ハロウィン近いな~と、なんとなく始めてしまったヴァンパイアもの、なんとか終わりました。まさかの12話。最初はさくさくっと一夜二夜三夜で終わるつもりだったのに(^^;
元ネタはチラチラと書きましたが『ポ/ー/の一/族』。かの名作のパロディのつもりでした。
『すべF』のタイトルパロを書いている時、作者の森先生が『トー/マの心/臓』のファンで、そのことから高校時代友人と『トーマ派』か『ポー派』かで激論をかわしたなと思いだし………(あたしはがっつり『ポー派』でした)連想ゲームのように唐突に思いついてしまいました。
ポーを日本ベースにしたようなオリジナルのお話を昔考えてたことがあったので、それと融合させた感じです。
でも月齢によって力が左右されるというのは平井和正『ウル/フガイ/シリーズ』だったような。オリジナルじゃないやん、って感じですが(._.)そっちは狼男です。でも、入江くん、ビジュアル的にはヴァンパイアだけど、中味は狼男だし(^^)v
と、まあそんな感じの思いつきで始めてしまったお話ですが、イリコト世界から妙に逸脱してしまったような気がしてなりません。ほんと、こんな変なテイストの話、書いちゃってごめんなさいって感じです。

時間が遡って最終夜は二人の出逢いで終わるのは最初から決めていましたが、あとは本当に行き当たりばったりで。夜に数時間で書いてろくに推敲もせずにさっさとアップなんて無茶なことが自分に出来るとは。(これまでの長めのお話しはみんなスマホに書きためてたのを打ち直しながらアップしてました)
琴子が二十歳くらいになって琴子への想いが恋愛感情になり、仲間にするかしないかで直樹が葛藤するあたりまで書こうか少し悩みましたが、まあ無駄に長くなりそうな気がしたので、予定通りハロウィンで終了です。
しかし、ハロウィンなのに、カボチャもtrick or treatもありませんでしたが(..)
お付き合い下さった方々、ありがとうございました♪

さて次はちょっと普通のイリコト書こうかと。
書きためてある中に30話くらいの長めのお話しがあるのですが、諸事情があって思案中……(^^; また、ドラマの影響で変な話思いついちゃったし、どうしようかな(-.-)






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2014.11.01 / Top↑





――――彼は塁々たる屍に埋め尽くされた焼け野原を歩いていた。

胸に矢が穿たれ、腕が切り落とされ、或いは銃に撃ち抜かれた者もいた。
鎧や兜に身を包みながらも大砲や鉄砲には敵わなかったのだろう。

硝煙と血の匂いが鼻孔をついた。うめき声もある。死にきれぬ者も多いのだろう。

落城した城の中にはさらに多くの者たちが焔に焼かれたことだろう。彼に銃の扱いを習い、薬草の効能を習ったものたちも、皆――。

………虚しいものだな。


特にここの城主に義理は無かったが、仕官させてもらった恩義として、近隣の同盟国の裏切りの可能性を示唆し、進言したのだ。けれど城主は信じなかった。この強大な権力を誇る堅城を攻め落とす馬鹿などいないと。
――その結果がこれだ。

人間はなんて呆気ないのだろう。なんて儚いのだろう。

記憶にある限り、人の世に戦いが無かった時代がどれ程あったろうか。
どの時代、どの御代も常に争いに満ちていた。

かつて『鬼』と蔑まれていた頃を思い出す。
人間のほうが余程鬼ではないか、と思う。昨日の友が今日の敵となり、身内同士が血で血をあらう争いを繰り返し。

――そして、結局はこの様だ。

月光の下で無惨に打ち倒された兵士たちの屍の大地に立っている彼は、壮絶なまでに美しい。

――生きている者のいないこの地に残る必要はない。生気をもらうことが出来ないからだ。

次は何処に行こうか?

何処も同じだ。今この国に平和な場所などない。
帝の権威も将軍の権威も地に堕ちて、統べる者のいないこの国は、もう何年も戦いに明け暮れている。


虚しいと思いながらも人里離れた処では生きていけない。不死のこの身も人から生気を貰わなくては保てないのだ。

いっそのこと、生気を貰わなければいい。そうしたらこのまま朽ち果てることができるのだろうか?

永遠の孤独という、果てることのない地獄から逃れることができるのだろうか?

