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個別記事の管理2019-02-17 (Sun)


お久しぶりです。
連載おわったあと、何だかんだ忙しくて。(とりあえず、インフルにもならず元気です)すっかりご無沙汰しております。


実は2月早々に社員旅行ありまして。
札幌雪まつりツアー笑

というわけで、折角なのでそれをネタに小話をと。
ちまちま書いて二週間かかったわりに短いし、大して内容のない話でした……orz

時代は現代で(とういか、今年の雪まつりしかわからない……)、結婚五年目くらいのイリコトなイメージです。
原作でもふるほのでもご自由に変換を(^w^)
おもいっきり日キス意識したタイトルだけどねっ……(((^^;)
ヤマナシオチナシイミナシ(えっちなし)な話ですが、続きからどうぞ♪




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





寒い……

寒過ぎる。


真っ暗な空からはちらちらと白い粉雪が降っている。
はじめは暴風雪警報が出るとかでないとかの予報だったのだから、きっとマシな方なのだろう。例え、今が-7度の気温だとしても。

そう、防寒は完璧だ。ヒートテックにタートルネックにセーターにダウンにその上にロングコート。防水防寒ブーツの靴底にカイロだって敷いてる。ニット帽に手袋に、顔が隠れるくらいのぐるぐるマフラー。

ああ、顔が隠れているから、入江くん、あたしを見つけてくれないのかしら?

そう思って、少しマフラーを下げると、氷点下の冷気が顔を直撃する。
マフラーに積もっていた雪がふわりと舞い上がり目に入った。


ここは真冬の北海道。
札幌雪まつりの会場である大通公園西一丁目だ。

人通りの激しいテレビ塔の真下で、琴子は一人、寒さに震えながら佇んでいた。

こんなに極寒の世界なのに、さすがたった10日しか開催されない雪まつり期間だ。それこそひしめくくらいの見物客たちが、しっかり防寒をしつつ、みな白い息を吐きながら、楽しげに行き交っている。
特に夜はライトアップされ、イルミネーションがメインストリートを彩る。さらにはプロジェクションマッピングも雪像に映し出され、幻想的な光景を造り上げていた。クリスマスはとうに過ぎたけど、煌めく電飾はやはり心踊るものがある。

テレビ塔も、美しくイルミネーションが光り輝き、街のシンボルとして公園を見下ろしていた。(ちなみに公園側しか点灯されないらしい)
デジタル時計の表示は7:09とある。






直樹との待ち合わせ時間は午後6時半だった。すでに40分ちかく待っていることになる。

ーー確かにテレビ塔って言ったよね……
寒いから地下のカフェで待ってろって。

地下のグルメコートに行ったら珈琲店は満席で入れなかった。
しばらくその辺りでうろうろしていたが、時間になっても現れないので、本当に此処でよかったのかと不安になり、地上と地下を行ったりきたりしていた。

あれ? もしかして、時計台だった?

そうだよね、札幌といえば時計台じゃないのぉーー!
あたしってば、ちゃんと時間がわかるし(デジタル表示の方がみやすいし!)、目立つから、テレビ塔とばっかり思ってたけど!

えーーでも! 時計台って……どっちだろう!?

琴子はだんだん自分が間違えたのかと不安に思い始め、挙動不審にキョロキョロと辺りを見回す。
時計台はメイン通りから二本離れた北一条通りですぐに行ける距離ではあるのだが、方向音痴の琴子は全く自分のいる処からの方向がわかってない。その時計台にも地下があって、そこのカフェで待ってるのだろうか。
札幌駅から地下街を歩いてきたのだが、もうどこから来たのかわからなくなっていた。下手に動いて迷子になるのは分かりきっている。




ーーそもそも。
何故、琴子が一人で雪まつり会場に来ているかというとーー。




「札幌で学会? いいなぁーー。ほら、丁度雪まつりの開会の日だよ! 一度行ってみたかったんだよね~」

突然の報告ではあったが、一ヶ月前にお知らせだったのはまだマシな方だ。

「別に遊びに行くわけじゃないし」

「でも、きっとススキノで飲み会とかするよね……キレイなお姉さんのいるお店で……」

「…………」

連れていかれる可能性は否定できないので無言になる。
別にそんなところ、行きたいわけではないのだが。

「やっぱり~~」

すでに琴子の頭の中は、直樹の隣を奪い合うように陣取りしなだれかかる北国美女のキャバ嬢たちの姿が占領し始めていた。

「琴子ちゃんもついていけばいいのよ」

直樹と琴子の話を聞き耳を立てていた紀子がにっこり笑ってあっさり云う。
「知り合いに大学教授の奥さまとかいるけれど、割と頻繁に家族を同行して学会とかシンポジウムにいく方も多いようよ?」と援護射撃をくれた。「なのに、なんでこの息子は……」を直樹を睨めつける。

「連れてってもいいけど、構ってる暇ないし。第一、来月のシフトはもう決まってるだろう?」

「えーと、ちょっと待ってよ! 3日からは無理だけど、2月4日なら……夜勤明けだし、前に特別休出したときの振替休日もらえるから……一泊くらいならなんとかなるかも~」

スケジュール帳をみてにらめっこをしている横で、紀子がさくさくとPCを開いていた。

「お兄ちゃんの学会の泊まるホテルは何処? あら、ビューホテル。いいわね、雪まつり会場の真ん前じゃない」

「絶対に、今からじゃ取れないぞ」

「ふふ任せてちょうだい。一泊とは云わず二泊でも三泊でも……北海道をたった一泊なんて勿体ないわ~~」

「無理だ。6日は日勤でオペも入ってる」

「はい。あたしもこれ以上は……」

「仕方ない、一泊で手を打つけど、ちゃんと楽しんでね~」

にやりと笑って、電話をし、「パンダイの入江ですけど」の一言で、あっさりと学会で確保していたシングルルームを最上階のエクセレンシィフロアに変更させた。
雪まつり期間、しかも中国が旧正月で大量に観光客が押し寄せている時期なのに、恐るべし、入江紀子。
さらにはどういう裏技を使ったのか、飛行機の往復チケットもあっさり購入。
電光石火の早業である。
こんなの結婚式の予約を二週間前に取ったことと思えば屁でもない。

こうしてーー思いもかけない北海道弾丸旅行が決行されたわけだ。



そして、今、琴子は北の大地に降り立っている。

琴子のシフトの都合で直樹とともに旅立つことは出来なかったが、直樹の1日後に追いかけるように出発し、学会を終えた直樹と札幌で落ち合うこととなった。

「おまえ、一人で飛行機、乗れるの?」

「し、失礼ね! 大丈夫よっ」

そういいつつ、パスポートの期限が切れていないか確認しようとして、盛大に皆から突っ込まれた琴子である。

その日は夜勤のあと、紀子に羽田まで送ってもらった。実は一人で飛行機に乗るのは初めてだった。一人旅なんてしたことがなかったことに今更気がついたのだ(家出はしたが近距離だった……)。
荷物を預けなくてもいいように手荷物は機内に持ち込めるボストン1つ。紀子が出発ロビーまでついていてくれなければ、迷子になってうろうろしてしまったかもしれない。紀子に盛大に見送られ、一人で保安検査場に入っていくのにも少々緊張した。ブーツの金属が反応してしまい、さらにあたふたと慌てる。
なんとか搭乗して、ほっと安心したら、
夜勤明けのせいか、離陸に気がつきもせずに爆睡していて、目覚めたら北の大地、雪降る千歳空港だった。CAに揺り起こされ飛行機から慌てて降りた。これが電車の類いなら完全乗り過ごしだ。そして、なんとか快速エアポートに乗って札幌駅に辿り着いた。
あとは、道行くひとに訊ねまくり、迷いながらも(地下道一直線で大通公園まで辿り着けるのに何故か右往左往)、この大通公園に着いたのだ。
それが15時ごろだったろうか。
朝、義母の作ってくれたおにぎり一個を食べたきりだったが、初めての場所に一人で飛行機で訪れる緊張感からか、全く空腹を感じていなかったのが、とりあえず目的地に到着できた安堵感からか、やっとお腹がぐうぐうと空腹を訴えてきた。

北大でのシンポジウムが終わったあとの直樹と待ち合わせ時間までは三時間ほどあった。
晩御飯は二人でゆっくりと食べたい。
とはいえ、それまで、空腹で倒れそうだ。
空腹を誤魔化すために、少し会場を見て回ろうとしたのだが、自衛隊製作の大雪像をひとつみたところで、食のグルメ会場なる沢山の露店のビジュアルと薫りに一気に引き寄せられる。

がまん、がまんよー入江くんと美味しくディナーよ~~

と自分に言い聞かせていたのだが、気がついたらふらふらと屋台巡りをしていた。

ああ、カニだわ!カニ! 甲羅焼きにカニ天!
焼きガキ! 焼きホタテにホタテ汁! 海鮮丼!! うに、いくら……やっぱりこの季節の北海道は海鮮よね……
じゃがバター! とうもろこし!
ザンギですってぇ。ええ、知ってるわよ、鶏の唐揚げのことよね!
え? ゆめぴりかの甘酒! 美味しそう!
白い恋人のチョコレートドリンク!
ホットジェラード、ナニソレ?

ああでも寒いから、やっぱりラーメン!
スープカレーもあるわ~~
まあ、ジンギスカンまで!

この空間に北の名物、すべて網羅してるっっ
それどころから神戸牛から仙台牛タンまで……ああ、なんて立派なフランクフルト……

肉の焼ける香ばしい匂いにふらふらと屋台に吸い寄せられる。
ヨダレを垂らしそうになり、こっそりマフラーで隠す。

だめ! だめよ、琴子! ここで食べてしまったら、入江くんとディナーが……
負けちゃだめ! 屋台に惑わされてはいけないのよー

いや、でもスイーツくらいなら……
ううん、一個食べたら、もう箍が外れる気がする……

心のなかで葛藤が始まる。

こんな危険地帯に居てはいけないわ! そうよ、雪まつりよ。雪像を見なきゃ。

あら素敵~これがウワサの初音ミクね!
夜にはプロジェクションマッピングがあるんだー
あら、巨大カップヌードルから湯気が~おもしろーい。
滑り台もついてる。子供しかいないけど……滑っていいかしら?

あ、写真とらなきゃ、写真!

ーーと、スマホを取り出し撮ろうとした瞬間ーーー見事に滑って転んで、スマホを落とし、思いっきり踏みつけーースマホをぶち壊してしまった。

やばっ!どうしよう!
入江くんと連絡取れなくなっちゃう!

