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個別記事の管理2016-08-15 (Mon)

“納涼祭り2016”



再びあの方、登場ですf(^^;





※※※※※※※※※※※※※



入江琴子には飛んでもない霊力があるらしい。

ここ斗南大学付属病院では、まことしやかにそんな噂が流れている。

そもそも彼女が見えざるものを視てしまうというのは、もう半ば伝説化している。なのに全く害はないのはその守護霊さまが絶大な力を持っているらしい、さらにはその守護霊様を式神として使役して、日夜斗南病院を跋扈している魑魅魍魎と戦っているーーなどという、どこのラノベのヒロインかっ……な噂まで蔓延している。(題してナース戦士 陰陽姫コトリン)

元々斗南の七不思議といわれる怪奇現象の数々も入江琴子に起因するものらしいという噂が流れているのもまた事実だったりする。(ある意味それは間違いではないのだか)

そして、この夏、また新たな伝説が院内を席巻していたーー。

3A西の階段には入江琴子の呪いがかかっているーー。



「はあ~~? なんであたしが呪ってるのよ!」

琴子は食堂でランチを食べながら、幹から聞かされた寝耳に水な都市伝説に思わず頓狂な声をあげた。
弾みで箸からAランチの鶏の竜田揚げがぼろりと落ちる。

「ほら……去年のあんたが階段から転けて入江先生の上に落下して負傷させてしまった事件……あれ以来、あの階段で事故がちょいちょい多発してるらしいのよ」

「それがなんで、あたしの呪い!?」

琴子は心外だ、とばかりに頬を膨らませる。

「あたしと同じドジな人が多いだけってことでしょっ」

いやいや、あんた程の天然爆裂Gレベルのドジはそうそういないってば。

そうそう、おんなじ場所でみんな転けるなんて、偶然にしてもちょっとおかしいのよ!

あそこだけ老朽化してる訳もないと思いますよー。別にここは増改築とかしてない筈ですし。

幹に真里奈に智子にと次々と申し立てられる。

「いったいあたしが何を呪うというのよー」

琴子の叫びに、

「呪うというより……残留思念?」

幹がふっとおどろおどろしい表情を見せた。

「ざんりゅー……?」

「あんたが入江先生の上に落っこちて足を骨折させちゃったじゃない。それが大きな後悔となってあの階段に負の思念としてとぐろ巻いて漂ってるのよ。そして、女の足をひっかけて次々と階段で転ばせてる」

「おんな限定なの?」

「階段からコケた子、みんな女よ。しかもディープな入江先生ファン」

「ええ~~」

「だから、余計そんな噂がたったのよ」

ナース、事務員、検査技師。職業は違えど、皆が皆、「あたしの方が絶対入江先生の妻として相応しいわ」と豪語する、自信過剰女たちらしい。
一様にそんな女たちばかり立て続けに階段から落ちたために、偶然とは思えないと、いつの間にか院内がざわめきだしたのだ。


「とりあえずあんたのアリバイがある時ばっかだから、実力行使であんたが危害を加えたなんて話になってないから安心して」

「あっあったりまえよ。あたしがそんなことするわけないじゃない!」

琴子が顔を真っ赤にして憤慨する。

「わかってるわよ」

いくら直樹に横恋慕する女たちが彼の周りをうろついたとしても、琴子がそのような攻撃的な行動に出るなど有り得ないことは、周知している。
だが、琴子のアリバイが確認されたらしい、ということは、疑う人もいたということなのだろう。
それを聞いた時は琴子以上に腹立たしく感じた幹であった。

「だいたい、あんたがいつまでもしつこく昔のことをグチグチ後悔してるタイプではないこと、よく知ってるから」

過去の嫌なことをいつまでも引きずる性質ではない。というか、鳥頭だから、すっきり忘れて爽やかに次に進めるポジティブ女なのだ。

「……そもそも残留思念がどうとかってこじつけ過ぎる~~」

「ほんと、ホラーなのか超常現象なのかよくわからないわよね」

「超常現象って、超能力?エスパー琴子? やだー笑えるー」

ナース戦士エスパー琴子よーーっサイコキネシスで夫に横恋慕する女たちを転ばせる……いやーんもうちょっと建設的なことに超能力使いなさいよねーっ

ケタケタと妙に受けている仲間たちに愛想笑いを返しながらも、今一つ『残留思念』 も『サイコキネシス』も理解できない琴子であった。

えーと、あたしって何できる人……?



そこにーー

「 ねぇねぇ聞いた~~? 風子が例の階段から落ちたって!」

同じ外科のナースが血相変えて食堂に飛び込んできた。

「ええっ……?」

風子は外科の中でも入江直樹狙いのナースであることはみんな知っていた。昨年の慰安旅行の琴子の男子風呂突入事件の黒幕が彼女たち一派であろうことは、一部では知られている。
もっとも慰安旅行の翌朝に、直樹にもたれ掛かりヨレヨレだった琴子の首筋にぴっしりとキスマークが付いていたことから、思いっきりあてつけられ毒気を抜かれた風子たち一派は、それ以来あからさまに琴子を目の敵にすることはなくなった。

「ふ、風子が………」

思いがけない一報に、さすがに皆、少し青ざめて顔を見合わせた。





「……確かに、ちょっと足を引っ張られた気はしたんだけど………気のせいかなって感じで」

軽い打ち身だけですんだ風子は手当てを受けたあと、外科のナースステーションで、みんなに取り囲まれて尋問を受けていた。

「でも誰も周りにいなかったし、別にお化けがでたとかそういう訳じゃ……」

本人もよくわからないらしい。

「ただちょっとバランス失ってうっかり足を踏み外しただけのような気もするし」

とりあえず生霊も幽霊も何も見ていないということで、なーんだ、結局ただのドジ?と、みんな肩を竦めて、何となくすっきりしないまま、事態はうやむやとなった。







「ただの偶然だろ?」

その夜、皆から聞いた話を直樹に伝えると、噂だけは直樹も知っていたようだった。なんといっても彼の上司はその手の噂話が大好きなようで、嬉々として話して聞かせたらしい。

「……でも、なんで入江くんのこと好きなひとばっかり……あんっ」

「あの階段はオペ室に近いし、1階下の検査室からエレベーター使わずに来る人も、1階上のナースステーションから来る人も多い。急いでいたら踏み外すこともあるだろう。スタッフの割合は女性の方が多いし、階段の使用率も女性の方が多い。ついでにこの病院でオレに関心のある女も割合としては多いだろう? だから偶然にすぎない」

「そ、そうなのかなぁ……あ、やん。そこダメ……」

いつもの日常の夜が、そこにある。

「でも入江くんって結構、ナルシーちゃん……?」

「なんだよ、そのナルシーって」

「ナルシストってことだよ。自分で自分のこと関心持ってる女性の割合が多いってさらっと言ってのけちゃって……あ……あっあっ」

「……事実だろ?」

「ああんっ ……そりゃそうだけど……」

「世界中の女がオレに興味を持って、色目使ってきたって、オレが興味がある女はこの世界の中でおまえ一人なんだから……」

「いやん……入江くん、嬉し……ん、んん」

「……ま、みんな軽傷で誰も重篤な状態になった人はいないが、今後のためにも、色々調べてもらう、って事務長が言ってたから……すぐに原因が分かるんじゃないのか?」

「そうなんだ……誰に調べてもらうの? んっ……あっああああ~~~~!!!」

「……さあ? 建築士か設計士なんかじゃねぇの? 階段が歪んでないか調べるんだろ。………おい、琴子。何、意識とばしてんだよ。まだまだこれからだってのに………」

琴子の耳に直樹の最後の答えは、果たして届いていたのかいないのかーー。




翌週のことである。

「あら、原さんじゃなーい。お久しぶり。最近貧血はどうなの?」

事務長に連れられ、ナースステーションの前を通りかかったのは、市松人形のように綺麗に黒髪をおかっぱに切り揃えた超絶美少女だった。

「ご無沙汰しております。今のところつつがなく過ごしております」

気安く声をかけた幹に丁寧に頭を下げた彼女は、この場所には違和感アリアリの和服姿だった。夏だが浴衣ではない。白っぽい着物は遠くから見たら死装束のようにも見えるが、薄い利休鼠のグラデーションの訪問着だった。
テレビの心霊番組によく出ているそのままの容姿は、やはり生きた日本人形のようで見るものをぞくっとさせる妖しい美しさだった。

「今日は……なぜ……」

そう言いかけて、幹ははっとする。
高校生である筈の彼女の、本業はーー。


「ほら、例の階段で妙なことがよく起きるから、一度ちゃんと見てもらった方がいいと思ってね。大きな事故が起きないうちに……」

「ああ」

原真砂子。この美少女の肩書きは霊媒師である。
かなり優秀な霊能力を持ち、こんな暑い時期にはテレビの特番に引っ張りだこの存在だった。なんといってもテレビ映えもする容姿だ。
そして、彼女は去年この病院の特別室に入院したことがある。その縁もあって、多忙な筈の彼女を呼んだのだろうか。

いや、でもーーこれは本当に霊媒が必要な話なのだろうかーー?

首を傾げつつもその後を付いて件(くだん)の階段に向かう。さしあたり手の空いていたらしいナースがゾロゾロとついてきていた。
その中にはミーハーの琴子も混じっていて、「ねぇねぇ、モトちゃん何が始まるのぉ~~」と、何だか楽しそうである。


そしてその階段の下に立ち、美少女はじっとその階段を見つめーー
おもむろに口を開く。

「何もいませんわ、ここには」

彼女はきっぱりと云った。

「ああ、そうですか。そうですよねー。ええ、そうだと思いました」

事務長はほっとしたように何度も首を振る。

「で、じゃあ一体原因は……?」

事務長は改めて彼女に問いかける。

「それはわかりません。亡霊、生霊の類いではないことは確かです」

「いや、わからないと困るんですが」

「そんなこと云われても困ります。私は霊を視ることしかできません。居ないものに関してはどうすることもできませんから。もっとも居たとしても何もできないですけど」

「………出来ないんですか?」

「だから私は視るだけです。ただの霊媒ですから。払うことは出来ません」

出来ないのにかなり尊大な口調できっぱりと宣言する。
たしかにテレビ番組では、口寄せをして霊の言葉を伝えている。本人しか知り得ない話をして驚嘆の声を浴びているが、浄霊をするのは別の坊主だったりする。

「えーと、では……どうすれば」

「ちゃんと調べたいのなら、この建物を造った施工会社か設計事務所に問い合わせるのが一番かと思います」

「あ、入江くんとおんなじこと云ってる~~」

琴子が、人垣の中から叫んだ。(一応直樹の云ったことは耳にはいっていたらしい)

琴子の声に、一瞬視線をそちらに向けた美少女は、少し考えてから
「メジャーと差し金、水平器があれば簡易的に調べることはできますが」と、軽くため息をついてそう云った。

いったい何処にあったのか、美少女の云ったグッズが目の前に取り揃えられた。
そして自分のマネージャーらしきスーツ姿の女性にあれこれと指示して階段の踏み板の幅やタチの長さを計測させた。

「私は普段このようなことはしませんが……建物の測定は心霊調査の基本ですので。度々フォローに入る調査会社のチームで、先日は毎日ひたすら幽霊屋敷の測量してましたわ」

「 ゆ ーれいやしきっ」

琴子がワクワクしてるようなテンションで身を乗り出す。
それをあっさりスルーして、何段か測定したあと、事務長に測定道具を返却し、そしてきっぱりと云った。

「原因は明解ですね。この階段この部分、蹴上の高さが他と違ってます。この僅かな狂いが、人の感覚を鈍らせ、踏み外させているのだと」
「でも、何で、女性ばっかり? しかも入江先生狙いのひとばっかりコケるんですか?」

外野の声に、「確率の問題でしょう。通る人が女性が多い。そしてその女性の殆どがあのイケメンドクターに関心がある。つまりはそれだけのことです」という真砂子の凛とした声が答えた。

「やだーやっぱり入江くんと同じ答え~~」

愛するダーリンの解答がプロの見解と同じなのが嬉しいらしい。
幹の肩先からぬっと顔を出し、自慢そうに叫ぶ。

「それまでもきっと軽く踏み外しそうになったことは何度もあったのでしょう。ただ一年前の事件が取り沙汰されることで、妙に尾ひれがついてクローズアップされただけのことでは?」

なーんだ。
そーなのか。

みんなは特におもしろいオチでもなかった為に、あっさりと三々五々と散っていった。

「モトちゃん、いこー」

主任に怒鳴られないうちに仕事に戻らねば、と琴子は幹を呼び掛けて促す。

「ああ、うん…………」

幹がふと気になったのは、真砂子がじっと一点を見つめていたからだ。階段ではなく、階段の下のタイル張りの床。

幹はふと思い出した。
そこは落ちてくる琴子を受け止められず直樹が倒れていた場所。
幹が騒ぎをきいて駆けつけた時、お弁当の中身がばらまかれた中で、琴子は直樹にとりすがってひたすら「入江くん! 入江くん!」と呼び続けていた。