いや――確か伝え聞いた話では月の力のみで生き続けられるということだ。ただ超常的な力を使うことは無理だが、眠り、起きて、息をして…それくらいならば……

ふっと可笑しくなる。
ただ眠って、起きて、息をするだけで生きているといえるのか? それでも死ぬことは叶わないのだろうか。


いったい自分はいつからこのような時を過ごしているのだろう。
遥か昔の記憶を思い起こす。



――初めの記憶は、600年ほど前だ。
まだ京の都の主上が、その権威を示していた頃の――平安といわれた時代。

確かにこの戦国の世に比べたら平安だったのだろう。支配する階級の者たちにとっては、豪奢な館に、季節を愛でる別荘に、美しい着物に王朝文化華やぐ雅な日常――平和な安寧な時代だったのかもしれない。

だがそれは都の中央のほんの一部の者だけに与えられたもの。大半の市井の人々や地方にすむものは略取され、貧困にあえぎ、飢餓や疫病に苦しめられていたのだ。

その時代に彼はいた。
いつの間にか、いた。
気がついたらもう存在していたのだ。


魑魅魍魎や物の怪が都を跳梁跋扈し、呪詛や祟りが当たり前のように信じられていた時代だった。



彼の一族は、代々この国の闇の世界を支配してきた。古代、神代の時代から恐らくは存在していたのかもしれない。
神の声を聴くものとして、巫女や占術師として――人の心を捉え、世を誘ってきたのだ。

そしてその時代においては、宮中にて陰陽寮の主である土御門家に仕え、その陰となって主に替わり、天文や気象を司る役を担っていた。
彼も一族の長と共に陰陽師の一人として土御門家に仕えていたが、実質操っていたのは彼らの方だった。

人間だった頃の記憶はあまりない。
遥か古代から生きている長老からの儀式を受け、不死の者となった。長老からの血を貰ったものだけが純血種となり、一族を増やすことができるのだ。

一族の者となり、宮中で人のふりをして陰陽寮で生活をしていた。
けれど彼が一族となって僅か数年で彼の一族は殲滅する。
仲間の一人がその超常的な力を見破られてしまい、鬼だの物の怪だのと恐れられ、一族全員が都を追われることとなったのだ。
源頼光ら四天王と呼ばれる武士たちの手によって活火山の噴火口に追いやられ、火の中に身を投じた。

彼は偶々その厄災から逃れられた。長老の使いを受け、都から遠く離れた地にいたからだ。
その地で一族の壊滅を知り、その後暫く都に戻ることはなかった。
その後の彼の生き方は、ただ生きている同胞を探すためだけに存在して来たといっても過言でない。

そうして、ただ生きてきた。
自分と同じ仲間が何処かにいるかもしれないと。同じ永遠の時間を生きるものがいるかもしれないと。

自分で自分の血を与え、普通の人間を仲間にすることは何時でも出来た。しかし彼は仲間にしたいと思うような人間に会うことは一度もなかった。

彼は一人だった。
600年ずっと一人だった――。







「痛い……ひっく………いたいよ」

子供の泣き声に思わず彼は振り向いた。
誰か生きている者がいたのか? この無惨な死体の海の中で。

――いた。

焼け落ちた蔵の残骸の中からふらふらと一人の少女が出てきたのだ。
顔が炭で真っ黒で、着物の端も焼け焦げている。

「……大丈夫か?」

彼は少女の近くに寄り、怪我がないか確認する。大きな火傷はないが、腕に擦過傷があった。とりあえずはそれくらいである。

燃え落ちた蔵の跡に、暫く震えて身を隠していたようだった。

「…なまえは?」

「……お琴」

「何処の家の者だ? 家族はいるのか?」

少女はただ首を振るばかりだった。

「お兄さん……入江様ですよね? お城で指南役を務めてらした」

少女が突然そう訊ねた。

「おれを知っているのか?」

怪訝そうに少女を見る。

「お城で……何度か。父は城の料理番だったのです」

「ああ」

あの城の料理は美味だと評判だった。自分は食事は殆ど口にしたことはなかったが。

「父上は?」

少女は悲しげに首を振る。
そして思い出したかのようにわっと泣き出した。
まだ十を少し過ぎたばかりの歳ではなかろうか。
たった一夜のあまりに恐ろしい出来事に心も身体もついていくまい。

「おいで」

彼は少女を抱き上げ、その地獄絵図の世界を後にした。




その後彼は少女――お琴を連れてまだ戦火の気配のない隣国の領地へと渡った。

そして暫くその地の山あいの里に二人で暮らしていた。
人の子を助け、一時暮らすのは初めてではなかった。しかし子供は敏感なのか、どうにも彼を怖がりなつかない。結局は世話をしてくれる仮親を見つけて離れていくのだ。
この娘もきっとおれを怖がるのだろう。
彼はそう思った。
しかし、お琴は全く彼を恐れることはなかったのだ。
いや――どちらかというと。

