも何処かに寄って行くか?」

「えーっ?  もしかしてデートしてくれるってこと?」

「おまえの身体が大丈夫ならな」

一応退院したばかりだから、無理をさせるわけにはいかないが。少しの寄り道なら問題ないだろう。

「大丈夫!  全然っ大丈夫!」

「何処がいい?」

暫く空を見つめて考える琴子。
そして出した答は、
「井の頭公園!」

「ボートに乗るつもり?」

「うん!」

「……寒いぞ?」

「えー寒くないよ~?  入江くんに完全防備させられたから」

ニット帽を深く被りマフラーで首をぐるぐる巻きにされ、分厚いダッフルコートを着て、という完全なる冬装備でダルマのように着ぶくれている。

「この真冬に池に落ちたら『試練』じゃすまねぇぞ」

「……落ちるの前提?」

「兎に角寒いから外は却下!  風邪引かれたら困る」

「馬鹿は風邪引かないって!」

そんなやり取りをしているうちに二人は賑やかな街並みを目的もなくただ通り過ぎていく。
琴子はさっきから眉間に皺を寄せてあれこれ何処に行きたいか考えていたが、どうにも具体的なプランが思い付かない。もし入江くんとデート出来たなら、あそこへ行ってここへ行って、と考えていた筈なのにいざとなると何も出てこないのだ。
せっかくクリスマスなのにただ映画をみて時間を過ごすのは勿体ない。

「あ、そうだ、買い物! 入江くんのクリスマスプレゼント買いに行こう!」

「いい。要らないし。……おまえまず金持ってるの……?」

「あ、持ってない……」

思い出してしゅんとする。
見事に手ぶらである。
そういえば結婚前までは父からお小遣いをもらっていたがこれからどうするのだろう?
もらうわけにはいかないからバイトしなくちゃ……

「こ、これからバイトして、お金貯めて、何かプレゼントするね?」

「だから、要らないって。とりあえずプライスレスのもの、夜にもらうから」

「へ?」

きょとんとする琴子ににやりと笑う直樹。

「さあ、もう昼だし、飯でも食うか?」

というわけで、目についたカフェに入った。




「ああ…なんかこーゆーご飯、久しぶり」

パスタを口いっぱいに頬張りながら、幸せそうにフォークをくるくるとパスタに絡める。

「あんまりがっつくなよ。胃がビックリする」

「もう、大丈夫だよ―」

数週間点滴で栄養を保持していたのだ。目覚めたばかりの頃は流動食だったが、入院している間に普通食に戻ったし、紀子が差し入れてくれた食事も食べた。

「ふふっ入江くんのペペロンチーノもちょっとちょうだい!  あたしのボンゴレあげるから」

「結構辛いから止めとけ。刺激物はまだ早い」

そういう直樹の返答を聞く前にすでに琴子のフォークは直樹の皿に伸びている。

「ほんとー!   辛いっ!  でも美味しい!」

食べ終わった後、食後のデザートを頼むか頼まないかを散々迷った挙げ句、食べればいいじゃん、という直樹の声を振りきって頼むのをあきらめた。

「だって、今夜間違いなくおばさん……お義母さん手作りのクリスマスケーキが出てくるでしょ?
あたし入院して寝てばっかで太ったみたいだし。ほら、目が覚めてから、みんなやたら美味しいスイーツ差し入れてくれたじゃない?  あれがヤバかったんだよね―」

直樹からすれば何処がどう太ったのか、という気がするが、琴子には大きな問題らしい。

「前はケーキバイキングとか行って普通にドカ食いしてたじゃん」

「うーん、そぉだけどさ。一応奥さんになったからって、甘えて努力を怠ってはいけないと思うのよね。結婚して安心しきってぶくぶくに太ったなんて思われたくないもの」

殊勝な琴子の言葉に可愛いと思いつつも苦笑いを隠せない。

「…甘えて努力を怠ってはいけない………ねぇ?」

直樹のいつもの意地悪気な表情が琴子を覗き込む。

「まあ、そういう努力は学生のうちは勉学の方で頑張って欲しいもんだな。おまえ、結婚式からハネムーン、その後の事故でなんやかんや一ヶ月くらい大学行ってないだろう?  単位は大丈夫なのか?」

「……うっ…た、多分」

途端にしゅんと縮こまる琴子。だいたいその前の前期試験は散々だったのだ。それは全て直樹の婚約騒ぎのせい……と言い切れるほど、元々のレベルに自信はないのだが。

「……まあ、一ヶ月位ですんで良かったけどな」

ふっと目を伏せて呟く直樹の様子に、そういえば随分心配させてしまったのだと気付く。

「不思議だよね。なんだか凄い長い時間夢の世界にいたような気がするし……そうでもないような気もするし……あたし、どんな夢を見ていたのかしら?」

琴子の夢の記憶は覚醒とともに薄れていき、今ではうっすらとしか覚えていないようだった。
幸せだった想い、辛く苦しかった想い、例えようもない恐怖………断片が残像のように微かに残る程度で、パズルの欠片のような映像をかき集めても、具体的に言葉として表すことはできなかった。

そして、そのことに直樹はほっとしていた。
そんな夢、忘れてしまった方がいい。
段々と悪夢と化していった辛い夢は特にだ。

夢の世界の琴子から受けた電話で、その夢の内容を聴いていた直樹は、逆にしっかりと琴子の夢の記憶を覚えていた。

随分鮮明だったらしい夢の日々は、一つのループを繰り返す度に琴子の望みを叶えていったようだった。
願望を叶えようと思うことを夢見るというのなら、間違いなく琴子は夢の中で夢を叶えようとしていたのだろう。

直樹の機嫌を損ねない披露宴、誰にも邪魔されないハネムーン、理想的な甘い新婚生活。
乙女の夢を具現化したまさしく『夢』。
夢の中の自分は余りにも自分の感情にストレートで、この先も琴子が心密かに望んだとしても、そのような行動を取ることは出来ないと思う。そして、それが琴子の望む理想の直樹なのだろうかと、微かな不安を覚えたものだ。

「…あたし……夢で見ていた記憶がどんどん薄れて行くのだけれど、入江くんと電話で話したことは鮮明に覚えているの」

訥々と琴子が話す。

「入江くんが真っ直ぐにあたしに伝えてくれたこと、一生忘れないから」

「照れるからさっさと忘れてくれ」

「やだっ」

頬を膨らませ訴える。

「あんな風に入江くんが沢山話してくれることなんてもうないかもしれないし」

ーーまあ、確かに。しかし、少なくとも言葉で伝える努力をしなくては、と一応反省しているのだ。とにかく、琴子には「察しろ」ということは通用しないのだから。

「でも夢の中で電話で話した入江くんは、普段よりずっと沢山話してくれたし優しかったけれど、夢なのか現実なのか分からなくなるようなあやふやな感覚はなかったの。すとんと、本物の入江くんだって分かったよ」

くすっと柔らかく微笑む。

「……ちゃんと覚えてる。あたしのこと、はじめから好きだったって」

「……言ってねぇぞ、そんなこと」

「言ってたよ一!  近づく男にみんな嫉妬してたって。須藤さんや武人くんにも嫉妬してたって!」

――本当にこういうことだけは記憶力
がいい。

苦虫を噛み潰したような顔を見せる直樹に、琴子は顔を上げてふふふと笑う。結婚式の時に見せたちょっとしたどや顔だった。

「別に夢の中のおれのように、甘く優しい奴じゃなくてもいいんだろ?」

耳元で意地悪く囁く。

「えーと、たまには甘い人もいいかな?」

慌てて訂正する琴子が可愛い。

「そんなに夢の中のおれは甘かったのか?」

「……だから、もうあまり覚えてないって!」

ーー覚えてはいないのだ、本当に。
ただ断片的に妙に恥ずかしい映像が思い起こされるだけで。
入江くんが部屋に夜這いに来たりとか。
ラブホ行ったりとか。
なんか入江くんがすごくまっしぐらな……いや。そんなまさかね。

「何突然茹でダコみたいに真っ赤になってんだよ」

「な、なんでもないっ」

余計焦ってさらに赤くなっている。

「あ、あ、あたし寝ている間、変な寝言とか言ってなかった……?」

「変な寝言って?」

「え?  え?  えーと……変な声とか……」

「変な声ってどんな声?」

「えーと……もう、入江くんの意地悪!」

突然真っ赤になった琴子の様子に、彼女が何を心配しているのか察した直樹だが、少しピクリとこめかみが震えた。

夢の話を琴子から聴いたときには、無論そんな具体的に夜の話などは語ってはいないが。
かなりリアルな日常を過ごしていたようなのでそういうこともあったのだろう。
何せベタ甘の入江直樹だったらしいから。
そして琴子が心配しているような寝言やら変な声やらはなかったと思う。
幸せそうな表情や、辛い表情は見せていたけれど、それ以上に夢の世界のことが実体に現れることはなかった。

繋がっているようで、隔絶しているような。

そもそも、琴子がいたのは夢の世界だったのか?
琴子の夢の内容を聞いた時から考えていた。夢が深層心理を表すというのなら、半分位は当たっているのかもしれない。琴子の願望、琴子の畏れ、琴子の不安……それらが作り出した意識だけの世界なのか。
あるいはどこか次元の違う平行世界にいたのかもしれない……昔読んだSF小説のようなことを思う。

だか真相を探ろうとすることに対して意味はないと思ってる。非科学的非現実的なことに真しやかな解釈をつけることは容易だが、それが真実だと立証することは不可能なのだ。

「………まあ、忘れさせてやるよ。バラレル世界のおれのことは」

「へ?」

「覚悟してろよ」

「??????」


超絶イケメンに耳元で何やら囁かれて、顔を真っ赤にして俯いている女性……実はさっきからかなり視線を集めていたのだが、とりあえず二人は気づいていない。


食後のコーヒーが出されて、一口飲んだ直樹は、ふと思い出したように「ああ、欲しいものあった」と、呟いた。

「何?」

「おまえの淹れたコーヒー」

「えっ………」

少し驚いて、でも嬉しそうに「うん」と頷く琴子。



コーヒーを飲みながら他愛もない会話を続けていた。

「……入江くんも冬休み明けたら大学戻れるよね?」

「多分ね」

「入江くんこそ、夏からずっと休学してて大丈夫?  やっぱり三年生もう一回やり直し?」

「……誰に言ってるんだ?」

ギロッと睨む。

「えー、でも絶対出席日数足りないし、前期試験も受けてないし」

「前期試験分は、後期試験でまとめて受ける。出席の足らない分はレポート提出で単位を貰えるよう交渉してある」

「……さ、さすが……」

天才は抜かりない。医学部に転科したばかりでまともに授業を受けてはいないのに、レポート提出だけで単位が取れるとはどれだけすでに教授たちの気に入られているのか。

「じゃあ、一緒に四年生になれるね」

「おまえがちゃんと進級出来ればな」

うーっとうなりなから剥れる琴子の鼻を摘まむ。
直樹は笑いながら、
「少しは勉強みてやるよ」と、珍しいことを云う。

「……ううん、大丈夫。入江くん、自分の勉強だけで手一杯なのに」

「気にすんな。文学部の試験なんて片手間で教えられる」

「……ほんと?」

上目遣いで直樹を見つめる。

「ああ」

「嬉しい。頑張るね、あたし」

「ああ」

優しい……入江くんが優しい……ま、まさか夢の続きじゃ……

琴子は密かに自分の掌をつねってみる。

「イテッ」

「夢じゃねーよ」

ぺちんと額を弾かれて、「だって……」と舌をぺろっと出す。

「馬鹿みたいに甘くはなれないが、協力出来ることはしてやるってことだよ。………夫婦なんだし」

少し照れくさ気に話す直樹の言葉に、くすぐったいような嬉しさが沸き起こる。

「……そろそろ行くか?」

伝票を持って立ち上がる。
このカフェで随分ゆっくり時間を過ごしてしまった。

「うーん、やっぱり外は寒いね」

カフェから一歩踏み出した途端に冷たい北風が顔面を突いた。一段と空は灰色の雲に覆われて、今にも白いものがちらつくのではないかと思われるような寒気が肌にまとわりつく。

「おまえ、四年生になったらどうすんの?」

二人並んで歩き出しながら、直樹が問いかける。

「え?」

「就活。もう三年から準備してる奴もいるだろ」

「ああ……うん」

琴子は一瞬困ったような顔をする。

理美やじんこには結婚したんだからもう専業主婦でいいじゃないと言われた。二人は必死で就活準備をしている。
直樹の為に1日中尽くしていられるのならそれも悪くない、という気持ちもあるし、折角大学まで行かしてもらって社会に出ないのも申し訳ないという思いもある。何よりも大学は何をやりたいが探すために行くのよと、かつて直樹に大見得切ったくせに、自分は何も見つけられていないのが情けなくて仕方ない。
――いや、本当は見つけているのだけれど。
余りにも自信がなくて、言葉にするのもおこがましいと思うのだ。