もし入江くんが目を覚まさなくて、一生動けない身体になってもあたしがずっとお世話するからーー

眠ったまま中々意識が回復しなかった直樹のそばでそう泣きながら誓っていた琴子が、何故か脳裏によぎる。


「………何か、いるんですか?」

幹は真砂子に訊ねた。

「………いいえ……霊とかではないと思うのです。生霊ほどの強い思念でもない。実際階段の事故は先程の見解で間違いないと自信はあるのです………
思念というよりは雑念。しかも生物の……」

「生物?」

「 ………白い蛇……のようなもの……? ウラヤマシイ……オチタイ……羨望、嫉妬……妄想。なにかしら、これ」

やだ、気持ち悪っと真砂子は首を竦めて肩を抱いた。

「なんだか普通の幽霊のほうがマシだわ。ある特定の人物の上に落ちて絡み付きたいと願ってる白い蛇の妄執のようなものが、一瞬ちらりと見えたのです。人に害を成すほどのものではないですが、ただなんとなく気色悪いんです」

思わずその話をきいて、とある人物の顔が思い浮かんだ幹であるが、
「……害はないんですよね? ソレが今までも此処で何か悪さをしていたというわけじゃないんですよね?」と念を押す。「はい。そんな力はないです。それを上回る浄化の力がこの辺りは強いので」

「……浄化の力?」

「さっきの琴子さん……でしたっけ? 彼女の守護霊の強さも並々ならぬものがありますけど、彼女自身もかなり特殊なオーラを持っているんです。悪意や憎悪といった負の想いを簡単に浄化してしまう不思議な力。……ほんと、彼女は霊的に面白い素材だわ。ちょっと私の知り合いのゴーストハンターに紹介したいくらい」

思わぬ返答に、どう返していいかわからず面食らった表情を顔に張り付かせている幹に、原真砂子はふわりと微笑んで、「では……」と軽く会釈をして去っていった。





「…………どうしたの? 幹ちゃん?」

あの美少女霊媒師と話し込んでいて遅れてきた幹に、琴子が怪訝そうに声をかけた。

「ううん。なんでもないわよ。どんなに蛇がねちっこくうじうじ想ってても、あんたのゴジラ並のパワーにゃ敵わないって話」

「……ゴジラ? なんでゴジラなのよっ」

話は全く見えないが、とにかく憤慨する琴子に、「同じ爬虫類でも一応最強かと思っただけよ」と幹は簡単に答える。

「だから、なんで、爬虫類~~~」

琴子の雄叫びを背に、幹はにやっと笑って何も語らず仕事に戻っていった。

ーーやっぱり斗南の平和を守っているのは琴子なのかしら?

この際ゴジラが東京を破壊する輩であるというのは置いといて、そんなことを思ってしまう幹であったーー。

なんだかんだ、今日も斗南大学付属病院は平和であるーー。






※※※※※※※※※※※※※※


すみません。長いことお待たせした挙げ句にこんなしょーもない話で……f(^^;

えーと、真砂子さんもまた出しちゃいました。去年、この美少女霊媒師出した時、数名の方が元の原作をご存知で、申告して下さって嬉しかったです(^w^)
ご存じでない方も、ただのオリキャラモドキとして優しく受け入れてもらえれば嬉しいですけど。階段の測量にあのチームの面々を出そうか一瞬迷いましたが、いや、それはちよっと収拾つかんだろうと、とりあえず真砂子さんだけに食い止めましたわよーf(^^;

さて、多分納涼祭りネタはこれで一旦おしまいにしようかと。あとひとつ『こっくりさん』で書こうとか考えてましたが、帰着点が想いつかなくて、今のとこお蔵入りかな~~な気配濃厚(._.) 納涼祭りの終わる8月末までに思い付いたら、書くかも……?


えーと、ようやく私も一週間の夏休みに入りまして、また今年も恒例の西日本縦断の旅が待ってます。誰も迎えてくれない実家の整理に帰るだけなのて、疲れること必至です(ーー;)

また更新空くかもしれませんがご心配なさらずに(^_^)
気長にお待ちくださいませ ♪



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* Category : 納涼祭り2016
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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

ほんと、琴子はトラブル引き起こしてもなんだかんだいいように落ち着きます。如実に現れてるのは理美の出産エピですが(^_^;あかんやろー法律違反やろーと突っ込みたくなりますが、逆子は直るわ秋子ちゃんは歩けるわ。
これはもう、守護神さまの力に他ならないと勝手に解釈(笑)天のご加護が全方位から降り注がれてますf(^^;まあ、琴子ちゃんの人徳に他ならないですよねー

少しは二人のラブラブを、と何してんだかのシーン挿入~~~これはもう、必要ですよね?

この優秀な霊媒師にもすっきりしない謎の思念 ……もみ上げのあの人の存在は不可解なようです(笑)

マロンさんも14時間の旅、お疲れさまでした。うちもまさかの14時間笑 いや、帰りに旦那が「鳥取砂丘とか、よってく?」と誘っても我が家の子供たちは「砂見てもつまらん」とスルーしてしまいましたー(((^^;)いや、寄ってたら20時間くらいきったかなー?

労いのお言葉ありがとうございました♪



Re.ちびぞう様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます♪

ちびぞうさんが待ってていただいていると、張り切って書きました♪
実は琴子はナルもびっくりの霊を浄化する力があったりして(というか、えっちゃんの愛の力がパワフル)と勝手に思ってます。お陰で斗南は他より幽霊が騒動が少ない病院だろうと。(ハートフル系幽霊しか見えない……)
ふふ、ついシンゴジラ流行ってるので出しちゃいました。次の着ぐるみはゴジラかしら……f(^^;

GH探してらっしゃるのですねー。うち方面のBOOK・OFFでは割と見かけるのですが。
GH、二次から入るとホラーうんぬんよりラブ要素の少なさにがっかりするかも……(いやだからこそ二次で妄想するんだよねー)でもナル×麻衣よいですよね♪

ちびぞうさんのゴム版可愛いです。次の本はちびぞうさんとご一緒できるかなー(むふふ)

Re.とりぴょん様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

このシリーズ好きだといってくださって嬉しいです。
会話オンリーで誤魔化した二人のラブラブ、楽しんでいただけて良かったです(^w^)
更新、しばらくお待ちくださいませねf(^^;

Re.りょうママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

琴子ちゃんのポジティプな浄化パワーはきっと斗南病院に愛と平和をもたらしているのだと勝手に思っています笑

色んなヨコシマな想いも(揉み上げの人も)全て退散♪

個別記事の管理2016-07-26 (Tue)

“納涼祭り2016”


※7/28 ラストシーンで書き忘れてたことがあり、どうしても書き加えたくて、ほんの数行だけ加筆しましたf(^^;わかるかな……?



※※※※※※※※※※※※※※※





三日目の朝である。

「あれー? ママ、虫に刺されたの?」

朝目覚めた琴美が、ノースリーブのワンピースに着替えていた母の首もとを指して不思議そうに訊ねた。

「豚さんの煙、効かなかったのかなー?」

蚊取り線香は長時間タイプで一晩中焚いていた。

「ええっ? えーと……」

琴子は初めて自分の胸元を見て慌てふためく。
鏡で確認すると首筋から鎖骨の辺りから、ぴっしりと昨夜直樹につけられた痕が残っていた。

「どうした?」

顔を洗ってきたらしい直樹が部屋に戻ってきた。

「ねぇーパパ、ママだけ虫に刺されてるの」

「そりゃ、ママの血が美味しいからだろ」

「入江くーーん!」

「コンシーラー持ってきてない?」

「持ってるけど」

「じゃあ問題ない」

「うん、もうっ!」

結局、二晩続けて未遂に終わったのだ。キスマークの一つや二つで(いや実際はかなりたくさん)ガタガタ云うな、という気分の直樹であった。
琴美が「ひいばあちゃんにお茶もらってくるー」と出ていったのを見送った後、直樹は少し不思議そうに妻を見つめた。

「今日は早起きだな」

朝目覚めた時にもう既に琴子が布団の中にいなくて少し驚いたのだ。

「ちょっとコンビニまで散歩してたのよ」

「……コンビニって……」

この家から最寄りのコンビニまでは徒歩30分以上かかる。

「なんか買い物?」

「……実は生理が来ちゃって……」

ぼそっと小声で恥ずかしそうに告げた。

「来ると思ってなかったから全然準備してなくて、それでちょっと…… ああっ、あたしこの痕付けたままでっ 」

生理って……つまり今夜どころかしばらくお預けってことか。

直樹は内心毒づきながらも、
「……あれ? おまえ2週間くらい前に来たって言ってなかったか?」と、ふと気がついた。

「うーん。前の、ちょっとだけだったんだよねー。なんか最近不順で。ホルモンバランスが悪いのかなーー」

「ストレスでも溜まってるのか?」

「入江くんとあまり会えなかったからちょっとストレスだったかも」

「この2日間は、結構べったりだったけどまだ足りない?」

「全然足りないよーー」

えへっと上目遣いにそう言って照れくさそうに笑う琴子の瞳に思わず吸い込まれそうになる。

「琴子……」

おれも足りないかもな。

そう言葉にする前に、琴子の肩を掴み、そっと引き寄せる。
誘うような少し開いた唇に顔を近づけてーー

「ママーーっお腹すいたー! ばあちゃんが朝御飯できてるってぇ」

もう、パターン化し過ぎて、何を云う気にもなれない直樹であった。






そして、再びのんびりと3人だけで朝食をとった後でーー。

「ねぇねぇ、アケビはいつ採りにいくのー?」

琴美の問いかけに、直樹が少し困ったように娘をみた。

「ごめん、琴美。今日はじーちゃんが町のグリーンセンターに肥料を買いにいくのを手伝ってほしいって頼まれたから付いていこうと思ってて」

「ええーっ? だって、明日もう帰るんだよね? だったらいつぅ?」

「多分、午前中だけで終わると思うから」

「あ、じゃあ、あたしが一緒に裏山に付いてくわ。なんてったって1度行ってるし」

軽ーく軽はずみなことをいう妻に直樹は思いっきり顔をしかめ、そしてきっちり嗜める。

「バカっ絶対ダメだ! 二人して遭難するのが落ちだろうが」

「えー?」

大丈夫だと思うけどなー

そうだよ、みーちゃんがついてるから大丈夫だよパパっ

二人の抗議も空しく、当然ながらそんな危険に満ち満ちた冒険など許されるはずもなく、こんこんと説教されて諦めざるを得なかった。

「じゃあ、川なら行っていい?」

「川?」

「うん、昨日ケンちゃんが明日川で遊ぼうよって誘ってくれたの。わかんなーいって返事しといたけど」

子供の頃自分も祖父に連れられて魚釣りなどした川は、河川敷は広いが、川幅はたいして広くないし流れも穏やかだった。

「あの川は大して水量もないから大丈夫だろうけど………ママがちゃんと傍にいてくれるならいいぞ」

「大丈夫だよ。ちゃんと見ててあげるから」

「やったぁ」

そうして、迎えにきたケンに、「琴美はまだ泳げないから深いところに行くなよ」と釘を刺して直樹は祖父と共に軽トラに乗り込む。

「えー、パパ、トラック運転できるの?」

運転席に座った直樹に琴美は目を丸くした。

「軽トラなら普通免許で運転できるよ」

「でも、それ、オートマじゃ……」

琴子も少し驚いたようだ。

「ちゃんとミッションも運転できる!」

そう言い放ち、発進する直樹に、「……でもそんな車も軽々運転出来ちゃう入江くん……ミスマッチだけどそれが逆にカッコイイ」とハートマークを散らす琴子である。
きっと琴子のことだから直樹がトラクターを運転してもギャップ萌えに転がりまくるだろう。

そして、直樹たちを見送った後、琴子たちもケンに案内されて川に向かった。

「こまんか川だばってん深い所もあっから気ば付けーしゃい」

「はい、おばあちゃん」

祖母の云った通り、葉の覆い繁る桜の樹の並ぶ堤防を降りるとそこは渓流というには穏やかな美しい水の流れがあった。
河原はそこそこの広さがあるが、流れている川幅は狭く、水の量は少なそうだった。
水着を着ていたケンは、すぐにバケツと網を持ってばしゃばしゃと水の中に入っていく。
水着を持っていない琴美は、サンダルを履いたままそおっと水の中に入る。