真っ青になったものの、スマホは画面がバキバキに割れ、そして電源は全く入らない状態だった。

でも昔のカップルはこんなものなくてもデートしてた訳だし。待ち合わせ場所と時間は決めてあるのだから、きっとなんとかなるわ! と基本楽天的な性格なためにすぐに立ち直る。

ああ、でもあんまりウロウロすると迷子になるから、やっぱりもう待ち合わせ場所に戻ろうーーと、テレビ塔の地下にやってきたのだが、一向に現れない直樹に、約束の場所がテレビ塔だったのか時計台だったのか自信がなくなってきた。

ーーどうしよう……でもこの時間になっても来ないってことはやっぱり待ち合わせ場所、違ってたのかなー?
ただ遅れてるだけならいいけど。
ううースマホ壊れたから確認取れないよー。
うーん、下手に動いてまた迷子になっても……

わー、雪がまた降ってきたよ……凍える……。

こーゆーのなんてったっけ……なまら、しばれる……。


「おねーさん、一人~?」

スマホの時計が壊れたので何度もテレビ塔のデジタル表示を確認し、やっぱり時計台に向かおうと踵を返した途端、酔っ払いらしき会社員風の男二人が琴子に声を掛けてきた。

「いえ……待ち合わせで……」

「わー、頭に雪積もってんじゃん。こんなとこに立ってたら凍え死ぬって。ほら、ホットワインでも飲んで~」

そういって、まだ湯気の出ているカップを目の前に差し出してきた。
ふわりとアルコールの匂いが鼻をつく。

「いえ、あたしは……」

「ほらほら早く飲まないとすぐ冷めちゃうよ~」

勝手にマフラーをずらして、口元に押し付けてこようとする強引な男たちに、琴子は思わず後ずさる。

その時、突然男がぐいっと後ろに反り返り、その弾みでホットワインは空を飛び、白い雪の地面に赤紫の液体が飛び散った。

「え!?」

「……ひとの嫁に何を飲まそうとした? 」

「入江くん!」

どうやら直樹が男の襟首を掴んだらしい。
間近で鋭い眼光で睨み付けられて、男は「ひっ」と怯えた声をあげた。

「ただのホットワインですよっ! そんな変なものじゃ……あまりに寒そうだったから……」

「そうそうススキノの風俗行くより手軽にナンパできそうなんて思ってませんって!」

コントのように本音をけろっと白状するあたり相当酔っぱらっているようだ。

「へー、ナンパして何処に連れ込むつもりだ?」

「えーと……」

マイナス7度の外気よりも、さらに10度くらい低くなったような気がして、男たちの酔いが一気に冷めた。心なしか唐突にブリザードまで吹き荒れているような……

「ワイン一杯で手軽にナンパできると思ったら大間違いだ。こいつはワイン一口飲んだだけで狂暴凶悪になる。おまえらじゃ手におえねぇぞ」

「そ、それは失礼しました~」

直樹に凄まれて脱兎の如く逃げ出した二人の男を、琴子は呆然と見送っていたら、こつんと頭にげんこつが降ってきた。

「……ったく、何やってんだ。少し遅れるってLINEしても既読になんないし」

「えーと、ごめん。スマホ壊れちゃって……」

「はあ? またかよ。これで何台目だよ?」

「この一年で三回壊したかなー? あたし、どうにも機械との相性悪くって」

「そういう問題じゃねぇだろ。この破壊魔」

呆れるようにため息をついたあと、手袋を外し、琴子の冷たい頬に触れる。

「……ったく、こんなに冷えきって。ずっとここで待ってたのかよ。なんでカフェに入んなかったんだ」

「ずっと満席だったんだもん……」

拗ねたように上目遣いをする。

「たしかに、その場合を考慮しなかったのは失敗だったが……せめて地下の店の近くにいればいいものを。グルメコート、一軒一軒捜してまわったんだぞ」

「なんか、ほんとに此処でよかったのか自信なくなってきて」

「そうやって、ウロウロするから迷子になるんだよな。全くこの寒空に……雪まつり会場で遭難とかシャレになんねーぞ」

「三時間くらい時間あったから、少し一人で見て回ったの。だから少し冷えちゃった。三回くらい滑って転んで、途中で諦めたんだけど」

「それでスマホ壊して? まあ、おまえが怪我しなくてよかったけど」

東京で雪が降ると、救急外来は大にぎわいだ。

「地味にあちこち痛いけどね……青タンいっぱい出来たかも……だからもう、ここで入江くん来るのをひたすら待っていようと」

「あとでしっかり見てやるよ」

打撲の鬱血痕以外のものが翌朝増えているかもしれないが。

「ったく、会えなかったらどうするつもりだったんだか」

「でも入江くんは絶対来てくれるって信じてたし~」

LINEは既読にならない、待ち合わせ場所にはいない、何度電話しても全くでないーー直樹がどれくらい焦ったのか、想像もしていないように、嬉しそうにふんわりと微笑む。

ようやく見つけた時には変な奴にナンパされていたものの、とにかく無事でいてくれて、どれだけ安堵したことか。
いやーーきっとあいつは携帯、機内モードにしたままだ! と、予想はしていたのだがーーー。
まさか壊したとは。

「ご、ごめんね~どのみち、飛行機降りてから機内モードから戻すの忘れてたかも」

やっぱりな。
想像通り過ぎて叱る気にもなれない。

「まあ、いいよ。それより腹へった。何くう? 多分雪まつり期間はどうせ予約とかできないらしいから、空いてるとこ飛び込むしかないかも」

「何処でも! 入江くんとなら、その辺の屋台でもなんでも!」

「なんでもいいって……おまえ、目がしっかり屋台を追いかけてるだろう…」

「うう……ずっと指を咥えて見てたので……お腹すき過ぎて……」

「ま、今から店を探すのもな。どうせちゃんと会場見て回ってないんだろ? 食いながらみようか」

「うん!」

がしっと飛びつくように直樹の腕に巻き付く。

「ふふ、入江くんの腕、あったかーい」

「おまえは、冷え冷えだな……やっぱり何処か店に入った方が……」

「大丈夫。入江くんに触ってるだけで、心があったかくなって、身体もあったまるの~」

「おれは懐炉か」

それでも、少しでも自分の体温を伝えようと琴子の身体を自分に引き寄せる。

食事はここでさくっと済ませ、とっととホテルにチェックインして、琴子と身体の芯から温まりたい。
凍てつく雪像も一瞬で溶けてしまうくらい、熱く燃える夜になるだろう。
少しばかり心配させられた代償はしっかりもらうからな、と内心思う。

「い、入江くーん、歩くのはやーい」

「早歩きの方があったまる」

いや、自然と気持ちがホテルに向かってただけだ。

「滑るよー。すってんころりんするよ」

「大丈夫、おまえじゃない」

「えー、そりゃあたし何度も転んだけどさ」

実は昼間より夜の方が滑り止め剤をガンガン撒くので滑りにくくなっているようだ。アイスバーンも滑り止めの砕石が混ざって、大分歩きやすくなっていた。

「で、まず何食うの?」

「えーとね。まず、やっぱり……たこ焼き?」

「……………」

何故、北海道まで来て……タコ焼き……??
せめてイカ焼きでは?

確かに、お祭り屋台では間違いなくとりあえずのタコ焼きが琴子ルールなのは、よぉぉーく知ってるが……

「好きにしろ……」

そして熱々のタコ焼きをパクつきながら、バカルディのホットモヒートとホットトディで身体をあたため、いかめしやらカニの甲羅焼きなどチョイスし、時折テントに避難しつつ雪まつりを見て回った。
さっさと見てホテルへ急ぎたかったのに、雪像ひとつひとつに丹念に見て、あれこれ話すので、なかなか時間がかかる。

「おー、チコちゃんがいっぱい♪」

市民製作の雪像にも一つ一つ丁寧に感想を述べていく。
寒いと思っていたが動き回るとそれなりに暖かくなってきた。アルコールのせいもあるかもしれない。酒に弱い琴子もそれなりの度数の強いラム酒ベースのモヒートをかぷかぷ飲んだ割には平然としているのはやはり吐息も凍りつく外気のせいだろう。

何だかんだ会場の端の12丁目まで歩ききった頃には、二人して雪まみれの割には身体はそんなに寒くはなかった。

「ホテルは8丁目の大通公園近くだから」

「わー、近くてよかったー。ちょっと、滑らないよう大地を踏みしめて歩いたらなんか、変な筋肉使ったみたいで筋肉痛になりそう」

「じゃあ、それがわからなくなるくらい、がっつり運動するか?」

「へ? ホテルにジムでもあるの?」

「ジムなんてなくても、アクロバティックで刺激的で手頃な運動が……」

直樹の意図を悟った琴子は、軽くひきつった笑みを浮かべて「いや、明日は、ちゃんと時計台とか赤レンガ庁舎とか~、クラーク博士とか小樽とか行きたいし~スイーツ色々お買い物したいし~お手柔らかにね?」と小声で呟く。

近場を軽く観光して夕方の便で東京に戻らねばならない。

「まあ……明日観光できるかどうか保証はできないがな」

琴子の耳には届かないくらいの小声で直樹も呟く。

テレビ塔のデジタル時計は20時を回った。まだまだ人通りの多い札幌の繁華街は、活気に溢れている。

「ここでキスしたら、唇くっついちゃうのかなー?」

氷点下の冷気で唾液も凍りつくのだろうかと考えたのだろうか。
いや、体温で唾液は温かいからそれはないだろう、とは突っ込まずに、「試してみる?」とにやりと笑い、琴子の唇を掠めとる。

かさかさに乾いて冷たかった唇が、あっという間に熱を帯びてしっとりと濡れてきた。
二人のうえにひらひらと舞い落ちるパウダースノーの欠片はその熱にあっさりと溶かされていくようだ。

本当にーーこのままずっとくっついてしまってもいいくらい……幸せ♪




白く染まる氷点下の世界の中で。
このふたりの半径数メートルだけは春爛漫。

ホテルの夜は熱帯夜になること間違いないのであるーーー。







※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


はい、というわけで、ほんと、とりとめのない話ですみませんでした~。

バレンタインアップも叶わず、旅行から既に二週間たってます。今年の雪まつりもとうに閉幕しております、はい……(((^^;)よろしければ、来年ぜひ、行ってみてくださいませ。

私が行った時はガイドさんも驚く、北海道にしては温かい日だったようで、覚悟していったほどの寒さではなかったです。次の週には記録的な寒気で陸別で-30°、札幌でも-14°とかいってたのでかなり運がよかったなーと。

あ、実は社員旅行だけど札幌雪まつりの日は自由行動で。なんと、わざわさ会場に出向いてくれたむじかく様と久々に再会いたしました(^-^)v
そして、一緒に同僚もいたんですが、行きたいと話してた回転寿司のお店に、案内してもらっちゃいまして! 絶対うちらだけじゃあんなにスムーズに辿り着けなかったわ~~ 至れり尽くせりの現地ガイド笑。ありがたや。
いや、ほんと、北海道の回転寿司、美味しい~~!