「おまえ、夢での出来事をおれに話した時に、云ってたけど……」

「何を?」

「将来の『夢』について」

「え……?」

「夢の中じゃおれが言い出したみたいだけど」

「な、何を?」

「現実のおれは、おまえから言い出すのを待ってるから」

「え? え…?」

何となく思い至るのか、戸惑ったような顔をしている琴子のニット帽を下にぐっと下げ、半分見えなくなった顔からちょこんとつきだした鼻を摘まむ。

「ふがーっやめてー」

叫ぶ琴子の唇をふわっと掠めとるように塞ぐ。
ニット帽で目が隠れた状態で、一瞬何が何だかわからなかった琴子だが、分かった瞬間に顔が真っ赤になる。

「えーちょっと、ここ街中っ」

慌ててニット帽を取ると、二人を遠巻きにじろじろと見ていく通行人たちが……。

「もうっ! こんなとこでー!」

剥れながらも直樹の腕に掴まる。
そして――剥れながらもやっぱり嬉しいとか思ってしまう。有り得ないほど甘いのは今だけかもしれないけれど。

そして二人は結局目的もないまま歩き出す。

「で、どこに行きたいか決まった?」

「うーん、決まった……かな?」

「何処?」

「あのね、『おうち』」

「は?」

「おうちに帰りたいかな、やっぱり。入江くんに早くコーヒー淹れてあげたいし。ずっと帰ってなかったし……あたしたちの部屋なのに全然二人きりで過ごしてないし」

顔を赤くして一生懸命伝えようとする琴子が余りに可愛いと思う。

「了解、奥さん」

街はクリスマスの装いに溢れているけれど、イルミネーションの耀き始める時間まで、病み上がりの身であちこち動き回るのはやはり無理というものだ。

「どうせ、これからも毎年クリスマスは来るのだし」

この先もずっと……二人で共に過ごすクリスマスがある筈だから。

「……え?」

「いや。じゃあ、早めに家に帰って、二人でじっくりと………」

「え? ええっ!/////」

「……何赤くなってんだよ。二人で今後の生活設計の話をしようってこと。家計管理のこととか、おまえの小遣い、どこから捻出するかとか」

にやりと意地悪く笑う直樹に、
「え? あ、あ、そ、そうね。大事なことよね。あ、あたしバイトして生活費稼ぐから!」と、慌てて答える。

「おまえが学業と主婦業とバイトまで出来るわけないだろ? おれが数ヵ月会社で働いた給料プラス、ゲームのロイヤリティで二人分の雑費くらい1年は何とかなるだろ」

「ろ、ろいやり……?」

「特許権、著作権等の知的財産の所有権のこと。おれは社員だし役員だから、放棄してるけれど、アニメ部とおまえに多少なりとも入るようになってる。予想通りに売れれば、暫くはなんとかなるだろう」

「えー? あたし? なんで?」

「おまえの肖像権。ま、モデル料だな」

実を言えば勝手に琴子でキャラクターを作ったオタク部を脅して、その取り分を減らして琴子に回しただけだが。

「学費や生活費までは厳しいから、その辺は帰ってから親父たちと相談しよう」

「う、うん」

直樹が二人の生活についてしっかりと考えていたことに驚いていた。
あんなにバタバタの結婚だったのにーー
琴子にとっては、別室だった二人の部屋が同室になったくらいしか生活の変化はないように思えていたーーというより、何も考えていなかった。

本当にきちんと考えなきゃーー
暮らすということ。生活するということ。
自分の将来のこと。
それはもう自分だけの問題ではないのだと、改めて思う。

ああ、でもこれから、本当に。
ちゃんとした夫婦としての日常が始まるのだと思うと、不思議な気持ちになる。




「あ、あの行列」

歩道の右端に『コトリン最後尾こちら』という看板を掲げた人の前に延々と続く行列が見えた。
そういえばこの近くに、ゲームやおもちゃを扱う家電量販店が有ったことを思い出す。

「凄いね!  入江くんの作ったゲーム、本当に大人気なんだね」

「コトリンのお陰でな」

「……もう、なんでコトリンかな~?」

「アニメ部の連中に聞いてくれ」

もっとも琴子がモデルのゲームだったからこそここまで頑張れたのだろうが。

「でも、この並んでる人たち、みんなクリスマスプレゼントの為なんだよね。良かったよね、ギリギリ間に合って」

学生など若者たちも多いが、それ以上に子や孫の為に並んでるらしい親世代祖父母世代の人たちが圧倒的に多い。
直樹が不眠不休で造り上げたものが、今夜多くの子供たちの枕元に置かれるのだろう。そして朝起きてそれを見つけた時の子供の顔を想像しただけで幸せになる。
そして幸せそうに笑う琴子の顔を見るだけで直樹の顔にも笑みが浮かぶ。

「生産が間に合わずにもしかしたら出荷停止になるかもと危惧したんだが、町工場の頑固親父たちが頑張ってくれたお陰で何とかなったよ」

完成披露パーティーの後に正式に退社したものの、予想以上の売れ行きに工場の生産ラインが追いつかず、各工場との折衝を直樹が統括することになり、結局昨日まで引き継ぎが終わらなかった。

「……頑張ったよね」

延々と続く行列の横を通り過ぎながら、琴子は直樹を見上げ、くしゃりと破顔する。

――よく、頑張ったな……

昨日の重雄の言葉と重なる。
そして、純粋に直樹の仕事を褒め称えていた、電話の中の琴子とも。
間違いなくあの時の会話は夢ではなく、目の前の琴子なのだと確信する。
携帯電話の着信履歴は今でも残ったまま確かに存在し、夢でも幻でも脳の誤認識でもないのだと。

「入江くんって本当に凄いよ。勉強や運動だけじゃなくって、なんでもできちゃうんだね」

琴子の心からの賛辞に、直樹は初めて自分のしてきた仕事に対する誇りを持てたように思えた。ゲームや玩具の類いに思い入れや関心が有ったわけではない、ただ親の会社の仕事というだけで、どちらかといえば渋々という感情が強かった。
だが今は会社の仕事に携わって良かったと、心から思う。恐らく自分の人生の中で必要な周り道だったと、琴子の笑顔を前にした今なら素直に思える。

「でも、これで本当にやりたいことが出来るんだよね?」

「ああ」

「これでお医者さんの勉強が出来るんだね?」

「ああ」

「子供たちに一杯夢を与えた入江くんが、今度は自分の夢を見られるんだよね……」

まさに夢を見るようにうっとりと話す。

「夢みたいに幸せ」

直樹の腕に自分の腕を絡め、そしてその腕に凭れるように顔をぴたりとつける。
こんな風に腕を絡めても振りぼどかれない幸せ。
ぎゅっとくっつき合い身を寄せることの出来る幸せ。
当たり前のように一緒に歩ける幸せ。
ささやかな幸福に夢見心地になる琴子に、直樹は囁く。

「また、つねるなよ」

「もう、つねったりしないよっ」

「……夢じゃないから」

「……うん。わかってるよ」

耳元に響いた低い声にどきんっとしながらもはにかむように直樹を見上げる。

「ちゃんと現実だってわかってる……入江くんが想ってくれていることも、入江琴子になれたのもすっごく夢みたいって思うのも確かだけど……でも、ここにいる入江くんが全部真実(ほんとう)だってわかってるから」

「……琴子」

「もう、不安になったりしない。入江くんを信じるよ」

そこはちょうどスクランブル交差点の手前。多くの人たちが信号待ちの為歩道に止まっている。
直樹は皆が立ち止まっていることをいいことに、そのまま琴子を抱きすくめる。

「…え?」

「もう、二度と不安にさせないから」

「……入江くん……」

「おれはこうゆう性格だし、おまえみたいに心の中のことを全部口に出しちまうなんてことは到底出来ないが……それでもなるべく自分の考えを言葉で伝える努力をしようと思う。
おまえもおれが分からなくなったらちゃんとおれに聞いてくれ」

「…うん」

「お互い歳を重ねて、言葉なんて交わさなくても以心伝心で分かり合えるくらいの夫婦になれたらいいな」

「…うん」

「そこに到達するまではちゃんと言葉で伝えるから」

「……うん…」

「すれ違って誤解し合うこともあるかもしれないけれど、ケンカして、言いたいこと言い合って謝って、仲直りして……そういう日常をひとつひとつ通り過ぎていって一歩一歩夫婦になって行こう」

「…ひっく…ひっく…うんっ!」

いつの間にか信号は青に変わり、抱き合う二人を避けるように人の波が横断歩道へと流れ込んでいく。
涙が止まらなくて、いつまでも直樹の胸に顔を埋めて上を向くことが出来ない。そんな直樹も優しく抱き締めたまま離さない。
行き交う人の流れはゆらゆら揺らめく極彩色の影のようだ。


信号が何回か変わり、人の流れは何度も止まり、そしてまた動き出す。けれどもいつまでも横断歩道の手前で立ち竦んだまま抱擁を交わす二つの影。
今日がクリスマスイヴのせいか、誰もこのカップルを気に止めない。一瞬ちらりと横目で見ても凝視することもなく、通り過ぎる。

そして危うい空模様から漸く舞い始めた最初のひとひらが、琴子の頬に落ちた。

「冷た……」

「おまえの望み通りホワイトクリスマスになりそうかな」

しっかり抱き合ったまま、二人同時に空を見上げる。

「ふふっそうだね」

皆の視線が舞い落ちる雪に向かっている隙に、琴子の唇に落ちた雪を拭いとるように直樹のkissが降ってくる。

やがてひらひらと降っていた雪は少しずつ増えはじめ、行き交う人びとも手を差しのばして雪の結晶を掌で捉えようとしていた。
今日は特別。
365日のうちで、一番雪の似合う日。

雪が段々と激しく降りだしたせいか、足早に過ぎ去る誰もが、交差点の手前でいつまでも口付けを交わしているカップルに注意を払ってはいなかった。

ひらひらと………
汚れなき銀の結晶は、新しいこの門出の日を真っ白に染め上げてくれるだろう。


漸く唇を離した二人はくすっと顔を見合わせる。

「これからも……よろしくな、奥さん」

彼が耳元で囁き、彼女はふたたび真っ赤になりーー

けれどしっかりと手を繋いで、雪が舞い落ちるスクランブル交差点に一歩を踏み出した。




二人の帰りを待つ我が家に向かって――。















――彼女は美しい夢を見る。(了)


※※※※※※※※※※※※





終わりました………^-^;

本当は昨日アップしたかったのですが……初稿には入っていなかったお約束のあの言葉は入れなきゃね、と思い出し……手を加えると例のごとくなんやかやと迷走が始まるという、いつものパターンだったりします(^^;

言い訳っぽいことはとりあえず後書きで!
長くなりそうな気もするので、明日以降だとは思いますが……(^^;

ただひとつ……ラストシーンはスクランブル交差点のど真ん中でkissを!と思っていたのに……リアルに青信号の点灯する長さとか考えてしまい、交差点の手前で止まったまま動いてくれませんでしたとさ……てへっf(^_^)




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Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

労いのお言葉もありがとうございます。
皆様の不満を少しでも解消できたのなら、本当に良かったです(^^)v
……猿でも出来る…(爆)ええ、本当に(^^)

そしてどのお話でも琴子ちゃんが辛い目に合わないと直樹は身に染みない……お約束ではありますか(^^;私も自分が琴子ちゃんを苛めるサディスト気分になります……(これでもM度100%の真性Mなんですが)

はは、私も結婚20年になりますが、以心伝心無理です(^^;あ、不機嫌? くらいしかわかりません。しかも、なんで不機嫌かも分からないっ!やっぱり愛が足りないかも?

そうですねーこの直樹は嫉妬事件を起こさないと信じたいですね。新婚早々、神戸の後くらいの甘々な旦那様になってくれることを切に願います(^^)
速川さんも琴子ちゃんのお陰で憑き物おちて、みんなそれぞれの将来を考えて…幸せな一歩を踏み出せて、何とか大団円にまとめられました♪
紀子さんだけは……なかなか難しいですねぇ。彼女を反省させるには琴子ちゃんが相当辛い目にあわないと……(-.-)

こんな不可思議なお話に最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!


Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうですね、あの科白はテッパンです(^^)
ほんと、いわれてみたいですーふふ(^w^)

はい、言葉足らずの直樹さん、頑張ったあの電話での長セリフ、無駄にしないで常に自戒してほしいものです。

ふふふっタクシーをリニアモーターカー並み……そうですねぇ、琴子ちゃんが早く家に帰りたいってんだから、もうマッハで帰ることでしょう! もうほぼ1ヶ月ぶりの×××ですからねー/////長い夜でございましょう♪

マロン様も浄化できたようなので良かったです(^^)v
このような拙いお話を最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました(^^)

Re.たまち様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、無事入籍できました(^^)v
ふふ、公園のボートは、もう琴子ちゃんの頭にはそれしか思い浮かばなかったということでしょう。咄嗟のことすぎて。きっと、1日たったらあれこれ思い浮かんで悔しがるかもしれません。そう、直樹さんはあえてそんなボートには乗らないでしょう(^w^)

そう、プレゼント。モノは要らないです。欲しいものは一つだけっ
ドラマチックな状況でも頭の中は野獣かも?
眠ってる間琴子ちゃんを襲わなかった君に拍手!(いや、やったらただのケダモノ……)
まあ、やっと取り戻した奥さまですからしばらく過保護でしょう。でもまだまだ青いとこあるからなー。今後嫉妬事件起こさないでね、と切に願います。
そう、妙な夢は琴子ちゃんは忘れていいのです。その代わり記憶力のいい直樹さんはずっと忘れず自らを戒めて欲しいです。
直樹の休学しているのにちゃんと進級している謎や、生活設計、琴子の夢、色々盛り込みました。琴子の夢は絶対直樹が望んでること。夢の中の直樹さんのように押し付けられませんが。
そうですね、琴子ちゃんと出会ってどんなに彼が人間らしくなったことか!
はい、ホワイトクリスマスに二人は最高の夜を過ごしたことでしょう(^^)v

最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました!