「あたし、先生に一目惚れしたのです」

城にいた頃、仕事で武士たちに鉄砲の指南をしていた彼を見かけたのだという。

「ずっと憧れていたのです」

一人前の娘のようにポッと頬を赤らめるお琴に、彼は困惑した。

――面倒だな……。

嫌われていた方がさっさと出ていきやすかったな。

少しばかり元気になったお琴は、なにくれと彼の世話をやき、そしてあれこれ話し掛ける。
とにかく口が閉じることはないかと思うくらい、思いついたことから、さっき起きた些細な出来事まで、喋って喋って喋り倒していた。
こんなに1日中、他人の話を聴くのは600年生きて初めてだった。
初めは煩いと思っていたが、段々耳に心地よくなってきたから不思議だ。
お琴が僅かな時間でも話さないと不安にさえ思う。

そしてお琴はことある事に彼に囁くのだ。
「入江様……大好き」

そしてお琴は心根も真っ直ぐで、健気だった。周りに愛されて育ったのだろう、疑うことも知らず、まず自分よりも他人のことを考える心優しい娘だった。


だが、そろそろ離れなければなるまい。
腕の擦過傷も治ってきた。
あとはこの娘の預かり先を探すだけだ。

結局彼は彼女を寺に預けることにし、別れる時を決めた。

「…じゃあな」

そう言って背中を向けるが、お琴が涙をポロポロ流して泣きじゃくっているのが分かる。

イヤだ、離れたくない、ずっと一緒にいたい、と駄々を捏ねているのは、寺に行くと伝えた時からだ。

だが彼は一度も振り向くこともなくそこから立ち去った。
こんなに――誰かと別れがたいと思ったのは初めてだった。




再び彼が一人になり、月の夜一人静かに月光を浴びながら、ぼんやりとお琴のことを考えていた。
ここにはいない誰かのことを考えるのも、初めてだった。

すると。

かさかさと音がして、泥まみれになったお琴が這うようにやって来たのだ。

「入江様っ見つけた――!」

「おまえっなんで!」

驚く彼にお琴が飛び付く。

「会いたかったですぅ~」

寺から何十里もある。子供の脚でよくもまあ追い付けたものだと呆れ返る。

「お願いです。何でもします! 置いていかないで! お側に居させてください!」

「駄目だ……」

今ならまだ、離れられる。
だがもしこのままこの娘と共にいたら……?

――そのとき。

「城の残党のものかっ!」

刀を振りかざした侍が、突然草むらから現れて二人に襲いかかる。

「危ないっ」

お琴をかばった彼の背中にざくりと刀が真一文字を描く。

「いやーっ」

お琴が叫ぶと、彼は何の痛みも感じないように振り返り、そして切りつけた侍に跳びかかると、一瞬でその男の首に手をかざす。すると呆気なくその男は崩れ落ちていった。

彼の瞳はまるで血のように赤く光っていた。

「…あっ……」

「怖いだろう?」

彼は悲しげに呟いた。

「おれは人ではない。だからおまえを連れて行けない」

けれどお琴はそんなことは気にしていなかった。

「入江さまっ 傷! 背中!」

気にしていたのは彼の傷のことだけ。
そして背中にそっと手を当てる。

「…大丈夫。もう、治ってるだろ?」

「本当だっ! すごーいっ よかったぁ! あたし、入江さまが死んだら生きていけない!」

そしてまたおいおいと泣き出す。
喜んだり笑ったり泣いたり、本当に忙しい。

「…ほんとに怖くないのか?」

「どうして? あたしを助けてくれて、一瞬でやっつけてくれて、傷も簡単に治っちゃって、すっごいと思うけど、全然怖くないよ! 余計尊敬しちゃうし、格好いいと思う! 惚れ直しちゃったよ」

そう言って再び彼に抱きつく。まだ彼の脚にしか抱きつけないが。
彼はしゃがみこみ、琴子の目線に合わせると、その姿勢で琴子を抱き締めた。

「……来るか? おれと」

「うんっ! 行くよっずっと付いてく! ずっと一緒にいたい」

そのまま琴子を抱きあげる。

「本当に……ずっとだぞ?」

こつんと琴子小さな額に自分の額を付き合わせる。
幼い少女の顔が真っ赤になった。

「…うん」



――ずっといっしょに。
――永遠に。
――きみと歩いていく。


――彼はこの日、永遠の孤独から解放された。





――――……いっしょに。 了――――

※※※※※※※※※※※※※※※※



終わりました!! 以上を持ちましてハロウィン企画の『月下の一族』終了です。
結局、アップしたのは31日過ぎてから……(^^;もう11月ですね。
後書きは明日にでも………(^^)



2014.11.01 / Top↑



東京での暮らしは、山で暮らしていたのとたいして変わりませんでした。
何故なら、やはり滅多に外に出ない生活をしていたからです。
違うのはおうちが広くなり、部屋が沢山あって、家の中でかくれんぼができたことでしょうか。母とよく家の中で遊び、花瓶や置物を壊して父に叱られたものです。