むじかく様、ありがとうございました。他にも色々とお世話になりまして。同僚たちもめっちゃ感謝してましたよ♪


また行きたいなー北海道。今度はもっとあったかい季節に……(^^)





Return

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* Category : 短編
* Comment : (12) * Trackback : (-) |

札幌行きたいな… * by 麻紀
お話ありがとうございました―。
なんか、琴子ちゃんがすごく琴子ちゃんらしくて、微笑ましいです。
でもスマホ壊し過ぎ(汗)


アクロバティックで刺激的で手頃な運動

…が、ツボで、家族がいるのに笑っちゃってやばかったです(笑)


札幌、コンサートの日程絡めて、家族旅行も兼ねて行くのがずっと夢だったのですが、なかなか叶いそうにないですね…。


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Re.麻紀様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメ遅くなって申し訳ないです。

ふふ、琴子ちゃんらしいって言ってもらえて嬉しいです。
原作の時代は携帯もスマホもなかったけれど、きっと琴子ちゃんはなくしたり壊したりして、あまり意味をなさないのでは、なんて想像しちゃいます。

いやーツボってもらえてよかったー笑(私もスマホで二次読んでて、時折にまにまとヤバい顔に…)

札幌ドームの横、何度か通りすぎましたよ〜ああ、ここにも彼らがきたのねーって(^^)
また夏に行きたいなー♪

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

リコメがまたまた遅くなりましてすみませんっ
いやー描写が詳細でしたか?f(^_^;もはやネタのために社員旅行参加したようなもんです笑
生かせてよかった(^w^)
自分じゃ、なかなか行けないですよね。紀子さんのようなパワフルな人がいないと!
トラブルメーカーの琴子ですが、今回はスマホ壊しただけですみました。ナンパ野郎、もっとガンガン行かせようかと思ったけどせっかくの北海道ですから、トラブルは割愛しまして、直樹さん、あっさり琴子を回収です。ええ、さぞ熱い夜を満喫したことでしょうね♪


Re.ひまわり様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメ、めっちゃ遅くなりまして申し訳ないです。

ひまわりさん、一人で飛行機乗られて旅行とかされちゃうんですねー。
私、一人で飛行機乗ったことないんですよ〜(息子は小学校の時に一人で乗ってるのに)ドキドキしちゃうかも笑(新幹線、一人旅はありますが)
今はスマホがあるから、なかなかすれ違いとかないですよね。でもきっと、琴子はスマホに頼らない女でしょう(スマホ壊れてなくても、突然電源落ちるとか、マップ表示されないとか、なんやかんや使いこなせない予感…)

おお、来年、北海道! 私も寒くない時に行きたいです(初北海道も3月で雪降ってた…)
雪まつり、いいですよー。ぜひご家族で!


Re.ちびぞう様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメ、遅くなって申し訳ないです。

早々に更新気がついてもらえて、面白いといってもらえて嬉しいです!

いまいちたいした事件は起きませんでしたが、すんなり会えないのはお約束、ということで。琴子を探し回る入江くん、萌えますよね〜。でも彼はつるつるの雪道走り回っても転けないんだろうなぁ笑



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* by なおちゃん
迷子の天才の、琴子ちゃん一人で、入江君の、いる北海道大丈夫かて‼️思ったら、やっぱり迷子、変な、ナンパ男出て来て大丈夫かて、思ったら入江君の登場、私も、チコちゃん人形見ましたよ‼️お盛時にも可愛い人形じゃないですよね⁉️あれ、それにしても、紀子ママは呑気だは、二人は、今や、看護師と、医者で、勝手に休みは作れません‼️v-238

個別記事の管理2017-11-25 (Sat)
むじかくさま、ブログ4周年おめでとうございます!




いつもお世話になってるお礼に、小咄をひとつ………

以前のハロウィンネタのコスプレ気にしていただいたので、それをヒントに♪
珍しくさくっと一気に仕上げたので低クオリティでスミマセンが……って、全然お礼になってませんねf(^_^;


これからも宜しくお願いいたします♪





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※









「相変わらず悪趣味な部屋だよな……」

僕は久しぶりに兄夫婦の部屋に足を踏み入れ、メルヘンとリリカルが共存して胃もたれしそうなインテリアに思わず顔をしかめる。
なんで、兄さんは新婚当時のままで、この部屋を模様替えしようとしないのだろう? それもちょっと謎。兄さんくらいになると視界に入る環境なんかに作用されない達観した思考を持つことができるのだろうか。

レースとピンクが飛び交ってる。
結婚式の時の写真は相変わらずたくさん壁やらボードやらに飾ったままだ。もう4年も前のことなのに。

別に夫婦の寝室を盗み見るつもりじゃないんだ。
母さんに頼まれて、昼間、換気のために開けておいた掃き出し窓を閉めておいて、と頼まれたから入っただけで。

この部屋の主は二人ともいない。
兄さんは4月から。琴子は夏休みに入ってからいそいそと兄さんのいる神戸に向かったからだ。8月いっぱいは帰ってこないという。
お陰で毎日静かなこと……
数年ぶりに訪れた落ち着きのあるいい環境の筈なのに、ちょっと物足りないのは何故だろう。母さんはあからさまに毎日つまらなそうだし。

そして、母さんは主のいなくなった部屋をマメに掃除しているようだけど………フツーの嫁はそーゆーの絶対いやがるらしい。クラスの女子にそんな話をしたら思いっきり引かれてた。
まあ、琴子は単純だから何の含みもなく純粋に有り難がたがってるけどさ。

「あれ?」

僕はクローゼットの扉から、妙な緑の生地が挟まって飛び出しているのが気になって、足を止めた。
この部屋のクローゼットは妙に大きい。ほぼ壁一面ある、備え付けのウォークインクローゼットだ。
そして、ついうっかり開けてしまった。
決して覗き見るつもりではなく……


そして、クローゼットの中はーーー

ーーー魔窟だった!!


なんなんだ。

半分くらいは普通の服だが。
スーツとかジャケットとか冠婚葬祭のセットとか。右半分が兄さんで、左半分が琴子。実習用の制服はともかく、おい、まだ高校の制服取ってあるのかよっ



そして、真ん中にはーー

はみ出ていた緑の生地は、カッパのパジャマだった。

「子供かっ!?」

こんなの着てるの見たことないけど、琴子のセンスに笑ってしまった。
ありゃ、牛までいるし。まねき猫もいる。ん……大仏……? 意味不明すぎる。
それにパジャマというより着ぐるみのようなものも多い。
なんか、イベントでバイトでもしてるのか?
ああ。それとも病院の小児科とかで一芸見せてんのか?

僕は自分で納得のできる理由を想像してみる。

「あれ?」

ウォークインクローゼットの奥にさらにまた扉があった。
この部屋の向こうって、書斎だよな? そんなスペースあったっけ?

僕は好奇心を抑えきれず、つい開けてしまった。

扉の向こうもまたクローゼットだった。
そして。そこにはさらに不思議な衣装の数々。

天使に(羽根とリングつき‼) 魔女に、ドラキュラに……

ああ、ハロウィン用のコスプレか……
僕はちょっと納得する。母さんの趣味で毎年妙なコスプレさせられてたっけ。

でも知らないのも多いぞ。
魔女でもかなり何種類もあるし、しかも随分露出多そうだし。
なんだよ、このしっぽつき耳つきのヒョウ柄のワンピース。短かっ こんなん着たら兄さんに殺されるぞ。
うわーこのナースの服も……胸がハートマークに穴空いてる。
琴子の胸じゃ、しっくりこないだろうな。
メイド服にバニーガールに……
このバドガールとか……意味わかんねぇや。


しかしこれだけ大量のコスプレ衣装があると……ここはド◯キホーテかテレビ局の倉庫か? と疑いたくなるな。
それに奥にあったケースの引き出しには、手錠とか、首輪とか……えーと……これ、何に………//////

わーこっちは、ちょっとエロい下着のコレクション……#%&#**※?%/////
な、何色揃ってるんだ? 24色? 店の陳列棚のように綺麗なグラデーションで並べられてる。
えーと、これ、琴子が着るのか……?
嘘だろ? みんなすっけすけなんだけど。

凄いなー。ランジェリーショップみたいな品揃えだ。
ブラとかみんなAカップだから琴子のなんだろうけど………//////
(かなりまじまじ見ている裕樹くん^_^;)

いや、でも、書斎とこの部屋の間にこれだけの量の衣装を収める空間があることに驚いている。こんな隠し部屋みたいなのが存在できる物理的スペースなんてあったっけ?

謎だ。謎すぎる。

あれ? まだ奥に扉がーーー
そんな……ばかな。
有り得ない。
いったい何処まで続いてるんだ?
だって、隣は書斎だろ? 書斎の筈たろ?
そうだよーー僕がうっかり夜、書斎にいると、たまに妙な声が………いや、聞き耳なんて立ててないってばっ//////





僕は恐る恐る近付いて、その奥にある扉をそおっと開けて隙間から様子を覗くとーー

そこには全く同じ兄夫婦の寝室がーー

え? どーゆーことだ?
なんで、こっちにも寝室があるんだ。隣は書斎の筈で………おかしい。僕の認識が間違ってたのか?
えーと……
何がどうなっているのか、頭が混乱してる。
そしてーー
その部屋の寝室にはなんと、兄夫婦がいるーー?
そんなバカな。二人は今神戸だろ?
どういうことなんだよっ
それに、心なしか二人とも少し老けて見えるというか……


いや、でも琴子の腹が妙にでかいし。に、妊娠? いつの間に‼
どうなってるんだ、いったい!!!!



「大丈夫か……琴子」

「ありがとう、入江くん。でもさすがにもう11人目だから慣れてるよ~~」

じゅ、11人?
う、うそ。サッカーチーム?

「そろそろ安定期だし……大丈夫だよな」

「………う、うん……」

えーっ
えーっ
ちょ、ちょっとお兄ちゃん! (←パニックでお兄ちゃん呼び)
に、妊婦だよ? 妊娠してるのに、押し倒すの?

な、なんだよ。琴子もそんな艶っぽい瞳をして!

わっわーーーちょ、ちょっと……待って!! 待てってばーーーっ







ーーーあれ?