Re.ねーさん様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうですねー直樹さんにはザマーミロな感じで終わりましたが、きっと夜はラブラブだったことでしょう(^w^)
ふふふ、忍耐の直樹さん。でもあの夜だけでなく、多分眠ってる琴子ちゃんの傍らでずっと悶々してたかもしれません……(実を云うと、某所のリア獣直樹さんのお陰で、眠ってる琴子ちゃんを襲うケダモノ直樹さんが時折現れて押さえるのに苦労しましたのよf(^_^))
ちょっとしたところでねーさん様にツボっていただけて嬉しいです。コメント読んで思いっきりにやけてしまいました。もう、3つのミッションは二番目を入れたいが為に無理矢理こじつけたミッションですので、ツボって貰えて嬉しいです♪
『サーカス』OKですよー(^^)vサーカス団員直樹さんでしょうか!?忍者といい勝負ですね(^^)

ふふ、なんとか終わりました♪
こんなお話ですが、最後まで読んでいただけて本当にありがとうございました!


No title * by なおちゃん
ホワイトクリスマスは、過ぎちゃったけど?またまた、コメントしたくなりました、でも?二人いい感じ❓映像としてみたくなりました、ブログだから、創造しながら見ていたんだけど?夫婦に、なり、これから?これから幸せになってね?v-24

Re.なおちゃん様 * by ののの
コメントありがとうごさまいます♪

懐かしいこちらのお話にもコメントうれしいです(^_^)
映像としてみたくなるなんてありがたいお言葉(^w^)そうですね、ようやくきちんとした夫婦になって、この二人はこれから起きるなんやかんやはきっとないものだと思いたいですね~~(^w^)

個別記事の管理2015-02-21 (Sat)







ーー少し後悔したよーー君と琴子の結婚を簡単に許可したことをーー



淡々と語られた重雄の告白に、ごくりと喉をならして次の言葉を待つ。

「あの時は君の勢いに押され、つい了承してしまったが……あとから考えると何故簡単に許してしまったんだろうって思ったよ。特に紀子さんが突然結婚式を決めてきた後にはな」

「……それは、こんなに直ぐに結婚をさせたくなかったってことですか?」

少し声が震えていたと思う。
自分はこの人に――大切な女の父親に後悔させてしまっていたのかと……。

「あの時は頭がとっ散らかっていて、君が婚約していたこととかすっかり忘れてたからなあ……。そのことやら、会社の問題が片付いてから話そうとか、少し待ったを掛ければよかったのかな、と思ったんだ。そうすれば紀子さんが結婚式を急ぐこともなかったし、君も慌てて会社の業績をあげるために無理をして琴子を寂しがらせることもなかったろう?」

「それは…そうかもしれませんが………」

今さらながら、あの時点でプロポーズしたのは常識的な行動ではなかったのだと思う。
よくもまあ、前日まで他の女性との結婚を決めてデートを繰り返し、娘を泣かせてきた男の突然の心変わりを許して受け入れてくれたものだと思う。

「……そうだな。戻れるもんなら、イリちゃんちに居候するの止めときゃ良かったかな、なんてことを考えたこともあったよ。君が婚約者を家に連れてきた時にね。娘と同い年の異性の居る家に転がり込むなんて、非常識なことをしたばっかりに、琴子に辛い思いをさせちまった」

「すみません……おれのせいです。おれは全然何も見えていなかった。会社の為に良かれと思ったことが全部裏目に出て、周りの人間全て苦しめてしまった。想像力が余りにも足りなかったと思います。おれの行動が周りをどんなに悲しませるか、全く思い至らなかった。情けない限りです」

「仕方ないさ。君はまだ二十歳そこそこだ。いくら頭脳明晰でも人生経験の少なさをあがなうことは簡単には出来ないよ。責められるべきは俺たち大人だよ。俺も紀子さんと一緒に三世代住宅計画にワクワクしてのっちまったからなあ。一人娘が結婚したあとも一緒に暮らせて親友とも親戚になってって、琴子じゃないが夢のようだと思ってたよ。君の思いなんて考えもせずにね。ほんとならそこで引き返すべきだったんだ」

「引き返さなくて良かったです。……多分おれはその頃から琴子のことを……」

言葉を詰まらせた直樹の顔を少し驚いたように見つめ、そしてポツリと云った。

「そういえば、あの速川って娘も云ってたな。君は昔から琴子を見ていたって。じゃあ君も辛かったな。将来の夢を諦め、好きな女を諦め…会社の為に犠牲になろうとして」

「今なら、それがどんな傲慢な自己犠牲かわかります。俺一人で何千人の従業員とその家族を救えると思っていたなんて」

「……そうだな。でもそれがわかっただけ君は成長した。そして琴子も苦しんだ分だけ、強くなった筈だ」

「でもおれはまた琴子を苦しめて追い詰めた……」

苦し気に吐露する直樹にふっと笑みを漏らし、
「だが目覚めた琴子は、君の傍で幸せそうに笑ってる」

重雄は正面から直樹を見つめた。

「だから、きっと何度過去に戻ってやり直すことが出来ても、俺はやっぱり二人の結婚を許してしまうんだろうな」

「……え?」

「君が結婚を申し込んでくれたあの日の琴子は、本当に幸せそうだったから……それまでの琴子の泣き顔を全部チャラにしてしまえるくらいにな。親は子供の幸せな笑顔を見ることができる以上の幸せはないんだ」

「……お義父さん…」

「…だから、いいんだ。今、琴子はあの日以上に幸せそうに笑ってるからな」

「……ありがとうございます」

もう一度深く頭を下げる直樹に、一瞬鋭い表情を見せて、重雄は呟くように言った。

「……だが、二度とこんなことがないようにしてくれ。もしまた琴子が傷付くようなことがあれば、俺は次は君を殴るかもしれない」

「……肝に銘じます」

「頼んだよ。じゃあ、俺はそろそろ店に戻る。仕込みを金之助たちに任せっきりなんだ。
さっき先生と相談して、退院は明日に決まったが、君に頼んでいいかい?」

朝の回診で多分明日明後日には退院出来るだろうとのことだったので、予定は空けていた。

「はい。任せて下さい。多分夜にはおふくろが退院祝いやると思います」

「そうか。俺は店があるから出れねーが、よろしくな」

「はい」

「そういや、明日はイブだろう? 毎年会社のパーティーがあるんじゃないのかい?」

重雄が思い出したように言い、直樹も昨年二人と一匹で過ごしたイブの夜を思い出す。生まれて初めて自分からチキンやケーキを用意したクリスマスだった。

「今年はそれどころじゃなかったんで。例年場所は押さえてありますが、キャンセルしたんです。その前に完成披露パーティーを無理矢理捩じ込んだし。ただ年が明けて業績の回復がはっきりとした形になれば、それから社員の慰労を兼ねた祝賀会を開こうと」

「……そうか。でも、例のゲーム…琴子がモデルなんだろう?
凄いじゃないか。ニュースで何度も取り上げられていたぞ。大ブームの到来だってな。クリスマス前に何処のおもちゃ屋でも整理券求めて行列だってな」

「はい。お陰さまで。でも俺だけの力じゃないですから。みんなよく俺の無茶な要求に付いてきてくれました」

「ついてきたってことは、それだけ君に人望があったってことさ」

ーーふふっそれも入江くんの人望だよ。やっぱりすごいなー………

電話で琴子が話していた言葉と、ふっと重なった。

「いえ…」

「よく 頑張ったな」

重雄は直樹の肩をぽんと叩いた。

「本当によく頑張った」

「…いいえ…」

直樹は目に熱いものが浮き上がってくるのを感じた。

「……琴子が…」

それが、つうっと頬を伝う。

「琴子が居たから頑張れたんです」

「そうか」

重雄は少し微笑むと、なるべく直樹の涙を見ないように顔を伏せたまま、腰を上げる。

「じゃあ行くな」

その隙にさっと手の甲で頬を拭き取った直樹は、持っていた書類ケースの中から一部の封筒を取り出した。

「お義父さん。すみません。お手間は取らせませんので、サインだけ頂けませんか?  琴子にクリスマスプレゼントを贈りたいので」













「きゃあ見てぇ! 入江くん!  雪よっ雪!  ホワイトクリスマスだわ!」

その日はクリスマスイブの朝だった。明け方から随分冷え込むと思ったら、カーテンを開けた窓の向こうにはうっすらと雪が積もっていて、琴子はいたく興奮していた。
因みに今直樹は、琴子と同じベッドの上だ。病院の決して広いとはいえないベッドに誘ったのは琴子の方だ。空調が効いていてもソファの上で毛布1枚では寒いからこっちに来たら?と。

――おまえ、それ誘ってんの?

――え?  え?  え?   いえ、そんなつもりじゃ…

無論琴子がそんなつもりじゃないことは分かっていたが、乗らない手はないと狭っ苦しいベッドに滑り込む。
尤も実際、翌朝退院を控えてここでするわけにもいかないので、ある意味拷問のような選択をしてしまったと少しばかり後悔する羽目になるのだが。
だが久し振りに琴子を腕の中に閉じ込めて眠るのは、キスだけで抑える忍耐力も試されるが、これ以上ない至福感に包まれたのも確かで。

繰り返されるキスの合間、「ふふっ本物の入江くんだぁ」と、幸せそうに笑う琴子。
笑って泣いてむくれて…いろんな表情を見せる琴子を取り戻せて本当に良かったと、なかなか止められないキスをしながらそう思った。

――明日の夜は覚悟しとけよ…

今夜でこの病院のベッドとはお別れだ。明日の夜は初めてあの極甘スイートな部屋で二人ゆっくりと過ごせる筈である。

そして朝、目覚めるとともに、今シーズン初めての雪に無邪気に喜ぶ琴子に、
「すぐ止んで昼前には溶けるな」と水を差し、「もうっ!  折角ホワイトクリスマスになるって期待してたのに」と琴子の頬を膨らませる。
膨らんだ頬を両手で引っ張りながら、「雪が降ったらタクシー掴まりにくくなるぞ」とさらに現実的なことを云う。

「えーっ! お 義母さん迎えに来てくれないの?」

驚く琴子に、
「断った。二人で帰りたかったから」と、正直に答えてさらに琴子の目を丸くさせる。

「ああ、このツリーやらは後で回収に来させるから」

ツリーは小さいものに変わったが、オーナメントや電飾が壁に飾り付けられて、クッションにぬいぐるみにダンシングサンタクロースにと、友人たちが次々と持ってきた見舞いの品々で部屋は溢れかえっていた。

「二人で帰ろう。寄りたいとこあるし」

「寄りたいとこ?」

不思議そうに見上げる琴子に、サイドテーブルに置いてあった茶封筒の中から、一枚の薄い紙切れを出す。

「ああ、これ出しに」

「これって…」

琴子は再び目を丸くして、更にはそのままフリーズしてしまった。

「ちゃんと親父とおまえのお父さんから証人のサインを貰ったから。おまえの謄本もお義父さんに取ってきてもらった。本籍江戸川区で助かったよ。佐賀のままだったら取り寄せるのに1~2週間かかるもんな。おまえの印鑑も借りてきたし、あとはおまえのサインだけだ」

「……でも…でも…」

琴子は目に涙を溜めてじっと婚姻届を見つめている。

「さあ、琴子」

預かった印鑑とボールペンを差し出し、婚姻届をテーブルに置いて、琴子に書くよう促す。
しかし、琴子はゼンマイが切れた玩具のようにぴくりとも動かない。

「琴子?  どうした?」

直樹の声に漸く反応した琴子は、震える声で訊ねる。

「入江くん……いいの?」

てっきり満面の笑みで喜びを表すと思ったのに、琴子は何処か怯えたような表情をしていた。

「ああ。正式な夫婦になろう」

「…でも…でも」 

また『でも』の連発に直樹は苦笑する。

「でも入江くん、本当はいつ入籍しようと思ったの?  今……じゃないよね?」

琴子の問いに一瞬言葉を詰まらせた直樹だったが、嘘を付くつもりはない。

「ああ。男のケジメとして、出来ればある程度結果が出てからと思ってた。確実に業績が回復したと言えるのは株価が元値まで戻ってからかな」

「それっていつくらい?」

「多分、年が明けて……正月商戦の結果が出る頃くらいまでには何とかなると思ってた。1月半ばくらいかな」

「授業が始まる頃だよね。いいよ、それまで待つよ、あたし。入江くんが最初に思ってた通りにしよ!」

にっこりと笑う琴子に、直樹は二の句が告げない。

「あたし、本当に奥さん失格だね。入江くんは色々考えてたのに、少しも分かろうとしないで拗ねたり怒ったりしてばっかで、挙げ句入江くん不眠不休で大変だったのに、会社まで乗り込んで……」