父は時折出掛けることがありました。
母に聞くと新しく出来た大学というところで、教えたり教えられたりしているのだと言っていました。
「あたしも学校というところに行ってみたい」というと母は少し困った顔をして、「父様に聞いてみるね」と言いました。

けれど、翌月にはあっさりと東京女子師範の予科に行くことが決まったのです。
そして私は初めての学校生活を送ることとなりました。
生徒たちは華族や士族のお嬢さま方でしたが、私は父からきちんと作法をならっていたし、母からは人と対話する術を習っておりました。私は決して大勢の人の中で萎縮することはありませんでした。山の中の隔絶した世界で暮らしていた割には、随分早く都会での学校生活に順応出来たと思います。
実際学校というものが出来たばかりということもありましたし、私が父からあらゆる知識を伝授されていた為に、直ぐに教室の中でも一番の成績を取ることが出来たせいもあるでしょう。

何人かの仲のよい友だちも出来て、楽しい学校生活を送っておりました。

けれどその頃、父と母はよく言い争いをしていました。
何の話かわかりませんが、私が原因のように思えました。

「……みーちゃんにとって一番の幸せを考えて……あたしたちとこのままずっと一緒にいられる訳がないわ……」
母は泣いていました。

このまま一緒にいられない……ずっと一緒に……どういう意味だろう?
私にはわかりませんでした。
お嫁に行くということだろうか?
華族のお嬢さん方は、小さい頃から許嫁がいらっしゃる方が多かったのです。でも私はそんな話を聞いたこともなかったし、父や母が勝手にそんな話を決めてしまうとは思いませんでした。

「……琴美が俺たちと共に行くと言っても?」

「ええ。決して連れて行ってはいけないわ。あの娘には人間として幸せになって欲しいの」

扉の外でこっそりと父と母の会話を聞いていて、心臓がドキドキしていました。
聞いてはいけないことを聞いてはしまったのだと思いました。

人間として幸せになって欲しい――
どういうことだろう?

いいえ、私は心の何処かでわかっていたのだと思います。特に、東京に来て学校に行って、色々な人と触れあう度に、自分たち――父と母が異質であるという事実を。

二人が少しも年を取らないこと。
全く食べ物を食べないこと。
怪我をしてもすぐ治ってしまうこと。
太陽が嫌いで月の光が好きなこと。
満月の夜は空を飛んだり手を使わずに物を動かしたり出来ること。

でも、私はどんどん成長して、もうすぐ母の背を追い越しそうでした。
大人になって来ても私は相変わらずお腹がすいて、食べ物を口にします。
私はおひさまもお月さまも大好きです。
私は父や母のように簡単に怪我が治らないし、風邪もよく引きました。
私は父と母とは違うのです。
違うから――置いていかれる。
私は悲しくなって泣き出してまいました。

私が扉の外で泣いているのに気がついて、母は私を抱き締めて一緒に泣いてくれました。
「ごめんね……みーちゃん……」

父も悲しそうに私たちを見つめていました。
そして云ったのです。

「…琴美……俺たちはおまえの本当の両親ではない」

「入江くんっ」

「おまえの本当の両親が見つかった。おまえは本当の親のもとに帰りたいか? それともこのまま俺たちと共に行くか?」

「入江くん、そんなことみーちゃんに選ばせないで!」
母が叫びました。

あたしは即答でした。
「あたしの父様と母様は、二人だけよ!
ずっと二人といたいの」

「駄目よ、みーちゃん。あたしたちはずっと一緒にはいられない。あたしたちは長いこと一つ場所に居られないから、あなたも仲良くなった人とすぐ別れなければならないの……」

私は一瞬言葉につまりました。学校生活や、新しく出来た友だち……そうしたものを手放すことが出来るのか……考えてしまったのです。
それに実を云うと、その頃私は、里で知り合った十也と再会しておりました。
十人兄弟の末子で、口べらしで奉公に出た先で、余りに優秀なのを認められて大学に通っていたのです。偶然街で出会い、再会と、こうやって互いに高等教育を受けられる幸運を喜びあったばかりでした。

そうしたものを全て置いて、根なし草のように生きていくことに私は確かに躊躇いを感じていたのです。
私の逡巡を見てとったのでしょう。
父も母もそれ以上何も言いませんでした。



それから暫くして、父と母は私をある屋敷に連れていきました。
そこは「入江」と表札が掲げられ――父と同じ姓だと思いました。

「不思議な縁だな。まさか俺の一族の傍系とは。直系の人ならぬ者の系譜は俺しか残らず、傍系の人として生きた一族は、こうして子孫を遺し繁栄しているとは――皮肉としか思えない」
父は自嘲気味に笑うと、その大きな門扉の屋敷に入っていったのです。