ふと、目が覚めたら僕は兄夫婦の寝室のベッドの上で眠っていた。

いったい、いつの間に……

そして、窓は開いたままで、カーテンが揺れ、夕方の心地よい風が吹いてきていた。
今年は猛暑だったけど、だいぶ落ち着いてきたようだ。

僕は飛び起きて、シーツによだれとかついてないか確認する。
よし、大丈夫。
でもちょっとシーツか皺になっちゃったな。慌てて少し直す。


このベッドの上で二人はいつも……
あの不思議な衣装や小道具を使って……?

さっき見た夢とごっちゃになったような変な想像をして、思わず顔がかぁっと熱くなる。それに僕の下半身も……

って、夢だよね?
いやーーどこまでが夢なのかーーー

クローゼットを見たが、別に緑の布切れは挟まってはいない。

そして、クローゼットに近寄りーー
扉を開けようかどうしようか、3分くらい逡巡した後、僕は窓を閉めて兄夫婦の部屋を出た。


きっとこれは真夏の逢魔ヶ時の夢だったのだ。そうに違いない。


きっと……………



クローゼットを開けるとそこにはナルニア王国が………

昔読んだ児童書をなんとなく読み返したくなった。書斎にあるかな…………







※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




クローゼットの向こうはむじかくさま宅の入江家が………f(^_^;
四次元トンネル、本日も開通させていただいてます(^^)d


《追記》
むじかくさまに差し上げたヒョウ柄コスプレ琴子ちゃんのラクガキ、こちらでのアップを許可いただきましたので、おまけに付けておきます♪








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Re.むじかく様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

返信遅くなりましてすみませんでした。
喜んでいただけて良かったです。いいんです、他の誰に受けなくても、むじかくさまだけに笑っていただけたらっ(内輪うけと謗られようと……いえ、誰も謗りゃしませんが)( °∇^)]
ヒョウ柄琴子ちゃん、お待ちしてます!




Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

そうそう、禁断の扉を開けてしまった裕樹くんです……(((^^;)
着ぐるみやらパジャマやら……懐かしいでしょう笑
ええ、こんな風に繋がってました、共有クローゼット。時間も空間もねじ曲げた不思議な世界へようこそ〜〜

Re.ちびぞう様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

ふふ、そんなに笑っていただけて嬉しいです。
そう、あの寝室、何年たっても模様替えとかしないのかしらーとちょっと謎だったのです。まあ、直樹さんベッドの上に琴子がいればあとはどーでもいいのかも知れませんね〜〜
う、ちびぞうさん……Mさま宅の禁断の裕樹くんの残像が……
そして、刻のいたずら……そんな感じですね。私もあのお話大好きです♪

個別記事の管理2017-10-08 (Sun)

すみません、誕生日のお話が完結してないとゆーのに……(((^^;)

実をいうとこのお話は病院本用に書いたものなのですが、手違いやら勘違いやらの、諸事情がありまして、ブログアップすることになりましたf(^_^;







※※※※※※※※※※※※※※※







昨夜は都内で大規模な停電があった。

しかも完全復旧に5時間もかかったというのだから近年には珍しい緊急事態である。

夜の10時という時間帯だったのは、経済活動への影響は日中に比べれば少なかったのかもしれない。

だがやはり不夜城東京から灯りが消え、交通機関も麻痺して、都民の日常が混乱を極めたのは間違いない。

原因は航空事故による送電線の寸断であったが、サイバーテロによる送電ストップではないかというまことしやかな噂が流れたりもした。

幸い多くの病院内は自家発電でなんとか補え、医療行為に大きな支障をきたすことはなかった。

たが停電による事故が多発して、ここ斗南大学病院の救急外来は昨夜から患者が引きも切らなかった。

直樹たち研修医も昨夜から診療科を問わず当直要員として駆り出され、眠る暇はなかった。


「やっと終わった………」

長い夜が明けて、交代の時間となった。隣の診察室からぐったりと疲弊しきった表情で出てきたのは同期の船津だった。


「お疲れ」


ちょうど最後の患者の入院手続きを終え、病棟へと送り出した直樹も診察室から出てきたところだった。


「救急の応援は何度か入ったことあったんですが………意外と単純な外傷だけじゃなくて、驚きましたよ」

「そうか?」

停電が始まったばかりの時は、暗闇で転んだとか頭をぶつけたとか、警察が誘導するまでに起きた交通事故やら、外傷患者が多かったのだが、後半は暗闇が怖くて過呼吸起こしたとか、蝋燭で火事を起こして火傷を負ったとたか、テレビが見れなくてイラついて夫婦喧嘩で怪我をしたとか…………

「暗闇で風呂に入って肛門にペットボトルが突き刺さって取れなくなったって……噂のアレに遭遇しちゃいましたよ」

直腸異物はちょいちょい救命に出現するなかなかコアな症例である。救命にいるとよく話題に出る下ネタトップ1にとうとう当たったらしい。

「なんでペットボトルが風呂にあったのか訊ねても、シャンプー入れてたって……本当ですかね」

「嘘だろ?。確か炭酸飲料だったな……他人の趣味嗜好にけちをつけるつもりはないが」

なんだかよく分からない世界ですねぇ~~と船津が呆れていた。

幸い麻酔ゼリーで肛門を拡げて取り出すことが出来たらしい。時には開腹オペになるし、腸管破裂にでもなれば人工肛門となることもあるから侮れない症例である。

「あと、暗闇でペットが逃げたと大騒ぎ。それが毒蛇で……」

「血清があってよかったな」

ちなみにハムスターに鼻をかじられた、というのもきた。停電中にペットを構うな、と云いたくなる。

「暗闇で薬を間違って飲んだとか。何故か大量に……」

ショック症状で運ばれてきたが、胃を洗浄して事なきを得た。

「明け方になって、あの症状、多くなかったか?」

「ああ。アレね」

「そう、あれ」

「神経麻痺」

腕が麻痺して動かない、という患者が夜が明けてから実に3名ほどいた。

若い男性ばかりだったが、脳梗塞を疑ってパートナーに連れられて慌てて駆け込んできたようだった。

「まあ、脳梗塞なら腕だけじゃなくて足や顔や言語にも麻痺は出るからな」

救急車を呼びつけて、麻痺が腕だけなのを聞いた救急隊員から「脳梗塞の疑いは低い」と云われても信じなかったらしい。

「脳梗塞じゃなくて、橈骨神経麻痺……でしたね」

とりあえず救急では何もできないので改めて整形外科を受診するように助言しただけである。

「でも、外国人が2名でしたね。やっぱ日本人は少ないのかなー?」

「まあ、あんな別名があっても、実際ソレが原因でかかる患者は日本人は少ないっていうな。たいてい電車や車で変な寝かたをして腕を圧迫したとかが主な原因」


正式名称は橈骨神経麻痺ーー別名『ハネムーン症候群』または『サタディーナイト症候群』もしくは『腕枕症候群』ーー。

「停電の夜は、他にすることないってことですかね……」

「1ヶ月くらいしたら産科の来院が増えるかもな」

あの大停電は少子化対策の為の政府の策略か?と一瞬疑ってしまうような症例が余りに多い夜だった。


「そういえばホテルからの心筋梗塞の救急搬送も二件ほどあったらしいです……」

ともに患者は60代男性ということである。ある意味元気である。

「両方とも一命は取りとめたらしいから良かったな」

「………全くです。みんな停電に乗じて何やってんだか」

顔を赤らめて憤慨する船津であるが、別に停電でなくてもパートナーが傍に居れば営まれる自然の摂理だ。他人があれこれ云うことではない。
直樹も当直でなければ間違いなく暗闇を怖がる琴子を抱きすくめ、がっつりいただいていたに違いないだろう。
もっとも、搬送された二人とも相手は若い愛人で正式なパートナーではないようだったが。

「しかも、男も女もきっちり服着てて……女はばっちり化粧もしてて。準備万端で救急隊員迎えるより、心臓マッサージしてて欲しいですよね」

「………愛人の心得だな」

直樹も苦笑するしかない。

「入江さんはたとえ相手が琴子さんでも心臓マッサージくらいはできるでしょうから安心ですね!」

………できるだろう………多分。おそらく。きっと。………せめて、それくらいは。

いや、その前に年をとってもコトの最中に心筋梗塞なぞならないよう、生活習慣だけは規則正しくしておこう。
例え還暦すぎても相手は琴子しかいないが。

「僕も真里奈さんと結婚できれば、老後も安心ですっ」

「老後のためにナースと結婚したいのかよ」と、呆れたように呟いた直樹の声は耳に届かなかったようで、

「………真里奈さんに会いたいな…………彼女とならハネムーン症候群にだって耐えられる。というか、ぜひなってみたい」と、うっとりと空をみつめる。

「重症化したら腕が動かなくなって日常生活に支障をきたすぞ。メスが握れなくなったら困るだろうが」

「そ、それは困りますけど………」 

「コツがあるんだよ」

「ええっ?  ど、どんなコツが………って、入江さん、いつも琴子さんに腕枕してあげてるんですかっ?」

「さあな」

「ああ、ボクも早く真里奈さんと…………あんなことやこんなことや……」

妄想の世界に旅立った船津をおいて、直樹はさっさと帰り自宅を始めた。

無論、直樹も琴子の顔が見たくなったなどと、微塵にもそんな気配を船津に悟らせることはないのである。





*     *     *






「入江くーん、お帰り~~~」


昨日は日勤で、今日は準夜で夕方出勤の琴子が満面の笑みで出迎えてくれた。

「病院、大丈夫だった?」

昨夜、停電になった時点で家族に安否確認の電話をした。一番心配なのは鳥目の妻である。琴子が救急搬送されてくるのでは、と変な心配が頭をよぎったのも事実だ。

琴子には携帯を持たせてなかったが、両親が持っていて助かった。電話機がデジタルなので停電だと固定電話が繋がらないのだ。

こういう不測の事態を考慮するなら携帯を持たせることも考えなければならないな、と少し悩む。

琴子に持たせてもすぐに失くすし携帯しない予感がひしひしとするので無用の長物と思っているのだが。

「とりあえず問題はなかったよ。救急外来は満員御礼だったけどね」

「そっかぁ。お疲れさま」

ふんわりと微笑む琴子の表情に、疲れも吹っ飛ぶ。そんなことは一言も口には出さないが。

「おまえ、どうしたんだよ、腕」

直樹の鞄を受け取ろうとした左手がぎこちない。
利き手の右はだらんと下がったままだ。

「うん。なんか、朝から右手が痺れて上がらなくって」

「見せてみろ」

「大丈夫。ちょっと変な寝方しちゃっててーー」

「変なって……」

「実はね、昨日ソファで寝ちゃって…」

へへっと舌をだす。
琴子の右手は軽く痺れているが、全く感覚がないわけではないようだ。

「なんで………ソファなんかで?」

「だって。停電になって中々電気復活しないから怖くなっちゃって」

ーーと、呟いたら、紀子が「じゃあ、キャンドル灯してリビングで暗闇パーティしましょう!」などと言い出したらしい。

「暗闇パーティって、おまえ鳥目で見づらいだろ?」

「うん。でもお母さんがあちこちにキャンドルやランタンや置いてくれて、そこそこ明るいし、ちょっとした非日常的な感じがして、なんかわくわくしちゃった」

そして、リビングで夜更けまでみんなで薄明かりの中でボードゲームに興じていたのだがーー

「いつの間にかソファの上で寝ちゃってて……しかもチビを抱えて腕枕にしてたみたいで………」

ーーチビかよっ!

