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個別記事の管理2018-08-05 (Sun)

※※※※※※※※※※※




沙穂子さんたちと別れたあと、地下鉄の駅まで二人で並んで歩いていく。平日の昼間だけど車の通行量も、行き交う人の波もそれなりに多い。さすが大都会の狭間だ。
早く一緒に家に帰って、二人でゆっくり話したいなーと思ってたのに入江くんはまた大学に戻らなきゃ行けないんだって。
うん、仕方ないよね……遅れた時間を取り戻すのは流石の入江くんでも大変なんだよね。それなのに、あたしの為に今日は朝一番でわざわざ病院にーー(しかも産婦人科に!)来てくれたのだと思うと、申し訳ない気持ちと飛び上がりたいくらいの嬉しい気持ちが混在して、胸の動悸が激しくなっちゃう。
黙々といつも通りに足早に歩く入江くんと並んで歩くのはかなり大変だ。あたしは必死に早歩きをしてその隣をキープする。

どんよりとした灰色の空から、いつの間にかちらちらとと粉雪が舞い落ちる。

「うわー寒いと思ったら雪だ……」

つい立ち止まって空からの冷たいひとひらを掌で受け止める。
けれど、入江くんがすたすたと行ってしまうので慌てて追いかけた。
すると、珍しく入江くんが立ち止まってあたしのことを待ってくれる。
思わず嬉しくなって、追い付いた途端にその腕に巻き付いた。
振り払われるかと思ったけれど、特に表情を変えることもなくあたしを一瞥し、そのまま歩き出す。
あ、いいのね? このまま腕に巻き付いててもーーその沈黙を了解と受け止めて、再び歩き出す。なんだかこのままいくつも駅を素通りしてしばらく歩いてもいいかも、なんてちょっと思ったりして。

「予報じゃ積もらないらしいな」

入江くんが空を見上げてぽつりと呟く。
そっか。ちょっと残念。子供の頃のように手放しでわくわくするわけじゃないけれど。

「前みたいにたくさん積もって身動きとれなくなってもね……」

ホント、大都会は雪に弱いものね。
前の大雪もバレンタインの頃だっけ。
懐かしいな……雪で帰れなくなって、入江くんの部屋に泊まったんだよね……
あの夜はなーにもなくて、落ち込んだりしたけれど、まさかその2年後に結婚して夫婦になってるなんて思いもしなかった………

「全部ちゃんと思い出したのか?」

「うん。何から何まで……ぜーんぶ思い出せたよ」

あの雨の夜のプロポーズからたった2週間で結婚式を挙げて……そしてハワイのハネムーン……初めて結ばれた夜も……全部思い出せたよ。入籍するまで色々あったけど、年が明けてようやくあたしたち、名実ともに本当の夫婦になれたよね。
ささやかな日常の何気ないワンシーンが、アルバムを捲るように、今は鮮やかに思い出すことができた。
ーーよかった。記憶を取り戻せて。
悲しかったこともあったけれど、どれも大切な二人の思い出だから。



「入江くん、ごめんね。色々心配かけて……」

「だよな。おまえがすぐ事態を説明してくれたら、こんな誤解、すぐに解けたのにな」

「う……たしかにそうだけど……」

でもあまりの衝撃に入江くんに話せなかったんだもの。
沙穂子さんが入江くんの子供を妊娠してるーーそれを入江くんが知ったら……すぐに教えてあげなければいけないことなのに、あたしは自分からとうとう言い出せなかった。うん、話してりゃすぐに間違いだってわかったのにね。

「……おまえが離婚を切り出したのが、子供が出来ないとか、何か病気を抱えているとかそういう結論に辿り着いた時ーー」

入江くんが淡々と話し出す。

「おれも怖かったーーすごく」

「入江くん?」

「子供が出来ないくらいならまだいい。これから医療も発達するし、何か手はあるに違いないと。養子をもらうとか子供のいない生涯でもかまわない。ーーけれど、もし子宮癌とか卵巣癌とかだったら……この年齢だと進行も早い。おまえが離婚を切り出したんだ、余程の事態なんだろうとーー最悪のことばかり考えて怖くてたまらなかった」

「……入江くん……」

「少なくともこの一晩で、婦人科医療の論文をかき集め読みあさり、婦人科医師になる決意が固まりつつあったかな…」

「入江くん……! ご、ごめんね! そんなに心配してくれてたなんて……」

そして、あたしは病院でもらってきたブライダルチェックの検査結果を鞄から取り出してみせる。

「ほら、この通り何の問題もないから。排卵もきちんとしてるし、 赤ちゃんバンバン産めるって! 子宮も卵巣も健康だよ!」

入江くんはさっと検査結果に目を通すと「ホントだな……よかった」と少し笑った。

「ただバンバン赤ん坊を産むのはもう少し先だな。おれたちはまだ学生の身だし」

「う、うん。それはわかってるよ! 」

「きちんとこうした話をせずに来てしまったけど、帰ってから一度ちゃんと話し合おう」

「………はい」

ほどなくして地下鉄の入口にたどり着いた。銀座から日比谷ってほんと、近いんだよね。もっと二人で歩きたかったし、たくさん話もしたかったな。
大学に戻る入江くんは都営三田線で世田谷に帰るあたしは千代田線だ。それぞれ違う方向に向かうだけなのに、しばしの別れが少し寂しく感じてしまう。
でも、また夜に会えるものね。
だってあたしたちは帰る場所が同じなんだもの。

あたしは改札口で入江くんを見送ろうとしたら、「おれが見送る。おまえ構内で迷子になりそうだ」と逆に見送られてしまった。
もう! 一応これでも生まれた時から都民なんですけどね!
そりゃ、未だに鉄道路線図把握しきれてないし、幾つも路線が混在する駅構内はしょっちゅう迷子になるけどね……

「おふくろに電話しておいたから。駅まで迎えにきてくれる。それと、親父さんにも。今日はおまえ、店には戻らないって。記憶も戻ったって伝えておいたから」

もう、いつの間に! 手回しの早さに感心しちゃう。
それに色々有りすぎて、あたしはもうすっかりお父さんのぎっくり腰のこと忘れてたよ。そっか、しばらくお父さんと店に泊まるつもりだったっけ。

「ありがとう……」

「おまえの記憶が戻ったって言ったらお袋、今夜はパーティ!って張り切ってた」

「お義母さんにも心配かけちゃったな」

「おれにも早く帰ってこいって云われたし」

「帰れる?」

「まあ努力するよ。ほら、そろそろ行けよ」

「……うん。じゃあね」

違う場所に向かっても、帰る場所は同じ。そりゃただの同居人の時もそうだったわけだけどーー今は帰る部屋も一緒だものね。その1日の終わりに共に過ごす処へーー
あたしたちはーー夫婦なんだものね……。

夫婦になれてよかったという幸せを改めて感じることができて、寒い大気の中でも心はほんわかと温かかった。






* * *





「はぁー食べ過ぎちゃった……」

その夜、予告通りお義母さんがご馳走を準備してくれて、ささやかな快気祝いをしてくれた。
入江くんもちゃんと早目に帰って来てくれたし、お義父さんもお義母さんに早く帰るよう厳命されたみたい。久しぶりにみんなに笑顔が戻る。
お父さんも腰の痛みが落ち着いて、大分動けるようになったから今夜から入江家に戻ると連絡があった。

「よかったな。琴子」
お父さんは特に何も訊かなくて、ただそう言ってくれた。

いろんなことが丸く収まって、安心したのか、あたしの食欲もばっちりと戻った。
食べ物が美味しく感じられるって本当に幸せ。お義母さんの料理の何もかもが美味しくて久しぶりにお腹いっぱいになるまで食べちゃった。
おまえ、食い過ぎ、って裕樹くんに呆れられちゃったけどね。
ことの顛末はみんなにもあまり詳しく話さなかったけれどーー沙穂子さんのことを話すのも躊躇われたし、結局ただの勘違い劇場だったわけだものねーーあたしの晴れやかな顔をみて、何もかもすっきり解決したのだとみんな悟ってくれたよう。

そして、食事の終わりに、入江くんがみんなの前であたしたちの家族計画について話してくれたのはびっくりしたなぁ。
そりゃ、たしかに一番のネックはお義母さんだもんね。すぐにでも赤ちゃん産んでいいのに! って不満そうだったけど、学生生活を中断して一番困るのは琴子だからと熱弁してくれて、お義母さんも渋々納得してくれた。
もっとも、こうしたことは計画通りにいかないこともあるし、万が一の時には協力をお願いしますとお義母さんに頭を下げて。入江くんに限って万が一なんて有り得ない気もするけど、きちんと頭を下げる入江くん、ちょっと格好よかったよ。(少し不満そうなお義母さんも、そうね、授かり物なんだから何がどうなるかわからないわよね、万が一でも十でも百でもどんとこいよー!とにやりと笑ってたな……)