夢の世界から電話で話していたことを再び繰り返す。
あれこれ思い出したのか琴子の声は涙でつまった。

「琴子」

しゃくり上げる琴子を抱き寄せて、その顔を優しく両手で包む。

「夫失格なのはおれの方だよ。おまえは悪くない」

「入江くん …?」

「一途におれを想ってくれるおまえに甘えていた。おれが何をしたってどんなにおまえが傷付いたって、おまえが俺を嫌うことはないからとタカを括っていたんだ。
結局おれがやろうとしていたのはただの自己満足に過ぎない。おれのせいで今まで散々苦しんできたおまえを、再び傷付けてまでおれは一体何がしたかったんだろう?
今となっては本当に反吐が出そうなくらい下らないプライドだったと思うよ」

「そんな――そんなことない! 入江くんは、全然悪くないよ!」

すがり付くように直樹の背中に腕を回し、濡れた瞳を直樹に向ける。
折角一晩耐えたのに、あっさりその苦労を台無しにするくらいの破壊力をもったこの琴子の上目遣いに翻弄されつつ、琴子の言葉を待つ。

「あたしが、あたしがもっと入江くんのこと信じていれば」

「信じるに足りる行動してこなかったのはおれだし」

「…でも…」

「もう、いいよ。キリがない」

そういって琴子の唇を塞ぐ。

少し長めのキスの後、
「…で、サインは貰えないのかな?  奥さん?」との問い掛けに、

「本当に…いいの?」

まだ不安気な琴子をもう一度抱き締める。

「ああ、頼むから俺と入籍してくれ。もうこれ以上おまえが相原琴子のままなのは耐えられないんだ」

「えーっ?」

「結婚式を挙げて対外的にも夫婦と認められ、身も心も結ばれて事実上も夫婦となって……戸籍の上の紙一枚のことなんて大したことことないと思ってた。でも今回のことで日本の法律が紙切れ一枚に支配されているのだと思い知らされたよ」

「……え?」

「今の俺にはお前に対して何の権利も持たないし、関与することも許されない。それがこんなに苦しいこととは思わなかった」

キョトンとする琴子の額にキスを落とし、
「とにかく琴子がこれからも病院に通院したりする度に、相原琴子さんと呼ばれるのがイヤなんだ」

「い、入江くーん……」

涙と鼻水でぐちょぐちょになった琴子にティッシュボックスを差し出し、少し落ち着いてから、ようやく琴子は婚姻届に記入を始めた。

直樹の云う通りに1つずつ丁寧に欄を埋めて行き、婚姻届は完成した。
書き上がった書類を封筒にしまったあと、「あ、そうだ」と直樹が思い出したかのように、その封筒に手を差し込んで底を探る。

「これ、琴子のお義父さんから」

「え? 何?」

直樹が手を差し出して、封筒から取り出したものを琴子の掌に乗せた。

「あ、これ………」

掌の中には翠色の七宝焼の指輪だった。細いリングに細やかな白い花が描かれた可愛らしいデザインだった。

「お母さんの……」

「お義父さんが、おまえが嫁入りする夜に渡そうと思ってたのに、忘れてたって」

「……うん、仏壇の引き出しの中にずっと入ってたの……お父さん、家が倒壊した後、ちゃんと探しにいってたんだね」

婚姻届の証人欄のサインを重雄に頼んだ後、ああ、忘れてた、とこの指輪を差し出された時はドキッとした。

そしてやはりあの人は琴子の母だったのかと思う。

「……琴子が眠ってる間、毎晩のように悦子の夢を見てたんだ。悦子は、いつもにっこり笑って、『琴子は大丈夫よ』って云ってるから、多分大丈夫なんだろうなあと思ってたんだ」

重雄はそう云って照れたように笑っていた。

「ちゃんとした結婚指輪をあげられなかったからなあ……旅行だって滅多に連れてってやれなかった。新婚旅行代わりの京都で、確か買ったんだよな。悦子が可愛い、綺麗ってすごく喜んで……所詮土産物屋で売ってる安もんなんだが」

そうは云うものの、細やかな七宝細工は安っぽくは見えないし、伝統的な古典意匠の選択がいかにも重雄らしい、と直樹は思う。

「そういえば、お義父さん。お義母さんって、看護師だったんですか?」

その指輪を付けていた謎の看護師を思い出す。

「いやーかあちゃんは、看護師になれる程頭よくなかったからなあ。ずっと俺の店で手伝ってくれていたよ……でも、なんでだい?」

「いえ……ちなみにコスプレの趣味とかは……」

看護師に化けてたのは愛嬌なのか、それとも何かの暗示なのか……

そして、今その指輪を付けて嬉しそうに笑っている琴子が目の前にいる。

「ふふっお母さんが守ってくれそう」

「……多分、今までも守ってくれていたと思うよ」

「……?」

「さあ、とりあえず退院の仕度をして、これを………」

「あらーっ琴子ちゃんっ婚姻届書いちゃったのー!」

突然ドアが開いたかと思ったら紀子がけたたましく病室に入ってきた。

「え? え? 書いたらまずかったですか?」

一瞬琴子が青ざめた。

「ああ、そうじゃなくてね。少しは焦らしてやればよかったのに」

「はあ?」

「入籍して欲しけりゃ、ひざまずいて足をお舐め、とか。三回廻ってワンとお鳴き、とか。おにいちゃんてば琴子ちゃんと入籍したくてしたくてしょーがないんだから、この際それを盾に取って何でも云うこと聞かせちゃえばよかったのに」

「おふくろーっ!」

「あーどうせ云うこと聞いてもらえるのならデートしてくれる、がいいですぅ」

「あら、それいいわね! 記念日毎に絶対デート!」

「琴子も乗るなっ」

「もう、琴子ちゃん、聞いてよ! おにいちゃんってば、琴子ちゃんが眠ってる間に勝手に婚姻届出そうとしちゃうくらい入籍したかったのよー。やあね、それ、犯罪よ、犯罪! もう、どんだけ愛してるのよ~」

「ええっ?」

「おふくろっ余計なこと云うなー!」

青筋たてて怒鳴る直樹を尻目に、紀子は琴子の耳元でヒソヒソと何事か囁き始め、琴子はいちいち顔を赤くして「えー?」とか「うそっ」とか驚いてちらりと直樹の方を見る。

「………ったく何しに来たんだよ!」

「 何って、退院のお手伝いに決まってるじゃない! こんなに荷物あるんだし」

「だったら、さっさとやってくれ‼」

誰がこんなに荷物を増やしたんだ、と内心呆れながらため息をつく直樹であった。




その後、紀子と和気あいあいと退院の準備を始めた琴子を横目で眺め、微妙にいいムードをぶち壊された直樹は婚姻届の入った封筒を持ったまま、再びため息をつくのだった。




「 じゃあ大きな荷物は後で運ばせるから。二人でゆっくり区役所行ってきてちょうだい」

紀子がそう云って着替えの入った大きめのキャリーバッグをカラコロと引いて出ていった。

途端に部屋がしーんと静まる。

「……ったく、騒々しい」

「ふふっでもありがたいわ」

二人どちらからともなく目を会わせ、くすっと笑う。
そして、どちらからともなく唇を近づけようとした時ーー

「相原さん、会計が出ましたので退院の手続きを……あっすみませんっ」

今度は担当の看護師が入ってきて、顔を真っ赤にしてUターンしようとしていた。

「やだっすみません!  行かないで!」

「いえっ!  御夫婦仲が良くていいですねっ羨ましいです。あ、これ、外来の会計窓口でお願いします!」

その後簡単な退院手続きの説明をすると若い看護師は、焦ったようにパタパタと部屋を後にする。

「あの看護師がおれに色目使ってるって? もうちょっと見せつけてやった方がよかったんじゃないのか?」

面白そうに笑う直樹に、
「あー、それ、あたしの誤解だったみたいなの。あの人あたしが眠ってる間、入江くんがあたしのお世話色々しててくれたこと教えてくれて、何度も『羨ましいっ』って云ってもらっちゃったの。今も仲のいい御夫婦って! ふふふ御夫婦……御夫婦……いい響き……」

にまーっと頬を緩めて笑う琴子。彼女にとって二人の関係を認めてくれる人は全ていい人である。

そんな琴子の緩んだ頬をむぎゅっと引っ張りながら、直樹が云った。

「さあ、名実ともに夫婦になりに行こうか? 奥さん?」



                                             






※※※※※※※※※※※※




さあ、予定通り次回最終回でございます♪
M様宅はバレンタイン入籍でしたが、うちはクリスマスイブ入籍ですの(^w^)








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Re.たまち様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、重雄さんからの痛ーいお言葉、さらに直樹を猛省させたことでしょう(^^)
はは、好きと気がついて即効プロポーズ(琴子じゃなく、重雄に!)猪突猛進はどっちだよ、という感じでみんな引き摺られてましたもんね。それに乗じた紀子さんにさらに振り回されて、一番右往左往していたのは琴子でしょうね。
一番琴子の幸せを願う重雄さんだから、あの時は何も言わなかったけれど、やっぱり言うべきことを言わないと、直樹も身に染みないでしょう。やはり義父の言葉は一番重いのです!
ははは、とりあえず目覚めた琴子に対して自制心はありません(^w^)いえ、ほんとはもっといちゃこらしてましたけど、うーん、要らねぇな、と大分カットしちゃいました(^^;
はい、悦子さん密かに活躍してます。初稿では、あまりはっきり悦子さんとわかるエピはなかったのですが、あまりにも分かりづらいかなと、指輪のエピを足しました。
紀子の女王様エピ……ほんとは直樹の後ろでカンペ持って直樹さんを焦らして願い事を叶えさせるよう琴子ちゃんを誘導させようかと思いましたが……いきなりギャグ展開になりそうで止めました^-^;
私も、原作読んだのまだほんの数年前なのでこの急展開の結婚に、なんか大人の事情があるのか?とへんな見方をしてしまいました(^^;超特急のご都合主義。(でも、結婚後の話が続いて嬉しかったのです)
でもそれゆえに突っ込み処満載で、妄想が沸き起こるのですよね(^^)v


Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうですねー同居してなかったら、このイタキスは始まらなかった……でも、あまりにも軽ーく同居を決めた重雄さんにもちょっと反省させちゃいました~f(^_^)
うんうん、ほんとにあの退院祝いのエピは辛いです。翌日出てってもいいくらいだわーと思いました(T.T)
はい、台キスの嫉妬エピ、観てます。そう、ここは殴らなきゃ!重雄さん、えらいっと思いましたよ。あのシーンから重雄さんの「次は殴る宣言」させてしまいました。
そうですね、悦子さんの存在が重雄さんにも色々考えさせたことでしょう。
そう紀子さんは結局紀子さん(^^;みんな反省大会なのに反省してなーい(°Д°)

……あと1話、お付き合いくださいね♪

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうですね、重雄さんの後悔の言葉は、直樹にも胸に突き刺さったと思います。
とにかく原作では見守っているだけだし(笑)入籍事件では直樹よりで琴子を諭してたし……もうちょっと娘に添って欲しかった。ので、重雄さんの想いを書けてよかったです。
はい、台キスの殴るシーン、凄く好きです。あれくらい、父は娘の為に我を出して欲しいと、あのセリフを書きました。
直樹も重雄さんからの言葉は重いと思います。キツい言葉も、誉め言葉も。
はは、また泣かせてしまったわf(^_^)

ベッドの添い寝……VIPルームのベッドなら余裕だったかもしれないけれど、普通の部屋のベッドは……大人二人はキツいでしょーねぇ(笑)でも、自制しましたよ^-^;
その後も看護師がくるまでいちゃこらシーンが多かったのですが、無駄にいちゃいちゃし過ぎ!とざっくり削りましたとさ(^^)

はい、何とか入籍できそうです。マロンさんの心が浄化できるといいですが……(^^)
ラスト、1話お付き合いくださいね♪


No title * by なおちゃん
お父さんにしたら?そう、思いますよね、入江君は、琴子と、結婚する前も、後も、琴子を、泣かせてばかり、こんな奴に、自分の、娘を、任せられないて、思ってしまうよ、だからこそ!お父さんが、入江君に、話したことなのでしょう、二度はない、入江君も、肝に銘じることですね。

Re.なおちゃん様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、ずっと傷ついてばっかりだった琴子ちゃんを見ていた重雄さんの想いを吐露させてみました。そうですね、直樹には重雄さんの言葉をきちんと受けとめて、これからは琴子ちゃんを傷つける振るまいはやめてほしいものです(^^;

個別記事の管理2015-02-18 (Wed)






その後、大慌てで屋上に駆けつけた医師や看護師たちによって部屋に戻された琴子は、しばらくは様々な検査に時間を費やす事となった。無論直樹は担当医師からかなりきつく注意を受け、警察の事情聴取をこなし、さらには連絡を受けてやって来た紀子たちの狂喜乱舞のお祭り騒ぎを鎮めさせーーと、かなり忙しかった。