「ママーっ冷たいよー。プールよりすっごい冷たい」

「 ほんとだねぇ」

琴子も手だけ水に浸けてぱちゃぱちゃと泳がす。

「川の水ば、がばい冷たか。そんなの当たり前と」

バカにしたようにケンがいつまでも川辺から離れない琴美をさっさと置いてずんずん川の真ん中に入っていった。

「ケンちゃーん、あんまり遠くにいっちゃダメだよ」

「この辺までこんと、魚がとれんと」

「えー? お魚いるのぉ? みーちゃんも行きたい」

ケンの方を羨ましそうに見ていた琴美だが、やはりケンのように水着を持っているわけではないので川岸から遠くに行くことに躊躇いがあるようだ。

「みーちゃんはこの辺りでじゃぶじゃぶしてましょ? 服が濡れちゃったら困るでしょ?」

「うん …………」

水が冷たくて気持ちいいので、いつまでも足首まで浸かる辺りで、魚がいないか二人で腰を屈めてみていた。
そして、石と石の隙間をすっと行き交う小さな魚の影に一喜一憂する。
川の水は澄んで綺麗だ。
堤防の木々が緑の葉を繁らせ川面を覆うほどせりだして、木陰を作っていた。
午前中ながらも暑くなりそうな陽射しを遮ってくれて、心地よい。
蝉時雨の音。
川のせせらぎ。
耳からも感じられる夏の情景。
琴子と琴美は、落ちた葉で船を作って流したり、ケンの採った魚を見せてもらったり、スカートの裾を少し濡らしながらも楽しく過ごしていた。

「すごいね。こんなおっきな魚とれるんだね」

「イワナは滅多にとれんけんね。フナやドジョウや……」

「あ、カニもいるのー? ちっちゃー」

「沢蟹やけん、食えると。素揚げにしたらうまか。寄生虫おるけん、火は通さねばいかんけんね。干潟でとれるんば塩漬けにして瓶詰めにしちょってガニ漬けゆうと、じいちゃん焼酎のツマミにしとる。ばってん、おれは好かんけんね」

「えー食べるのーー? 可哀想」

水辺の石の狭間にいる小さな蟹に、琴美は興味津々だ。

自然いっぱいの中で、静かな時間が流れている。

明日はもう帰らなくてはならないのが残念ね………

琴子は瞳を輝かせて川縁で遊ぶ娘を見つめてぼんやり思う。学生の頃のようにゆったり出来ないのが、娘にも申し訳ない。

「おれ、あっちでイワナさがすとね」

「気を付けてね。あっち深くない?」

あっち、と指差した上流の方は少し川幅が広くなり、岩場も多い。

「平気やけん。慣れとると」

そしてばしゃばしゃと上流の方に向かっていくケンの姿を見失うまいと、琴子はずっと目で追う。

ばしゃっ

「いたーい」

「みーちゃんっ」

琴美が石に躓いて、すっころび、スカートの裾をびしょびしょにしてしまったのだ。

「あら、お膝も少し擦りむいたわね……ちょっと待って、バイ菌入らないようにしないとね」

琴子はハンカチを出して、血が滲んだ膝小僧を拭いてやり、常備していた絆創膏を取り出す。

「ほら、もう大丈夫だよー。キティちゃんの絆創膏ですぐ痛くなくなるからねー」

絆創膏を貼ってやり、ようやく半べそをかいていた琴美が落ち着いて来たときーー

ばしゃん。


少し離れたところで、何か大きな水音がした。

「何……?」

「あれ? ケンちゃんは?」

琴子は一瞬にして背筋に緊張が走るのを感じた。
琴美を見つつも、ケンの様子も目の端で見ていたつもりだった。
琴美よりだいぶ上とはいえ、まだ小学生である。
なのにーー。

「ケンちゃんっどこ!?」

思わず大声で叫ぶが、反応がない。
川面に視線を走らすが、何処にもその姿がない。

「ケンちゃんっ ケンちゃーん!」

暫くすると、もがくようなこどもの手が、川面からばしゃりと飛び出したのが見えた。

「ケンちゃんっ」

琴子はスカートの裾が濡れるのも構わずに、川の中に入っていこうとした。

「琴美はここにいて! 」

そう言い置いて、ケンの姿が一瞬見えた川の中央部に向かおうと足を一本踏み出す。

その時ーー


ーーだめ。

耳元で、声がした。

ーーあなたは、川の中に入っちゃ、ダメよ。

「え……?」

琴子が振り返るが、誰もいない。

気のせいかと無視して先に進もうとしたが、今度はぎゅっと誰かに腕を掴まれた。

「な、何……?」

掴まれている筈の腕を見ても、何も拘束するものはない。
だが、『見えない何か』に捉えられているせいで、琴子はそれ以上一歩も動けない。
じたばたもがいても、まるで金縛りにでもあったように身体を動かせなかった。

「ケンちゃんっ………! 誰か……誰か……」

誰か、助けて!!

入江くんっ 助けてぇぇーーっ



琴子がそう叫んだ時ーー。

「琴子っ」

まるでドラマのようだった。
呼び求めた救世主が、唐突に風のように現れて、琴子の横を駆け抜け、川の中に飛び込んでいった。

「え……? え? うそっ」

な、なんで? おじーちゃんと一緒に出掛けた筈じゃ……

琴子が訝しんでいる間に、直樹はあっという間にケンが溺れている辺りに辿り着き、直ぐ様抱え上げた。

岸に上がると河原の上に降ろして、心臓マッサージを始める。

「い、入江くん……ケンちゃんは……」

不思議なことに、直樹が川に飛び込んだ途端に琴子を拘束していた不可解な力は解けて、琴子の身体はあっけなく動いた。

直樹が人工呼吸と心臓マッサージを繰り返している間、幽かに遠くから救急車の音がする。
直樹が連絡したのだろうか……?

「んっ、……げほっげほっ」

ケンが目を覚ました。

「よ……よかったぁ」

琴美も琴子の脚にすがって泣いている。

「ケンちゃんは? ケンちゃんは? パパ、生きてる?」

「もう大丈夫だよ、琴美」

直樹が琴美の頭をくしゃっと撫でる。
そして、琴子を方を向いてーー

「いったい、おまえは何をやってたんだ!」

酷く冷たい瞳で、強く叱責した。

「川では絶対子供から目を離すな! 鉄則だろうがっ! それに子供が溺れているのに、ただぼーっと突っ立ってるだけなんて! ……もし溺れていたのが琴美でも、そんな風なのかよっ?」

呆れるような蔑むようなーーそして、何より直樹自身がひどく驚いているようなーーそんな表情だった。

「まあ、おまえが飛び込んでいたって一緒に溺れて二次被害に遇ってただけだろうがね。でも、おまえは絶対いざと云うときにはバカみたいな力を出すヤツだと思ってたのに。失望したよ」

「………そ、そうだね……ごめんね……あ、あたし………何にも……出来なくて……」

震える声で琴子は目を覚ましたケンに謝る。
ポロポロと大粒の涙が零れていた。

「……あたしの……せいで」

「すぐ救急車がくる。堤防の上に上がるぞ。動けるか? 琴美」

「うん、パパ。でもね、ママを叱らないで。ママ、みーちゃんが転んじゃってそれで絆創膏貼ってくれたりとか……」

さっさとケンを抱きかかえたまま堤防の上に上がっていく直樹を、琴美が必死に追いかける。母を庇う言葉を一生懸命探しながら。


どさっ

鈍い音が後ろからして、直樹が振り返る。

「ママっ」

琴美が後ろへ駆けていった。

倒れている母のところへーー。









救急車には琴子とケンの二人をのせて、町の救急病院へと搬送された。
連絡を受けた博子おばも、自分の車で救急車を追いかけた。
泣き叫ぶ琴美は、駆けつけた祖母に預けたが、大丈夫だろうか。
直樹は青白い顔をして横たわる琴子を見つめながら、一緒に行くと駄々をこねた娘につい強い口調で「待っていなさい!」と怒鳴ってしまったことを密かに反省していた。
目の前で母親が倒れたのだ。琴美がパニックになっていたのは仕方のないことだった。娘を顧みる余裕の欠片もなく、直樹自身も激しく動転していた。



ーー琴子。

バイタルに問題はなかった。
木陰にいたから熱中症ではないと思われた。
直樹の診立てはただの過労と貧血による意識喪失だ。

よくよく考えれば、琴子があの場面で真っ先に助け出さない筈がない。
例え自分の命を投げうっても。
(だから、そんなことをしなくて良かったのだーー)
動けなかったのは何かあったからだと何故思い至らなかったのか。

だいたいーー。

まず、この場所に直樹が来たのもある意味、尋常ならざる力に無理矢理引っ張られてきたようなものだった。
町へ向かう途中、唐突に助手席に座っていた祖父が、直樹の握るハンドルを掴み、「急いで川の方へいくばい」と叫んだのだ。

「じーちゃん、危な……」

直樹が祖父の方を見ると、真剣な、恐いような形相した祖父の顔に大きな黒子があった。

「え……?」

「早よう! 早ようせんばいね! おまえの嫁と子供が………」

隣にいるのは200年前亡くなった菊之助じいさんの霊らしい。
意外とすんなりとそのことを受け入れられた。
そして、恐らく川で何かあったのか、それともこれから起きるのかーー

「わかった、じーちゃん」

直樹はハンドルを大きく切って交差点でUターンした。




川に着いた途端、祖父の顔は元の黒子のない顔に戻っていた。
事態が分からずに茫然としていた祖父に、家に戻って祖母を呼んでくるよう頼んだ。そして堤防から川を覗き込むと、溺れているケンと立ち竦んでいる琴子を確認した。
琴美は少し離れた川岸にいる。ケンには悪いが少しほっとした。
そしてすぐに携帯で救急車を呼び、下に駆け降りたのだった。






「ご主人、このタオルで拭いて下さい」

救急隊員にタオルを渡され、初めて自分がびしょ濡れなのを思い出した。
川に飛び込んだので、当たり前だ。

ケンは意識を取り戻し、ちゃんと受け答えもできている。恐らく問題はないだろう。

琴子はーー。

「すみません、奥さん、妊娠の可能性は?」

「え、いえーーー」

救急隊員の言葉は女性の患者を診る時の常套句だ。これを訊かねば薬や治療の選択が出来ない。

「確か今日生理がきたとーー」

言いかけてはっとした。
突然、思い至るものがあった。

「2週間前も生理が来たと言ってました。もしかしたら2週間前のそれは着床出血かもしれない……」

稀に受精卵が着床する時に絨毛が子宮を傷つけることがある。その際に生理と同じように出血し、妊娠に気がつかないことがあるのだ。

「じゃあ」

「妊娠している可能性がないとはいいきれません」

なぜ気がつかなかったのだろう?
微妙な体温の高さや、気だるそうな様子やーー
生理が来たと云うことばを鵜呑みにして、琴子の身体の変化を掌握しきれていなかった。

「今回の出血は不正出血かもしれない……」

「2週間前が着床出血なら、今妊娠5周目か6週目くらいですね。とりあえず、妊娠の可能性も配慮します」

「お願いします」








「妊娠6週目に入ったところですね。もう心拍も確認できますよ」

担当の産科医は、50代半ばの女医だった。斗南病院と違って、ごり押しで女医に変えさせることはできないので、直樹は内心ほっとしたが無論顔には出さない。

「出血は問題ないと思われますが、しばらく安静にしてくださいね。東京に戻ったらなるべく早く主治医のところで受診してください」

「ありがとうごさいます」

直樹は女医に頭を下げて、貰ったエコー写真を手にして、琴子が横になっている処置室に戻る。

ケンは何の問題もなく博子おばとさっき帰宅した。

けれど、琴子はまだ目覚めないーー。

「琴子、入るぞ」

それでも直樹は、医師と面談をしている間に琴子が覚醒しているかもしれないと声をかけてカーテンを引いた。

相変わらず眠ったままの琴子。
そして、その横にーー琴子の手をぎゅっと握って不安そうに彼女をみつめる一人の女性がーー。

「………あなたは……」

そこにいる筈のないひと。
琴子によく似た顔立ちの、写真でしか知らないひと。
けれど、直樹はその有り得ない現象を、特に何の疑問も恐怖もなく受けいれていた。それは随分当たり前な光景のように思われた。

ーーごめんね、直樹さん。

喋っているのか、心の中に話しかけているのかよくわからなかった。

ーーあたしが琴子を掴まえてたの。川の中に入らないように。だから、この子を叱らないであげてね。

「………… ありがとうごさいます。もし、お腹の子供に何かあったら……こいつはきっとずっと自分を責め続けていたかもしれない」

妊娠12週までの流産は、母親の行動には一切責任がない。全て胎児に原因がある場合だ。そして、そのことをよく分かっている琴子でも、もし川に入った後で赤ん坊が流れでもしたら、きっとずっと自分自身を責めるだろう。

ーーよかった。とりあえず何事もなくて。菊之助さんも間に合ってよかった。

「…… もしかして、じーさんの琴子に対する態度が豹変したのって」

ーーふふ。菊之助さんにも協力してもらっちゃった。ほら、安静にしておかなきゃならない時期じゃない? あたしは流石に直樹さんのおじいさまに拘わるこたができなくて。で、菊之助さんに頼んで、おじいさまの夢枕に立ってもらったのよ。

「………それで、じーさん、琴子に何もさせなかったのか」

いったい夢枕に立って、どんな脅しを掛けたのか。

ーーあ、でも! 二人の夜を邪魔しろ、なんて一言もいってませんからね。菊之助さん、勝手に妊娠中の営みは赤ちゃんに障ると思い込んでて……

「………………………………まあ……したからって流産はしませんが……」

このひとも見てたのかっ?