そのあと、お風呂にはいって二人の寝室に戻ったのはまだそんなに遅い時間ではなかったけど、ここ数日の睡眠不足と満腹感からすでに生欠伸を何度もして激しい眠気が訪れている。

いやいや、でも寝てる場合じゃないんだよねー。
そうよ。記憶が戻って、とにかくヤバっと思ったのは、もうバレンタインがあと5日後だということ!
なのに、なのに、セーターは全くできていない!
こればっかりは凛々子さん恨むなー。あたしの時間を返して~~~
こりゃ、もう毎晩徹夜しないと無理だ……


「琴子……」

お風呂上がりの入江くんがタオルを首にかけたまま部屋に入ってきて、あたしは慌てて編みかけセーターの入っていた篭を隠す。

「そんなもん、今更隠してもバレバレだよ」

「へへへ」

あたしは頭をかく。やっぱバレてたか。

「そんなことより、琴子。これ、破いてもいいんだよな?」

入江くんが引き出しから出したのは、あたしが書いた離婚届けだった。

「あー、もちろん! そんなの早く破いちゃって!」

「いや……それともこの先必要になるかもしれないからとっておくか?」

ニヤリ、と意地悪く入江くんがその薄っぺらな紙をひらひらさせる。

「えー! いや!取っておかないで~~破いて~~燃やして~~この世から抹消しちゃってくださいっ」

あたしは懇願しながら思わずそれを奪いとろうとする。入江くんがそれを持って手を高いところにあげたりして、あたしに奪われまいとする。もう、イジワルして遊んでるでしょー!!

そして、ひとしきりあたしをからかったあと、机の上の入江くんの灰皿に(部屋では吸わないけど、ベランダ用に置いてあるの)その紙を置いて、ボっとライターで火を点けた。
薄っぺらな離婚届けは一瞬のうちにふわりと燃え上がり、あっという間に黒い燃えカスだけがガラスの皿の上に残った。


「よかった……」

少し涙目でそう呟くあたしを入江くんがそっと抱き寄せてくれた。

「もう、一人で抱え込むなよ。おれたち夫婦だろうが」

「うん。これから、何でも話すね。入江くんもだよ?」

「さあ。おれはどうかな? おれはおまえと違って口下手なんでね」

またそんなイタズラっこな目をするー!

「誰が口下手よー! もう入江くんってば……」

そう抗議しようとした唇が、ふいに塞がれる。
ちゃんと記憶を取り戻してから初めてのキス。
あたしたち、この3ヶ月の間に、本当にたくさんキスをしたよね。
数えきれないくらいのたくさんのキス。
そして、これからももっともっとたくさんのキスをするんだよね……?

そのまま入江くんに抱えあげられ、ベッドにそっと下ろされる。
額、瞼、鼻ーー順番に入江くんの冷たい唇が落とされて胸がきゅんっと熱くなる。
融け合うようなキスを繰り返す。
何度も、何度もーー

ーーああ、セーター……どうしよう。ちらりと思ったのはほんの一瞬だけ。
あっという間に激しい波にさらわれて、息すらできないくらい翻弄される。触れる入江くんの唇や指先がもたらす快楽の海にどんどん飲み込まれて溺れていく。

「入江くん……大好き……」

「知ってるよ」

キスされた数だけその言葉を耳元で囁く。

入江くんーーほんとにほんとにーー大好きだよ……






そして、結局。バレンタインが来るまで毎晩お仕置きと称して可愛がられたあたしは、予想通りセーターを完成させることは叶わなかったわけで。

でも、まーーいっか。
記憶を失う前に頑張って特訓していたそれなりに美味しいガトーショコラは無事に進呈することができたしーーとはいっても、当日に一番美味しくいただかれたのは、やっぱりあたしなんだけどね。








※※※※※※※※※※※※※※


終わりましたf(^_^;
結局、元ネタとは全く違うお話でしたが。

もう少し早くアップするつもりだったのにいつもと変わらずf(^_^;
ラストのいちゃこらシーンだけを残して一週間放置しておりました……


ラブラブな二人はバレンタインまで5夜連戦だったようで(^w^)
お仕置きの詳細は、鍵付きで……書くかも?


それと、コメントの返信がすっかり滞って申し訳ないです。お盆休みにのんびりと返しますのでしばしお待ちを~~m(__)m




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* Category : らぶららら
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* by みか
ずっと続きを楽しみにしていました。
全11話お疲れ様でした。
そんでいてとても楽しかったです
こんなお話かけるなんてすごいなと思いました、
次は2人のイチャイチャ楽しみにしています。

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* by なおちゃん
めでたしめでたしv-10

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Re.みか様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

最後までお付き合いありがとうございました!楽しんでいただけたようでよかったです。

ふふ、イチャイチャ……頑張りまーす笑



Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

ほんと、全ては凛々子さんの嘘から始まったというドタバタ劇場でした。
ええ、もっとお互い何でも話せる環境ならここまで琴子が悩むことはなかったかも。
でも直樹さんは新婚早々琴子の必要性再認識ですね!
とりあえず最終回に離婚届けを灰にするシーンは入れたかった!
ええ、バレンタインまで(いや、それ以降も)お仕置きと称するイチャコラはとまらなーい(笑)に違いないのです!

個別記事の管理2018-07-29 (Sun)

豪雨に猛暑に逆走台風……大丈夫か、地球、って毎年いってますね(-_-)

うちは無事通り抜けましたが、皆さまのところもご無事でありますように。

そして、お話は……終われませんでしたorz



※※※※※※※※※※※※※※※




そして、今ーーあたしたちは、クリニックからほど近いカフェに4人向かい合わせで座っていた。
ほんの数メートルの距離だったけど、2月の午前の外気は冷たくて、白い息を吐きながらあたしたちは、入江くんが「あそこでいいか?」と指差した小さなカフェを見て無言で頷くと、そのまま急ぎ足で飛び込んだのだ。
入江くんはブレンド、沙穂子さんはミルクティ、ハトコ孃はココア。あたしはカフェオレ。それぞれ温かい飲み物を頼んだけれど、あたしはまず出されたお冷やでからからだった唇を潤す。
………色々有りすぎて、あたしは朝っぱらからどっと疲れていた。

「だいたいの経緯は、理解できた」

相変わらずの無表情で入江くんが素っ気なく口火を切った。
……怒ってる。
かなり怒ってるよね?

「つまり、琴子がおれと離婚したいなどと馬鹿なことを言い出したのは、沙穂子さんがおれの子供を妊娠したと勘違いーーいや、そのハトコさんに騙されたせいーーというわけか」

あたしはこくこくと頷く。するとハトコ孃は言い訳がましく、
「騙すなんて人聞きの悪い。一応、脅かしたあと『なーんちゃって』ってオチをつけてあげたのよ。なのに、あなたってば耳に入らなかったみたいでふらふらとどっかに行っちゃうんだもん」などと悪びれる様子もなく宣う。

はあ?

「何が『なーんちゃって』よ! こっちはショックでそのあとのこと、なーんにも覚えてないわよっ。そ、そ、それくらい、あたし、もう、もう、どうしたらいいかわかんなくってっ! あ、あたし……もう入江くんの奥さん続けられないって……」

あの時のことを思い出したら、鼻の奥がつーんとして、涙目になり、鼻水もだらだら流れてきた。
それっくらい衝撃的だったんだからぁ~~!

「落ち着け、琴子」

入江くんがテーブルにセットされていたペーパーを取り出して、鼻に当ててくれる。思わずちーんって鼻かんじゃったよ……なんか子供みたい。

「ごめんなさい! 琴子さん! なんてお詫びしたらいいのか……まさか、あの時凛々子ちゃんがそんなこと云ってたなんて……」

沙穂子さんが頭を深々と下げ、「ほら、凛々子ちゃんもちゃんと謝って」と促す。

「悪いなんて思ってないわよ、……沙穂子の受けた仕打ちと比べたら……」

ふてくされたような仏頂面で、そっぽを向いて呟く。あくまで反省の色はない。ってか、あたしたちよりだいぶ年上だよね? ほんっと、子供か!