私たちの住んでいた世田谷の屋敷よりも大きな和風の屋敷でした。お城のようと思いました。
そこには一人の和装の女性が立っていて――私を見るなり駆け寄って泣き出しました。


父はその女性に、一枚の古い産着を渡しました。芙蓉の紋様の入った真っ白い絹の産着――

「間違いありません。小夜の産着です。昔、元官軍の賊に襲われ拐かされた娘です」

その家――入江家は公家の一族で、維新の折りには薩長軍の為に尽力し、それ故に元官軍に恨まれていたようでした。当時の当主であった私の父、母、そして生まれたばかりの私を乗せた馬車が襲われ、父は暗殺され、母は重傷を負ったものの生き延び、そして私はそのまま行方不明となっていたとのことでした。

「私は15年前、道端で泣いているこの娘を拾い、そのまま連れて育てていました」
父はそう説明し、私のこれまでの暮らしを話していました。
母と私はぼんやりとその話を聞いていただけでした。



そして、その日から私は新しい家で暮らすこととなったのです。
実の母という人は、出自は武家だけあって、気骨のある女丈夫といった人でした。夫亡きあとは、外国との貿易を始め、会社を作りどんどん業績を伸ばしているということでした。
強いだけでなく、優しさもある人で、私の名前を育ての親のつけてくれた琴美のままでよいと言ってくれました。そして、そのまま女学校にも通わしてもらいました。

私はその時は思いもしませんでした。もう、二度と父と母に会えなくなるなんて。
一緒に暮らせなくても、世田谷の屋敷に行けばまた会うことはできるのではないかと思っていたのです。実の母は、育ての親への感謝を忘れず、何時でも会いにいき、孝行してらっしゃいと言ってくれました。


だから――私は学校の帰りにでも毎日会いに行くつもりだったのです。
あの屋敷から二人が消えてしまうなんて――いずれは出ていくのかもしれないと思っていたけれど、それはまだずっと先の未来のことだと思っていたのです。



私が何日かぶりに屋敷を訪れた時――そこはもぬけの殻でした。
誰もいない、広い家。
母とかくれんぼをしたことを思い出し、母の隠れた場所を隈無く探しました。
でも居ませんでした。
私はとうとう置いていかれたのです。
ついていく道を選ばなかったから――人であることを捨てられなかったから――。


居間の机の上に一枚の写真が置かれていました。実母の家に赴く前の日に、三人で初めて撮った写真でした。初めに撮った一枚は何故だか母の姿が写らずに、もう一度撮り直したものでした。
にっこりと微笑む優しい母。
珍しく口角をあげて薄い笑みを浮かべている美しい父。



やっぱりついていけば良かった。
その時は本当にそう思いました。
私は写真を見つめていつまでも泣いていました。



――その後。
学校を卒業した私は、数年間の留学から帰ってきた十也と結婚しました。十也は入江家に婿入りし、私と共に実母の始めた事業を拡大することに力を注いで来ました。その甲斐あって、私共の会社は業績を上げ、一大財閥となりました。
私は世田谷の屋敷を買い取り、夫ともにその家で暮らしました。そこで子供を五人生み、育て、生涯をその屋敷で過ごしたのです。
何処かで待っていたのかもしれません。
いつか父と母がここに来るのではないのかと。
いつか、またここに――。
――きっと、また会えると――








「おばあさま。お客様がお見えですよ。昔、この家でおばあさまにお世話になった方のお孫さんだという方ですけど……」

孫の琴音が、そう言って二人の男女を祖母の枕辺に連れてきた。
琴音は、随分綺麗な男の人だな、と少し顔を赤らめる。でも、彼には奥さんがいるようだ。美人ではないけれど、愛らしい顔立ちだ。
本当に祖母を知っているのだろうか。
琴音は祖母とともにずっとこの屋敷に住んでいる。この者たちが祖母と関わった記憶はない――が、何となく見覚えがある気もする。


「……琴美……」
女の人は、祖母の手をとり、はらはらと涙を流した。
そして、祖母も。
「………会いたかった……母様……」
夫を亡くした時と、子供と孫を戦争で失った時以外は一度も涙を流したことがないと言われた女傑が、子供のようにおいおいと泣く姿を、琴音は初めて見たのだった。

「あっ……」

琴音はふと思い出して、居間に飾られた写真の処に走っていく。
そうだ、この写真――。
子供の祖母と写っている二人の男女。今、祖母の元を訪れている二人ではないだろうか?
昔、一度だけこの写真の二人が誰かを訊ねた時、祖母が語ってくれた不思議な物語。本当の話なのか、作り話なのか、よくわからなかったけれど――