そして、ふっと一息ついた時に。

「きゃーおにいちゃんっ!」

今度は直樹がぶっ倒れたのである。

「いっ入江くん、死んじゃいやあーっ」

ちょうどひと通りの検査を終えた琴子が部屋に戻ってきたところで、パニックになった琴子を落ち着かせるのに看護師たちは一苦労だった。

ストレッチャーで運ばれた直樹が今度はひと通りの検査を受ける羽目になった。

極度の睡眠不足と栄養失調による貧血、さらには左肩他に四ヵ所程の打撲ーーなどが祟って少しばかり熱を出し、そして目覚めた琴子の隣で10時間以上爆睡してしまったのだった。
初めは目覚めない直樹にかなり取り乱して泣きじゃくっていた琴子だが、「大丈夫、ただの睡眠不足だからっ」と取りなされてようやく落ち着いた。ただ取りなした医師や看護師、そして紀子たちも「本当にちゃんと起きるよね?」とその実、かなり不安だったことは誰も口にしなかった。






その頃ぼんやりとした霧の中に、直樹はいた。

霧の向こうに琴子がいる。
直樹は追いかける。
するとくすっと笑って逃げる。
また追いかけようと手を伸ばす。
届きそうで届かない。
やっと彼女の左手首を掴んだ。
その薬指にーー結婚指輪とは違う翠色の七宝焼のリング。
ふわりと振り向いたのは琴子とよく似ているけれど、琴子とは違う人だった。
けれど琴子と同じような優しい笑みを携えてーー

『直樹さん、琴子をよろしくね』

風のように囁いた。

ーーああ、そうか。

霧の中で彼女の姿が消えていく。

ーーあなただったんですね………








自分の隣のベッドで点滴に繋がれて眠っている直樹の傍らで、今度は琴子がずっとその寝顔を見つめていた。

階段から落ちた自分を助けてこんな怪我をしたのだと、みんなに説明したけれど、誰も信じてくれなかった。
確かに不思議過ぎて誰も納得しないだろう。現実に直樹はその時間、会社にいたのだから。
でも、自分だけが分かっていればいい。
そう思って琴子はずっと直樹の傍にいた。

「入江くん…ありがとう……」

琴子は軽く直樹の額にキスをした。

すると、突然腕がすっと持ち上がって、琴子の頭を押さえると、閉じられた唇が微かに動いた。

「普通、そこじゃないだろう?」

「入江くん!」

目がぱっちり開いたと思うと、両手で琴子の小さな顔を包み込み、引き寄せる。
そして、唇に優しくkiss。

「入江くん……おはよう」

「おはよう……琴子……」

二人はそのままきつく抱き締め合った。









直樹は一晩寝ただけですっきりと回復し、翌日はもう仕事の引き継ぎをするために会社へ顔を出し始めた。

幾つかの検査の結果、琴子の身体にはやはり何の異常もなく、2週間近い継続的な睡眠の原因は判明しなかった。
脳外科医、神経外科医、精神科医、心療内科医――あらゆる領域の医師たちがこの前例のない病状に最終的に下した診断は、心因性による脳内神経伝達機能障害の一種と思われる、という至極曖昧なもの。

心因性と言われてしまえば、その原因は直樹がハネムーン後に入籍を拒み冷たく突き放したことに他ならない。
みんな心の中で思っていたのだ。琴子は現実があまりに辛くて夢の中に逃げこんだのだと。

直樹自身その診断を認めていたわけではない。医学的にも確定できる判断材料が少なすぎると思っていた。
そして医学や科学では判断出来ない不可解な事象も多すぎた。
かといって、自分が原因の精神的逃避行動――ということを全否定するつもりはさらさらなかった。

主治医からは退院後の検査の継続と、覚醒前までの脳波データを学会の症例報告で発表をすることの承認を求められている。
再発や他の疾病の遠因である可能性を考えたら、琴子の夫として医学生としては、ここは納得いくまで調べることに異議を唱えるべきではないのだろう。

しかし――今はそんなことより。
ただ琴子が目覚めたことを喜びたかった。

そして再び琴子がこのような病状に陥ることは二度とないと――何の根拠もなくそう確信していた。
もう二度と。
全てが夢かもしれないなどという錯覚を起こさせたりはしないから。

今はただ、琴子が傍にいて笑っているという幸福を味わいたい。
それだけを求めて足繁く病院に赴いていた。

「きゃあ、入江くんっまた来てくれたの?  へへっ嬉しい♪」

リハビリルームを訪れたら、琴子が満面の笑みを直樹に向け、バーから離れて一歩踏み出そうとして案の定よろける。

「ひゃん」

倒れかかったところを直樹がさっと支える。

「馬鹿、気をつけろよ」

「へへっありがとう」

舌をペロッと出して直樹を見上げる。

――ったく、可愛過ぎるだろう。

直樹の思いを知るべくもなく、琴子は直樹の腕に絡みつく。

「もうほとんどちゃんと歩けるよ。ね、もう訓練終わりだから、一緒に部屋に帰ろ」

「ああ…おれに掴まってけよ」

「うん!」

直樹はチラリと琴子担当の理学療法士に顔を向け会釈する。若い療法士は、焦った顔を一瞬赤く染めて踵を返した。

「……もう、入江くんが部屋に入ってから、他の患者さんや看護師さんがずうっと入江くんの方を見てるのよっ   それにあたしの担当の看護師さん!  あの人絶対入江くんに色目使ってるよ!」

部屋に戻る道すがらずっとぷんぷんと怒っていた琴子だが、腕に掴まりながらも足取りはしっかりして、直樹は安心した。

(あの理学療法士、絶対琴子に気があるよな。でもこの分ならリハビリはもうおしまいだな)

琴子の歩みにもう違和感はない。

「リハビリはもう今日で終わりって。凄く早く回復したって先生褒めてたよ」

ふふっとはにかんだように笑った後、

「入江くんありがとう。入江くんがあたしが眠っている間に、足を動かしたりマッサージしてくれたんでしよ?   お蔭で筋肉がそんなに落ちてなくて早く歩けるようになったって!」

目覚めた直後は多少の目眩と記憶の混濁、それに歩行障害くらいで、覚醒後の身体的異常は全く認められなかった。歩けるようになった今は、退院を待つだけだ。

「クリスマスまでに退院出来るかな?」

楽しそうに笑う琴子。
屋上から部屋に戻った後、自分の部屋がクリスマス仕様に飾られているのに気がついて随分驚いていた。
尤もそれ以前に、豪華VIPルームに驚異を感じたのか、看護師から一泊料金を訊いてひっくり返りそうになり、お願いだから四人部屋でも六人部屋でもいいから普通の部屋に戻して欲しいと懇願して、部屋を替えてもらっていた。
そして結局今は一般の個室である。

「石川や小森たちが友達連れて大勢押し掛けたら同室の患者たちに迷惑だろう?」

そう言って個室だけは了承させた。
大部屋ではいちゃつけないだろう?
直樹の思惑は無論言葉にはされていないが。

部屋が狭くなったので、巨大なツリーは撤去され、子供の背丈くらいの小さなツリーが代わりに置かれた。

12月初旬だった筈がいつの間にかクリスマスがもう目前だということに、琴子が真っ先に思ったのは、「どうしよう!  入江くんにクリスマスプレゼント買ってない!」ーーということだった。そして思ったことを口に出していたが為に、直樹から額を弾かれ、
「要らねーよ!  おまえが目覚めてくれたことが十分プレゼントだよ」
そう言ってぎゅっと抱き締めてくれた。

「何だよ、ニヤニヤして」

思い出しているうちに部屋に着いたらしい。部屋から賑やかな笑い声が待っていた。

「あー琴子戻ってきたぁ」

部屋の中では理美とじんこが紀子と話していたらしく、何だか随分楽し気な余韻が残っていた。

琴子が目覚めた後、この二人を始め、毎日のように午後の面会時間に多くの友人が訪れていた。
直樹はなるべくこの時間を避けて二人だけになれる時間に見舞いに来ていた。そしてやはり殆ど家には帰らずに、彼女が眠っていた時と同様に病室のソファで寝起きしていた。
琴子はこんなところで寝ていては熟睡出来ないから家に帰ってちゃんとベッドで寝て、と懇願したけれど、直樹は「あんな甘ったるいベッドに一人で寝られるか」と一蹴した。
横で聴いていた紀子に、
「そのベッドに新婚早々、新妻を一人で寝起きさせていたのは誰よ?」と突っ込まれ、流石にぐうの音も出ない。

「悪かったと思ってるよ」

やけに素直な息子に、紀子も満足げに笑った後に「少しは反省したようね。まったく、琴子ちゃんが辛い目に遭わないと分からないんだから!」と、続くのだ。
全くその通りなので何も云えない直樹の代わりに、
「お義母さん、もういいですから」と、割ってはいるのが最近の琴子の役割のようになっている。

ただそんな風に言い合ったり笑いあったりする日常が、家族の中に戻ってきたのが例えようもなく愛おしい。
琴子が居なくなってからの数週間、家族の中で誰一人笑顔がなかったことに今さら気づき、そして琴子の存在の大きさを思い知る。





「えーうそーっ」

「ホントホント」

「やだぁ」

ガールズトークに花を咲かせ始めた女子たちを残して直樹は部屋を出た。

今日普段は避けていたこの時間に病院を訪れたのは、リハビリの様子を見たかったこともあるが、もうひとつ別の理由があった。

「ああ、直樹くん」

「お義父さん」

廊下を歩いてきた重雄に頭を下げる。

「話は終りましたか?」

「ああ、終わったよ。ちょっとあっちで話そうか」

飲料やテレビカードの自販機のある一画のソファに二人並んで座る。
直樹の買った缶コーヒーを受け取った重雄は、プルトップをひいて一口ごくりと飲んだ。

「よかったのかな。俺一人で先生と話をして」

「はい。その方がおれに気をつかわずに済むと思って。医学生であるおれの立場関係なくお義父さんに決めて欲しくて」

「俺の思う通りで言いっていうから、断っちまったぞ。何だか小難しいことあれこれ言ってたが、詰まるところ琴子を論文書くための研究材料だか、実験材料だかにしたがっているだけのような気がして」

「多分その通りです。だからお義父さんに断って欲しかったんです」

覚醒した以上本人に了解を貰えばいいことだが、琴子は「入江くんに任せる」と言うだけだった。
医師たちは、医学生の直樹ならと彼にデータ公表や論文作成の為の継続的検査を懇願してきたが、直樹は直樹で、自分はまだ入籍していないので義父に任せますとさらっと逃げたのだ。

「すみません。押し付けるような形で…」

「いや、いいんだよ。でもこれでいいんだよな?  もしまた同じような症状が起きた時のために病気の解明をしなくていいのかと言われちまったが…俺はもうこんなことは二度とないと思うんだ。根拠はないんだが」

「おれもそう思います。根拠はありませんが」

そう言って二人は笑い合う。

「外でなくてよかったかい?」

「はい?」

「最近、煙草の本数増えてたろう?」
中庭にある喫煙所のことをいっているのだろう。

「琴子が目覚めてからは吸ってませんよ」

重樹が倒れて代理を務め始めてからは確かに喫煙量が増えた。それだけストレスが溜まっていたのだろう。

「そうか。君、高校生の頃から吸ってたろう?  」

「知ってたんですか?  同居し始めてからは殆ど吸ってなかったんですけど」

「ははは、裕樹くんと同室じゃあな。悪かったよな」

「いえ……」

琴子と出会うまでは、敷かれたレールに対する漠然とした閉塞感に苛立ち、かといって欲しい未来があるわけでもない不甲斐ない自分に対して、常に鬱積したものを感じていた。須藤から教えられた煙草は――というより、流れる紫煙の行方を追うことが、妙に心を落ち着かせていた。
琴子と同居してからは環境のせいで吸う機会は減ったが、不思議と吸いたいとは思わなかった。ストレスの元凶である筈の琴子が実はストレス緩和剤だったと分かったのはつい最近だ。

「一応板前で鼻が利くからなぁ。たまに微かに匂ったんだ」

恐らく須藤の部屋にいた時のことだろう。既に大学に進学していた彼の部屋で元テニス部のメンバーで集まったことは何度かあった。しかしそんなに頻繁ではない。同居してからは家で吸ったことはなかった。

「その時、少し安心したんだ」

「え?」

「天才で見てくれも良くて、スポーツも万能、それで性格も真面目な優等生なんて人間、つまらないだろう?  あんまりいい子過ぎるとどっかで壊れちまう  」

「そうですね…」

紀子はいつもも息子が片寄った人間になることを怖れていたような気がする。

「…でも」
にやりと笑って直樹が、重雄を見た。

「お義父さんも、たまに吸ってませんでした? 」

「ははは、板前なのにか?」

基本、味覚が鈍るという理由で板前が喫煙するのはNGである。

「俺も高校時代が一番吸ってたなあ。なんせ工業高校だったからな。いや、ワルい奴ばっかじゃなかったがな」

「工業高校から板前に?」

「おうよ。高二の夏にちょっとした家出をしてね。金がなくなって行き倒れて拾ってくれたのが下関の割烹料理屋の花板でね。そんとき、料理の世界に魅入られちまってな。高校卒業してすぐにその店に就職して修業したんだ」