「大泉の人間のわりに頭の悪い女だな。あんたは」

わー入江くんってば大泉家の人なのに容赦ない………ほら、沙穂子さんも目を丸くしてるよ~~

「婚約破棄のことは沙穂子さんには誠心誠意謝罪した。そして納得してもらった筈です。無論、賠償請求もあり得ると覚悟もしていた。それだけのことをしたのだと。
何の制裁もなく許していただけたことは感謝しても感謝しきれない」

そういって沙穂子さんに頭を下げる。

「ただ、一旦区切りがついた以上、たとえ遺恨があったとしてもあとは沙穂子さんが自分で向き合うしかない。他人がどうこうできる問題じゃない。あなたが沙穂子さんの姉のような立場だとしてもーー」

うん、正論だけど……やっぱ、きついなー。沙穂子さんもちょっと唖然としてるかも。
そして今度はハトコ孃を見据える。

「あなたは、沙穂子さんのために琴子を苦しめたかったのかもしれないが、それでいったいどういう着地点を望んでいたんだ? 琴子が離婚するといって出ていってもおれは沙穂子さんのところに戻ることはない。忘れかけてた沙穂子さんの瘡蓋(かさぶた)をひっぺがしてを塩すりこんだだけだろう」

「元はといえば瘡蓋になるような傷をつけたの、あんたでしょうが!」

そういって、入江くんに指を突きつける。確かにそうなんだけど、話が堂々巡りになってしまうよ……

「沙穂子、あんた、『直樹さん、とっても紳士なの。優しくて王子様みたいなの~~』って電話でのろけてなかったっけ? こいつ顔は美形だけど、全然想像と違うんだけど!」

すみません、これが本性なんです~~
しかし入江くんを『こいつ』呼ばわりとは……

「今のが本当の直樹さんですよね……琴子さんといる時の直樹さんが真の直樹さんだって気はしてたんです。
だからね、凛々子ちゃん。私、婚約破棄を云われた時、ショックというより、ああ、やっぱり、って思ったの。だから簡単に引くことができたのよ。あの琴子さんに対してちらりと垣間見えた意地悪な直樹さん、私には耐えられないし、かといってずっと本音出されない夫婦もきっとお互い耐えられなくなると思ったの」

そ、そうだったのね………
入江くんへの想いをあんなにうっとりと語っていたわりに潔いなーとは思ったけど……

「だから、怒りとかあまり沸き起こらなくて、泣いて追いすがろうとも思わなかった。これ以上惨めになりたくなかったし、ささやかなプライドもあったせいかしら。でも流石に二週間でお二人が結婚した、ときいた時は暫く落ち込んじゃって……きっぱり吹っ切れたつもりだったのに、『たった二週間』というのはショックだったかしら……」

本当に、それは申し訳ない気持ちになる。あたしは浮かれまくってて、沙穂子さんや金ちゃんの気持ちを全然考えてなかった。

「その件については謝ります。母の暴走を食い止めらなかったおれの責任です」

入江くんが真摯に謝る。あたしも一緒に深々と頭を下げた。

「あ、ごめんなさい。そんな、今さら責めるつもりはなかったの。暫く凹んだけど、お陰ですっぱり気持ちを切り替えて前向きになれたし。あ、私、春から心機一転留学するつもりなの。ただ一番どん底な時に凛々子ちゃん帰国して、引きこもってめそめそしてるとこ見られちゃったから……」

そしてちらりと隣のハトコ孃を見つめた。

「この娘は人のこと悪くいう子じゃないから、あたしが色々訊いてもちゃんと話してくれなかったの。だから、 おおよその話はメイドたちからきいたのよ。もお、あたし許せなくって!」

ドン、とテーブルを叩く!
彼女が沙穂子さんのこと、本当に可愛がってきたんだろうなぁ、というのはよくわかる。

「凛々子ちゃん、勝手に私の気持ちを汲み取らないでよ。それこそ凛々子ちゃんが帰国してくれて、ずーっと不妊で悩んでた凛々子ちゃんの妊娠の報告にすっかり沈んでた気持ちは上向きになっていたのに。もう、破談のことなんて忘れてかけてたわ」

「でも、ここでこの子が妊娠してるかも、って知った時、また落ち込んでたじゃない。まだ吹っ切れてなかった証拠よ!」

「だ、だから、それはさっき云ったでしょ?な、なんか直樹さんが妊娠するようなことするなんて想像全くできなかったものだから、ちょっとびっくりというかショックで……当たり前のことなのに、そっか、琴子さんにはしてるのね……って考えたら……ああ、私ったらなんてはしたないことを考えて! ……と自分に嫌悪を感じて悶々としてましたの」

あたしと入江くんはなんと云っていいんだか、困惑の表情をうっすらと浮かべる。

「何いってんの。あんた結婚をなんだと思ってるのよ。王子様だってやることやるわよ」

呆れたように沙穂子さんを一瞥してから「こんな子だから、ほっとけないのよねぇ」と呟いた。

「でも、ま、確かに悪かったわ。あなたにウソついてごめんなさい」

そしてハトコ孃ーー凛々子さんはようやく殊勝に頭を下げた。

「あ、ひっぱたいたこともね。ついこの略奪女!と思ったら手がでちゃって」

「沙穂子さんにおれを殴る権利はあったが、あなたに琴子を叩く権利はない」

ぎろっと入江くんが眼光鋭く睨み付ける。
凛々子さんは思わずひっと怯えた顔を一瞬みせたけど、さすがすぐに表情を戻していた。
沙穂子さんの方がまだ怯えている。
ここまできっつい入江くん、知らなかったんだろうな~~

「………だから謝ってるじゃない。人をひっぱたくことなんて出来ない沙穂子の替わりにしたけど、ちょっと筋違いだったみたいね。ごめんなさい」

今度は深く頭を下げた凛々子さんを、沙穂子さんが少し安堵したように見つめる。

「………凛々子ちゃんは、昔から姉御肌で強くて凛々しくて、私の騎士みたいなものだったの。……他の人には狂暴な毒舌女王として恐れられてたけど、私には優しかったから……」

狂暴な毒舌女王って………

「この娘はね、あたしの妹みたいなもんなのよ。うちは分家で父親は事業に興味なくて、一族から浮いてた家だけど、沙穂子は本家の一人娘。家の敷地は隣同士だから生まれたときから可愛がってたの。
あたしがいなきゃ何にもできないお嬢様で。あたしがずっと守ってやらなきゃって思ってた。
なのに、あたしがちょっと海外いってる間に、勝手に見合いするわ、婚約するわ……あげくの果てに婚約破棄されて落ち込んで……ほら見なさいって思ったけど、色々話をきいてたらもう、腹が立って腹が立って」

たしかに沙穂子さん側の人から話だけ聞いたら、沙穂子さんの受けた仕打ちはあんまりだと思うよね。

「………沙穂子はね、あたしにしょっちゅう国際電話で遅れてきた初恋の話をしてくれたのよ。
ほんとは見合いで結婚なんてあたしは反対だったけど。政略結婚なんてろくなもんじゃないもの。
この娘がそれだけ惚れてるなら仕方ないって。
でもね、そんなにすぐ婚約して大丈夫?あたしが年明けたら帰国するからそれまで待ちなさいって……ストップかけたんだけどね。
そしたら年明ける前に向こうから婚約破棄言い渡されて。
なんなの、それ? って遠い異国の地であたしがどれだけ憤慨したことか」

「ごめんね。心配させちゃって。そして、私からちゃんと凛々子ちゃんに説明しておけばよかった。もう終わったことだと」

「ま、予めあんたに説明されても頭に血が上って、おんなじことしちゃったかもだけど~~」

「ずっと私の騎士だった凛々子ちゃんが結婚して、私も一人で頑張らなきゃって思ってたの」

「あんた、失恋して逞しくなったわよ。まさか、沙穂子にひっぱたかれる日がくるとは思わなかった」

がっしり手を取り合う二人。

「それに、あたしが結婚したってあんたはあたしの妹分よ、一人で頑張らなくてもーーあ、今、よくこの女結婚できたなーって思ったでしょ!」

二人の世界にいるかと思いきや、唐突にあたしの方を向いて指差されてドキッとする。
あ、バレた?

「一応分家とはいえ、これでもあたしアパレル部門の会社の後継者だからねー。部下から出来そうな男みつくろって婿養子よ。ええ、勿論向こうには拒否権なんてないわよー」

うわー肉食系!?