若干の引っ掛かりを感じていると。

ーーあ、大丈夫。あたしはちゃんと離れてたから! そんな、娘の………なんて、覗き見しませんってっ

心の声はきっちり聴こえるらしい。



とはいえ、わかっているといないとでは、おのずと抱き方は変わってくる。感染症を防ぐためにも避妊具も着けた方がよい。いや、やはり安定期までは我慢した方がいいと、医者である自分が一番よくわかっている。

……にしても、あのじーさん、おれが無体なことをするとでも思ったのかっ
いくらなんでも母親の実家でそんなに激しくするかっ

何となくもやもやと腹立たしさを感じつつも、直樹は目の前の人に深々と頭を下げた。

「……色々とありがとうございました」

ーー直樹さん。これからも、琴子をよろしくね。そして、この子と、琴美と、こらから生まれる子どもを守ってあげてね。

「………はい」

はい、おかあさん。
全力であなたの娘と孫を守ります………






「………入江くん?」

琴子がぼんやりと目を覚ました時、直樹は自分の手を握りしめたまま、ベッドに突っ伏して眠っていた。

なんで、こんなところにいるのだろう?
馴染んだ消毒薬の匂いや色々なものが混じりあった独特な匂いが、自分のいる場所をあっさり特定させる。

夢を見ていた。
病気の時に熱を出して眠っている琴子の傍らで、ずっと傍についていてくれた母が、優しく手を握りながら、何かを話しかけてくるのだ。

その何かが思い出せない。

「………はい」

直樹の口から寝言のような言葉が出てきてびっくりした。
彼から寝言なんて殆ど聴いたことがなかったから。

「……入江くん?」

琴子がおそるおそる掛けた言葉に呼応するように、直樹が跳ね起きた。

「琴子!」

「い、入江くん……」

「よかった……どうだ? 何処か痛いとかないか? 気分は悪くないか?」

不安そうな直樹の顔に、どうやら自分は直樹に余計な心配をさせてしまったらしいと、初めて気がつく。
そして、徐々に倒れる前の記憶が甦ってきた。

「大丈夫。あたしはなんともないよ! それより、ケンちゃんは? 琴美は?」

琴子は少し身体を起こして、直樹にすがるように訊ねる。

「ケンはもうおばさんと家に帰ったよ。琴美はばーちゃんに預けてあるから、もう少ししたら来ると思う」

直樹がそう告げると、よかった、と琴子は大きく安堵のため息をつく。

「琴子、ごめん。さっきは怒鳴って」

直樹が琴子の手を両手で包んで謝る。

「ううん、あたしが目を離したのがいけないの。身体が全然動かなくて、助けに行けなくて……ほんと、情けない。入江くんが呆れるのも無理ないよ」

そういう琴子に、
「ほんと、助けに行かなくてよかったよ」と直樹が真面目な顔をして応えるので、「そ、そりゃあたしが助けに入っても二次被害で面倒なことになってたかもしれないけどっ」と、少しばかり抗議する。

「ばか。そういう意味じゃなくて」

直樹が琴子に一枚の写真を見せる。

「え? これ………え? え? えええーーっ!!!?」

琴子はそれを受け取って見つめてから、意味がよくわからないとばかりに、直樹と写真を何度も見比べる。

「いま6週目に入ったばかりだそうだ。まだ5ミリくらいだけど、ちゃんと心拍も確認できた」

「……ウソ……だって、生理……」

琴子は呆然と自分のお腹を擦る。

「ただの不正出血だ。前のやつは着床出血だと思う。ああ、出血は大丈夫らしい。胎児の心拍に問題はないようだ。一応安静にするように言われたから、明日おふくろに羽田まで迎えにくるよう頼んでおくよ」

まだ母には言わないほうがいいよな、と内心思いつつ。
二人目妊娠を知ったら、横断幕を持って到着ゲートを陣取りかねない。

「あかちゃん……?」

「ああ。琴美の七夕の願いが叶ったな」

琴子の排卵日と妊娠週数をかんがみても………多分、七夕だ。

「赤ちゃん………」

まだ信じきれないように茫然と呟くばかりの琴子をぎゅっと抱き締めると、
「ああ、おれたちの子どもだ」そう言って優しくキス。

「………生まれるのは3月末か。春ごろだな。きっと大丈夫だ。必ず無事に会えるよ」

何故なら最強の守護者(ガーディアン)たちが全力でお腹の子どもを守ってくれたのだからーー。












さて、母のお腹に弟か妹がいると知って、祖母と祖父に連れられて病院にきた琴美がハチャメチャに喜んだのも無理はない。

「あたしがたんざくにいっぱい妹欲しいって書いたおかげ?」

「そうかもな」

そのテンションで東京の祖母と電話をして、ついうっかり赤ちゃんのことを口にしてしまったのは仕方ないことなのだ。

琴子はすぐ帰宅できたが、無論その後は祖父の家で安静に過ごした。
夜、ケンと博子おばが篭いっぱいのアケビを持って琴子の見舞いに来てくれた。ケンの父が裏山に採りにいってくれたらしい。

琴美は初めて食べるアケビを「あまーーいっ」「種がいっぱーい」と、感動しながら母と食べた。

「いっぱい、九州の想い出できたね」

夜、再び琴美を挟んで川の字になって寝転がり、琴子は娘に訊ねた。
今夜が九州最後の夜である。

「うん。でも一番は赤ちゃんだよ」

琴美がにまーっと笑う。

「神様がみーちゃんのお願い叶えてくれたの」

「そうだな」

「そうね」

「妹だといいなー」

「それはわからないな」

「パパ設計図書いたんだよね?」

「神様が全部願いを聞いてくれるかはわからないよ」

「そうかなぁ~~~」

仲睦まじく語り合う親子の様子を、二人の守護霊がずっと眺めていたかどうかは……神のみぞ知る。




「今度くるときば、こまいのがまた増えとっと」

九州の家を出るとき、祖父は手土産をたくさん渡しながら、少しむすっとしながら琴子に語りかけた。
空港まではケンの父が車で送ってくれるということで、甘えることにした。

「今度は客扱いはせんばってん、覚悟するとね」

「え? おじいさん、あたしが妊娠してること知ってたんですか?」

「そげんこた知らんばい」

ふんっと鼻を鳴らす祖父に、隣の祖母が補足説明をした。

「ちょうど2週間くらい前から毎晩ご先祖の菊之助さんが夢枕にたつとね。『琴子は気がついとらんたい、腹に子がおるけん、働かせたらあかんと。これで流れでもしたら、直樹はもう2度と此処にくることはなかばってん』とね。最初は信じられへんけん、ばってんご先祖さんが色んなこと知っとっと。おじいさんが尋常小学校の頃ば教室で漏らしたこととかね。信じるしかなかとね」

祖母は可愛らしくころころと笑う。そんな不可思議現象であっても、とくに気にせず当たり前のように受けとめているらしい。

「うーん、菊之助じーちゃんってば………でも、感謝すべきかな。あ、でも次はあたしがご飯作って、床拭きでもトイレ掃除でもなんでも手伝いますからね!」

力強く答える琴子に、祖父は「今度は甘やかせんけん覚悟するとね」と不敵に笑う。

「望むところよ!」


そうして、長いような短いような真夏の九州の旅は終わったのだった。

「バイバイ、ひいおじーちゃん、ひいおばーちゃん。そして、ホクロのおじーちゃん!」

琴美は見送る曾祖父母たちの方を振り返り、大きく手を振った。


ーー次は、家族四人で来るとよか。
楽しみに待っとっとよーー







そして、羽田の到着ロビーで紀子が横断幕をしっかり携えて彼らを出迎えたのは、やっぱりお約束なのである。


『祝! 二人目懐妊! Baby come soon♪』








※※※※※※※※※※※※※※


終わりました~~~f(^^;
前後編が思いの外長くなり……でもなんとか3話で終えました。
中編を入れると絶対展開の先読みできちゃうなーと悩んだけれど……emaさんの素敵イラストどうしても挿入して、即アップしたかったので……まあ、いいかな、と。(結局、後編も長すぎたので、分けなくてはならなかったでしょう)

ええ、結局一番の大ボスはえっちゃんかしら笑 200歳年上の大先輩を裏で操る女……




一応7月は一人梅雨祭りに始まり、納涼祭りと普段よりたくさん更新できたかなーと(その分、リコメが滞り………ごめんなさいっコメントは有り難くしっかり読ませていただいてます。日々の活力です。そして、地道に返信してまいります)
梅雨祭りのラストの琴美の七夕の願いから繋げたかったので、連載が頓挫してしまい、お待ちの方は申し訳ありませんでした。
とくに深く考えてなかったけど、ハルの誕生日を3月に設定していたので、七夕受胎なら、辻褄あってる!と密かにガッツポーズ(^w^)ーーーなのでした♪

8月はちょっと忙しくて更新ペースはかなり落ちると思いますが、連載中心に戻して、納涼祭りも2本くらいネタあるので書きたいなーと頭の中では計画してます。(いつも計画倒れ……)気長にお待ちくださいませ。





* Category : 納涼祭り2016
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感動(^^) * by Char
真夏のガーディアン、、、感動しました。
(中)の母・娘の線香花火を写真におさめてる場面。 (後)の怒鳴ってゴメンの場面は、ちょっと涙が誘われました。
これからも楽しみにしてます。

* by さち子ママ
お母さんとおじいちゃんがハルを守ってくれたんですね…
読んでいて涙がでちゃいました(T ^ T)

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NoTitle * by なおちゃん
入江君も、そゆうとこ、が、成長してないのよ?考えもしないで、琴子ちゃんを、頭ごなしでしかるなんて、水の事故て、多いんですから?小さい子を、連れていくときは、大人が、一人に任さず、何人も、ついていく方がいいに決まってるはず。

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうなんです。そういう理由でした笑
いや、この三夜だけ阻止してもねぇ、と思いつつ、自分のテリトリーで障りがあってたまるものかと菊ちゃん頑張ってたのかもf(^^;
そうそう、意地悪じーさんが何もしなかったのはそういう訳でした。

そうなんですよーもろばれですが。いや、本当はアケビ採りの裏山で事件を起こそうか悩んだのだけれど、夏らしく川の描写もしたかったという……(それだけの理由笑)

もう、ガーディアンと来たらえっちゃんは外せません。最強です!(爆)
そうそう、じーさんは菊ちゃんに憑依されちゃいましたね(^w^)以外と霊体質なのかしら……f(^^;

琴美の七夕の願いは一部は叶えられたものの、『いもうと』は遥か未来まで待たねばなりませんが……これから少し先の未来の困難にも、最高の守護霊たちがしっかり守ってくれそうですね。

お気遣いありがとうございます♪
今週はリコメ強化週間で、更新できそうにありませんが、こっそりお絵描きもしつつイタキス三昧で過ごしてますよー♪


個別記事の管理2016-07-25 (Mon)

“納涼祭り2016”



後編をお待ちの皆様、すみませんm(__)m
ちょっとどうしても今日、こっちを先にアップしたかったのでf(^^;




私には珍しいあの人目線です(^w^)




※※※※※※※※※※※※※※※






1年365日の中で、どの日が一番嫌いかといえば、アタシはまずこの日をあげるわね。
7月25日。
ええ、ツートップの12月24日と2月14日を抑えての断トツ1位よ。

とにかく、この日はアタシにとって最も運のない日よ。

親が離婚したのもこの日だし。
初めて告白してフラれたのもこの日だったわねー。
以来、絶対この日には告白しないわ。
そういえば、初めて自分の性別に違和感を感じたのもこの日だったわ。
みんな、可愛いワンピースの水着着てるのに、なんでアタシだけ黒いパンツ一丁なの? 無性に恥ずかしかったの覚えているわ。
高校の時、母親にカミングアウトして、泣かれたのもこの日。
結局ずっと気まずくて、大学からは家を出た。

なんにせよ、この日はアタシにとって、史上最悪の日なのだ。

なんといっても一番サイアクなのはーーまたひとつ歳をとること。
これ以上歳を取るなんて有り得ない。
もう、これからあたしはこの日が来ても歳をとるのはやめるわ。永遠の22歳よ。ふんっ。

もっともアタシは誕生日が今日だと誰にも教えていない。
誕生日、非公開よ。
誰に訊かれても誤魔化し続けてきたアタシ。
嬉しくもないのに祝ってもらうのは苦手。
親にすら高校のカミングアウト以来、おめでとうっていってもらったことがないわね。どうでもいいけど。


そうそう。だいたい琴子なんて、結婚してるのに旦那さまにちゃんと誕生日祝ってもらったことないっていうじゃない。
いやーそれも有り得ないけど。
ま、あの娘は旦那には祝ってもらえなくても世界中の人が祝ってくれそうなくらい、人好きのする娘だけれどね。
きっと入江先生は誕生日とか関係なく365日変わらず琴子を愛してんのよね。まーったく羨ましいこって。
夏になると薄着になるから、キスマークの露出頻度がかなりな率で高いと思うのよねー。特に入江先生、神戸から帰って間もないせいか……なんか、加減を知らないと言うか……激しすぎない? ほぼ毎日よね!?
なんであたしが毎度毎度コンシーラー貸さなきゃなんないのよ。

ああ、そういえば今日は琴子の代わりに夜勤替わったんだった。
誕生日の夜に夜勤。仕事しながらカウントダウン。
まあ、アタシらしくていいんじゃない?
あの娘は今日はお義父様とお義母様の結婚記念日のお食事会っていってたわ。
休みをとる日付間違えたからって泣きつかれたのは三日前。
別にいいわよ。琴子はアタシの誕生日なんて知らないし、予定だって特にない。
入江先生も当直なくて早く帰られたから……いいわね、家族で仲良くホテルでお食事か。
アタシには永遠に縁はないかも。
もっとも、素敵なお義母様だけど、アタシは遠慮したいわね。あのパワフルさと破天荒さは琴子でなきゃ付き合えないわよね。



あ。


0時回った。


ふん、いいのよ、どーせ今年も22歳なんだからさ。

アタシは、あとまだ少しある休憩時間に、コーヒーでも飲もうと席をたった。

すると。

え? 停電?