思わず琴子の後ろで同じく直樹を出迎えて嬉しそうに尻尾を振るチビを、少々眉間に皺寄せて見つめた。

「おまえ、チビは体重、おれと変わらないくらいあるんだぞ?」

そのチビを一晩腕枕したというのなら、そりゃ橈骨神経麻痺にもなるだろう。

「腕はどれくらい上がる?」

琴子をリビングに連れていき、ソファに座らせ、手首を取る。

「手首を上げられるか? げんこつは握れるか?」

「ちょっと痺れてるけど、なんとか……」

とりあえず軽度なようで、直樹はほっとため息をついた。

「おまえ、気を付けろよ。下手すりゃ1ヶ月くらい痺れが取れにくくなるときもあるんだ」

「ええっ」

青ざめる琴子に、「ま、これくらいならわざわざ整形受診しなくても時間薬で治るだろ」と、軽く手首を揉みほぐす。

「よかったー」と、安心したように直樹を見上げる琴子。

停電に怯える琴子の傍にいたと、少し自慢げに横にちょこんと座って尻尾を振って直樹を見上げるチビの頭を撫でつつも、手放しで褒めてやることが出来ない狭量な直樹である。

「でも、入江くん、あたしのことよく一晩中腕枕してくれることあるよね? いつも大丈夫なの? 痺れてない?」

笑ってた顔がすぐに不安そうに翳る。

「この症状は、同一部位が長時間圧迫されて橈骨神経がダメージを負うために起こるんだ。おまえ、寝相悪くてころころ頭を動かしてくれるから、基本、大丈夫」

「え、そ、そうなのーー?」

この病の別名なんて教えてやらない。
病気の名前なのに、きっと琴子は『なんかロマンチック~~』と、テンション高く喜んでしまいそうだから。

(………ハネムーンの時には色々と慣れてなくて……そのうえおまえも緊張と疲れのせいか珍しく寝相がよくって……朝、ちょっと焦ったっけ)

一瞬だけ、あのハワイのハネムーンの朝にーー記憶が翔んだ。

やっと手に入れた宝物を手放したくなくて一晩中抱え込んでいたら、朝、手首に違和感を感じ、腕が自分の腕じゃないような感覚に戸惑ったのを思い出した。

まだ軽い方でよかった。重症化すると手首と腕が上がらなくなり、握力も低下し生活に支障が出るし、治療が長期化することもあるのだ。

「ーーあ、お風呂入るよね?  それともご飯先にする?  みんなの朝御飯の残りだけど……」と、キッチンに向かおうとした琴子の手を掴んで制止する。
とりあえずこれくらい軽症なら、なんやかんやしても支障はないだろう。

「まず風呂でいい。で、そのあとは寝室」

「あ、そうだよね。当直明けだもんね。そりゃ眠いよねーー」

 「いや、どちらかといえば目は冴えてる」

にやっと笑って妻を眺める。

「へ?」

「おまえ、夕方まで暇なんだろ?」

「え。あ、うん………」

「じゃあ、後で寝室に来いよな。時間はたっぷりあるし」

何の時間?  とは言わずもがなでーー。

直樹の『琴子欠乏症』は、琴子の『ハネムーン症候群』よりも重篤なのである。










※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


えーと……病院本のうらあんないをお買いになられた方で、もし私のお話で、んん???と思われた方がいたら、まあ、そーゆーことなのです(((^^;)

まだ手元に届いてない方、読まれてない方、このお話を先に読んでからお読みくださるとありがたいのですf(^_^;




追記 10/9 現在、うらあんないとのセット頒布はあと残り2冊のようです。手に入れるなら今ですよー(^-^)v

追記2 セット販売、完売したようです♪
あとは診療所案内一冊のみの販売になるようなので、emaさんのブログをcheckしてくださいませ(^_^)

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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

色々お騒がせしました(((^^;)
マロンさんには初稿だけお見せして、全年齢向けに書き直したのはお見せしてなかったよなーと……(((^^;)
私も戴いてからなかなか中身を開いてなかったので、マロンさんから裏の感想いただいた時、ちょっと、あれ?と思ったのですよ……

ふふ、そうですね〜〜
もし琴子の腕に支障があったら……ちび、どうなっていたことやらf(^_^;

* by なおなお
アハハ!やっぱり入江君は心が狭い相手がたとえちびでも!琴子ちゃんに関して肉食系な入江君ですもんね?v-8

Re.なおなお様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

ほんと、チビにも焼きもちやく直樹さん、ちっちゃいですよねーー笑

個別記事の管理2016-12-11 (Sun)


更新がなかなかできなくて申し訳ありません。

ちょっと仕事ハード過ぎて。
いつまで続くのかなーこんな生活……(*_*)
先が見えない………orz

平日は妄想してる時間すらない目まぐるしさ。


でも、先週の日曜、娘と四季のリトルマーメイド、観に行ってきたんですよ。
久しぶりのミュージカル、楽しかったです(^^)v

そのせいで、ちょっと人魚姫幻想妄想を。ええ、いろんなサイトマスター様方が人魚姫のイリコトバージョン書いてらっしゃいますし、特に目新しいことするわけでもないですが。

落書きとともに、短い時間でさくっと書いた人魚姫をどうぞーー。





※※※※※※※※※※※※※※※







コトリーナはナイフをぎゅっと握りしめて、王子が眠る傍らに立っておりました。

王子の婚約を祝う船上パーティの宴も終わり、波のざわめきだけが心地よく耳に流れ込んできます。

その波音の狭間から幽かに漏れ聴こえる懐かしい声。
それは悲しげな泣き声のようにも聴こえます。




……あたしたちの可愛い妹コトリーナ、あなたが海の泡と消えてしまうなんて耐えられない

この銀のナイフで王子の胸をひとつきに。

そうすれぱあなたは泡と消えずにすむのよ。

魔女にもらったナイフよ。
あたしたちの髪と引き換えに。

可哀想なコトリーナ、これであの王子を殺してしまいなさい。

あんな冷酷な王子を想うのはもうやめて。

あの男はおまえに命を助けられたのに、隣国の姫ぎみだと勘違いして。
あのサホリーン姫は海辺に打ち上げられた王子をたまたま見つけて介抱しただけ。
難破した船から岸辺まで抱えて泳ぎ、命を助けたのはおまえなのに。

そんなことも気がつかない、愚かな男。

美しい声とあの人魚の尾ひれを失ってまでも2本の足を得たというのに、おまえの想いを無下にする冷血な男。


報われない恋に泣くのはもうやめて。

さあ
このナイフで王子をひとつきにーー。


姉たちの懇願する歌声が切々と響いても、人魚姫は王子さまを殺すことなど出来ません。


ごめんなさい、お姉さまたち。
やっぱりあたしは王子さまを殺すことなんて出来ないわ。

料理を作っては怒鳴られ、大切な書類を整理してなくしては怒鳴られ、衣装を繕うつもりが袖を切り落として怒鳴られたけど

歩くのが下手だったあたしに付き添ってちゃんと歩けるように、そしてダンスも教えてくれましたーー怒鳴られながらも。
字の読めないあたしに教えてくれたりーー怒鳴られながらも。
馬に乗せて遠乗りに連れていってくれたりーーあたしにだけ、こっそり夢を語ってくれたり。
冷たいけれど優しいところもある方なのです。

だから、お姉さまがた。
あたしはやっぱり王子さまをナイフで突くなんてーーそんなことできません。
たとえ海の泡となって消えてしまってもーー




姫はそのまま王子の傍を立ち去り、海の中へと身を投じようと甲板の縁に手を掛けましたーー





*****





「コトリーナ、海の泡になっちゃうの?」

「まさか! そう簡単に海の泡なんかにならないわよ。この後には劇的大逆転が待ってるからねー。続きはまた明日ね」

「ええー。やだー早く続きを知りたーい」

「いい娘でねんねしたら明日が早くくるからね」

琴子はそういって、不満気な琴美の背中をポンポンと擦りながら宥めて寝かしつける。


「……琴美、寝たのか?」

直樹が書斎から戻ってきた。最近は学会が近いせいか、早く帰ることができても寝室に戻るのが遅い。

「うん、やっと。絵本3冊読んで、最後にはお話作って……でも展開を思い付かなくて、明日に引き伸ばしちゃった」

「何の話?」

「人魚姫。ハッピーエンドに変えたくて。報われない恋の話なんて、こんなちっちゃな子に話したくないもの」

「また、お得意の捏造か。人魚姫のハッピーエンドバージョンならアニメ映画があるんだろ」

「あれはアリエ○のお話だもの。私のはコトリーナの物語なのよ! 」

「…………」

よくわからない拘りに、直樹は肩を竦めて、琴子と琴美の間に滑り込む。

「……入江くん?」

布団の中でぎゅっと抱きすくめられて、琴子は思わず赤くなる。
直樹にとって、妻と娘によって温められた布団に入るのはこの季節のささやかな幸せだ。

「えーと、入江くん……みーちゃんまだ寝たばっかりだから、もしかしたら起きちゃうかもよ?」

直樹の手が怪しく琴子の身体を彷徨いはじめたので、琴子は念のため申告してみる。

「………大丈夫。おまえが声を出さなければ……」

「ええっ? そんなの、無理……あ」

キスで唇を塞がれて、後はもう言葉にならない。
絶え間ない波間に放りだされて、溺れないようこの腕にすがるだけーー。





****



甲板の縁に手をかけたコトリーナは、突然くいっと腕を捕まれて、そのままどさりと甲板の板張りの上に倒れこんでしまいました。

「ばかやろう、何やってんだ、こんなところで!」

(え? 王子さま、なんで?)

驚きのあまり目を見張りそのまま硬直してしまったコトリーナを抱き抱える王子さま。

「人の枕元でおまえが変な顔で涙ぽろぽろ流してるから、気配で目が覚めた。………ったく、今日のパーティでもずっと探してたのに何処に行ってたんだ?」

(厨房にいましたけど……)

だって、華やかな婚約披露のパーティの場になんていたくないんですもの。

「あんなに大騒ぎだったのに気がつかなかったのか」

(え?)