「あら、そんなことないのよ。凛々子ちゃん、一族みんなの反対を押しきっての大恋愛なのよ。年下だったけど、旦那さん優秀だし、今回のパリの店の立ち上げも大成功だってきいたわ」

「ああ。北英グループの新規ファストファッションブランド『LiLi』のチーフプロデューサー……でしたか」

入江くんが何か思い出したように呟いた。

「あら、よくご存知で」

「そりゃ、資本協力頼むからには色々調べますので。あなたが社長にはならなかったんですか?」

「社長の器じゃないわ。こんな性格だから。子供も生みたかったし」

「凛々子ちゃん、結婚したあとに子宮内膜症になって、不妊の原因にもなってたの。治療に専念するために会社は旦那さんに任せて仕事から身を引いたのよ。赤ちゃん、どうしても欲しいからって」

……そ、そうだったんだ。

「で、でも! 妊娠できたんですね! よかった! おめでとうございます!」

あたしは思わず両手を叩いて祝福する。
あの母子手帳とエコー写真を思い出した。

「……ありがとう。あたしの妊娠がなければ、ここで会うこともなく、あなたが苦しむこともなかったのに。そんな風に素直に他人の幸せを喜べるのね……」

凛々子さんは少し呆れたように目を丸くしたあとくすっと笑った。

「……だからといって、凛々子ちゃんが琴子さんにしたこと、決して許されないと思うけど……全部あたしのためなの。あたしが臆病者で自分じゃ何もできない子だったからーーごめんなさい。本当にごめんなさい!」

「さ、沙穂子さん、もういいですよ。そりゃショックだったけど……違うとわかったから……もう大丈夫です」

「………琴子さん……」

「凛々子さんも謝ってくれたし、この話はこれでおしまい!」

「琴子、いいのか?」

「うん。だって、みんな勘違いしてだけってわかったもの。沙穂子さんは妊娠してないし、あたしも病気じゃない。それですっきり解決! で、もういいよね?」

あたしはそういって入江くんの方を見る。
入江くんは何となく不満そうだったけど、あの辛かった時期にこれ以上記憶を戻すことをわざわざしなくてもいい、とあたしは思った。

「離婚を考えるくらい悩んで苦しかったのに? 」

「うん、離婚しなくてよかった!」

そして、入江くんも離婚届け出してなくてよかったよーー今更ほっとする。

「本当に……ごめんなさい。そして、琴子さん、凛々子ちゃんのウソなのに、私のことを一番に思いやって身を引こうとしてくれて……ありがとうございます。そんな琴子さんだから直樹さんが選んだのね……」

沙穂子さんがそう呟いた

「……琴子に免じて、この件はもうチャラにしましょう。凛々子さん。あなたが琴子を精神的に追い詰めた上にひっぱたいたというのは許せませんが……もう関わらないということで目をつぶります」

「ありがとう」

ーーそして、あたしたちは漸くほっと息をついた。みんなの顔を見回すと、その表情は入ってきた時よりもずっと和らいでいたようだった。










※※※※※※※※※※※※※※


4者会談に思わず時間がかかってしまいました。
次こそ終われるハズ……(^^)d
なるべく早くアップしますねー





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* by なおちゃん
琴子ちゃんは、直ぐに簡単に許してしまうけど?まあ、琴子ちゃんらしいけど、入江君は、納得出来たのかな?

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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメ、相変わらず遅くてすみません!

そうです。凛々子さんまーたっく悪びれてませんね。自分と自分の周囲を守ることに関しては徹底してる女王様ですからf(^_^;
この婚約破棄に関しては私、引き際のいいお嬢に拍手喝采でした。一話で結婚まで持ってきたい裏事情があったのかと詮索してしまうくらい(^w^)多少ゴタゴタ揉めた方が面白いと(台湾版のように)話の作り手として考えちゃいますものね。そんなお嬢をちょっと思って挿入したお嬢のエピでした。
確かに!……『王子様、ヤるのが仕事』に、逆に私も吹いちゃいましたよ笑
はい、一件落着……ご要望のお仕置きですが……emaさんちに謹呈するエロを書いてたらちょっと余力がなくなって書けないかも……f(^_^;ってか、毎回ワンパターンなえろにちょっとスランプ気味ですわー。





Re.なおちゃん様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメ遅くなりすみません!

ほんとに、女神のような琴子ちゃん、自分がすっきりしたらすぐに許しちゃいますね。入江くんは納得してませんから……その悶々はお仕置きタイムに還元です(^w^)


Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメ遅くなりましてすみませんm(__)m

はい、沙穂子さん嫌いの紀子ママさんに受け入れてもらえるかちょっと心配でしたが(笑)至極真っ当と思ってもらえてよかったです。沙穂子さんからしてみれば、いくら婚約破棄受け入れられたとしても、二週間で結婚って……あんまりだわーて思いますよね。私はこれを受け入れた重樹さんが、企業のトップとしては???って思ってます。
まあ色々問題ありの凛々子さんですが、今回のことでお嬢のわだかまりも少しは溶けたのかも……入江くんの本性もしっかり見れたしね!!(^w^)きっと、結婚しなくてよかったーと後からじわじわ来ますね笑

個別記事の管理2018-07-22 (Sun)

最終回まで一気に書いてしまうつもりでしたが……週末忙しくて、いつアップできるかわからないのでf(^_^;とりあえず、キリのいいところまで。
すみません、ちょー短いですっm(__)m




※※※※※※※※※※※



白を基調とした広々とした玄関ホールに白百合の如く清楚で美しい沙穂子さんが困惑の表情で立ち竦んでいた。その横には沙穂子さんとは対照的に真っ赤なワンピースを着て派手やかな印象の沙穂子さんの自称ハトコのお姉さん。
そして、玄関のアールデコ調のガラス扉を背に、少々息を切らして立っているのは入江くん。えーと……走ってきたの? な、なんで、ここ知ってたんだろう……?
胎教によさげな静かな音楽が流れる産婦人科クリニックのホールに、あたしたち四人はしばし茫然と顔を見合せーー

そしてーー

「琴子! 子供が出来なくても構わない! 二人だけの生活だって決して悪くないと思う。もしいつか欲しいと思ったら養子をもらってもいい。おまえが傍にいてくれるだけでいいんだ。たとえ治療が難しい病だとしても一人で苦しむな。おれが絶対治すから! 一緒に戦おう!」

「琴子さん! 先日は取り乱してごめんなさい。ちょっと驚いてしまっただけなの。な、直樹さんがそーゆーことするの、想像つかなくって。あ、結婚してるなら当たり前なのに、イヤだわ、あたしったらっ! 琴子さんなら素敵なママになれるわ! おめでとう!」

「沙穂子さん、ごめんなさい! あなたが入江くんの赤ちゃんを宿してるって知ってたら、あたし入江くんと結婚しなかった。 入江くんをあなたに返すから、赤ちゃんをパパの居ない子にはしないでーー。そして元気な赤ちゃんを産んでね!あ、あたしなら大丈夫だよ! 辛いけど遠くから二人を応援してるから!」

「「「……………………???」」」

え? え? えーーー?

3人が同時に堰を切ったように喋りだしたので、何をお互い話したのか一瞬よくわからなかった。そしてあたしたちはみんなきょとんとしてーー理解不能といった感じで互いの顔を見比べる。

「えーと……??」

「おい、琴子、今、なんていった?」

「い、入江くんこそ。お、おまえが傍にいてくれるだけでいい、ってなんか素敵なセリフが聴こえたような……」

「何故そこだけしっかり聞き取れるんだ……ーーって、沙穂子さんが赤ちゃん!?」

「ええ? あたしが? 妊娠してるのは琴子さんじゃ」

「えーと、それは誤解です! あたしここにはブライダルチェックにきただけで。結果は問題無しの至って健康……」

「え? そうなのか?」

「あ、あの、あたしも妊娠なんて……ここには凛々子ちゃんの付き添いで来ただけで」

へ? 付き添い? どーゆーこと!?
あたしの頭は沙穂子さんの言葉をすぐには噛み砕くことができなかった。

「え? でも、あの母子手帳……大泉沙穂子って」

鞄から半分飛び出た可愛らしいミッ◯ィーちゃんの絵柄のついた母子手帳……

「あー、あれ、実はあたしのよ。大泉沙、じゃなくて、大泉凛々子。あのとき沙穂子に鞄預かってもらってトイレいってたのよね」

……はい?