休憩室の部屋が突然真っ暗になって慌てる。

ええっ!?

まさかの怪奇現象?

うそっ今まで色んな怪談ネタは院内で耳にしたけど実際に出くわしたことなど一度もない。


ドアがぎぃーーと開く。
人の気配。
さをざわと何人も何人も。

え? 夜勤スタッフ、そんなに数がいるわけない。

たくさんの人が静かに部屋に入ってきてアタシの周りを取り囲む。

昨日やってた実録怪談再現番組で、ホテルのベッドの周りを兵隊さんが何人もぐるぐる回って取り囲んでる話を視たばっかだった。
あーん、あんな番組視るんじゃなかったーーっ

パンっ
パンっ

ぱーんっ


なに? なに? けたたましい破裂音。な、なーにーーっ ひええっ!!!!


「「「誕生日おめでとう、モトちゃん」」」

「え………?」

ぱっと部屋が明るくなって、アタシは思わず目をパチパチさせる。

目の前には、イチゴの乗ったホールケーキを持ってにこやかに立っている琴子の姿。
そして、クラッカーを持ってにやにや笑ってる、真里奈、智子、啓太ーー。
外にも患者さんやら、スタッフやら。
ちょっと、患者さん、消灯過ぎてるわよーダメよ、こんなとこに来ちゃっ!

そして、アタシは随分間の抜けた顔をして、クラッカーの紙テープを頭に貼り付かせてボーゼンと立っていた。

「な……な、な………何よ……なにっ?」

少し小さめのホールケーキには『23』という数字の蝋燭が立っていた。

「もー モトちゃんってば! 今日誕生日だったのねー。どうして教えてくれないのよ。危うく夜勤押し付けて、一人ぼっちで誕生日の夜を迎えさせるとこだったじゃない」

琴子が少し頬を膨らませて訴える。

「な、な、なんで知ってるのよ? あたしの誕生日は非公開よ!」

「うん、実は入江くんに教えてもらったの」

え? うそっ なんで? なんで、入江さんがアタシの誕生日を?
まさか、こっそりリサーチしてくれてたとでもゆーの?

「前に院内健康診断、入江くんが担当したでしょう?」

院内の職員の健康診断は、主に検査科が担当するけれど、内科検診は各科の研修医が輪番で担当する。ラッキーなことにあたしは入江さんに当たったのだ。服をまくりあげて聴診器(ステート)当てられるだけでもう、うっとりよ。
首もと触れられてリンパチェック、目の縁触れられたり……ああ、一生顔洗いたくないって思ったわ~~
まあ他の人もそう思ったようね。
この日は腰砕けのナース続出で、仕事にならなかったんじゃないかしら。
その日健診に当たったナースは一生分の幸運を使い果たしたとかいってたわよ。
でもって、その日に当たらなかった琴子は悔しがってたわね。あほか。毎日めーいっぱい健診されてるくせに!

ああ、そう、健診ね。予診票に全部書いてあるわね、個人情報。
名前と生年月日は一番トップだもの、バレバレだわよね。

でもまあ。
それをみて、覚えてくれてたのってーーちょっと嬉しいかも。

「あたしが入江くんに頼んだのよー。モトちゃん誕生日教えてくれないんだもの。誕生日ゲットしてって」

なんだ、琴子のため? ………って、個人情報もらしちゃダメでしょー!!!

「個人情報教えられるか!って叱られたけど」

そりゃそうよ。

「さっきのね、食事会の席で、モトちゃんに夜勤替わってもらったっていったら『おまえ鬼畜だな。明日誕生日なのに……』ってぽろっと」

ぽろっとじゃないわね。
確信犯ね。

「で、大慌てで食事会切り上げて、真里奈たちみんな召集して」

入江家のみなさん、ごめんなさい。

「いや、別に今夜無理して召集しなくても」

「こーゆーのは0時ジャストが大切なのよ」

そーなの!?

「ケーキは、食事してたホテルのレストランでお義母さんが頼んでくれて」

……さすが、パンダイ社長夫人の権力。こんな時間にオーダーさせるとは。

ちゃんとチョコプレートに『モトちゃん、おたんじょうびおめでとう!』ってかいてある。

「でも、さすがにこの時間からプレゼントは用意できなかったので」

「入江さんとのデート券でいいわよ」

「却下!」

ちっ。

「みんなで歌います」

あーーそう。

そして、夜勤スタッフと患者さんまで巻き込んでの「ハッピーバースディトゥユー♪♪」さすがににわか仕込みね。音、外れてるし。

その後、部屋を暗くして、23という形の蝋燭に火を点けて、ふーっと吹き消す。

やだ、こんなベタなイベント、久しぶりかも。

フォークを持たされて、一口食べる。
さすがホテルのパティシエ作。
おいしーっ


「あなたたちっ何やってるんですか!」

ありゃ清水主任。
ダメじゃない、この辺はきちんと根回ししとかなきゃ。アタシが加わってなきゃ、ほんと駄目なんだから。

「まあ、桔梗さんの誕生日なの? それは仕方ないわね」

仕方ないのか。
そりゃ、どーも。

「でも、患者さんはみんな部屋に戻って。夜勤スタッフも休憩終わったわよ!」

はーい

みんな、三々五々に散らばっていく。


そして、誰もいなくなったーーと思ったら、琴子がいた。

「プレゼントはまた明日あげるね。入江くん以外の。何がいい?」

「そうね。じゃあ、コンシーラー」

「え? モトちゃん、別にシミなんて」

ええ、ないわよ!
でも誰のせいで大量消費してると思ってるのよ!

「じゃあ、明日あげるね!」

「別にいいわよ」

ジョーダンだったのだけど。真に受けたわね。
誰かに物をもらうのは実は苦手。
そつなくおねだり出来る真里奈がちょっと羨ましいわね。
お返しとか色々考えなきゃならないから。アタシに貰っていいの?とか思っちゃうし。

「あ………」

入江さんがドアの向こうにいた。
琴子を迎えに来たのね。
アタシは思わずぺこりと頭を下げる。
琴子は入江さんの耳元に何やらボソボソ……いいわね。

「モトちゃん!」

くるっと踵を返し、琴子が戻ってくる。

「今度の日曜、空いてる? うちで、モトちゃんの誕生パーティやろうって」

「ええ? 入江家で?」

それは……嬉しいけど……でも。

「せっかく、モトちゃんの誕生日が解明されたのに」

いえ、そんな大袈裟な。

「今まで、みんなの誕生日、ご飯食べにいったりとか、ちゃんとお祝いしてきたわけじゃない?」

そうね。たまたま看護科で同じ実習グループになったというだけの縁だけど、アタシたちは随分仲がいい。

「モトちゃんの3年分のお祝いをまとめてするね!」

ああ、まったく。
だから、誕生日がバレるのイヤだったのよーー。

「じゃあ、モトちゃん、今度はアタシが夜勤替わってあげるから」

「期待せずに待ってるわ」

そして、琴子は入江さんと腕を組んで帰っていく。

本当に欲しいのはその場所なんだけどね。

ううん、別に入江さんじゃなくてもいいのよ。あんな風にアタシだけを見つめてくれる人の腕さえあれば。

でも、残念ながらその願いは中々叶えられない。

今日は、本当は最悪な日なのだ。
望んでいない性別に生まれおちた、呪われた日。
ずっとそう思ってた。

でも、アタシは生まれてきたことを一度も後悔したことも呪ったこともないことに今気がついた。

アタシはーー

食べかけたケーキをもう一口食べる。

「これ、一人でどーしろっていうのよ?」

まあ、いいや。
冷蔵庫にいれとこ。
朝、日勤の子にも食べてもらって。
あー、完全に誕生日バレるわね。
ま、いっか。

23の蝋燭だけ、隠蔽。
ええ、アタシは永遠の22歳なのよ。
それだけは譲れない。


でも、まあ。
こんな誕生日も悪くない。

アタシは週末に入江家に招待されるのを楽しみに暫くは頑張れそうだと、一人気合いを入れる。


1年365日のうちで、最も嫌いだったこの日が。
今日は妙にいとおしい。

生まれてなければ、少なくともあんたたちに出会ってなかったのだからーー。







※※※※※※※※※※※※



すみません。何故か唐突に、このようなモトちゃんバースディネタを。
いえね、誰でも良かったのですよ。
はじめはむじかくさまが好きな渡辺くんの誕生日に設定しようかと思ったのですが、ネタが思い付きませんでした。
モトちゃんだとなぜかさくさくf(^^;


と、まあ、そういうわけで、この話は敬愛すべき同志むじかくさま生誕記念ということで(勝手に)捧げ(押し付け?)ます♪

&かき氷の日……ということで笑







おっと。先程ご本人からカッパジャマなイリコトリクエストされたので、そのうち落書きは差し替えているかも…………(^_^;)




☆真夏のガーディアン(後)は、明日の0時にアップいたします。


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NoTitle * by なおちゃん
もとちゃん、お誕生日、おめでとう。これからも、みんなと、仲良くね。v-207

Re.りょうママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

まありょうママさんも息子さんも誕生日近かったんですねー! おめでとうございます♪

そう、モトちゃん設定がないのをいいことに、勝手にむじかくさんと同じ誕生日にしてしまいました。他にも色々捏造……f(^^;

なんかちょっとシリアスチックな背景があるモトちゃんで大丈夫かしらと思いつつ、まあ性別間違って生まれたからには小さい頃から色々あった筈と想像。
そんなモトちゃんにも、素敵な仲間ができてこれからは誕生日も楽しくなるでしょうね♪

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうです。私、考えてみれば看護科メンバー目線って書いたことないかも。なるべく三人称で書く努力をしていたので。視点が偏っちゃう気がして、基本的に一人称は封印してるんですよ。たまに書いてもイリコトもしくはオリキャラばっかだったなー笑。最初は必ずこの日にイリコトと遭遇する第三者で妄想してみたけど、一番モトちゃんが書きやすかったです(^w^)

原作のモトちゃんのキャラって私も本当大好きです。二次でもかけがえのないお助けキャラ。いい立ち位置です♪でもきっと性別間違えて生まれたって結構キツい思いもしてきたろうなーと妄想してしまいました。あの明るさと世話焼きキャラは本来の資質もあるだろうけど、きっと裏では葛藤もあるに違いないと。
琴子と関わって看護科の素敵な仲間たちと知り合って、自分を受け入れてくれる場所が出来て、モトちゃんも幸せな誕生日を迎えさせてあげれました(^w^)

Re.たまち様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

たまちさん方面のモトちゃんも素敵な方のようですものね。気遣いとか本当の女性よりきちんとしてるんですよね~~
きっとこのモトちゃんも2016年現在は永遠の30歳くらいになってるかもー(^w^)
この仲良しメンバーだからお祝いとか色々してると思うんですよ。特に琴子のバースディは毎年盛大だし(とはいえ知り合った最初の年はスルーだったのかな~~冷戦時期だし)。
きっと琴子はみんなの誕生日きちんとお祝いしたいんです。
それをわかっての周囲のナイスフォロー。琴子とモトちゃんの人徳ですね♪
そうそう、紀子ママ、きっとこれから毎年お祝いしますよね~~(琴子が忘れても)(^w^)


Re.ちびぞう様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます♪

そうです。女性は必ず何処かで永遠の〇〇歳となるものなのです。私は永遠の28歳とでもいっておきましょうか笑
保育園とかねー女の子は可愛い水着あるのに、男の子のって、黒いスク水ばっかじゃないですか?(入江くんと逆な黒歴史……)(^w^)
むじかくさん……皆様にお誕生日祝ってもらえて……そして何故かカッパ祭りです(^w^)

Re.heorakim様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます♪

琴子ちゃんの行動力と入江くんの絶妙なフォロー。モトちゃんのバースディが素敵な日になりました。楽しんでもらえてよかったです(^w^)


Re.なおちゃん様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

本当に素敵な誕生日となってよかったです。看護科の愉快な仲間たちとともに、きっと幸せな一年がすごせますね♪

個別記事の管理2016-07-20 (Wed)

“納涼祭り2016”






すみません……結局、前中後編に分けることになりました……f(^^;

そして、emaさんが本日アップしていた素敵な浴衣でむふふなカットを「くださーい」とお願いしまして、挿し絵にさせていただきました♪
だって、思いっきり浴衣シーン書いてたんだもの♪
emaさん最初鍵つきだったのに、鍵なくても大丈夫ですよねー???
と、鍵なしでf(^^;
えろ自体は前回と同じR15くらいな感じです。





※※※※※※※※※※※※※






「きゃーっ やだ、もう8時!」

はっと目覚めて枕元の携帯の時間を見て慌てて飛び起きた琴子は、すでに直樹も琴美も隣に居ないことに気がついてがっくりと肩を落とした。

もう! 起こしてくれたっていいのにーーっ!!!