「婚約披露パーティの席で婚約を破棄してきた。サホリーン姫には申し訳ないが、彼女が泳げないと聞いて、おれを助けてくれたのがサホリーン姫じゃないと気がついたんだ。そして、思い出した。おれを船から救いだして大魔神みたいな形相でおれを抱えて岸辺まで泳いだのはーーおまえだ」

(ええーーっ)

「あのときは喋ってたのに、何故話せなくなった? おまえの声を聞きたいのに」

そして、王子さまはコトリーナの頬を優しく撫でました。

「サホリーン姫の侍女がおまえは船の料理人のキーンといい仲だと聞いて冷たくあたってしまった。どうやらおれはおまえを手放したくないようだ」

(そ、それはどーゆー意味でしょう?)

目を白黒させているコトリーナに、王子さまはそっと顔を寄せて、優しく啄むようなキスをしました。

「えええーーーっうっそぉーー!!!! 王子さま……だって、だって」

顔を離して真っ赤になったコトリーナが一番始めに声にだしたのは、船上をつんざく叫び声でした。

「……なんだ。話せるじゃないか。同じだな……あの嵐の夜におれを必死で呼んでいたあの声だ」

「お……王子さま……」

コトリーナが呆然と王子を見上げていると、王子はにやりと笑って、もう1つキス。

「キーンと結婚するのか?」

「しません! キーンはただの友達で」

「では、おれと結婚しろ」

「はい。え? えええーーーっ!?」

「おまえはおれが好きなんだろう? おれ以外好きになれないんだろ?」

「そうだけど! でも、王子さまはあたしのこと………」

「………大好きだよ」

コトリーナは嬉しくて嬉しくてこのまま天にも昇りそうな心地でしたーーが。

「でも、王子さま……実はあたし、人間じゃなくて……本当は人魚なんです」

嘘はつけません。
今は人間ですがもし子供が生まれたら人魚の子供が生まれるかもしれません。

「そーいえば、あの夜、下半身魚だったな。ま、今が人間なら問題ないんじゃないか? もう、元には戻らねぇんだろ?」

「た、多分。何だかんだうちの魔女の威力は半端ないらしいので。ほら、あたしも王子さまのキスで話せたし、泡になってないし!」

「じゃあ無問題ってことで」

いったいどういう変態や細胞の変化が起きてエラ呼吸から肺呼吸に変わったのか脚の骨の形成はどうなっているのかーー気にならないといえば嘘になるが、この際人魚に戻らなければどうでもいい。

王子はもう一度ーー今度はずっと深くて長い3度目のキスをしました。


「きゃーーっ素敵よ、コトリーナちゃん。明日こそ本当の婚約披露パーティ……じゃなくて、結婚パーティにしちゃいましょう‼ ほら、宮廷画家! こっちに来て今の二人の絵を描いてちょうだい!」

コトリーナの味方だった王妃が顔を出して、二人を祝福しました。
そして、王妃の宣言通り翌日船上で二人の結婚式か華やかに執り行われたのです。
(ちなみにサホリーン姫ご一行は婚約破棄されてすぐにボートで船を降り、隣国へ戻って行きました)


祝福の花火か空を彩り、轟音を響かせます。

波間からコトリーナの姉や父も顔を出して、二人の結婚を祝福しました。
そして、二人は末長く幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。




そして。
…………めでたしめでたしの後は……王子さまとコトリーナは船の上の二人の部屋で……めくるめく熱い夜を過ごしたのはまた別の話なのです。

「とりあえず生殖機能に問題ないようだ」


ーーやっぱり、めでたしめでたし……なのでした(笑)









******



朝、目が覚めた時、乱れたパジャマを直しつつ、隣で眠る琴美の方をちらりとみる。昨夜なかなか琴子を眠らせてくれなかった直樹はもうベッドには居なかった。
両親がすぐそばでイチャイチャしていてもぐっすり眠ってくれていた我が子に感謝しつつも、「もー入江くんってばー」と、状況お構いなしの愛する王子にちょっとだけ悪態をつく。

「でも………お陰で夢見はよかったかなー?」

とりあえず、ハッピーエンドのお話は今夜娘に語れそうだ。
…………最後の生殖機能云々のエピソードはばっさり省略するとして。


切なくて救われない物語は、それはそれで色々考えさせられて決して否定はしないけれど。

でもやっぱり、幸せに満ちた結末の方が、みんな笑顔になれるよね?


琴子は天使の寝顔の娘の頬に優しくキスをしたーー。





※※※※※※※※※※※※


アンデルセンの原作も嫌いではないのです。人魚姫の想いが切々としてやるせないですけどね。
ディ○ニーの映画はそういう胸の奥がきゅんとするような切なさはあまりないなー(((^^;)




さて、業務連絡です。


先月の謎解き企画のプレゼント、メールにて正解者の皆様にえろイラスト送らせていただきましたf(^^;
到着報告をくださった皆様、ありがとうございました。

数名到着報告がありませんが、正解してアドレスも送ったのに届いていないという方は、迷惑メールとして処理されているかもしれません。gmailで送れるアドレスを再度ご連絡くださいませ。

生イラスト、厳正な(?)抽選の結果当選されたR様にも昨日発送しましたので、ご笑納くださいませ(((^^;)
あんな絵でも欲しいといっていただいて嬉しかったです。ありがとうございました。

12月、どれだけ更新できるかわかりません。もうクリスマスくらいにしか書けないかもしれませんが、ストレス解消に突然変なものアップしちゃうかもです。金曜の夜から土日くらいしかお話書けないので、期待せずにお待ちくださいませ~~(^_^;)









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Re.でん様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます♪

クリスタルのようなきらめき~~素敵なお言葉ありがとうございますf(^^;
幸せに感じていただけてよかったです♪

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

確かに元の人魚姫の王子もぼんくらですねー笑 なぜ人魚姫は惚れたのだろう。琴子ちゃんと同じ面食いだったのね~。
やっぱり、イリコト変換すると隣国のタナボタ姫はお嬢にしかならないですね。報われない元ネタの人魚姫の為にもスカッとふってやりました笑
………そうか、じんこちゃんならわかるのか……えら呼吸……思わず爆笑しちゃいましたよ(^w^)

とりあえず入江くん、寝技に持ち込めればなんでもいいんですよ。
ホント、琴美ちゃんは実に親のいちゃこらに協力的ですね(^^)v

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

ミュージカルもハッピーエンドですが、王子は何もしない人でした。
人魚姫も琴子と一緒で一目惚れして、苦難の道が……報われなさすぎて切ない話ですよね。琴子は絶対、アンハッピーな話はチョイスしない気がして……f(^^;
琴子らしいといっていただいて嬉しいです。

ふふ確かにえろ王子……笑

イラスト幻想的ですか? ボカシ加工アプリのお陰です笑 でも誉めていただ(^w^)

マロン様には50万hitの御礼イラスト差し上げます♪ 要らなくっても押し付けます笑 クリスマスプレゼントになるかなー。少々お待ちくださいませ(^^)v


Re.絢さま * by ののの
コメントありがとうございます♪

初めまして、ですよね? いつも読んでいただいてありがとうございます(^_^)
絢さんの癒やしになっているのなら、嬉しいです。
お気遣いもありがとうございました~~(^_^)

Re.ちょこましゅまろ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

おおー娘さん、発表会、リトルマーメイドでしたか‼ 先生なかなかのチョイスですね。さぞや楽しい歌と躍りだったろうな~~

気になりますよね。人魚の生殖方法。魚と一緒かなー。じゃあ、卵で生まれるのか?などと変なことを考えてしまいます。

はい、ベッドの海で毎晩溺れてます笑
身がもたないだろうなー(^w^)

そうそう、すべてのおとぎ話の王子は入江くんに変換されてること、間違いないでしょう(^^)v

個別記事の管理2016-02-24 (Wed)




一話で終わらせるつもりだったのを分けたので、ちょっと短いですが……f(^^;





※※※※※※※※※※※※※※※




あの大雪のバレンタインデーから季節が2つ過ぎ、直樹の一人暮らしも半年が経とうとしていた。

琴子も念願のドニーズのバイトに収まり、トラブルを巻き起こしながらもなんとかクビにならずにすんでいる。
そして、直樹と同じように遅いシフトにいれて、ちゃっかりそのまま部屋に泊まりこむ図々しさも健在だ。
本来若い女子は深夜帯にシフトはいれないが、夏休みを前に留学するからと学生が何人か辞めて途端に夜の人手が足りなくなり、入江くんが送ってくれるから大丈夫だよ、と直樹の居るときだけ深夜帯に時折入るようになった。
もう終電がとうに過ぎた時間で、当たり前のように直樹の部屋に泊まっていく。
お陰で夏になってからの方が部屋に来る頻度が増えたようだ。ほぼ週一ペースで寄っている。

そして、相変わらず二人の間にはーー何もない。


ーー暑いから離れろ。

タオルケットを蹴り飛ばして直樹に張りついてくる琴子にそう云ったら、むくっと起き上がって勝手にエアコンの温度を少し下げた。
そして、すぐまた幸せそうに張り付いて爆睡。
無意識なのが恐ろしい。

「入江くんが暑がりじゃなくてよかった~~」

初めて熱帯夜を計測した夜、エアコンの温度を地球に優しい28度に設定していたのをみて、琴子が嬉しそうに云っていた。

「ほら、夏になるとおばさんとおじさん、エアコンの温度で喧嘩してるでしょ。あたしもどっちかっていうと冷えすぎは苦手だし」

体格のいい重樹はやはり暑がりの汗かきらしい。比べて紀子は寒がりの冷え性でエアコンの冷風も苦手だ。夫婦二人の寝室はリモコンの奪い合いで密かなバトルが繰り広げられているのだと聞いたことがあったのだ。

「それでも寝室を別けないのだから、ラブラブなのよねー。いいわよね、おじさんとおばさん。理想の夫婦だわ」


あの親しか知らないので理想といわれてもピンと来ないし、少なくともかなり規格外の親だと思う。(特に母親は)
琴子に全く言葉通り他意はないだろうが、ふと両親揃っている自分がひどく恵まれているのに、それを感謝することも出来ず蔑ろにしているような罪悪感を微かに感じ、結局それ以上何も云わずに琴子に背を向けて眠った。
とりあえずお互い体感温度にさして格差がないということはこの夏で学習した。
エアコンの設定温度で揉めることなく、快適に眠れる筈ーー
ーー琴子がうっすいTシャツやキャミソール一枚の部屋着で、直樹にぴたりと絡み付いてきさえしなければーー