それまで傍観者を決め込んでいたハトコのお姉さんが、唐突に割り込んでしれっととんでもないことを告白する。
ちょっと待って! ちょっと待って!
なにそれっ~~~!? いったいどーゆーことよ!? えーー? じゃあ、沙穂子さん、妊娠してないってこと!?

「で、で、でも! あなた、あたしに云ったわよね?
沙穂子さん、妊娠してるって! 入江くんの赤ちゃんを……沙穂子さん、一人で産むつもりだ、って!」

あたしは思い出したばかりの記憶の中から、あの時このひとに云われた言葉を反芻し、食らいつくようにハトコ孃に掴みかかる。

あたしがどれだけ悩んだか!
どれだけ苦しんだか。
どれだけ辛かったかーーー!!

「はぁーー?」

「凛々子ちゃんーーなんてことを! なんでそんなウソを!」

入江くんが顔を思いっきりしかめてハトコ孃を睨み付けた。沙穂子さんは青ざめ、頬を両手で覆ってハトコ孃を凝視する。

「ーーだって。あんたのせいで沙穂子がどれだけ苦しんだと思ってるのよ。この娘の痛みをあんたにも思い知らせてやろうってね。そもそもあんたが勝手に勘違いしたのに便乗しただけでしょ」

勘違い!?
でも母子手帳、大泉沙ーーって。あ、沙の字のサンズイまでしかみえてなかったわ。

「凛々子の凛はニスイだけどね」

そういってバックから母子手帳を取り出す。そう、この表紙だ。

「3年ここで不妊治療して、治療を辞めて海外赴任して、戻ってきた途端に何故か妊娠できたのよね~~」

ハトコ孃は悪びれることもなくあたしに母子手帳を見せつける。
あ、ほんとだ。大泉凛々子ーーへぇこれでりりこ! いや、そんなこと感心してる場合じゃなく!

「じゃあ、じゃあ、沙穂子さん、妊娠してない……?」

「してません!」

「してるとしても相手、俺じゃねぇし……」

入江くんがひくひくとこめかみを震わせながらものすごく低い声で呟いた。
その言葉に沙穂子さんの表情が少し悲しげに曇る。

えー、そんな風に断言できるって……もしかして、二人って……

「直樹さんは赤ちゃんどころか、キスすらもしてくれませんでしたから……」

沙穂子さんも伏し目がちにボソッと呟く。

「……キスどころか手もろくに……だから直樹さんは超奥手な方だと……」

へ……そ、そうだったの? 婚約までしてて……?

よかったぁ……(え? 奥手??)

安心すると同時に、だんだん怒りがふつふつと沸いてきた。
そう、目の前の、りりこだか、ららこだか知らないけど、他人のこと散々悩ませといて、しれっとしてるこのハトコ嬢に!

っつーか、沙穂子さんにならともかく、この人にそんなウソつかれて騙される筋合いなんてない。そのうえ唐突にひっぱたかれたことも思い出した。
大泉家のお嬢様なわりに随分狂暴じゃない?
わなわなと怒りがこみあがってきて、拳をぎゅっと握りしめる。

「琴子さん! ほんと、ごめんなさい!まさか凛々子ちゃんがそんなウソをついてあなたを苦めていたなんて……」

恐縮して深々と頭を下げる沙穂子さん。

「ううん、沙穂子さんが謝ることはないわ……」

「沙穂子が謝る必要ないわよ」

ほぼ同時に同じ事を口にする。

あんたが云うな! 思わず睨み付けてしまう。

「沙穂子、自分がされた仕打ちを忘れたの? あたしがついた些細なウソなんて可愛いもんよ。婚約までしておいてあっさり他の女に乗り換えた不実な男と図々しい略奪女に、もっと徹底的に制裁を加えるべきだったのよ! あんたが毎日泣き暮らしてる間にさっさと電撃結婚って、ふざけんな!って思うのが普通でしょ? 大泉のおじいさまもあんたも甘すぎるの! なんで婚約不履行で訴えなかったのよ!」

そこを突かれると何も云えなくなってしまう。

沙穂子さんを傷付けたのは紛れもなく事実だからーー

すると。

ぱちん!!

乾いた音が静かな玄関ホールに鳴り響いた。

「さ、さほこ?」

目を白黒させて自分の頬を押さえていたいたハトコ嬢。
驚いた……。
沙穂子さんが、彼女の頬を叩いたのだ。

「な、な、なんであんたが……!」

「りりこちゃん、いい加減にして! 私が傷付いてるって連呼して、そっちの方がよっぽど傷付いていくの、わからないのーー? 」

あまりにも意外だったのか、口をパクパクさせて言葉を失うハトコ嬢。
うん、あたしも驚いた。
沙穂子さんがそんな感情を露にさせるタイプとは思いもしなくてーー。

その時、憮然と眉間に皺を寄せたまま、ひとことも口を挟んで来なかった入江くんが、あたしたちの間にすうっと割って入ってきた。

「ーーとりあえず、別の場所に移動しよう。いつまでもここの玄関先で揉めてるわけにはいかねぇだろ?」

確かに、このサロンのようなクリニックのホールで、あたしたちは患者さんらしき女性たちの注目の的になっていた。

そして、そう促した入江くんはーーまったくの無表情でーー怖いくらいの無表情でーー静かに黒いオーラを背負って、ハトコ孃を一瞬だけ睨み付けた。

あ、凍りついた。
傍若無人なハトコ孃が、入江くんと目があった瞬間、フリーズしたかのように見えたーー。







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ありがとうございます * by みな
更新ありがとうございます。
ずっと楽しみにしてました。
お忙しいとは思いますがこれからも更新よろしくお願いします。

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* by なおちゃん
沙穂子さんも、以外だけど?このあとの入江君が、怖いぞ、琴子ちゃんを苦しめた結果揉ませたのも有るけど、入江君怒らせちゃ怖い。v-40

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
またもやリコメが遅くてすみません!

自分でこの長文をお互い喋り続ける不自然さは気になりつつ(誰かが話しだせば、とめるよね、ふつう)も、この互いの噛み合わない会話の場面を一番書きたかったので、もう強行突破しちゃいました笑

直樹さんに怯んでる凛々子さんですが……まあ、この人も大概いい性格してるんで笑 (一瞬凍りついたけど多分立ち直りは早い笑)
さて次ですっきり解決……ですf(^_^;



Re.みな様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメがはちゃめちゃ遅くて申し訳ないです。
楽しみにしていただいてうれしいです。なかなか毎日更新は無理ですが、なるべく週一めざして頑張りますね。

Re.ちびぞう様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメがもんのすごく遅くなってすみません!

ふふ、面白いといってもらえてよかったー。
そう、すべての元凶はこのハトコだった!(笑)
そうなの、この三人の勘違いを吐き出すシーンが書きたくてはじめたお話でした。お互い聞き取り辛かったろうけど直樹の肝心の言葉だけ聞き取れる琴子なのです。(直樹は天才なので聖徳太子の如く話ながらみんなの言葉も聞き取れてたにちがいない)
沙穂子さんには指一歩触れてない、それさえわかれば琴子ちゃんはもう何もかも許しちゃうでしょうね〜(^w^)

Re.ルミ様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

そうです。直樹さんは琴子一筋……というか、琴子しかダメなんですよねf(^_^;
お気づかいありがとうございました(^-^)v

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメがすっかり遅くなって申し訳ないです〜〜m(__)m

そうなんです。傍若無人で高慢なだけでなくちょいと意地悪くウソまでついてハトコの仇を取るつもりでいたようです。まあ身勝手なリリコさんですが、一応お嬢が慕っているので、姉御肌なキャラなんだろうと。ええ、でも唐突に人を叩くのは凶悪ですf(^_^; ドラマにあったので取り入れたのですが、そのお陰でキャラ設定こまったわー。突然通りすがりにビンタするなんてぶっ飛んだキャラ、フィクションしかそうそう存在しないって〜〜

ほんと入江くん、自分が叩くのはOKで人が叩くのは絶対許しませんよね(おまえもアウトだよー!)