「そうだったんですか」

「……俺が煙草を吸いたくなるのは、家族かしんどい時だけだなぁ…」

遠い目で 天井を見つめる。

「何があったって煙草吸うなんざ料理人としちゃ失格だけどな」

それでも吸わずにいられない時があったのだろう。
恐らくは、琴子の母に病か見つかった時。そして、失った時。
さらには、琴子が苦しんでいる時。
そして、琴子の苦しみの全ては自分に起因する。

「……すみません」

謝る直樹に苦笑しながら重雄は、コーヒーを一口飲んだ。

「何を謝ってるんだ?  もう、何度も謝ってもらったし、男はそう何度も頭を下げるもんじゃないそ」

「……はい。でも今回のことでまたお義父さんに煙草を吸わせてしまって」

「煙草の本数か増えたのはお互い様。そして、もう互いにやめられたんたろ?」

「そうですね…」

「そういえば、あの娘もごめんなさい、ごめんなさいと何度も謝ってきたなあ」

唐突に思い出したようだった。

「……速川…ですか?」

「そうそう、確か一昨日くらいに退院したんだよな。それで俺んとこにもわざわざ来てなぁ。琴子に嫌がらせの手紙を送り続けた理由もきちんと話してくれてな。なんでも直樹くんが琴子のことしか見てないからヤキモチ妬いたって言ってたな」

「………」

「俺も琴子もずっと片想いだと思ってたからなぁ。驚いたよ。見る角度が違うと全然違って見えるんだな」

そういえば、確か一昨日速川萌未が退院の挨拶を兼ねて琴子の部屋に来ていたのを思い出す。確執があったことなど冗談だったかのように二人で屈託なく笑い合っていた。
高校時代、直樹がどれだけ無自覚のまま琴子の姿を捜していたかを聴かされて、琴子はきゃあきゃあ喜んでいて、いつまでも部屋に入れなかったことを思い出した。

琴子の証言で速川萌未の行動は罪に問われることはなかった。警察は事故として処理しますと電話一本寄越しただけだ。
こんな風に全てを許容出来てしまうのは琴子の美徳だろう。狭量な自分には到底マネ出来ない。
そして直樹のそんな想いが分かるのか、速川萌未は深々と頭を下げて去って行った。

そんな彼女と入れ違いに訪れた松本裕子は、彼女の後ろ姿を見て、「あの娘が例の?」顔をしかめた。
松本もまた琴子に謝罪に来た一人たった。

「私も大概きっついこと言ったわねぇと反省してるのよ、これでも」

少しも反省している気配を見せずにころころと笑う。

「でも私の言ったことなんて気にしてはいなかったわよね、もちろん」

「あっ当たり前よ!  別に入江くんはお試し期間とか、離婚の手間省く為とか、そんなことで入籍しなかった訳じゃないもの!  もう、ちゃんと説明してもらってあたしも納得してるから!」

「……そう、ならいいわ。私のせいであなたが目覚めなかったら、凄く私の寝覚めか悪いじゃない?」

艶然と微笑む松本に呆れつつも、彼女なりに心配してくれていたことは間違いないようだ。

そんな風に覚醒後の琴子の周りは賑やかだ。




「……そういやイリちゃんからも随分謝られてなあ」

重雄は缶コーヒーを両手で握りしめたまま、ぽつりと言う。

「会社のことを君に任したまま頼りきっていたせいで、結果琴子に寂しい思いをさせちまって、こんなことになったってな」

「親父のせいでは……俺が勝手にやったことですから」

「……だが、親は子供のしでかしたことに責任を感じるものさ」

「……すみません…」

「また謝ったな」

くっくっと笑う重雄につられて直樹も薄く笑う。

「…… もう、二度と琴子にあんな思いはさせません」

「そうだな。そういう努力をしてくれると助かるよ。琴子は鈍感だし賢い訳でもねえから、分かりやすい態度を取ってくれるとな」

「………はい」

深く頭を下げる直樹に重雄は一瞬思いを巡らせ、少し目を伏せて躊躇いがちに 言葉を紡ぐ。

「……実は少し後悔したよ」

「え?」

「君と琴子の結婚を簡単に許可したことを」

背中につうっと嫌な汗が流れたのを感じた。










※※※※※※※※※※※※※




重雄さんとのお話の途中ですが^-^;

常々思っていたんです。重雄さん、料理人が煙草吸っちゃ、ダメよー(^w^)



あと二話ほどで終わる予定です。今週中にエンドマークを打てるかな~?
何がイタいって、娘のテスト週間が始まったこと。皿洗いとお風呂掃除をやってもらえない~~(T.T)いえ、まあ、お勉強頑張ってもらわないとね………来年受験だし(-.-)






* Category : 彼女は美しい夢を見る。
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No title * by なおちゃん
そうだよね?入江君にしたら、仕事も、何もかも、上手くいってから、入籍するつもりでも、琴子ちゃんに、してみたら、そのことで、悩んでるんですからね、入籍も、帰る気もないのかて、思ってしまうんだもんな、しかも?その前は、沙穂子さんと、婚約までしてたことだしね、お父さんは、やはり、そんな、入江君を見て、琴子ちゃんを、娘を、本当に、幸せにしてくれる気が、あるのか、今一、信用できなくなりますよね、その時と、今じゃ、違うかもしれないけど?これから?本当に、琴子ちゃんを本当に、幸せにして挙げられるか?入江君、琴子ちゃんだけではなく、お父さんだけでなく、亡くなった、琴子ちゃんの、お母さんの、信頼に、こたえられるか、が大事ですよね、入江君。

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Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

いえいえ紀子ママさんの不満は私の、そして恐らく多くのイタキストの皆様の不満でございましょう(^^)これで少しは溜飲が下がったのなら嬉しい限りです!
はい、もう直樹はみんなからつつかれてますが……仕方ない、身から出た錆です。
そうですよね、イタキスの男衆たちはこの件に関しては割りと無頓着。もうちょっと琴子ちゃんの気持ちを考えてよと思いましたもの。
松本姉もかなりキッツいこと言ってましたからね。その後琴子ちゃんが行方不明で意識不明、となったら実はかなり心配していたのではと思います。まさか自分のせい?なんてちょっと不安になったりして。それでお灸、ということにしておいてあげて下さい(笑)
重雄さんもちょっと娘の気持ちが分からなすぎたことを反省してます。そして重雄さんにそんな風に思わせたことで直樹も反省。
男衆、大反省大会です(^^)

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、終わりがようやく見えて参りました。
ふふふ、そうです、母と娘、過去と未来に守られて琴子ちゃんは不思議な世界から戻って参りました。
そうですねー、もう覚醒したからにはラブラブになっていただかないと(^w^)

はい、私も随分あっさり重雄さん、結婚許可したもんだと思いました。まあ、琴子ちゃんが喜ぶなら、という親心でしょうが、状況をよく考えたら……?と思いますよね。重樹さんも、二週間後の結婚式、何故反対しないーと思いました。いっくらなんでも、元婚約者の手前そりゃまずいでしょって。融資も受けてるのに~~!と。
そんな想いが創作の根源だったりします(笑)
マロンさんが浄化出来るようなお話、頑張りますね~(^^)

Re.なおちゃん様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

本当にそうですね。少し前まで他のひとと婚約してて、結婚してすぐ放置なんて、琴子ちゃんが不安になったり信じられなくなるのも無理ないのです。ちゃんと説明すればわかってもらえたことなのにね。
ずっと見守っていた琴子ちゃんのお母さんの為にも入江くんにはこれから頑張ってもらわないと(^^)

Re.ちょこましゅまろ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、やっと琴子ちゃん、いつもの琴子ちゃんに戻ってきましたよ。ちょこましゅまろ様にほっとしていただいて嬉しいです♪
そうです、みんな大反省です。イタキスキャラ総出(+速川)で反省大会(笑)
そう、夢に出てきたのは……やっぱりいつも見守ってるのですね。
ふふ、なにげに琴子ちゃんもててるのはお約束です。入江くんのしょーもない嫉妬もね♪
そう、最初は大部屋でバタバタして入江くんには悶々としてもらおうかとも思いましたが、やはり周りが迷惑かと……^-^;
はい、個室にさせてしまいました(^^)v

Re.たまち様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、今度は直樹さんが倒れましたが、琴子のkissであっさり復活(^^)v
そうですね、摩訶不思議な世界でかなりエネルギー消耗したと思います。
そうです、医師たちは病気の研究したいだろうけれど、直樹はこれが病気ではないとわかってるし、斗南ではないからどうでもいいです(笑)
確かにしばらくは優しいし素直になっていることでしょう。この先この直樹は嫉妬事件を起こさない……と、信じたい……(-.-)
そう、何の悩みも問題もなさげなしれっとした優等生も色々鬱積したものはあったのだろうと。なんと言っても先輩にあの須藤さんがいるのだから、多分吸ってます(笑)
はい、速川も琴子ちゃんのお陰で憑き物落ちて、あっさり退場。
松本姉も……あれでも一応気にしていたんでしょう……^-^;
はい、次回、重雄さんにはもうちょっと言ってもらう予定です♪
うん、板前さんって結構吸ってるイメージあるんですが……でも海●雄山先生に怒られるぞ!と思ってしまいます(笑)

そう、ついこの間入学したと思ったのにもう三年生になるんだなーと感慨深いです。まあ、頑張るのは娘ですが(^^;しかし、このリコメ書いてる間も数学に悩む娘に何度も呼ばれて………(T.T)中二の数学を一緒になって悩んでます……(..)

個別記事の管理2015-02-15 (Sun)


バレンタインの記事を書いた翌朝にどーにも馬鹿なものを書いた気がして、ひとりで「入江くんがチョコレート風呂なんかに入るかよっ」と突っ込みしていた私です(笑)

さて、うちもそろそろラストが近づいていますよ~^-^;









※※※※※※※※※※※※※※








「入江くん、早く屋上に行って!」

やっと目覚めた琴子とキスを交わし、現実の生身の琴子を実感しようとした矢先である。何から話して何をどう説明しようかと思いあぐねた一瞬に、突然必死の形相で訴えかける琴子の様子に面食らった。

琴子は足をベッドから下ろし、自分で立ち上がろうとしてそのまま直樹に掴まり倒れこむ。

「馬鹿、ずっと寝たきりだったんだ、直ぐには歩けねーぞっ」

琴子の身体を支えながら直樹が怒鳴る。

「じゃあ、じゃあ、入江くん、あたしを連れてって!」

「なんでっ?」

「速川さんが、屋上から飛び降りようと……」

「はあ? ちょっと待てよっ! それ、夢の話だろ?」

琴子を落ち着かせようと、背中に手を回す。

「夢だけど……夢かもしれないけれど、多分本当なの!」

全く説得力のない琴子の言葉だが、あまりの必死さと、そして自分の身の上に起きた数々の夢と現実がリンクした不思議な現象が思い起こされて、ただの夢だと一蹴出来ない想いも確かにあった。

琴子の真剣な眼差しに直樹は、ため息をついて、これって医療行為だよなと思いつつ、まず彼女の腕に刺さっていた点滴の針をそっと抜いた。琴子が動いたせいで、彼女に繋がっていた心電図の端子は外れ、パルスオキシメーターも自分で指から引っこ抜いていたので、ナースステーションではアラームが鳴り響いていることだろう。恐らくすぐに看護師が駆け付けるに違いない。
しかしそんなことより琴子の願いを叶えることの方が最優先である。彼女を抱き抱えようと腕を脇と膝裏に通して持ち上げようとした。

「……つっ!」

しかし左肩の痛みに、琴子の足を持ち上げることが出来ない。

「……入江くん?」

――やっぱり琴子を助けたの、夢じゃないのか?