というか、5時前に叩き起こされることを覚悟して4時半に目覚ましを掛けたつもりなのに、どうやら全く気がつかなかったらしい。

おじーちゃん、やっぱり起こしに来なかったんだ……

本当に、お客さん扱い?
慌てて着替えて、布団を畳みながらも、琴子はあと三日間どうすべきか少し悩む。

いくらそう云われても立場的に甘える訳にはいかないよね?

琴子が障子を開けると、濡れ縁の向こうの中庭で、直樹と琴美が鶏に餌をやっていた。

「あ、ママ、おはよー」

「おはよーみーちゃん。ママも起こしてくれたらよかったのに」

「起こしたよー。でも起きないんだもん」

「なあ、琴美?」

「ねぇ、パパ」

「あ、あ……そう」

思わず決まり悪げに頭を掻く。

「ばあちゃんが飯ができてるって。朝御飯だぞ、琴美」

「はーい」

結局、のそのそと遅い朝食をとったのは琴子たち3人だけで、祖父母はとっくに済ましたらしい。

「おじーちゃんは?」

「もう畑さ行ったとね」

「あ……そうですか。あたしも食べたらすぐいきます。ごめんなさい、ご飯の支度も手伝えなくて……」

「気にせんでよか。畑も行かんでよかね。琴子さんば琴美ちゃんと遊んどればよかばってん、あんまり遊ぶとこもなかけんね」

ころころと可愛らしく笑う祖母に、琴子はひきつりながらも微笑み返す。

やっぱり琴子にあれこれ手伝わせる気は全くないらしい。

「虫籠とかあったよな。カブトムシとかクワガタとか採りにいくか?」

「うん、いくいくっ」

琴美は女の子ながら虫の類いは全く平気で、どちらかといえば好きな方だ。
生物全般に興味があるようで、色んな虫を拾ってきては母と祖母を絶叫させていた。

「みーちゃん、昨日の夢、覚えてる?」

琴子はふっと思い付いて娘に訊ねる。

「夢? なあに?」

「覚えてないようだ」

直樹の補足に、琴子も少しほっとする。
いや、しかし。

「………みーちゃん、痣のあるおじいちゃん、まだいる?」

恐る恐る訊ねると、琴美は首を振って、「いないよー? 今日は朝から見てないの。何処に行っちゃったのかな?」
そう答えた。

……いないのか。

食べ終わって、とりあえず自分たちの食器だけはシンクに持っていき、さくさくと洗う。

「……琴子、食欲ないのか?」

「え?」

「残してたろ? 昨夜もあまり食べてなかったし」

「うーん、夏バテかなー。休み前、結構無理したシフト組んでたし」

育休1年だけ取って、普通に職場復帰した琴子は、夜勤もきちんとこなしている。
義母紀子がいてこそ、こんな風に通常に復職できたのだと、休みの日は全力で家事と育児をこなしている琴子をみて、紀子からはお休みの日はちゃんと身体を休めなきゃダメよ、と釘を刺される日々だ。

「………とりあえず今回は甘えて、ゆっくり休んだらどうだ? こんな時くらいしか休めないし、琴美ともしっかり遊べないだろ?」

直樹の提案に、なんとなくすっきりしないものの、「……そうだね」と、答える。

「あたしがちゃんと色々こなせる嫁になったって見せつけたかったのになー」

「………それはどうか………」

「……なんかいった?」

「いや。家事はともかく、育児に仕事にと、メチャメチャ頑張ってるたいした奥さんだって、おれが認めてるんだからいいんじゃない?」

「やーん、入江くんにそう云われるのが一番嬉しい」

『家事はともかく』が若干引っ掛かるものの、少しテンションアップして飛び付くように直樹に抱きついた。

「…………情熱的に抱きついてくれるのはいいが……みんな見てるぞ………」

「え?」

気がつけば、琴美をはじめとして、一色家の孫息子夫婦を覗きに来たご近所さんたちがずらーっと並び見守っていた。

「きゃーっ/////」

「いやー東京もんば人目さ気にせんで熱々とねー」


ーー賑やかな2日目の朝が始まった。


その日は、昼まで親子3人で林の中の虫を採りに行き、かなりな数のカブトムシやクワガタを採集した。多分家に帰る前に放してやるだろうが。
午後からは博子おばの末っ子ケンが「宿題を教えて欲しい」とやってきた。
10年前に来たときは赤ん坊だったケンももう小学校四年生で、年長の従兄である直樹のことは直接は覚えていない筈だが、年の離れた姉たちや従兄弟たちから『がばいすごか天才』だという評判は聞き及んでいたらしい。

結局午後からは宿題教室となり、琴美も琴子も一緒にノートを広げていたが、すぐに飽きて畳の上にころんと転がって二人して昼寝をしていた。

「このねーちゃんが噂のことこさん……」

ケンが座布団を枕にしてくーくーとよだれを垂らして寝ている琴子を眺めながら不思議そうな顔をしている。

「噂って?」

「ねーちゃんたちや、従兄弟のにーちゃんたちからずっと聞かされとったとね。直樹にーちゃんの嫁はご先祖さまの霊を自在に操る陰陽師のような人やけん、逆らうと過去の過ちを全部ばらされるから気ぃ付けんといかんとよーって………」

「………それは……ものすごい拡大解釈だな」

思わず呆れ返る直樹だった。

「ただ、ご先祖さんに気に入られて守られてるだけだよ。きっと」

「なんでやね? うちのねーちゃんたちはいっぺんもご先祖さんに会うたことなかっていっとったとよ。ことこさんは一色の血が入ってないのに不思議かねーって」

「血よりも相性だな」

「……?? ふーん」

ケンは一色の子供らしくそこそこ優秀で、教えればさくっと解けて宿題はあっという間に終わった。
その後目を覚ました琴美と遊びだし、夕方まで二人で広々とした庭を駆け回っていた。
年は離れているが、子供が少ないせいかどんな年代の子達ともすぐ仲良くなれるのだと、夕方迎えにきた博子おばが話していた。


夜になってから再びケンが姉たちとともに手持ち花火を沢山持ってやってきた。
長女のミキは20歳で、次女のユキは16歳。二人ともすっかり大人で、一色の女性らしく切れ長の瞳のクールビューティに育っている。
そして、バッチリ浴衣を着て『直樹にいちゃーん、久しぶりとね~~覚えとっと~~?』などとしなだれかかってくるので、従妹といえど侮れない。(なんといっても理加の例もあるのだ!)
とはいえ、直樹とてすでに一児の父だ。
そして、琴美は、琴子以上に牽制力を発揮して、父に近づく姉妹二人をがっつりガードしている。そして、流石に子供相手に無下にはできず、ミキユキ姉妹は、仕方なし色気を振り撒くのは諦めたようだ。

琴子も負けてなるものかと琴美とともに持ってきていた浴衣を着て、ようやく庭でプチ花火大会が始まった。

「なんか、夏って感じだね~~」

縁側で祖母が出してくれたスイカを食べながら、子供たちが花火に夢中になっている様子をにこやかに眺める琴子。
直樹は琴美が花火に火をつける時だけ傍に近付いて手伝う。
何だかんだミキユキ姉妹は面倒見よく、弟と琴美の世話をやいていた。

「浴衣を持ってきてよかった」

紺の地に薄桃色と白の撫子が散る浴衣は、昨年新調したのだが、殆ど着る機会はなかった。
琴美は白に金魚柄で愛らしい浴衣だ。

東京でも花火大会や夏祭りはあるのだが、やはりそういった日の休みは激戦で、誕生日や結婚記念日に融通してほしい琴子はつい遠慮してしまっている。
お陰で、今日が今年初の浴衣お目見えだ。


「お盆の頃にゃ盆祭りや神社のお祭りもあるとね。その頃きよったらよかばってん。みんな帰ってくると」

「おれたち二人とも仕事があるから無理だよ、ばあちゃん」

「しかたなかとね」

「このおもちゃの花火でも十分だよ。どうせ琴美、空に上がる花火、音が怖いっていうし」

「ママ、それ赤ちゃんの時の話だよ」

「え? そうだっけ?」

おんぶした背中で怖い怖いと泣いていたのはついこの間のような気がするのに。
確かに去年は花火大会に行っていない。

「でも、みーちゃんもこっちの方が楽しい」

色々な種類の手持ち花火から、ねずみ花火や金魚花火にへび玉。紐をつけてくるくる回転するヨーヨー花火に、UFOに。パラシュートやロケット花火も揃っていた。
箱や円筒型の据え置きタイプの打ち上げ花火を沢山並べて点火するのも中々壮観だった。
東京の家ではいくら庭が広くても、近所迷惑になるからこのような玩具の噴出花火や打ち上げ花火は絶対出来ない。

勢いよく噴射して、ぱんっと乾いた音をたてて小さいながらも可憐な花を夜空に咲かせる。
ケンたちが派手な打ち上げ花火をあげている片隅で、琴子は琴美と線香花火を点ける。

「……やっぱり花火は線香花火よね~~どっちが長くもつか競争よ、みーちゃん!!」

紀子ではないが、そんな母娘の情景は、絵に描いたいたよう夏そのもので、直樹も母に持たされたデジカメで思わずぱしゃりと一枚撮る。

「あら、入江くんが撮ってくれるなんて珍しい」

「おれだって、娘の成長記録くらい残したいと思うぞ」

そういいつつも、ついファインダーを琴子のうなじにあわせてしまいそうになるのだが。
浴衣の襟足からのぞく白いうなじとアップにした髪の後れ毛が妙に色っぽくて、そのまま抱き抱えて布団の上に落としたくなる衝動を感じる(昨日未遂に終わっただけに、余計に)。

みんなさっさと花火終えて帰れ。

無論直樹の心の声は誰にも聞こえず、大量の玩具花火は2時間かかって漸く全て終わった。

そして終わりの方では琴美はすっかり寝落ちてしまい、琴子は先に琴美を抱き抱えて寝室の方に戻った。

火の始末を終えて、ゴミを片付け、三姉弟を見送ってから、直樹も寝室に戻った。

「完全に寝た?」

「うん、浴衣を着たままなんだけど……帯を緩めてあげればそのままでいいわよね」

「いいんじゃないか? 昔は浴衣は寝間着だったわけだし」

ピンクの縮緬の兵児帯を少し緩めて、タオルケットを掛けてやる。

「あたしは脱がないとね。ちょっと帯が苦しいし」

琴子は着替えのパジャマを出してから、自分で着付けた帯をさっとほどいた。
じっと見ている直樹に気がついた琴子は、
「着替えるんだから、あっち向いててよ」と、顔を赤くして抗議する。夫婦に与えられている部屋はこの客間だけなので、ここで着替えるしかないのだ。

「何を、今更」

はらりと落ちた辛子色の帯の端を直樹が持って、くいっとひくと「やーん」と琴子が漫画のように一回転した。

「あ、本当に回るんだな」

面白そうに直樹がなおもひっぱろうとする前に、琴子が自分で帯を取ってしまう。

「もう、遊ばないでよー」

「遊んでないよ」

今度は琴子の手をくいっと引っ張って、自分の前に引き寄せる。

「せっかく可愛い浴衣なのに、さっさと脱ぐの勿体ないかな……」

「そう? 可愛いい? ーーああ……浴衣がね」

一瞬瞳を輝かせたが、すぐに直樹の言う言葉の意味に気がついて少し頬を膨らませる。

「なんだよ、自分で自虐的に解釈して。ちゃんと浴衣込みでまるごと中身も可愛いと思ってるよ、奥さん」

そういいながら、おだんごに纏めていた髪を止めていたピンを器用に抜いて、ゴムを外し、あっという間に琴子の髪ははらりと肩の上に落ちて、着崩れた浴衣を覆う。

「可愛いよ、琴子」

いやーーーーーんっ!!!