「おばあさま!」

琴音が写真を持って祖母の部屋に駆け込んだ。
すると、そこにはもう二人の姿はなく。

――――祖母は幸せそうに微笑んで、安らかな眠りについていた。
すべての人に等しく訪れる永遠の眠りに――――。




開け放たれたガラスの扉から、ただそよそよと風がカーテンを揺らしているだけだった。




――――第二夜 マイ・リトル 了――――

※※※※※※※※※※※※※※※

なんとか、連日アップで第二夜、終わりました。元ネタ『〇〇〇森の中』ぽーの中の珠玉の名作……短くすっきり感動的なお話をなんかぐだぐだにしてしまったような。スミマセンm(__)m

さて、第三夜、ハロウィン当日までにアップできるのでしょうか?



2014.10.31 / Top↑



本当に、仲のよい夫婦でした――そう思うようになったのは、私が大人になってから日本の一般的な、夫に従属する妻、という家長絶対支配の家庭というものを知ってからでした。
父と母はどちらかが優位ということはなかったように思います。
一見すると母が父の言うこと全てに従い、依存しているようにも思えましたが、母は思ったことは全部はっきりいう人で、後々知った奥ゆかしい日本女性とは全く違う資質の持ち主でした。父と意見が違う時は食ってかかります。でも理論的な父と感情的な母とでは言葉では敵うはずもなく、よく喧嘩をしていました。

そんな夜は拗ねた母が父に背中を向けて私を抱き締めて眠るのですが、大抵目が覚めた時には、母は父の腕の中にいました。
因みに、普段喧嘩もせずに仲良く寝床に就くときは、私を間に挟んで川の字で眠るのですが、やはり朝になると父は母を抱き締めて眠っているのです。

二人はよく私の前でも平然と唇を合わせていました。
私にもいっぱい頬っぺにチュッとしてくれました。
私もお口にチュッってして欲しいとおねだりすると、
「みーちゃんにも大人になったら、お口にチュッってしてくれる人が現れるわよ」
そう言って父も母も私にはしてくれなかったのです。
そしてやはり大人になってから、この国の夫婦は決して人前ではそういうことはしないのだと知りました。



母は背も小さく、少し幼げで、父がいないと何も出来ないような無器用な人でしたが、父が3、4日帰らなくても意外に平気でした。とにかく私を守らねば、という気概に燃えていたのでしょう。何とか料理も作り、薪も割り、水を汲み上げ、お湯を沸かしてお風呂にも入れ、きちんと日々を過ごしていたのです。
けれどどうやら父がいないことに耐えられるのは4日が限度のようでした。それを過ぎると目に見えてやつれていくのです。
「父様帰ってこないね。どうしちゃったのかしら……」
父が外に出るのは里に降りて食べ物を交換したり、何か買いに行くときだけでした。だいたい1日2日で帰ってきていました。
一度だけ一週間程帰れなかった時――本当にこのまま母は父を恋しがって死んでしまうのかもしれないと思いました。
実際7日目には、母はほとんど起き上がれないくらいやつれて、「ごめんね、みーちゃん、母様、父様がいないと駄目なの……」そう言って泣いてばかりでした。その頃には私も随分色々時自分のことが出来るようになっていて、母と子が逆転したように私が母の世話をしていました。

そして、父が漸く戻った時――どうやら何か事故があって……父が怪我をしていたのではなく、怪我をしていた人たちを助けていて帰れなかったようでした――母は顔は土気色で、このまま死んでしまうのではないかと思うくらい瀕死の状態でした。

「ごめん、琴美、しばらく母様と二人きりになるから」
父様はそう言って奥の部屋に籠り、一晩出て来ませんでした。
母のぐったりした様子を見たときの父の悲愴な表情といったら! 父も、母がいなくなったら生きていけない人なのだろうと思いました。
そして、翌朝には母はすっかり治り、元の可愛らしいツヤツヤなお肌になり、さらに若々しくなっていたのです。