理性と本能とのタイトルマッチは未だ熾烈な闘いを繰り広げていて、夏になってからは理性にとって、かなり不利な状況になっている。
しかし、母の思い通りになってたまるかという一念は、鉄の防壁を作って辛うじて踏みとどまっているのだ。
人間はどこまで性欲や情動に流されず自分を律する事ができるのかという研究論文が書けるかもしれない、と自嘲気味に思う日々である。





そろそろ夏休みも近くなり、キャンバス内がなんとなく浮き足だっている気配が感じられる頃だった。

ーー琴子に男が出来たという噂が流れたのは。

ひとつ年下の法学部の学生だという。
琴子が告白され、かなり積極的に迫られて、あの相原が了承したのだと、あっという間に噂は学内を席巻した。

どうせ、自分の気を引く作戦だろうと直樹にはあっさりと予想がついた。
またも母紀子が、少しも進展しない様子に業を煮やし、余計な入れ知恵をつけたかもしれない。

二人そろって直樹のバイト先に来てデートの相談をする辺り、かなりのわざとらしさだ。

だがそのせいか、その週、琴子は直樹の部屋にぱたりと来なかった。

それぞれに恋人が出来れば簡単に解消できる後腐れない関係ーー

ふと、『ソフレ』を検索した時に出てきた言葉を思い出した。
別に自分たちの関係が『ソフレ』などという意味不明なものだと思っていた訳ではない。端から見ればそうとられても仕方ないのかもしれないが、そんな簡単な言葉で説明は出来ない。

ーー入江くんに彼女が出来たらもう、来ないよーー

そう云っていた琴子。無論、逆もあるということだろう。

だが、勝手にずかずかと他人の領域に侵入し、勝手に来なくなる琴子に、妙な苛立ちを感じていたのもまた事実だった。




ある午後のことだ。4限目が休講になり、直樹が、松本裕子の妹、綾子に大学の図書館で勉強を見ていた時だった。
視線を感じて、窓の外を見ると琴子が少し切ないような表情でこっそりと覗いている。

なんだ。
やっぱり予想通りか。
内心妙な小気味良さを感じつつも隣の綾子に気付かれないようにしていた時ーー

一人だと思っていた琴子が、例の中川とかいう男と何やら深刻そうに会話をしていた。そして唐突に抱きすくめられ、無理矢理キスをされそうにーー


「直樹先生、実はエスパーかと思ったわ。さっきまで隣にいた筈なのに気がついたら窓の外にいるんですもの」

と、これは後々その中川武人と付き合うようになった時に語った松本綾子の弁。


直樹が外に駆けつけた時には、金之助と中川が殴り合いをしていて、横で琴子がただオロオロとしていた。

「 別にいくらおまえらが殴りあってもケンカしても血を流してもいいんだけどさ。でも、琴子の好きなのはオレなんだぜ」

本当、馬鹿らしい。

「ケンカするだけムダじゃない?」

内心の焦りを全く顔に出すことなく平然と云ってのける。

どうやら琴子の唇を死守したらしい金之助がこれ以上殴られるのを庇ったという意識は、本人には一切ない。

どうでもいいが、ほら、見てみろ。
琴子の嬉しそうな顔!

「おい、バイト行くんだろ? 行くぞ」

と一言に云うと、尻尾を振って飼い主の周りを纏わりつく仔犬のように、直樹の後を満面の笑みで付いてきた。
少し陽が傾きかけた街中を琴子と並んで歩き、連れていったのは自分の部屋。
実はバイトまでは少しまだ時間があった。

4限目がある予定の上でシフトを組んでいたので二人とも遅番だった。
まだ2時間くらいあるからそれまで部屋で時間を潰そうということだ。

いつもは夜に、緊急避難先のように、もしくはバイト帰りにそのまま部屋に泊まりに来ていたから、明るいうちから訪れたのは初めてだった。日差しが窓の高い位置から差し込み、ブラインドを通してベッドの上にゼブラの影を落としている光景が、琴子には少し新鮮だったようだ。
でも何だか妙にどぎまぎして、初めて雪の日に泊まったような緊張感が琴子から感じられた。

普通逆だろうが。

思わず直樹は心のなかで突っ込む。

ーーどうせ、『昼下がりの情事』とか思い浮かべてんだろう?

まるで直樹の言葉が届いたかのように、ぶんぶんと首を振り、そして唐突にはっと顔をあげて、
「あたしね、さっき頭の中をずっとあの曲がリフレインしていたの。『喧嘩をやめて~~二人を止めて~~私の為に争わないでぇ~~』♪」
と、歌いだす。

「なんか、ドラマみたいなシチュじゃない? あたしにだってそんなシーンを経験することがあるのよ。捨てたもんじゃないでしょ?」

「あほか」

直樹は冷めた眼で一言そう告げた。

「そんなうわっついたこと云ってるから好きでもないヤツからキスされそうになるんだ」

「………入江くんだって好きでもない子にキスできるでしょ?」

直樹の少し嫌味っぽい言い方に琴子がムッとして返す。

「……好きでもないのに無理矢理キスしたクセに」

謝恩会の日のことを思い出したらしい。

「……なんだ、じゃあ、あのままキスされても良かったんたな、あの中川って奴に。金之助は邪魔したもんだ」

分かっているクセに琴子の問いにきちんと答えを返さずひねくれた言葉を投げ付ける。

「そんなこと言ってないでしょ! あたし、金ちゃんには助けてもらってほっとしてるんだから! 入江くん以外となんて絶対に………」

そう食って掛かろうとした琴子の身体が突然ベッドに押し倒される。

「あいつとは、健全にデートとやらをしたんだろ? 男がみんな草食だの絶食だの思うなよ。世の中には物好きな男が金之助以外にもいたってのは驚きだが、あいつは全うに肉食……いや、雑食みたいだからな。キスの次は速攻ホテルに誘われてたんじゃないか?」

両手首を握りしめられ、直樹に上から押さえつけられる。

嘲笑うかのように頭上で囁く直樹に、ふと、高三の夏休み最後の夜を思い出したがーー。

「い、入江くんは、武人くんとは入江くんの気を引く為に付き合ってたって分かってたんでしょ? だったらあたしがそんなこと受け入れる訳……」

「そんな風に男を利用すると、痛い目合うぞ、っていってんだよ」

「わ、わ、分かってるわよ! 武人くんに申し訳ないからもう会うのやめようって……」

そう半泣きで叫ぶ琴子の胸が、薄いTシャツの上からぎゅっとつかまれた。

「えっえーー? ひゃああ」

思いもかけない事態に、慌てて琴子は身を捩る。

「む、む、胸………」

「あれ? これ胸だった? 肋骨の割りには柔らかいかなとは思ったんだけど」

「や、やだ………」

「やだって、何だよ。期待してんじゃないのかよ?」

笑っていた直樹の瞳がすぅっとすがめられる。ドキッとする。目は全然笑ってない。
思わず顔を背け視線を反らそうとした琴子の顎が突然、直樹の細い指に捕らわれた。

直樹の玲瓏とした美しい顔が、ゆっくりと近付いてくる。

キ……キス……! 2度目………!

思わず目を瞑る。
顔に身体中の血液が集まったように熱くなるのが分かった。
かかる吐息で唇の寸前まで来ていると思ったのにーーー

「……………………?」

いつまでも唇が触れることはなく。

「い……イタ……!」

代わりにちりっとした痛みが首筋に走った。

「な、何したのよーっ」

琴子ががばっと跳ね起きて、首に手をやる。

直樹はさっとベッドから離れクスクスと笑っていた。

何が何だか分からないがまたからかわれたらしい。

「あー赤くなってる~~!」

コンパクトを取り出して首もとを見ると薄く赤紫の痕がついていた。

「な、何? 噛んだの?」

「あほ。噛んだら歯形がつくだろう、普通。おまえキスマークも知らねーのか」

「ええっこれが噂のキスマーク!?」

再び鏡を当ててまじまじと見つめる。

「子供の頃不思議だったのよね。漫画でキスマークつけられてって……男の人、口紅付けてないのになんでキスマーク付くのかしらって」

「おまえ……マジ知らねぇの?」

「え、あ、そりゃ今は鬱血で出来るって知ってるよー。でも、実物見るのは初めて! ちょっとカンドー」

ぽっと顔を赤らめてから、ふと思い付いたように、

「そ、それに入江くんに初めて付けられた……所有の証……ってことよね!! えっやっぱり入江くん、あたしのこと好きなの!?」

「あほ! 何が所有だ! 男に対して余りに無防備だから、からかっただけだ。ほんっと、おまえ高三の夏から心身共に成長しねぇな。あの池に落ちた日におれに抱きついて誓ったクセして、胸はちっともCカップに育ってないし!」

「………そ、そう? これでも毎日牛乳飲んでバストアップ体操して頑張ってるのよ?」

そういって衿ぐりを引っ張って自分の胸を覗きこむ琴子に、直樹はぷいっと顔を背け、「ふざけ過ぎて喉渇いたな。アイスコーヒー入れてよ」と、まるで何事もなかったように素っ気なく云う。

「う、うん!」

どきどきどき。
まだ少し速い鼓動を叩く心臓を押さえながら琴子は立ち上がる。

…………なんだ……結局またからかわれただけかぁ……

な。なんか………思いっきり胸を揉まれた気がしたのだけど……(いや、鷲掴み?)
全然あたしじゃその気にならなかったってことだよね……

心の中で少しため息をつきながら………



その後は特に何事もなかったように、琴子の入れたアイスコーヒーを飲みながら、直樹はPCに向かい、メールのチェックを始めた。
まるで琴子が部屋にいることなど忘れてしまったかのように。

直樹が話し相手になってくれないのを察
すると、琴子もスマホを取りだす。
今どきの女子大生らしく友達や芸能人のブログをチェックしたり、そこから気になったショップやらサイトやらを検索したりすると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
たまには勧められた乙女ゲームなぞをやってみたりするけれど、どうもリアルに隣にいる直樹以上に素敵な王子様に出会えたことはない。
先日理美に勧められたのが『ドSな上司と突然同居?ダメOLのシェアハウス』とかいう長ったらしいタイトルで、何だかありがちな設定だった。「なんか、このドS上司の性格入江くんに似てない?」とか云われたけれど、現実の直樹の方が全然カッコイイし、現実の方がずっとエキサイティングな日常で、仮想現実に特にのめり込むことはなかった。