普段は聴けない甘すぎる超弩級の破壊力をもった台詞に、琴子はもう思考停止状態である。
あとはもう、なすがまま。されるがままだ。

直樹が浴衣の前をはだけるのをつい手伝って、自分でも襟さきを持って広げ、直樹がすっぽり浴衣の中に入り込むのを助けてしまっていた。

「……なんだ、下着つけてんの?」

「キャミだよ。浴衣の下って何着けていいのか……あ……ん、ダメ」

邪魔なキャミソールをぱっと一瞬でたくしあげ、露になった琴子の小振りな胸に顔を埋める。
琴子は襟先を持ったまま、直樹の背中をかき抱いた。





「……あ……ん」

浴衣の中に潜り込むように直樹は琴子の素肌の上をさまよい、胸を弄ぶ。
浴衣を身に付けたままで、直樹の手は琴子の背中を這い回っている。
そしてそのまま、布団の上に押し倒し、鎖骨やうなじに赤い刻印を刻み付けーー肌に絡み付く浴衣を取り去ろうとした瞬間ーー。



「パパーーっ !! ダメーーっ」

ガバッと琴美が跳ね起きた。

「………………………」


再び菊之助じいさんに起こされた琴美によって邪魔をされたのであった。

ーーなんなんだっいったい! おれに何の怨みがあるんだーーっ

悶々とする想いを抱えたままーー

九州二日目の夜は更けていったーー。







※※※※※※※※※※※※※


次こそ本当に終わりますよ~~(多分)

そして、emaさま!素敵なイラストありがとうございました(^w^)
いや、イラストの二人は大分若いのですが……
10年経っても若々しい二人ってことで(笑)


そうそう、そして無事入稿おめでとうごさいます!!
もう、自分の本のようにほっとしてますが、早くみたいような自分のページが怖いような……


今回、同じイラストでむじかくさまとコラボしてますので、お楽しみに♪
(むじかくさまのお話はemaさま宅にアップされる予定です)


※鍵は微妙かも……とコメントいただいて、すこーしえろ表現を婉曲に変えてみましたが(今回は限定にしたくなくて)……たいして変わらないかなー……f(^^;
加減がムズカシイ………orz

* Category : 納涼祭り2016
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Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

はい、じーさんの豹変、びっくりですね~~。普通孫の嫁にそこまでするかいってくらいの極悪っぷりでしたもんね。しかも内孫ならともかく、嫁いだ娘の子供の嫁なのに。一応入江家への遠慮ってもんはないのかい、と思ったもんです。

はい、紀子ママさんのご推察通りで笑
菊之助じーさん、色々頑張ってます(^w^)

いやもう……哀れなのは直樹さんですけどね……f(^^;




Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

そうなんですよね笑 せっかく張り切ってやる気満々でじじいに挑むつもりだったのに!

ええ、二日目の夜も……直樹さんザマーミロの夜です。
菊之助さんは奮闘してますよ。きっと邪魔しなくてはと妙な使命感に燃えてるかもしれません……(^_^;)

SNSのお陰で、emaさんがチラ見せしてくれた絵に即反応して、書きます! ください! みたいな。あっという間に出来上がるコラボの輪。ネット世界恐るべし笑

鍵については、忌憚ないご意見ありがとうございます。ちょっとぬるくしてみました。
人によっても限定の感覚が違うので、匙加減が難しいです………f(^^;


Re.りょうママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

菊之助じーさん、恨みというよりは………ちょっとした意図があるんですが。
案外張り切って邪魔してるかもですね……f(^^;


Re.ちびぞう様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます♪

そうなんです………この家では……直樹さんいちゃいちゃ出来ないかもですね……(ーー;)
菊之助じーさんにはじーさんなりの理由があるのですが……今はただの出歯亀ないけずなじじぃですね。
直樹さんへのエールありがとうございます♪………報われることでしょう、きっと笑


個別記事の管理2016-07-17 (Sun)




“納涼祭り2016”







お祭り一発目。
何故か前後編になってしまいましたf(^^;(前後編で終わる筈だっ)
そしてついうっかり限定な話にしそうになってしまった……ちょっと修正してR15くらいかなー(((^^;




※※※※※※※※※※※※※




2004年8月某日。



「みー ちゃん、ほら、もうすぐ着くわよー」

到着の案内を告げるアナウンスに、琴子は慌てて広げていたお菓子の袋をバッグにしまい、直樹は網棚から荷物を下ろした。
特に観光地でもないそのひなびた駅は降りる人も疎らだ。
ホームに降り立つと、むっとする暑さと、けたたましい蝉の声が琴子たち家族を出迎えてくれた。


「ママ、すごいね~~お山ばっかだよ」

「ママのいった通りでしょ?」

「うん! 窓から見てもお山と田んぼばっかりだった」

木造の駅舎を出ると、目の前に開けているのは閑散としたロータリー。タクシーは1台も止まっていない。
バス停には二時間に一本の、実に空欄の多いバスの時刻表。
コンビニなども見当たらず、日に焼けた自動販売機が一台あるだけ。

「わー全部売り切れだよ。お茶欲しかったのに」

「前にその角に小さな売店があったけど、なくなったんだな」

「ここじゃあまり儲からないよねぇ。駅なのに、人が殆どいないよ」

ちらほら見えるのはお年寄りばかりだ。若者の姿はどこにもいない。

「ほら、バスが来るぞ。これが今日の最終バスだ」

「ええっまだ4時だよっ」

「田舎だから仕方ない」

バスに乗り込むと、それこそ年寄りが数人乗っているだけの閑散としたものだった。

「基本は車だよな。軽トラは必ず一台はあるかな、どこの家でも」

確かにその道をバスとスレ違うのは、軽トラか原付か、といった体だ。
随分バスがゆっくりになったと思ったら、バスの前をトラクターが走っていた。

「相変わらずとことん田舎だよねぇ」

「秋田とたいして変わらないだろ」

「まあねー。冬に雪が降らないだけましかなぁ」

田んぼの畦道を、トラクターの後をついてのろのろと走るバスの車窓の風景はエンドレスに長閑な田園風景だ。
青々とした稲が背丈を揃えて風に靡いている。綺麗に区画された水田のどこまでも続く緑の鮮やかさに、暫し見惚れてしまう。
10年前と少しも変わらない景色だった。

「ほら、着いた」

停留所は相変わらずぽつりと田んぼのど真ん中に佇んでいた。
降りた途端にむっと鼻腔に飛び込んでくる蒸れるような草の青臭さも、何処か懐かしい。

「琴美、ひいじいちゃんちまで少し歩くけど大丈夫か? 喉が渇いたか?」

「だいじょうぶー。がまんできるよー」

「少しっていっても30分だよー。みーちゃん、そんなに歩ける?」

「へいき。みーちゃんチビとそれくらいお散歩してるもん」

確かにすっかりご老体のちびと琴美の毎日の散歩は欠かしたことはない。
そして、琴美は幼いながら中々の健脚で、幼稚園の春の親子遠足でも上野動物園を三周廻っても全く疲れをみせなかった。

「よーし。ひいじいちゃんち着いたら、きっとスイカがあるぞ」

「やったぁ、アケビもあるかなぁ?」

琴美は電車の中で、両親から聞いた話を思い出し、母が苦労して山に採りに行ったというアケビがどんなものか興味津々だった。
何でも揃う東京の我が家の食卓にも上ったことのないフルーツの名まえだった。

「ふふふ、待ってなさい。どうせアケビはママが採りに行くことになるに決まってるんだから。今回は万全の態勢で挑むわよ~~」

琴子は力こぶを見せて不敵に微笑む。

「みーちゃんもとりにいくー」

「琴美にはお山は危ないからお留守番。パパとママで採りに行くよ」

「ええ~~?」

不満そうな娘の頭をくしゃっと撫でて、「ほら、琴美、帽子を被りなさい。まだ日差しは強くて熱いから熱射病になるぞ」
直樹がそういうと、琴子は慌てて鞄から帽子を取り出す。
ヒマワリのコサージュのついた子供用の麦ワラ帽子だ。

「さあ、行こう。じいちゃんたち、待ちくたびれてるぞ」




ここを初めて訪れたのはもう10年も前のことだった。
琴子と直樹が結婚して初めて迎えた新婚時代の夏の出来事だ。
あの不思議な夏の思い出は、10年経っても風化することなくしっかりと脳内で再現できる。各駅停車の長い列車の旅の中で、幼い娘に事細かに語って聴かせるくらいには。
この10年の間、ここに来たのは1度だけだ。直樹の曾祖父に当たる人の三十三回忌に、母紀子と琴子と直樹の3人で訪れたのは琴美が生まれる前の年だったろうか。
あの時は二人とも仕事があってほぼとんぼ返りで、ゆっくりと過ごせなかった。
因みに祖父母は、琴美が生まれた時、結婚式には来なかった癖に、揃って九州から曾孫の顔を見に飛行機で飛んできた。
もう米寿に近いのにかなり元気だ。

今回ようやくお互いの仕事の調整がついて、久しぶりの九州行となったわけであるが、医師と看護師という職業柄やはり長期の休暇は難しく、4日間のみの滞在予定である。
行きは琴美のたっての希望で新幹線を使ってきたが、帰りは飛行機の予定だ。
学生時代のようにのんびりとした旅をするのは無理があった。
漸く取れた夏の休暇を、少しでもゆったりできるように何処か近場の温泉地でも、と提案した直樹だったが、九州の紀子の実家に琴美を連れていきたいと言い出したのは琴子だった。

「だって、ひ孫が生まれたら連れていくって約束したでしょう!」

そして琴子は、行くと決まった時点からしっかり覚悟をしてきた。

「ちゃーんとマイエプロン持参なのよー。野菜のもぎかたも、お義母さんと家庭菜園やってるお陰で完ぺきだし。五右衛門風呂の薪割りだってしちゃうんだから。看護師の仕事で足腰鍛えられたから、ながーい廊下の拭き掃除も鶏の餌運びもへっちゃらよ! 来るなら来いってもんよっ」

暮れる夕陽に向かって熱く闘志をたぎらせる琴子である。

「ママ、燃えてるね~~」

「そうだな。昔のリベンジしたいんじゃないのか?」

少しずつ山際に落ち始めた太陽は、3人の影を畦道に大きく映していた。
琴美は田んぼの上を無数に飛び回る蜻蛉に目を輝かせ、聴こえる蛙の鳴き声に耳を澄ましながら、まだ見ぬ曽祖父の家を目指す。






「まあ、よう来んしゃったねぇ。琴美ちゃんも疲れたとね? さあ、みんなこっちでスイカば食べるとよかね」

「いえいえ、もうそろそろ夕飯の支度ですよね。あたし手伝いますから! あれ、みんなは? おじいちゃんとおばあちゃんだけ?」

またまた親族一同揃って出迎えてくれるかと思ったら祖父母の姿しか見えない。
一色の祖父は相変わらず琴子には愛想が悪いが、琴美にはメロメロのベタベタである。

「みーちゃん、じいじとかくれんぼして遊ぶけんね」

「みーちゃん、ママ手伝うの~~火をふうふう起こしてお風呂たくんだよね!」

「いや、流石に年じゃけん、風呂はガス給湯器付けて広い浴槽に変えたとね。便利になりようと、足をゆっくり伸ばせて気持ちよかけん」

「台所ば少し新しくしたけんね。システムなんとかいうのやね。皿ば勝手に洗うとかいうのがついとうけんども、信用ならんばってん使ってないと」

「食洗機付きのシステムキッチン?」

「ええ~~」

正直直樹も驚いた。
この頑固な老人は、誰に何を云われようと、決してその生活スタイルを変えないと思っていた。

「厠も、琴美ちゃんが怖がって入れんといかんばってん、汲み取り式から、水洗の座ってするのに変えて、ついでにウォシュレットとか付けたけんね。まあ気持ちよかとね」

文明開化である。
この古色蒼然とした、戦前にタイムスリップしたような古びた家屋にいつの間にか文明開化が訪れたらしい。

「えーごえもんさんのお風呂入りたかったなー」

琴美の少し消沈した声に、
「がっかりせんでよかけんよ。納戸の横に置いてあるばってん水汲みさえしちょればいつでも沸かせるとね」
と、曾祖父はニッコリと曾孫に微笑む。

「露天風呂たい」

「やったー」

確かに家の中を探索すると、室内や間取りは変わっていないものの、玄関から勝手口まで貼ってあったつやつやと光っていた板の間の台所部分は、今時のフローリングを貼られて居間との段差を無くし、機能的なオールステンレスなシステムキッチンが入ってるではないか。

「前の流し台は古くて背も合ってなかったけん、腰がつらかったとね」


長い濡れ縁の端にあった、裸電球ひとつに隙間から大きな蜘蛛が入ってくるようなぼっとんトイレも、洒落た和風モダンな内装の洋式トイレに変わっていた。これなら琴美も怖がらないだろう。今回の九州行きは、自分も怖いだけに、トイレだけが憂鬱な琴子だった。


「さ、琴子さん、こっちに座って少し休みんしゃい。今麦茶とスイカ持ってくるけん」

祖母が台所に向かおうとすると、琴子もすっくと立ち上がる。

「あ、あたしやります」

すると、「あんたは座っとっと」と、意外なことにあの祖父が制した。

「へ?」

「長旅で疲れとろう。座っとればよかたい」

「ええ?」

「大切なお客さんたい」

お客さん?