一晩経っても痛みは全く消えていなかった。

「悪い、琴子、おんぶでいいか?」

「え?   あ、うん」

背中を向けられ乗るように促された琴子は、直樹の首に腕を絡ませて背中に覆い被さる。
横抱きよりマシだがそれでも全身に痛みが走った。

「屋上でいいんだな?」

「う…うん!」

琴子を背負うと、直樹はそのまま勢いよく走り出した。

「こっちだよ!」

唐突に二人の前に小さな少女が現れて、道案内するかのように前を走り出した。

「あの子……!」

「知ってるのか?」

「目が覚める前に、ここに戻ってくる道筋を示してくれた子だわ」

何処の子かしら、首を傾げる琴子に、
「俺たちの子かもな……」
と囁く。

「え?  今なんて?」

「いや」

直樹は少女の後をついて、廊下の端にある非常扉を開ける。
屋外にある非常階段が、上に続いていた。
元々最上階の部屋だから屋上へは直ぐだ。

ーーやっと……ちゃんと生きてるおまえを感じることができる。

背中に微かに感じる胸の膨らみや、首に絡んだ細い腕、首筋にかかる琴子の吐息――漸く取り戻せることが出来たのだとじんわりと喜びが湧いてくる。

「あ、あの、入江くん……」

「何?」

「左腕、怪我してる?」

「……ああ。大丈夫。大したことないから」

「もしかしたらあたしのせい? あたしのこと受け止めたせいで……」

「覚えているのか?」

直樹の背中でこくんと頷く琴子に、驚きを隠せない。

やはり琴子を助けたのは自分なのだ。とんでもなく非現実的ではあるが。

「夢じゃなかったんだね。ありがとう。………助けてくれて」

消え入りそうな声で囁く琴子の吐息が耳にかかり、それだけでどうにかなりそうになる。
頬が緩んでくるのを感じつつも、屋上へと続く細い鉄の階段を迷いなく駆け上った。
少女の姿はいつの間にか消えていた。

カンカンカンと軽快な靴音が響き、やがて最後の一段を踏み出すと、晴れやかな空と冷たい北風が二人を迎い入れた。

「入江くん、あっち」

空に尤も近い開けた視界には、夢の通りのシーツのカーテンが、風に煽られ波打つように踊っている。
琴子は心臓をドキドキさせながら、直樹を目指す場所に導いた。

そして。

「速川さん!」

フェンスの向こう側にはーー。
夢と同じ情景のまま、速川萌未が柵に腕を絡ませ、震えて一歩も踏み出せない足を狭い空間のコンクリートの縁にへばりつかせていた。

「いっ入江さん!? 相原センパイ……? なんでっ」

彼女は茫然と、直樹に背負われた琴子を凝視する。

「目が覚めたの……?  ちゃんと、生きてるの?」

琴子の姿が信じられないと云わんばかりに、目を見開いて震える声で呟いた。

「うん!  生きてるから!  あたしちゃんと生きてるから」

「………もしかして歩けないの?」

「大丈夫!  沢山寝すぎて身体が動き辛いだけ!  すぐに歩けるようになるよ!  あたし、なんともないからっ それにちゃんと分かってる。あたしが落ちたの速川さんのせいじゃないから!  ちゃんと覚えてるから」

「そう………そうなんだ。意識……戻ったんだ」

ぼんやりと遠い瞳をさまよわせたあと、安堵のため息をついて呟いた。

「よかったぁ……」

「うん、ゴメンね。あたしが起きなくて心配だったんでしょ?  不安だったんでしょ?  あなたのせいじゃないから。もう苦しまないでいいから」

「馬鹿、お前が謝る必要あるかよ」

それまで何か言いたげではあったが、口を開くことなく二人のやり取りを聞いていた直樹が初めて口を挟んだ。

「ううん。あたしが勝手に落ちただけなのに、速川さん自殺しようと思うほど追い詰められて………あたしがすぐに目を覚ましていればこんなことには……」

心から済まなそうに云う琴子に、速川萌未はくしゃっと顔を歪ませる。

「やめて! もうやめてよっ あなたのそういうところがイヤなの! キライなの!
あたしのこと責めればいいじゃない。あたし、あの時あなたにひどいことを云ったわ……! そのせいで、階段から落ちたんじゃない」

「ち、違うよ……階段から落ちたのはあたしがドジなだけ……」

「だいたい何であなた、あたしがここにいること知ってるのよ!」

そう、何故ここにこの二人がいるのか……彼女には全くわからなかった。

「だって……速川さんが夢の中で云ったんじゃない。入江くんを連れて来てって。そしたら死ぬのやめるって」

「……どうして……? それはあたしの夢よ。さっきまであたしが見ていた夢。でも入江さんは来ないの。ずっと待っても来ない……来るはずないわ。あたし嫌われてるもの。あなたを傷つけた酷い女だって」

ーーわかってるのかよ。
直樹は顔をしかめる。

「この女が本気で死のうとするわけないだろう?」

忌々しげに吐き捨てる直樹の自分を見つめる瞳は恐ろしい程冷たくて、速川萌未は思わず息を飲む。

これまで一度だって自分の姿を認識してもらったことはないけれど。
初めてちゃんと見てくれた時の顔がこんな禍々しいものを見るような目付きをされるなんてーー

「どうして、そんなことを云うの? 夢の中では、あんなに優しかったのに………」

「は?」

「 夢の中ではあたしが入江さんと同居して、入江さんと結婚して …………」

「くだらない妄想だな」

ばっさりと切り捨てる直樹に、彼の背中に背負われたままの琴子が、
「くだらないなんて云わないで……あたしも同じだから……」そう悲しげに呟く。

「そう、くだらない夢。目が覚める度に虚しくなるの……」

「あたしたち、違う場所にいて、違う夢を見ているようで、同じ処にいたのかしら……?」

琴子の言葉に直樹は、謎の少女の指差した深いブラックホールのような闇を思い出した。
琴子が落ち込んだ底のない深淵にこの女も居たということか。
あの深淵を作り出したのは琴子の不安や哀しみや、この女の嫉妬や羨望、恐怖ーー凝り固まったあらゆる負の感情だったのだろうか?

「ずっと……怖かったの……あなたが死んでしまったんじゃないかと。生きてるって聴いた後も目が覚めないって……怖くて怖くて……全部夢ならいいのにって」

「それは自分が殺人犯になるかもって恐怖だろう? 別に琴子を心配した訳じゃないんだろうが」

直樹の冷たい科白に、
「入江くんっそんな言い方っ……それに、あれは事故だから! 殺人なんて……」
琴子が真っ向から否定する。

「……いいよ。そう思われても仕方ないし。実際そうかもしれないし。あたしも自分の本心がわからない………」

「速川さん?」

「あなたがどうなったのか知るのが怖くてずっと友だちの家に引きこもってた。友だちから、あなたが意識不明って聴いてからは、警察が捕まえにくるかもと、怯えていたし、あなたが死んでしまったらどうしようって怖くて堪らなかった。それが自己保身と云われればそうなんだろうけれど……
友だちの家で眠る度に色々な夢を見ていたわ。初めは幸せな夢ばかりだったの。あたしが入江さんと結ばれる……あたしずっと眠っていたいと思ったわ。夢なら醒めないでって。でも夢だから目覚める度にリセットされて。
そしてそれがだんだん悪夢になってきて……あたし今度は眠るのが怖くなってきて……」

もう、全部どうでもよくなってきて……

もう疲れちゃって……

羨んだり蔑んだり誹謗したり……

ああ、あたしってなんてイヤな女なんだろう……

あたしはなんで彼女みたいになれないんだろう……

あたしはなんで相原琴子になれないんだろう………

あたしは……

「速川さん! お願いだからこっちに来て! 危ないから……!」

彼女の瞳が虚空を見つめ、今にもふわりと空へと飛び出しそうな気がして、琴子は慌てた。

直樹が背中の琴子を降ろして、地面に座らせる。

「入江くんっお願い」

つかつかと直樹は躊躇いなく速川萌未の方へ歩いていく。

彼女は迷いなく自分に近付いてくる直樹に目を白黒させて立ち尽くしていた。

そして直樹はあっという間に彼女のいるフェンスの前に立ち、何の躊躇もなく彼女の脇に手を入れて羽交い締めたような格好のままフェンスの内側に引っ張りあげた。

「ひゃああっ」

萌未の顔が真っ赤になったのを見て、彼女がまだ直樹のことを好きなのだと思うと微かに琴子の胸が痛む。しかしそれよりも彼女を持ち上げた時の直樹の顔が歪んだのを見て、彼が肩を痛めていたのを思いだし、直樹に対する申し訳なさと怪我の心配が一瞬にして琴子の頭の中を占拠した。

直樹が萌未をフェンスから少し離れた位置の地面の上に置くと、琴子が「…入江くんっ!  大丈夫!?」と、真っ青な顔でずりずりと近付こうとしてくる。まだ力が入らなくて立つことが難しいようだ。

直樹はそんな琴子をすっと抱き上げる。

「あっあっ……肩、大丈夫?  痛くない?」

「ああ、だいぶ収まってきた。右手で支えるからおまえ左から俺の首にしがみつけよ」
琴子は言われた通り、直樹の腕に負担が掛からないようにぎゅっと直樹の首にしがみつく。
直樹も抱き上げた琴子をきつく抱き直して密着させる。

(他の女に触れたからな、消毒だ…)

「あ、やっぱり降ろして。重たいでしょ? 肩も痛いでしょ?」

「大丈夫だよ」

自分を蔑むように見ていた時とは明らかに違う優しい眼差しで琴子を見つめる直樹の姿に、萌未は顔を背ける。

「だめっ降ろして!」

琴子が降りようとジタバタしだすと、「いてっ」と直樹が眉根を寄せて身体をよろけさせる。

「ほらっ痛いじゃないっ」

「おまえが暴れるからだろうがっ!」

いまだにぼんやりとしたままの萌未は、地面にしゃがみこんだまま、じゃれてるような言い合いを続ける二人を見上げていた。
結局直樹は琴子を抱いたまま降ろさない。

「琴子はこーゆー奴だからおまえのことを責めるようなことはしないが、はっきり云って俺はおまえを許す気になれない」

直樹の冷たい言い様に、ぼんやりと夢うつつな状態だった萌未は、怯えたように青ざめる。

「入江くん!  だから、速川さんのせいじゃないってば」

慌てて彼女を庇う琴子に、直樹は呆れたようにため息をつく。

「階段から落ちたことじゃない。……いや、あれも救護義務を怠ったことは許せないが、おまえがあの場にいた根本は俺のせいだからな」

自嘲ぎみに笑う直樹に怪訝な顔を見せる琴子。

「元々俺がおまえに酷いこと云わなければ、おまえはあの場所にいることはなかった。そうだろ?」

「あ……」

漸く階段から落ちた事故の直前の経緯が少しずつ思い出される。

「だからその件に対しては不問にする。しかしおまえが琴子に対して、嫌がらせの手紙を送り続けていたことに関しては許すつもりはないから」

直樹の峻烈な言葉に顔を苦しそうに歪ませる。

「……ごめんなさい」

蚊の鳴くような小さな声で彼女は謝罪した。

「謝ってすむような……」

「いいのよ!  もう!  あたし手紙のことは気にしてないから!」

直樹の憤りの言葉を琴子が遮る。

「琴子!」

「入江くん、そのことはもういいから」

「よくない!  ずっとお前がそんな目に合ってきたのに気付かなかった自分にも腹が立つけど……」

「嬉しい…!  入江くんがそんな風に思ってくれて!  でも、入江くんも自分を責めないで。気付かれないようにしたかったのはあたしだし……」

「なんで相談しなかった?」

「……だって迷惑かけたくなかったし……」

申し訳なさそうに応える琴子に、昔何度も「迷惑かけるな」と言い放っていたことを思い出す。

「バカヤロー……って馬鹿なのは俺か……」

「?  入江くんが、馬鹿な訳ないじゃない?」

「…ったく…高校ん時から嫌な思いしてたんだろうが?  なんでそんなに簡単に許しちまうんだ?」

呆れたように琴子の顔を覗き込む直樹に、琴子はうつむいてからちらりと恥ずかしそうに目を合わせる。

萌未はただ青ざめた顔を二人に向け、彼らのやり取りを黙って聴いていた。

「だって……速川さんも入江くんのこと好きでしょ?  片想いって本当に辛いの。その気持ちは凄く分かるから……」

「…だからって人を傷つけることは許されないだろう?   そしておまえはいくら片想いが辛くてもそんなことは絶対しないだろ?」

「そんなこと分からないよ。みんな……理美やじんこもそういってくれたけど…みんななんであたしのことそんな風に言ってくれるんだろう?  あたしはいつも不安だったよ。ヤキモチだっていっぱい妬いたし…松本さんとのデート邪魔しようとしたり、沙穂子さんとのお見合い邪魔したり、凄く嫌な子だったよ。……さ、沙穂子さんのことは…もしあのまま入江くんが沙穂子さんと一緒になっていたら……あたしだって何したか分からないよ………!」

夢の中の幾つかの思い出したくもないシーンがフラッシュバックのように浮かび上がる。

「琴子…!」

「あたし…あたし、夢の中で沙穂子さんにナイフを向けられた。また違う夢ではあたしが入江くんと結婚する沙穂子さんにナイフを向けようとした。あたしの中にそんな恐ろしい感情や願望が存在するってことでしょ?」

「琴子、それは違う!」

電話で震えるように話していた琴子の不安が繰り返される。あの時の電話の向こうの琴子は間違いなくこの琴子だ。だが、琴子はそのことを覚えているのだろうか?