「………夏休みかぁ」

文学部の知り合いが呟いていた彼氏との旅行計画に「いいね」を押して、ついちらりと直樹の方に視線を送る。
夏休みの話題が多くなるこの頃、何処か夏らしいトコに遊びに行きたいなーなどとつい思いを馳せ、直樹と何処かに出掛けるイメージを夢に描いて、あちこちネットサーフィンをしながら妄想を増大させてしまう。
旅行らしい旅行は冬休みの熱海旅行以来していない。真冬だったし、家族旅行だからイマイチときめき度合いは少なかった。今思えばあの頃直樹は将来のことを含め一人暮らしすることを真剣に考えていたのだろうなーと思い当たる。

元々客商売の家で、弾丸で秋田に墓参りに行く以外旅行など殆どしたことがなかった。

ーーカップルで旅行ってどんな感じなのかしら。

考えるだけでわくわくするけれど、デートすらまともにしたことがないので妄想の下地になるものが何もないことに気がついてしまう。

そういえば、あのハワイの旅行券は使う機会があるのかしら?
いつか入江くんとーーなんて、あるわけないか。

ハワイなんて贅沢いわない。
海や山や避暑地に花火に新しい水着に浴衣の新作モデル……
めくるめく、夏のときめきアバンチュール…………

ああ、近所のプールでも、神社の夏祭りでもいいから何処か行きたいなー入江くんと。

うん……でも、いいか。
一緒にこの部屋に居られるだけで。

ダメだなーついつい欲深なことを妄想してしまうわ。

あれこれ巡っていた琴子の妄想が現実的なところに戻ってきた途端に、

「琴子、おかわり」

その存在を忘れている訳ではないようで、当たり前のように琴子にグラスを差し出す。

「はーい」

琴子もいそいそとグラスを受け取ってキッチンに向かう。勝手知ったる様子で手際よくコーヒーを淹れる。料理は全く作らせてもらえないが、コーヒーグッズだけは琴子の自由にさせてくれる。

「いっとくけど」

よく冷えたアイスコーヒーを渡された直樹が、琴子に向かって唐突に言い渡した。

「おれ、夏休み、予定があるから。ドニーズのバイトも夏休みは入らないし、この部屋にも居ない」

「ええっ!!」

寝耳に水、である。

「おまえがあれこれめくるめく夏のトキメキプランを妄想しているようだから、一応伝えておくよ」

「え……? あたし、喋ってた?」

いつものこと過ぎて今更何も云わない。

「………入江くん、夏休み、どっかいっちゃうの?」

忽ち悲しそうな表情に一変した琴子が、直樹を上目遣いで見つめる。
打ち捨てられた子犬のような瞳が、一瞬でうるうると潤んでいる。

「………別なとこにバイト入れただけ。いっとくけど、バラさないからな」

「留学とかじゃないんだね? ほら、夏休みに短期留学する人多いから」

「短期なんて、意味ないから、行くならいつかちゃんと自分のやりたいことが決まって必要だと思えば行くさ。少なくとも今はその時じゃない」

「………そっか。まあ日本ならいいや。……1ヶ月以上会えないの、寂しくて死んじゃうかも、だけど」

「…………須藤さんが紹介してくれたバイトだけどね」

暗に須藤に訊けといっているようなものなのだが。

「須藤さん? ええーじゃあ今度訊いちゃおっ」

泣き出しそうだった顔がもうぱっと溢れんばかりの笑顔に変わる。

「………来るなよ」

直樹の釘を刺すような一言に、

「さあ……どうかなーー?」

ふっふっふっーと不敵に笑う琴子。
もうこの笑みだけで、探り出したらきっと追い掛けてくる気は満々だ。

それに気づいてるのかいないのか、直樹は再びPCに向かい始める。



ワンルームの1つの空間に、それぞれ自分の時間を過ごしながら、でもお互いの気配を常に感じてる。

なんか、いいなー。

入江家ではなかった時間だわ。

琴子は時折直樹を盗み見ながらその午後の昼下がりを楽しんでいた。

何も用事があるわけでもなくこの部屋に来て、こんな風にまったり過ごして何だか本当に彼女みたいじゃない?
まあちょっとしたドキドキも時にはあったりしてーー

ーーソフレでもなんでもいいや。

一線を越えそうで越えない関係というのは、始まらないかわりに終わりもない。
もしも直樹と恋人関係になったら、その日からいつ別れを告げられるかビクビクして過ごすような予感がする。

ーーこうして入江くんの近くに居ることを許されるのなら。



呑気にそんなことを考えている琴子に反して。

ーーバイトまでの時間、あと1時間くらいだが。

今ならーー紀子には此処にいることは知られていない、今ならーー。

先程琴子を押し倒した時に、身体の最奥で感じた昂るような熱が、未だ燻っている。
Cカップには程遠いが軽く触れた胸は、その柔らかさに奇妙な感動を覚えた。

胸は大きさじゃないんだよーー女たらしの理学部の先輩が、自慢げに己の持論を繰り広げていたのを思い出す。
信用ならない男だったが、今なら納得してしまうかもしれない。

思わずまだ感触の残っている手のひらをじっと見てしまう。

そしてーーもう1度触れたいとーー。

キスもーー。
辛うじて唇に触れるのを避けたが、あの状態で唇を塞いでしまったら確実にそれ以上の行為に発展しただろう。首筋に方向を無理矢理変えたが、吸い付いた肌は危険なくらいしっとりして甘かった。


全く、何がキスマーク初めて!ーーだ。

こいつ、雪の夜にあんなにドキドキ期待してたクセして、絶対現実に男がどんなことするか、わかってねーだろ。

1コマ目、キス。
2コマ目、上半身裸で抱き合って。
3コマ目、朝、女は男の腕に抱かれて、顔を赤らめて目が覚めるーー

琴子がうっとりと読んでいた少女漫画をちらりと覗き見たのを思い出す。
点描やら薔薇やらに埋め尽くされた幸せな情景。
おそらく琴子がイメージしているセックスはそんなもんだろう。
すっ飛ばされた2コマ目と3コマ目の間にどんな生々しい手順が踏まれるのか果たして分かっているのか。


いっそ、あのまま押し倒して、男が一体どんなものなのか、思い知らせてやればーー


いや、まて。
落ち着け、おれ。
此処でやったら多分、バイトで使いもんにならねーだろ、こいつ。
1度箍が外れたら抑えが全く効かなくなる予測はつく。

一応現実的なことを考えて、ストッパーをひとつ。

夜、遅番だから当然部屋に泊まってくよな……友達んちに泊まると連絡させて……
ラインで連絡させれば琴子の上擦った声を聞かせることもないから大丈夫だよな、うん。

いや、だから待てって。
おれは何の段取りを考えているんだ。
こいつをどうするつもりだっ?

今日バレなくても、明日こいつが帰って挙動不審ならすぐバレるぞ。おふくろの勘も動物並じゃねーか。

落ち着け、おれーー。

悶々とする直樹。

のほほんとしている琴子。

ゆっくりと夏の遅い夕暮れが、オレンジ色の光で室内を染めていく。


二人のソフレな関係は果たしていつまで続くのかーー?




とりあえず、夏休みーー清里で……何かが起きる………かもしれないーー







※※※※※※※※※※


続くのか続かないのかf(^_^)

ちょっと書いてみたかったのです。
修行僧のように野獣封印している直樹さんを!ちょっとしたザマーミロ企画(M様命名)でした(^_^;
この後、原作では清里エピ。キスをきっかけにキスフレになるとか。そしたらキスフレの後はセフレか?(それはそれでかなりな問題作)何にしろ「待て」をされてる期間が長い分、タガが外れたらケダモノ間違いないですね、この直樹さん……f(^^;

まだまだ今のところは自分の感情が何物か分かっていない無自覚野郎なので、関係が進んでも多分琴子ちゃんは不安なままでしょうね……(結婚したって常に妻を不安に陥れている馬鹿な夫なので^_^;)

帰着点が決まってないので続き(キスフレ編)を書くかわかりません……あしからず~~(^_^;)



とりあえず次は未完のものたちを片付けようと思ってますf(^_^)
何故かリクエストの多いキミゴゴを……と思っていたのだけれど、多分先に『夏休み』再開しようかと(諸事情により……)
キミゴゴ……教生シーズンの6月くらいまでには~~~(お待ちくださってる皆様、スミマセン~~)




* Category : 短編
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待ってます * by Happy 12
続き、書いてください!!!!

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No title * by めい
キスフレ!!刺激的でいいですね!!
もんもんとする直樹さんがまたいい。
琴子の天然で振り回してほしいな~。
ぜひぜひ続きよみたいです!!

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Re.ねーさん様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます♪

爆笑ありがとうございます(^w^)悶々直樹さん、ちょっと書いてて楽しかったですよ。私も青い入江くん、謎過ぎて苦手だったんですけど、チャレンジしちゃいました(^-^)v
是非、ねーさん様も禁欲的な入江くんに挑戦してみてください♪………とはいえ、e様にあんなエプロン琴子ちゃん見せられたら……難しいですね。やはり野獣降臨……でしょうか?(^w^)いや、どちらも楽しみですけどね!

Re.Happy 12様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

続き切望していただいて嬉しいです(^w^)
すぐに書けるかどうかはわかりませんが、絶賛妄想中です♪

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

私もこの話のリコメでちょいちょい不正投稿に……f(^^;セ〇レとかNGワードなのね……
そうですよね~~世間一般はソフレなんて概念はそうそう認知されてません。若い男女がお泊まりしてて何もないなんて、信じるのは紀子重雄理美じんこくらい? 重雄さんはほっとしているのか……娘の父としては複雑かも。
にしても、忍の一字の入江くんです(笑)
無自覚の上に妙な意地で手を出せない……ほんと頑張り屋さんですわー(爆)

武人くんエピの時も素知らぬふりしてあっという間に外に行ってるし……(と、突っ込んでしまいましたよ)で、ちゃっかり琴子強奪。この次には清里エピだから、既に直樹の中に琴子はしっかりと大切な存在と位置付けられてる筈なのに……でも無自覚!
無自覚なままお泊まりして添い寝することを許し、さらにはキスまでして恋人関係ではないと通せるのか……ちょっと実験的にそんな関係が継続出来るのか試してみたくなってます(笑)
そういって自分の気持ちを誤魔化し続けると、拷問のような悶々生活が続くだけなんですけどね(^w^)
すぐに、書けるかどうかはわかりませんが、(なんか書き始めると長くなりそうな予感が……)帰着点が見つかったら続き書くかもです♪

Re.emasque様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

よ、読みたいですか~~? ema様にそう言っていただいてめっちゃ嬉しくて、ずっと妄想してましたが……なかなか例の本に収めるのは大変そうな気が……f(^^;要相談ですね~またメールします!