入江くんの逆襲、解決しちゃえばもうスッキリな琴子ちゃんのお陰でイマイチ物足りなかったかも……f(^_^;




個別記事の管理2018-07-15 (Sun)

本日二話更新しています。
未読の方は(7)を先にお読みください。


※※※※※※※※※※※※※※※※※




突然見知らぬ女性にひっぱたかれたあたしは、事態が全く把握できずに、思わず叩かれた頬を押さえて呆然としてしまった。

と、通り魔?
それとも、入江くんのストーカー?
唐突に降って湧いた災いに頭が真っ白になる。

「い、いったい、なんなのよっ! あ、あ、あなた誰っ」

あたしのことをあからさまに睨み付けるこの女にあたしも負けじと食い付く。

「は? 私のこと、もう忘れたの? さすが蚤の脳ミソね。そうやって人の心を踏みにじって傷つけても綺麗さっぱり忘れてお気楽に生きていくのね。いいわよね」

明らかな敵意。あたしを傷つける為に選ばれた言葉に心臓がぎゅっと押し潰されそうな感覚に襲われる。
どうして見も知らぬ人からそんな酷いこと言われるの?
あたしーーこの人に何かしたの? 傷つけるようなひどいことをーー記憶を失う前に。
なんだかとても怖くなってきた。背筋がぞわっとする。

「あ、あたしがあなたを傷つけたっていうんですか? あたしが何をしたの? あたし、三カ月間の記憶がないんです。もし、何かしたのなら、教えてください!」

「はあ? 記憶喪失……? 何見え透いた言い訳を…」

その人は綺麗な眉を潜めてあたしを睨みつける。

「言い訳じゃ……本当なんです! ちょっと頭ぶつけて……」

確かに記憶ソーシツって……ウソ臭いけどね。でも、本当なんだから仕方ない。

「じゃあ結婚したことも忘れたってわけ?」

「えーと、そうです……」

「え? マジで!?」

あたしの悲哀と困惑の入り交じったな雰囲気に、真実だと受け入れてもらえたのか、呆気にとられたような表情でまじまじと見つめられる。

「ふーん……」

何か考えあぐねるようにあたしをじろじろとねめつけている。

「忘却って都合がいいわよね。あの娘は忘れることもできずにショックで部屋に閉じこもってるっていうのに」

「えーー?」

あの娘?
あのこって……誰ーー?
一瞬にして浮かび上がったあるひとの上品で整った綺麗な顔。

「誰……のことですか?」

あたしの問いかけに、
「教えてあげない」と素っ気なく言う。

「自分で、きちんと思い出して。そしてもっと苦しんでよ。自分の幸せが他人の不幸を踏み台にして成り立ってるって」

鍵はこの人だ、と一瞬で理解してしまった。
あたしが離婚届けを書いた理由を、きっとこの目の前にいる女性が知っているーー。
そして、それはーーー。

「お願い! 待って!」

言うだけ言ってさっさと踵を返して立ち去ろうとする女性を引き留める。

「もしかして……あの娘って……あの娘って」

あたしの幸せは人の不幸を踏み台にして成り立ってるーー

「沙穂子さん……? あなた、もしかして、沙穂子さんの知り合いなんですか……?」

彼女の目がすぅっと細くなる。

「思い出した?」

答えにはなっていないけれど、彼女の表情からそれが正解なのだとわかった。
「思い出してはないけれど……でも、一番傷つけたのは間違いないだろうから……」

入江くんから、きちんと謝罪して婚約破棄には納得してもらったとは聞いている。でもそんなに簡単に割りきれたんだろうかーーと実は少しーーううん、かなり気になっていた。
あたしがそうだったように。
入江くんが彼女と婚約して、忘れなきゃ、諦めなきゃ、と自分に言い聞かせ続け、金ちゃんとの時間を楽しもうとしてもーー入江くんへの想いを簡単に忘れることなんてできなかった。

「そうよ。あなたは……入江直樹と二人して沙穂子の心を残酷なまでに傷つけた。ずたずたにね。
幸せの絶頂だったあの娘に婚約破棄を言い渡し、その上たった二週間で別の女と結婚って、何? 傷口に塩塗り込むような真似してくれて非常識にも程があるわ。本来なら婚約不履行で訴えてもいいような状況なのに、あの娘はあっさり身を引いてあげた。その好意を踏みにじるような馬鹿みたいに大袈裟で派手な披露宴をしたんですってね」

一気に捲し立てられて、返す言葉がない。
記憶にないこととはいえ、もし自分がその立場だったらどんなに辛いだろうと想像は簡単につく。

「あなたは沙穂子さんとは……」

「はとこよ。大泉のおじいさまは私の大伯父にあたるのよ。私は兄弟がいなかったから、沙穂子のこと妹のように可愛がってきたわ」

はとこ……。いまひとつ家系図かぴんとこないけど。おじいさん同士が兄弟ってことかな。確かにほんの少し、目元とか似ているかもしれない。性格は随分と沙穂子さんとは違ってキツそうではっきりした感じだけど。

「あの娘が婚約した時、私は海外赴任の主人についていってて傍にいなかったから、詳しい状況は帰国した今年になって初めて知ったの。聞いて腹がたって仕方なかった。あの娘は優しいからあっさり身を引いたけれど、私なら絶対訴訟おこすわね。こんな人をバカにしてる話、ある?」

「……沙穂子さんには、本当に申し訳ないって思ってます。そして感謝してます」

沙穂子さんがあっさりと破談を了承してくれたからーーそしてそのうえパンダイの融資まで継続してくれたからーー
おそらくあたしたちは結婚できたのだ。

記憶にはないことだけど、あたしと入江くんが結婚していたと聞かされた時、ずっと沙穂子さんのことは心の片隅にひっかかっていたような気がする。

「沙穂子さん……引きこもってるって……」

「ええ。あなたとここで先週ばったり会ったでしょ。それからよ。それまでは前向きに色々この先のこと考えていたみたいなのに……」

えーー?
ここで?

ここで………


ーー琴子さん……どうして……ここに?
あ………もしかして! お、おめでとうございます! じゃ、あたし…これで……

ーーあ、待って! 沙穂子さん! 違うの!


「そうだ……あたし、ここで沙穂子さんに会った……」

この病院の…レディスクリニックの、このロビーで……
ブライダルチェックの検査結果をききに行った帰りにーー。

「今度こそ思い出した?」

「どうしよう! 沙穂子さん、あたしに赤ちゃんが出来たって誤解してーーもしかして、それでショックを受けて引きこもってるの?」

あたしの姿を見て茫然と立ちすくみ、みるみる青ざめる沙穂子さんの顔がフラッシュバックのように脳裏に浮かんだ。

「誤解……? じゃああなた、妊娠してなかったの?」

「はい。ただブライダルチェックの結果を聞きにきただけでーー」

ーー待って、沙穂子さん!

追いかけようとしたあたし。そして沙穂子さんが持ってたトートバックを落として、中のものが散らばって……

リノリウムの真っ白い床に散らばったものを拾うのを手伝いながら、「沙穂子さん、誤解よ。あたし、赤ちゃんは……」と言いかけて……そして偶然見てしまったモノ。

今度はあたしが言葉を無くしフリーズしてしてしまっている間に沙穂子さんはそれを奪い取りばたばたと走り去っていた。

そうだ。
彼女のバックから出てきたものーー母子手帳と、一枚のモノクロのエコー写真。赤ちゃんらしき小さな影。
母子手帳には『大泉沙…』という名前が一瞬だけちらりと見えた。

ーー思い出した……!!

「沙穂子さん……母子手帳持ってた……」

思い出すと同時に、膝ががくがくと震えてくる。
全身の血の気が引いてくる。
あの日と同じようにーー。

「そう。やっと思い出したんだ」

そうだ。そしてその後に、このひとに会ったのだーー。





* * *



ーーあの日。


「沙穂子ーー?やだ、どこ行っちゃったの?」

化粧室から出て来て沙穂子さんを探してロビーをキョロキョロしていた女性の前にあたしはばっと立ちはだかり、思わず訊ねたのだ。

「あなた、沙穂子さんの知り合いですか?! 沙穂子さん……妊娠してるの? 入江くんの赤ちゃんをーー!」

そう。沙穂子さんが妊娠してるのなら、父親はきっと入江くんだ。
きっと破談になった時にはすでに妊娠してたのに、気がつかなくて……
ああ、なんてこと!
なんてことなの!
沙穂子さん、一人で産むつもりなの?
あたし、どうしたらいいの?
ただでさえ、不安の中、あたしも妊娠してると誤解してーー
どうしよう! どうしようーー!