父は本当に不思議な魔法を使っているのだと、私はずっと信じておりました――。








私が初めて山を降り、森の奥の世界から広い田畑の穂の波を見たのは、恐らく十歳の頃だったと思います。
そして、その時初めて家族三人以外の他人――人間を見たのです。

その里は、父が時折食べ物を交換して貰っていた集落だったのでしょう。父が里の入り口に立つと、田畑で野良作業をしていた村の若い娘たちが色めきたっていましたが、後ろに私と母がいるのを認めるとあからさまにガッカリとしているのです。滅多に里に降りることはありませんでしたが、どうやら父はここの娘たちに随分慕われていたようでした。父は妻子がいると言っていたのに、みな信じていなかったようなのです。
母は父が女たちから慕われるのはいつものことなのよ、と少し剥れ気味に言っていました。
慣れているんだけどね、とも。
でも、私には母の可愛いらしさに敵う娘は誰一人いないように思いました。
初めてみる人間たちは随分父や母とは違うものでした。そこが農村で、男も女も子供たちも陽に焼け泥と汗にまみれた黒い顔をしていたからでしょうか。
父も母も色白ですし、山で小さな菜園を作り木を刈ったり薪を割ったり狩りをしたりと動き回っていましたが、汗一つかいているのを見たことはありませんでした。泥まみれになって働いた後でも、私たちはいつも一日の終わりに必ず湯を沸かし身体を洗っていましたし、特に父は母の長い髪を念入りに洗ってあげていました。
後に村の者たちは滅多にお風呂に入らないときいてびっくりしました。
そうしたことも要因でしょうか、私たちは村の者とは全然違う人種のように思われました。
ただ父が私たちを村に連れてきたのは、恐らく私に人間というものの暮らしに慣れさせる為なのだと今なら思えます。
でも初めの頃、私はなかなか村人たちとは馴染めませんでした。
母が村の子供と遊ぶよう促したけれど、あたしは直ぐには彼らの輪には入れません。
気がつくと母が率先して子供たちと鬼ごっこをはじめ、いつの間にか私も仲間に入っていました。
母は長いこと私としか遊ぶことがなかったのに、あっという間に沢山の子供たちの大将のようになっていました。
でもお陰で私もすっかり仲良くなり友達ができたのです。
一番仲良くなったのは、十也(とうや)という十番目の子供という私と同じ年の少年でした。頭もよく、この村の寺子屋で一番始めに読み書きを覚えたということでした。私は彼に父から習った色々なことを教えました。計算や歴史や空のこと、風のこと、星のこと……彼はしっかり覚えてくれて、私に寺小屋の先生になればいいと言ってくれました。
父は父で、この村でやはり色々なことを教えていたようです。
薬草の作り方や、肩凝りや腰痛に苦しむ老人や、妊婦たちに対しての処方をあれこれ伝授していたようです。
村の人たちは父を尊敬の念で見ていました。

けれど村の人たちとのささやかな交流は僅か半年ばかりで終わってしまいました。

ことの発端は、父が偶然、山犬に襲われた村人を助けたことでした。
助けられた筈の村人が、父の瞳が赤くなりまるで化け者のように妖かしの術を使って山犬を一撃で倒したと言い触らしていたのです。

「……どうして……」
母は悲しそうに私たちの住んでいた小屋を見つめていました。
村人たちに火をつけられたのです。

「助けた奴は催眠が効かない性質だったようだな。村人全員の記憶を消して回るのも面倒だ。どのみちここもそろそろ潮時と思っていたところだ。ここを出よう」

燃え盛る炎を見つめてあたしは悲しくなりました。

化け物。

火を放つとき村人たちが言っていた言葉。
あんなに父に助けられたクセに。
父のお陰で病が治った人たちがこの村には沢山いるのに。
どうして……?

十也も化け物と思ったのかしら。

私は彼に会うこともなく、そのままその土地から追われるように出ていったのです。







私たちが新しく暮らし始めた場所は、新しく都となってまだ十数年しか経っていない東京でした。
どういう経緯か分かりませんが、欧米の商人が建てたという洋館を借りることか出来たということでした。
森の中の一軒家のようなその洋館は、どこかあの懐かしい山小屋を思い出させてくれました。無論しっかりした石造りの建物は、あのボロボロの山小屋とは比べ物にはなりませんが、森の中にぽつりとあって、町の中なのに世間と隔絶している感じが何処となく似ていたのです。


其処で私たちはまた元の三人だけの生活を始めました。
文明開化の足音か聞こえつつあった帝都、東京で――。





※※※※※※※※※※※※※※※


本当は大正あたりを舞台にしたかったのに、第一夜で琴美ちゃんを大変長生きに設定した為に、逆算したら明治初期の生まれになっちゃったんですね~(^^;

さて、次で終わりたいと思ってます……(^_^)




2014.10.30 / Top↑

とりあえず第二夜明治編、続けます。二話くらいでさくさくっと終わらせたいのですが……


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時は明治。
まだご維新から僅か数年しか経っておらず、政情は不安定で、内乱や暗殺があちこちに蔓延っていた時代に私は生まれたようです。
無論赤ん坊の頃のことなど覚えていませんし、私はそうした浮き世とは隔絶したところで幼少時代を過ごしていました。