直樹は琴子の不安の要因が全て自分のせいなのだと改めて思い知る。琴子に全く気のない態度を取り続け、何一つ彼女の欲しいものを与えてこなかった。
彼女がこんなにも簡単に速川萌未の気持ちに添ってしまい同調してしまうのは、琴子は自分の恋が成就したのだと何一つ実感がないためだ。
恋をするのは幸せで楽しくてあったかくて――
でもその一方で確かに存在する醜くドロドロとしたどす黒い感情も確かに存在して。
そして琴子は自分もそんな感情に支配されるかもしれないという不安を常に抱えていたのだろう。
沙穂子が現れてからは特に顕著に。

ナイフを向けられた自分。
ナイフを向ける自分。

沙穂子への罪の意識と再び奪われるのではという不安の表れ。

「……あたしが、婚約者から略奪したくせに、って言ったから?」

震える声を搾るように出した萌未に、二人は視線を向けた。

「入籍してもらえなくて、ザマアミロ、とか……」

琴子を抱いていた直樹の肩がぴくりと震える。眉間に皺を寄せて萌未を一瞥する。
しかしあからさまに怒りを向けるようなことはしなかった。琴子が受けた毒針のような言葉の数々は、全て直樹の行動に由来する。そういう自覚は流石にあった。

「……あたし、あなたが傷つく言葉ばかりかき集めてた気がする…。どうすればあなたが苦しむかそればっかり考えてた……でも」

「……でも、そんな自分が嫌だったんでしょ?」

琴子の問い掛けにはっと顔をあげる。

「速川さんは、普通の女の子だよ」

にっこり笑う琴子に、萌未はぼんやりと目を向け、ぽつりと話し始めた。

「二人が同居しはじめてすぐにあった定期考査で……相原センパイが100番になった時…入江さん、順位なんて見に行ったことないって聞いてたのに相原センパイの番号を真っ先に確認して、そしてうっすらと笑ったの……」

「…え?」

唐突に何を話し出したのかと、琴子は首を傾げる。

「あたし、同居なんてしたって二人の距離は変わらないと思ってた。入江さんは相原センパイなんかに心を許したりしないって信じてたの。でも、無条件に入江さんの傍に居られるセンパイを妬っかんでた。
自分と同じ場所にいるとばかり信じてた人がたった一夜で、あたしには手の届かない……でも、あたしが望んでた場所にいたの。
悔しくて悔しくて堪らなかった……あたしの方がずっと前から入江さんのこと好きなのにって」

琴子の胸がきゅんと痛んだ。

「わかるよ……あたしも沙穂子さんが現れた時、そう思ってた。
あたしが入江くんの会社を立て直す力のある家の娘だったら、とか、あたしの方がずっと沙穂子さんより早く一目惚れしていたのに、とか。考えたってどうしようもないことばかり考えて…悲しくて妬ましくて」

「琴子………」

直樹が口を挟もうとしたその時――。

「わかってないよ…センパイはあたしと全然違う」

「……え?」

――運命的な出来事によって始まった入江家での同居。でもそれが多くの女の子たちに衝撃を与えていたということは分かっていた。
勝ち誇ったつもりも自分が特別なつもりもなかった。直樹は決して自分を見てはくれなかったから……。
けれど周りは羨望と嫉妬の眼差しを琴子に向け続けた。
あんな娘が入江さんの隣にいるなんて――
そういう言葉も視線も気が付いてはいるけれど気にしないようにやり過ごしてきた。そうしないと直樹の近くにいることなんて出来なかったから。

「……みんなもそう思いたがってた。同居したってどうなるものでもない、あなたがまとわりついているだけ。入江さんはあなたのことなんて何とも思ってない――
って……
でもね。あたしはわかってたの。あたしはずっとずっと見てたから。あなたよりずっと長く入江さんのこと見てたから。
だからわかってた。理解ってしまったの。
素っ気なくて、冷たい態度をとってたって、相原センパイのこと他の女子とは全然違う存在として見てるって」

「え…?」

「それはもう、最初の頃から感じてた。初めは入江さんがあなたに振り回されてると思ってあなたに腹がたった。でも、段々いろんな事が見えてきて。入江さんは振り回されること楽しんでるって。入江さんは頭のいい人だから心から嫌がっていたらどんなことをしてもあなたを排除する筈。それをしないのは入江さんがあなたの存在を許しているということ。
そして、少しずつ少しずつ入江さんは変わっていった。きっと近くに居すぎる人たちは気が付かないと思う。それくらい些細な変化なの。
でも、あたしには分かってた。
あたしはいつも見ていたから。いつも入江さんの姿を追っていたから。入江さんが素っ気ない顔で誰の姿を捜しているのか……。あなたは大騒ぎしながらドタバタと入江さんのこと捜していたけれど、入江さんはあなたの姿を見つけると少し安心したようにふっと笑うの。軽く口角をあげるだけだし、すぐにあなたには仏頂面を見せてたから誰も気が付いてないだろうけど。それにね、入江さんあなたが他の男の友だちと楽しそにしてると、ホント不機嫌になるの。眉間に皺寄せて、ふんって感じで」

「……速川さん……?  それって……」

「それで、あたしと同じなんて、あなた凄く馬鹿だわ。
あなたのことが嫌いなのは、あなたが不可抗力の偶然によって同居という幸運を手に入れたせいじゃない……そんなの関係なく、今まで誰一人として自分の世界に立ち入らせなかった入江さんがあなたを受け入れて見つめていたから…だから許せなかった」

「それって、入江くんがあたしのこと初めて会った頃から好きだったってこと!?」

萌未の言っている意味が漸く分かり始めた琴子は、萌未の顔と直樹の顔を交互に見つめる。
直樹は苦虫を噛み潰したような困惑したような複雑な表情をしていた。

「……そうなの?  入江くん?」

戸惑いながらも直樹の顔を覗き込む。

「琴子………覚えてないのか?」

「え?」

「電話で話したこと」

ぼんやりと空を見つめているような琴子の瞳は一瞬のうちに光りを帯びて直樹の姿を映しだした。大事なことを思い出したかのように、はっとした表情を浮かべたまま……。

「あれ……夢じゃないの?」

普段多くを語らない直樹が電話の向こうで色々な事を話してくれた。

金之助にヤキモチ妬いていたこととか。
それ以前から琴子に近づく男たちに苛立っていたこととか。
何故沙穂子でなく琴子を選んでくれたのか。
そしてどれだけ琴子を必要としているか。
どれだけ愛してるかーー。

行きつ戻りつする琴子に何度も話してくれた。謝ってくれた。

入籍してほしいと懇願してくれて。

ーーそれは現実……?

夢の中ではすんなり現実の直樹と話しているのだと信じることが出来たのに。
あまりにも現実の直樹とはかけ離れている優しい言葉の数々に、目が覚めた今はやはりただの甘い願望だったのだろうと思っていた。

「夢じゃないよ。考えられない非現実的な出来事だけど、おれはおまえと電話で話した。多分、もう二度とあんな甘ったるい科白は吐かないから、簡単に忘れるなよ」

「忘れない!  忘れてないよ!  絶対に忘れないから!」

そう言って琴子は直樹にしがみつく。涙がポロポロと溢れだした。

「ごめんね!  入江くんごめんね!  入江くんが思ってくれてたことあたし気が付かなくて!  信じられなくて……!」

「おまえが謝るなよ。自分の気持ちに気が付かなかったのは俺も同じ。おまえが自信を持てなかったのは全部おれのせいだ」

しがみつく琴子の身体を抱き締め髪をくしゃりと撫でる。

泣いている顔を直樹の胸に擦り付けている為に、彼のシャツは琴子の涙と鼻水でぐしょ濡れになっていたが、それすらも今琴子が生きていると感じられて愛おしい。

「速川……」

ぼんやり二人を見ていた萌未の存在を思い出したかのように直樹が声をかける。

「琴子が許すというのなら、おれもおまえを許そう。
但し二度と琴子に近づくな。
それと、二度と他人も自分も傷付けるな。わかったか?」

琴子を見つめていた優しい眼差しから一転凍りつくような視線に変わり、萌未はびくりと身体を震わせた後、こくこくと首を縦に振る。

「……それと…おまえもちゃんと自覚してるようだが、こいつがあんたや他の女たちと違うのは――
こいつはどういうわけが全然自信を持っていないが、絶対同じ立場であっても、人を貶めたり傷付けるようなことはしない。そしてどんなに罪を背負っても自傷行為なんて決してしない。とことん前向きに対処していく奴だ」

「……そうですね」

目を伏せてぽつりと呟く。

「相原センパイ……」

「え?」

いまだ直樹にシャツに涙をこすりつけていた琴子は萌未の言葉にやっと顔をあげた。

「あたし…入江さんが別の人と婚約した時、あなたに『ザマアミロ』って手紙送ったでしょ?」

「う、うん」

「あの時…あたし、婚約者のひとにも『ザマアミロ』って思ってた。入江さんは多分あなたのことなんて少しも好きじゃないのよ、可哀想に、って。
入江さんのことも、頭いいクセに馬鹿な人、って思ってたわ。色んな女の子の気持ちを無視して蔑ろにしてきたから…大切な女の子の事すら思いやることもない酷いひとだから……好きでもない人と結婚することになるのよ、ザマアミロって…
……そう思ってたの」

「速川さん………」

「疲れちゃった。人を妬むのも、蔑むのも、貶めるのも…」

「うん、そうだよね。そーゆーのってすっごく疲れるよね」

琴子はふわりと速川萌未の頭に手を延ばすと、くしゃりと撫でた。

「でも、疲れるって思う時点で速川さんは真っ当なんだよ。世の中にはそーゆーのが心から大好物の人もいる訳じゃない?
だから……速川さんは普通の……いい娘なんだよ」


萌未は琴子の励ますつもりらしい言葉に少し目を丸くしてからくすりと笑った。
涙を一杯流した後のすっきりした顔をあげ、そして二人を見つめる。
真っすぐな瞳を向けて。


「相原センパイ……ごめんなさい…」

                                             









※※※※※※※※※※※




ラストミッションーー
『速川萌未の救済』でした。
(ま、彼女を救ったのは100%琴子ちゃんのまっさらな心でございましょう。悪霊退散←?)







* Category : 彼女は美しい夢を見る。
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No title * by なおちゃん
琴子ちゃんは、さすがですね、どんな人にも、温かい心、人を、思いやる気持ちを、持った、女の子、なかなか、みんな、そんな風には、なかなかなれない、でも、琴子ちゃんは、それができる子、そんなとことができる、琴子ちゃんを、、大好きな入江君、そんな、こと子ちゃんだから、入江君は、琴子ちゃんを、愛してるんだよね。

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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうですね、本当に琴子ちゃんはピュアですね。女神だわーと私も思いました(^^)
そう、速川さんはイリコトの周りの誰も気がついていない直樹の想いを唯一分かってしまった子です。(みんな鈍いですからねー本人含めて)
やはりでも彼女が琴子にしてきたことは決して許されませんが、菩薩の心であっさり許してしまいます。共に許してくれてありがとうございます(笑)
マロン様も、スッキリ浄化できたならよかったです(^^)
はい、謎のザシキーちゃんも頑張りました。
さて、目標入籍までまっしぐらで行きたいと思います♪お待ち下さいね(^^)

初めましてです(>_<) * by しおり
初めまして!初めてコメント致します!

彼女は美しい夢を見る。←ほんっとに面白いです(泣)最高~!!!

毎回、更新楽しみに毎日を過ごしてます☆

今回の記事、何というか......
女の子の好きな人への気持ちとか、恋が叶うことない悲しみ、妬み、何で私じゃないのっていう苦しみ......特に、萌未ちゃんのザマアミロっていう複雑な気持ち。

琴子ちゃんは、そんな気持ちをしっかりわかってて......なんて優しいの~なんて♪

思春期ならではの繊細な女の子の気持ちの変化を、よく表していらっしゃって感動しました。

すごく琴子ちゃんの気持ちにも、萌未ちゃんの気持ちにも共感できます!

またの更新を楽しみにさせて頂きます!
失礼しました(((^^;)

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

きゃあ(//∇//)紀子ママさんに感動してもらえて嬉しいです!
そうです、直樹さん実はたいして仕事してません。速川さんを一瞬お姫様抱っこしただけです。まあそれだけで彼女は本望でございましょう(^^;
そう、直樹さんはひたすら反省反省の日々です。思い知ったか!琴子ちゃんの痛みをっ!
速川さんはただ見つめるだけの娘で、何も出来ない無力な娘です。だからこそ意識下の精神世界ではミュータントのような化け物になってしまって琴子ちゃんを苦しめました。でも、すべてを許してしまえる琴子ちゃんによってすっかり浄化されました(^^)v
ふふっ琴子ちゃんの立ち位置に悩んだのですよ。ほんとは最後琴子ちゃんに速川さんをぎゅっと抱き締めさせようと思ったのですが…そしたらまたずりずりと這っていかなければならないし……直樹さんは抱っこしたまま離さないし^-^;結局頭くしゃに落ち着きました。貞子にならないようリハビリさせないとねー(^^;


Re.たまち様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうですね、確かに直樹さん大変なことが多いですが、刺激のある生活を求めたのは彼ですから^-^;
そう速川、実は一番よく見てて、鈍いイタキスキャラたちの間では誰よりも直樹の気持ちを察している。確かにプライドの高いお嬢さんだから余計にどんどん嫉妬や妬みで負の世界を作り出してしまったのでしょう。
女の子なら誰でも持ってる負の感情。でも琴子ちゃんはちゃんとそれを押さえる心の強さと清廉さを持っている。
そうですね、この先直樹と共にいると必ずまた自分も嫉妬したり、他人からの嫉妬の攻撃を受けるのかもしれないけれど、きっと乗り越えて、相手も自分も浄化してしまうのでしょうね。ほんと女神さまのようっ(^^)
深いご考察ありがとうございました♪