「あなた、もしかして入江直樹の奥さん?」

突然あたしに詰め寄られ質問された彼女は逆に怖い顔をして詰問してきたのだった。

「そうです……」

「ふうん」

そうだ。あのときも、この女性はあたしをじろじろと不躾に見つめていた。あからさまな敵意をもって。
そして冷然とあたしの一番聞きたくない言葉を突きつけたーー。

「そうよ。沙穂子、妊娠してるのよ。入江直樹の子供よ」

あたしの足元は突然ガラガラと崩れおち、奈落の底に落ちていくような感覚に襲われた。
世界が闇に覆われていくような感覚。
そして、再び、思い出した途端にあの日と同じ感覚に苛まされていくーー。


「………だから、早く別れてちょうだい。沙穂子をシングルマザーにしないでよ。あの娘にたった一人で子供を育てることなんて無理だわ。でも、産むって言い張ってるの。愛した人の子供だから産みたいって」

その後のことは思い出せない。どうやってそこから帰ったのか。
ただずっと思ってたーー。
ごめんなさい、ごめんなさい、沙穂子さん!
心の中で謝り続けて。
やっぱり沙穂子さんが入江くんと結婚すべきだったんだ。
あたしが奪った。横取りした。
あたしが沙穂子さんから何もかも略奪したんだ。
赤ちゃんの父親を。幸せな家庭を。
そして、ずっとずっと悩んでーー
入江くんと別れるしかないって……あたしは決断して、離婚届けをもらいにいったのだ。







「ちょっと! 聞いてるの? あなたーー!」


ぼうっとしていたらしいあたしの肩をぐいっと掴み揺さぶられ、あたしは漸く顔を上げる。

「……聞いてます。そして、全部思い出しました……」

そうーー何もかも。
あたしは三ヶ月の出来事をすっかり思い出していた。

「それで? あなたはどうするのかしら?」

「別れます……入江くんと……」

それしか道はない。
沙穂子さんが妊娠しているのなら、入江くんは沙穂子さんのもとに戻るだろう。それが一番あるべき形なのだから。

「当然ね」

そうだ。
あたし、ずっと悩んで考えてーーううん、答えは1つしかなかったのに、あたしはなかなか踏ん切りがつかなかったのだ。
例えば沙穂子さんの子供をあたしが引き取って育てるとかそんな酷いことまで考えてしまった。母親から子供を取り上げるなんて極悪すぎる。側室の子供を奪い取る意地悪な正室みたいじゃない!
そんな風にのたうちまわって、あたしが出ていくしかないって覚悟してーー。
やっと離婚届けをもらってきて名前を書くのに3日近くにかかってしまった。

「別れるから……沙穂子さんに、元気な赤ちゃんを産んでくださいって……入江くんをよろしくって……」

声が震える。
涙が溢れてくる。
いろんな映像が溢れかえってきて、いっきに記憶が蘇ってくる。
三ヶ月の間にあった様々な出来事がゆっくりと浮かび上がり、頭の中で確かな色を成していく。たった三ヶ月の夢のような日々ーー悲しかったこともあったけれど、総じて一生分の幸せを感じた時間だった。そして、それと同時に記憶をなくす直前の、苦しくて辛くて心が引き裂かれそうな感覚が、その幸せな時間を真っ黒に塗り潰していく。

全部思い出した今ーーあたしの取るべき行動はひとつしかない。



「りりこちゃん! どうしたの?」

病院の自動扉が開いたとたんに、優しげな声が耳に届いた。

「沙穂子さん……!」

「琴子さん!?」

白いカシミアのコートに身を包んだ沙穂子さんが、瞳を大きく見開いて、あたしと、自分のハトコを見比べる。

そのうえーー。

「琴子!」

さらにはもう一人、息を切らして駆け込んできた来たのはーー

「入江くん!」
「直樹さん!」

えええーーーーっっ!!

ど、ど、ど、どうして入江くんが、ここに!?

な、なんなのっ? この状況ーー!
あたしたち四人はーーきらびやかでお洒落なレディスクリニックの玄関先で、しばし呆然とお互いの顔を見比べて立ち尽くしていた。





※※※※※※※※※※※※※※※※



セレブなクリニックが出てきた時点で大方の人が予想してたとは思うんですがf(^_^; はーい、正解です笑
まあ、ラストまで予定調和でまいりますよ!(次で終われる……かな?)



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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪ そして果てしなくリコメが遅くなりまして申し訳ないです。

ふふふ、記憶を失った理由を直樹なりに推理していく過程を書きたかったので、名探偵さながら、といっていただいて嬉しいです。そう、でもさすがに離婚の理由の真実まではたどり着けず……勘違いで悶々する直樹も……ふふ、ちょっとザマーミロな気分でございましょう(^w^)

琴子も勘違いといえ、沙穂子さん妊娠!って相当ショッキングですよね。思わず勘違いしたまま一人失踪してしまう琴子の話も書けそうだとちょっと思っちゃいました(書きませんが笑)

さていよいよすべての事実が明かされます。お仕置きは……! えーと……かけるかなー笑(えへっ)


Re.ルミ様 * by ののの
コメント2つありがとうございました♪
リコメがはちゃめちゃに遅くなりまして申し訳ないです。

そして、二人のことを色々心配していただいてありがとうございました。
ドラマとは全く関係なく話はすすみ、当然『らぶららら』というふざけたタイトル通り、ららら♪な感じで終われると思ってます(^-^)v だって、直樹が琴子以外に手を出すなんて……考えられませんものね。

他でコメントできなかったのですね。たまにそういうことあるかも。あとはちょっとNGワードにふれると(えっちな単語とか……)投稿できない場合がありますので、お気をつけを!



Re.るなたま様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメがものすごーく遅くなりまして大変申し訳ないです。

まあ、心配で読めなかったのですね。ここまで一気読み、ありがとうございました。はい、基本私はハッピーエンドしか書かないつもりですのでその点はご安心を!(でもドSなでそれまで相当琴子ちゃん苦しめてしまいますが……ごめんね)
多分琴子ちゃんは入江くん以上に破談になった沙穂子さんのこと気にしてると思うんですよね。
そして妊娠してると思ったら絶対身を引くだろうし。そんな琴子を愛しいと思ってくださってうれしいです。

はい、琴子の笑顔はすぐそこですよー(^^)d

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメが超遅くなって大変申し訳なかったです。
ふふ、うちのニューオリキャラ、りりこ様に大変憤っていただいてありがとうございます(^w^)モデルは傍若無人なあの毒舌バイオリニストをイメージしてました笑
一応お嬢様なのに、なんでこんなに手が早く狂暴なんだと思いつつ、きっと大泉の華麗なる一族の中でも相当変わり種なのでしょう。思ってることを口にすぐ出すので、かなり煙たがられてるに違いない(-_-)

さーて、紀子ママさんの予想通りに話は展開したのではないのでしょうか〜〜(^w^)

個別記事の管理2018-07-15 (Sun)

すっかり隔週更新となってしまいました。
いえ、先週一話分できてたんですけどね。書いてから、前にもう一話足さないと、と気がついて。
慌てて今回の7話ーー悶々直樹の話を書き足したもので。

というわけで、今回も二話一度に更新します……f(^_^;



※※※※※※※※※※※※※




琴子とぎっくり腰になったお義父さんを店に送り届けたあと、おれは家に戻った。

琴子がお義父さんの傍に付いているといったのは多分おれを避けていたのだろう。
帰る頃には幾分動けるようだったし、普段ならきっと帰れと琴子を諭すだろうお義父さんも敢えて何も云わなかった。おそらく琴子の様子がおかしいことに気がついたのだろう。
無論、記憶を失っているのだから普段通りであるわけはないのだが。
それでも記憶を失ったことで、単純におれと結婚出来たことを喜んだり驚いたり忘れてしまったことを悔しがったり、感情を目一杯表情に出す琴子はいつものままで、ここ数日間目にすることのなかった琴子の笑顔も見ることが出来た。
このまま記憶が戻らない方がいいのかもしれないーーなどと我ながら逃避的思考に陥っているなと自嘲していた。
とはいえ、少しずつ思い出した部分もあるようで、プロポーズの夜のことを思い出してくれたことは少しほっとしている。気恥ずかしいが、あの雨の日はおれの人生の中で、なくてはならない1日なのだ。そして、おそらく琴子にとってもそうだと確信していた。

だがーー今日、自宅に帰ってからの琴子の様子は、記憶を失う前と同じーー不安と焦燥に覆い尽くされているかのように見えた。


一人で苦しそうにポロポロと涙を溢してリビングに立ち尽くしていた琴子。
記憶を失う前もそうだった。
一人でひっそりと泣いていたり、食事もまともに摂らずにため息ばかりついていた。

思い出してはいないと言い張ってはいたが、何かを隠しているのは確かだ。
おれは家に戻ってから、おふくろが部屋に着替えに行っている隙に、琴子が一人泣いていた時間の、電話の受信履歴と着信履歴を確認した。
あの時の琴子は受話器を握りしめ茫然自失の体であった。誰かと電話をしていたようで、おれが突然帰って来て激しく狼狽していた。そこにヒントがあるに違いないと、琴子が掛けたらしい電話番号をチェックし、そこにかけてみたのだった。

ーーフリージアレディスクリニック?