私が育ったところ――今となっては其処が何処だっだのかさっぱりわかりません。
森の中の一軒家。
周囲には家もなく、集落も有りませんでした。

恐らく元は木こりか杣人(そまびと)の山小屋あたりだったのでしょうか。炭を焼く大きな窯もあったので、炭焼き小屋かもしれません。

私はそこで、父と母と三人で暮らしておりました。
当時の年代を考えますと恐らく世間の庶民たちはまだ、髷に和装という姿が一般的であったのだろうと、今になって思うのですが、父は西洋の人のように衿もとの長さ程の短髪で、母は長い髪を結うこともなく、風にたなびかせておりました。共に衣服は粗末な木綿の和装でしたが、背の高い父はそれは美しい顔立ちで、どのような衣服を纏っていてもその美しさが損なわれることはありませんでしたし、母は母で、それは愛らしい人で父が選んで来たらしい何枚かの着物や浴衣を喜んで身に付けておりました。

私はそれこそ物心ついてから、父と母以外の人間を見たことがありませんでした。私の友達は山のなかの鳥や鹿や栗鼠や猿たちだけでした。
山には熊や狼など危険な獣の遠吠えなど聞こえましたが、私たちの山小屋が襲われることはありませんでした。どういうわけかあの周囲は何かの力で守られているように思いました。

私は父から様々なことを教わりました。文字や言葉だけではありません。空を見ながら星や月や太陽の動きの理(ことわり)を学び、風や雨や雲の流れを見て自然の営みの理を学びました。
あらゆる草や樹木の名前を教わり、その薬性や毒性についても学びました。
物の数え方から数学の知識を身に付けて、必要だからと、英語やオランダ語も教わったのです。

母からはここにはいない人間の暮らしについて教わりました。教わった――というよりは、ただ絶え間なくおしゃべりをしていただけと思います。
くるくると表情を変えて、笑ったり泣いたり本当に忙しなかったのですが、母の話す物語は本当に楽しくて、私たち三人以外の人々がどこか別の世界に住んでいるということはすんなりと受け入れられました。
神社のお祭りの夜店の楽しかったことや、隅田川の花火の話、京でお花見をしたことや、長崎で西洋の方にかすてらやパンの焼き方を教わったことなど、話はとりとめもなくあちこちに移りました。この山の麓の村の田畑を耕す人の話も聞きました。農家の人たちがそれはそれは汗水流してこのお米や野菜を作っているのよ、と。どうやら私の食べるものはその農村で分けて貰っていたようです。
おそらく焼いた炭や、薪、山菜や茸などと交換していたのでしょう。
ただ、そうした食事をしていたのは私だけで、父と母は初めは私に物を食べるということを教える為に食べ物を口にしているだけでした。私が食べる楽しみを知るようになると、全く食事に手をつけることなく、ただ調理をして私に出すだけなのです。

「どうして父様と母様はごはんを食べないの?」そう訊ねると、

「父様と母様は食べなくても生きていけるのよ。でも、あなたはちゃんと食べるのよ。食べないと大きくなれないから!」
そう言っていたので、私は大人になったらもうごはんを食べなくてもいいのだと思っていました。

もっぱら料理するのは父の方でした。
お米を炊くのも野菜を煮るのも父の方が断然上手だったのです。
母も時々作っていましたが、大抵材料を駄目にしてしまうので、よく父から怒られていました。
焦げたり煮崩したり、御飯はたいていお粥になっていたり。それでも母が一生懸命作ってくれた料理も私は好きでした。しょっぱかったり薄かったりしましたが二人が喧嘩をしながらも一緒に料理をしている様を見るのも好きだったのです。

二人はそれは仲のよい夫婦でした。
喧嘩もしましたが、たいてい二人一緒にいることが多かったのです。
太陽が苦手で余り外に出るのことはなかったのですが、子供はお日さまの下で遊んだ方がいいと、なるべく自分たちは木陰にいて、私が外で遊ぶのを見守っていました。
満月の時期なら外に出ても大丈夫だと、母は一緒に鬼ごっこや石蹴りにも付き合ってくれました。
後々思えば二人とも本当は昼間は眠り、夜に起きる生活が合っていたのに、私を育ててる間は無理をして、昼に起きている生活をしていたようでした。

私が少し大きくなって夜遅くに起きていられるようになると、月光浴を楽しむようになりました。
二人は月の光が好きなようでした。

満月の下で、父は本当に美しく、私はいつもうっとりと眺めていました。
すると母が、「だめよ、みーちゃん、父様は母様の旦那様なんですからね」と、茶目っ気たっぷりに笑うのです。

本当に――仲のよい夫婦でした。



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短くてスミマセン。しかも淡々とした琴美ちゃん語り。これでは二話では終わらないかな~?

ハロウィンまでに終わらせられるのか? このシリーズ……(._.)



2014.10.29 / Top↑