聞き覚えのない病院名だった。
時間外のため、音声案内が流れただけだったが、何故琴子が産婦人科に電話をしたのか理由がすぐには思いつかなかった。

ーー入江くんって、赤ちゃん欲しい……?

あの時唐突にそんなことを訊いてきたことを思い出す。

この病院に受診したのか?
何故?

妊娠はしていないことは一昨日記憶喪失になったことで脳神経外科を受診したときに確認した。
だが記憶を失うまえに本人が妊娠を疑って受診した可能性もある。
妊娠しているかどうかはすぐに判別はつくだろう。妊娠してないとわかって落ち込んだのか?
いや、妊娠してなかったからといって、まだ学生だし結婚して早々なのに、そこまでショックを受けて離婚を考えたりしないだろう。
というか、妊娠を疑っていたなら受診するまえにおれに相談しない筈がない。
きっと無邪気に喜んで頬も緩みっぱなしで、おれに隠し通せるわけがない。そんな気配は微塵もなかった。

妊娠以外に何か……

不正出血、生理不順、月経前症候群ーー転科したばかりできちんと講義を受けたわけではないが、医学書で記憶した婦人科系の症例を思い出してみる。
黙ってはいられない琴子だが、自分の不調はあまり口にしない我慢強いところがある。女性特有の病なら特に恥ずかしがっておれには言わないだろう。
若い女性にとって産婦人科というものは随分と敷居が高いと聞いたことがあるが、それでもわざわざ家からから離れたところで受診したというのは、余程の自覚症状があったということなのだろうか。
よくあるものといえば、生理痛、排卵痛、月経前症候群やガンジダ膣炎などかーー。
だが、やはりそんなことで離婚は考えないだろう?
いや、もしかしてなにか性病でも疑ったとか?
だが琴子は紛れもなく、ヴァージンだった。他からうつされるなんてことはーーいや、おれを疑ったのか?
たとえばガンジダの痒みや痛みで勝手に性病と思い込み(実にあり得そうだ!)、おれからうつされたとーーおれの浮気を疑ってーーとか。
いや、だがそれこそ病院で受診したなら違うとすぐわかっただろう。だいたいそんな失礼な……
なんか、段々腹がたってきたぞ。

第一そんなことであれこれ勝手に悩まれて離婚を考えられてたまるか。

一番考えられるのはやはりーー

……入江くん、赤ちゃん欲しい?

少し苦しげに言葉にした痛々しい琴子の表情が脳裏に浮かぶ。

何かの症例で婦人科を受診した。
そして、子供を産めない可能性を示唆されたということだろうかーー



……ってあれこれ想像で考えても埒はあかない。
とにかくこの病院に行って訊いてみるのが一番てっとり早い気がする。だが電話した通り今日は休診日らしい。

おれはまず、医学部の伝をたどってフリージアレディスクリニックの情報を得てみた。
そのクリニックは出産対応はしていなくて、婦人科系の症例の他に不妊治療や産み分けなどを得意としている診療所のようだった。診療所だから当然入院設備もオペの対応もない。
どちらかというとセレブ御用達の不妊治療専門施設というカラーの強いクリニックでーー何故琴子がここを選んだのか謎過ぎて、しっくりこない。

悪いと思いつつも、琴子の机を少し探してみる。何か手掛かりがあるかもしれない。

すると、病院で処方される薬の袋があっさりと引きだしから見つかった。

ーー土屋産婦人科ーー。

これはうちの近くの産婦人科医院だ。おれと裕樹が産まれたところでもある。
ここに元々かかっていたのか?

薬は頓服薬ともいわれる一般的な鎮痛剤だった。
産婦人科で処方されたなら生理痛の薬と考えるのが普通だろう。
生理痛、酷かったのか?
何年も一緒に暮らしていてそんなことも知らなかったのかーーおれは。
この数ヵ月で琴子の身体の隅々まで知ったつもりになっていた。だが肝心なことは何も分かってなかったということかーー。

土屋産婦人科はその日診療日で、おれは直接訪ねて琴子のことを訊いてみようと思いたった。
電話だと個人情報を漏らすことはないだろう。夫であるおれが身分証明を持参して行けば、応えてくれる可能性は高い。

案の定、入江直樹といったらあっさりと教えてくれた。おれがこの病院で産まれたことも古い看護師は覚えていた。おふくろもここで定期的に子宮がん検診などを受けているようだった。
予想通り、琴子がこの病院で薬をもらったのは月経困難症で生理痛が酷かったのだと教えられた。
おふくろの紹介で高3の夏ころから鎮痛剤を処方してもらうために半年に一度くらいのペースで通っていたというのだから驚きだ。まあ予め薬を飲んでいたのなら生理痛で苦しむ様を見たことがないのだから仕方ないのかもしれないが………

そして、ここで知らされた『フリージアレディスクリニック』のことーー。

「ブライダルチェック?」

「ええ。院長が私の医学部の同期でね。データの収集を手伝っていたのよ」

おれを取り上げた医師の娘だという2代目院長が琴子に勧めたらしい。

聞き慣れない言葉ではあるが、数年後には一般的になるだろうと院長は話していた。
不妊治療に主力を置いているクリニックなので、結婚後に不妊に苦しむ女性を減らすために、少しでも早く治療を始められるように啓発していきたいのだと力説していた。
婦人科検診に腰の重い若い女性たちに少しでも自分の身体のことを気にして欲しいという意図もある。
たまたま琴子が結婚したばかりということで頼んだのだらしい。保険適用外だが、実績を得ることが目的なので、かなり格安で検査が受けられるということで、琴子も戸惑いつつも受けてくれたのだと。

「ほんとは、男性にも受けてもらいたいんですけどねー。ご主人、どうですか?」と勧められたが丁重に断った。
子供は授かりものだ。出来なかったら出来なかったでそういう人生もあると受け入れられる。
だがーー女性は……そんな風に割りきれないのだろう。おそらく、琴子も。

そこでブライダルチェックの検査項目を見せてもらう。
血液検査や尿検査、おりもの検査で、妊娠時に検査する項目を大方網羅していた。
子宮頚がんに、風しん抗体検査、B型C型肝炎やHIV、梅毒やクラミジア抗原などの性病検査。
あとはエコーで子宮内膜や卵巣検査もある。かなり細かく項目が分れていた。

ブライダルチェックの検査結果が出たあとに様子が激変し、離婚まで切り出したともなると、答えは一つしかないだろう。

子供ができにくい、あるいは産めないと宣告されたかーーもしかすると子宮や卵巣に重大な疾患が見つかったかだ。

いやな汗が背中を伝う。
琴子の衝撃を想像するだけで胸をかきむしりたくなった。

何故ーーおれに何もいわない。
一人で悩んで……




とにかく、明日、フリージアレディスクリニックに行こう。琴子の病状を確認して、それから琴子の元に行ってーー
ちゃんと琴子と話し合って、あいつの想いを受け止めて、二人で斗南大の付属病院を受診しよう。

決してもう一人では悩ませない。
おれたちは夫婦だ。
どんな困難もともに手を取って立ち向かう。そう教会で誓ったろう?

琴子ーー待っててくれ……

おれはまんじりともしない時間を、落ち着かないインテリアの新婚部屋で一人もて余していた。
ベッドなんて、マットレスの質が良ければ他の装飾なんてどうでもいいと思っていた。琴子が喜ぶならまあいいかと。
しかし、花柄とレースに縁取られたピロケースやデュベカバーに包まれて一人で眠るにはなんと寝心地の悪いことか。
このベッドの上で琴子を抱いたのがなんだか遥か遠い昔のような気がしてきた。


ーー琴子はもう一度ここに戻ってくるのだろうか?
ーーいや、必ず連れ戻す。絶対に。

おれは一人、悶々と眠れない夜を過ごしていた。
琴子もおそらく眠れないでいるに違いない………



そして、翌朝。おれは取るものもとりあえず、銀座のそのクリニックへと朝一番で向かったのだった。




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続けて(8)も更新します。



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