直樹も琴子も耳を疑った。

「身内なんだからお客なんかじゃないだろ? じーちゃん」

「紀子は入江家に嫁いだ身、入江家の惣領息子夫婦のおまーらは入江家からの大事な客人とね」


…………いったい10年の間に何が起こったのだろう?

あまりの祖父の変貌ぶりに、思わず顔を見合わせる直樹と琴子であった。

そして、実際、本当に大切な客人として丁重に扱われ、どんな試練でも乗り越えて見せると身構えていた琴子をあっけなく肩透かしさせることとなったのだ。





「……いったいどうしちゃったのかしら……おじいちゃん」

湯上がりの琴子は、琴美にパジャマを着せながら、心配そうに直樹に話しかけた。
新しくガス給湯器のついた浴室は、総檜張りで浴槽も檜で設えてあり、屋敷の雰囲気に合っていて、そして檜の薫りも清々しくて、ついつい琴美と長湯をしてしまった。

「息子や孫たちがみんなこの村から出ていってしまって、色々心境の変化があったんじゃないか? 」

この屋敷に同居していた恵三おじは、アメリカに海外赴任とかで、夫婦で旅だってもう3年だという。彼らの子供たちも全員成人して、タケは福岡の企業に就職し、トシは広島の大学に、メグは大阪に嫁いだ。
近所に住んでいた明子おばも、夫の転勤に伴って、家族で京都に引っ越した。
唯一地元に残っているのは博子おばのみで、時折老いた両親の様子を見に来るらしいが、成長した孫たちは滅多に付いてこなくなったという。

「……それで、誰もいないんだね。広い家なのに……あんなにたくさん従兄弟たちがいたのに」

「元々ここに住んでたのは長男の恵三おじさんちだけで、従兄弟たちは夏休みで遊びに来てただけだよ。今年も盆には帰ってくるんじゃないかな」

今回は盆前にしか休みをとれなかったので、残念ながら従兄弟たちとは会えないだろう。

「恵三おじさんは、農家を継いではなかったの?」

「……今時、専業農家は少ないんじゃないか? 平日は会社員、土日で親の農業を手伝って、定年後にようやく本腰いれて田畑の面倒見て……って家が多いんだろうな」

「……ふうん。でもおじーさんとおばーさん、二人だけじゃ大変じゃないかしら」

「日本中の田舎はみんなこんなもんだろうな。年寄りだけで畑や田んぼの世話して……」

「……寂しいだろうね。10年前はあんなに賑やかだったのに。あたしも今度こそはいとこたちの名前をきちんと言えるようにと昔撮った写真で復習してきたのに」

「もう、みんな大人の顔で全然わかんねえだろうが」

「そうだねぇ。去年送ってもらったメグちゃんの結婚式の写真、全然誰が誰だかわかんなかったもんね」

へっへっと笑いながら、疲れて眠そうな琴美を布団の中に寝かしつける。
二つの布団に、琴美を真ん中に川の字だ。
文明開化は残念ながら各部屋に訪れてないようで、相変わらずエアコンなどはなく扇風機のみだが、通気性のよい(隙間だらけの)木造家屋のせいか、東京の熱帯夜のような蒸し暑さはなかった。
蚊取り線香の煙が豚の口から流れていて、琴美はしばらく物珍しげに眺めていたが、やはり眠気には勝てず、呆気なくうとうとしはじめていた。

「………なんか拍子抜けしちゃったな。あたし、今度こそおじーちゃんとの勝負に勝つつもりだったのに」

琴美に団扇ではたはたと風を送ってやりながら、琴子はなんだかつまらなそうに呟いた。

「そんなにしごいて欲しかった?」

「い、いや別にそういう訳じゃないけど……」

結局ずっとお客様扱いで、何もさせてもらえなかった。
結婚して10年の嫁としての進歩を少しは見せつけたいと、やる気満々でやって来た琴子は思わず戸惑ってしまっている。

「……まあ、それだけじーちゃんたちも年食ったってことだよな」

10年。
琴子たちにとってあっという間の時間だった。
でもその時間の流れはこの田舎の家にはあまりに大きな変化をもたらしたのだろう。
子供はいずれ成長して、巣立っていく。家というのはそういものなのだと感じずにはいられない。

「……まあ、博子おばさんちのケンはまだ10歳だからな。夏休みはちょくちょく遊びにくるっていうし」

「ああ、あの赤ちゃんだった? ふふ、あたしおんぶしてあげたもんねぇ」

直樹と二人で懐かしい昔話に興じたあと、すっかり寝入った琴美の寝顔を見ていたら、ふと視線を感じて顔を上げると直樹がじっと自分の方を見つめていた。

「な、何……?」

「いや……おまえも母親の顔になったな、と思って」

「あら。あたしだって一応ママ4歳よ。そりゃ、お義母さんに比べたらまだまだ……」

言いかけた琴子の言葉は、そのまま直樹の唇に吸いとられた。
琴美を間に挟んでの少し無理な体勢のキスで、軽く触れるだけかと思いきや、意外と深く長く琴子の唇から離れない。

チュッと音をたてて唇が離れた時、互いの唾液が糸のように引き合って光るのが見えて、琴美の真上で何をしてるんだかと、琴子は少し恥ずかしくなる。

「……あまりに母親の顔してたからちょっと女の顔に戻したくなった」

「……もう…入江くんってば」

琴子は真っ赤になって上目遣いで抗議する。

「………もう、琴美寝たよな。こっち、来る……?」

直樹が琴美と自分の間に隙間を少し空けて、ぽんぽん、と布団を叩いてその空間に来るように琴子を促した。

「え……あ…でも……」

琴子は一瞬、娘の寝顔を見て躊躇うが、直樹からの誘いを断ることなんか出来る筈もない。

確かに琴美は一度寝入ると目を覚ますことは殆どないが、とはいえここは自分たちの家ではないしーー

そう思いつつも、つい少し色気を帯びた直樹の瞳に誘われるように、琴美の小さな身体を乗り越えて、直樹の傍らにすっぽりと入り込む。

すぐさまに強く引き寄せられ抱きすくめられた。

「大丈夫……キスだけ」

耳元で甘く囁かれて、琴子はそれだけで背中に電流が走る。
そして顎を捉えられ、深くそして激しいキスーー。

静まり返った室内に、ぴちゃぴちゃと互いの舌が咥内をまさぐりあう水音が響く。

「ん……あ……」

時折くぐもった鼻から抜けるような声が響いて、琴子は自分の声にどきりとする。
障子一枚挟んだ向こう側は、トイレへと繋がる濡れ縁で、祖父母が夜中に通る可能性も十分ある。

「……入江くん…ダメ……これ以上……」

キスだけ、といいつつ直樹の手はしっかり琴子のパジャマの隙間を縫って、その胸をやわやわと揉みはじめている。
実のところ、ここ最近はシフトの関係から殆どすれ違い生活で、一緒に眠ることすら久しぶりだった。
だから少しは甘い時間を期待はしていたのだけれど、やっぱり隙間だらけの古い家の中というのは少々の抵抗がある。

「まだじーちゃんばーちゃん寝たばっかで当分起きないよ。襲撃してくるいとこたちもいない訳だし」

「…………でも」

ささやかな抗議をしようとした唇がまたも塞がれる。

「………が見てるかも……」

微かに離れた唇から紡がれた意外な言葉に、一瞬直樹は目を剥いて、それからくすっと笑う。

「その辺に座ってじっと見てたらこえーな、菊之助じーさん」

「や、やだぁ」

「まあ、遠慮して出てってくれるだろ?」

その存在を信じているのかいないのか、直樹はまるで気にしないように行為を再開する。

菊之助じいちゃんは、200年前に存在した一色家のご先祖様だ。10年前、琴子の前にだけその姿を現して、何度かピンチを救ってくれた。直樹の祖父とそっくりの容貌をしている。
不可解な出来事を共に体験した直樹も、全く琴子の戯れ言と思ってる訳ではないだろうが、理系頭脳がその存在をどう解釈しているのか琴子にはよくわからない。

「あ………」

直樹の手が琴子のパジャマのズボンの中に伸びてきた。
ゆるりと下着の狭間に入り込んできた指が、繁みの奥の泉を目指して翻弄を始める。

ダメ……止まらなくなる……

互いの身体が熱くなって来ているのが分かりすぎるくらい分かって、引き返せなくなる予感を感じた時ーーー

「パパ、ダメーー!」

突然、ガバッと琴美が跳ね起きて、そう叫んだ。

思わず二人はばっと離れる。

「み、み、み、みーちゃんっ どーしたの?」

上擦った声をあげつつも、琴子は慌てて乱れたパジャマを直す。

琴美は目をこすりながら、寝惚けた顔で両親の方に目を向けた。

「あのね、あのね、ひいじーちゃんがみーちゃんをゆさゆさ起こしたの。パパがママを苛めてるから、助けてあげなさいって」

「ええっ?」

「パパ、ママを苛めてたの?」

琴美が不安そうに直樹の顔を窺う。

「パパがママを苛めるわけないだろ? 可愛がってただけだよ」

「入江くんっ!」

「でもばあばがよくパパは昔ママを苛めてたって」

全くあの人は何を孫にふきこんでいるのやら。
直樹は東京にいる母を忌々しく思う。

「昔はね。多分ママが気になってたから、意地悪してただけだよ」

直樹は娘を膝の上に抱き寄せて、やさしくそう答える。

「今はしない?」

「しないよ。パパはママが大好きだから」

思わぬストレートな告白に、横で聴いていた琴子は真っ赤になって枕を抱き締めた。

「よかったぁ……」

「ひいじいちゃんが琴美を起こしたのか?」

全く、なんでそんな夢を、と思いつつ、娘に訊ねる。

「うん。ほっぺにアザがある方のひいじいちゃん」

え……?

思わず顔を見合わせる琴子と直樹。

「ほっぺにアザがある方って……」

「あのね、ほっぺにアザのあるおじいちゃんとアザがないおじいちゃん、二人いるじゃない?」

「ええ?……琴美にはほっぺに痣のあるおじいちゃんが見えるの?」

「みーちゃんたちがこのおうちに来て、出迎えてくれた時からずっとおじいちゃん、二人いるよ。このおうちもおじいちゃん二人におばあちゃん一人なんだーって思ってたの。ほら、東京のおうちもそうじゃない?」

「……… 入江くん………」

琴子は少し青ざめているだろう。部屋を照らしているのが、少し黄色味を帯びた仄明るい和紙で作られたスタンドライトの光のみなので、実際はわからないが。

「そっか。琴美には見えるのか……」

「あたしにはぜんぜん見えないのに……」

ぽつりと呟いた琴子は何処か寂しそうである。

「……もう、寝なさい。変な夢を見ないように、パパとママが見守ってあげるから」

琴美は安心したように、父親の腕の中ですうっと目を閉じた。
そして、二人も始めのように琴美を間に置いて、両側から娘が寝付くまで見守っていた。




「…………いるんだ、やっぱり……」

「………みたいだな……」

何となく熱くなってしまった身体を互いにもてあましつつ、二人は琴美を間に挟んで呟きあった。

ーーなんであたし見えなくなっちゃったのかなーおじいちゃん。

ーーなんで、邪魔するんだ、くそじじぃ。


九州一日目の夜はゆっくりと更けていった。




※※※※※※※※※


なんか私、まだまだ甘い入江くんに飢えているようです……
そして入江くんもかなり飢えてたようで……(((^^;)





* Category : 納涼祭り2016
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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪
またまたリコメ遅くなりましてスミマセン!
ほんとイタキスサイト様、夏になってみんな更新頻度が増えて、嬉しい限り♪納涼祭りバンザーイ(^w^)

そうです。実はネタもとはアニメの最終話です。九州行きの電車の中で過去の九州旅を娘に話して聞かせる琴子。その後彼らがどんな夏休みを過ごしたのか妄想したのが切っ掛けなので。

でも10年経ったら色々変わってるだろーなーと。
もう、リアルに田舎育ちだし、今も田舎に住んでるし、旦那の実家も田舎だし、で、田舎情報は実に身近な私……f(^^;田舎のふるーい家でもキッチンはオール電化だったりねf(^^;
子供たちは絶対都会に行くと思うし。
そんな変化だらけの一色家でも変わらずいるのは菊之助じーさん。この人出さなきゃ何が納涼祭りですかってもんですよ。せっかくの幽霊ですものね~~

(ええ、わざとですよっ)

『しゅごキャラ』。知らなかったです。そんなアニメがあったんですね。
もう菊之助さん&えっちゃんを思うとこのタイトルしか思いつきませんでした(^_^)

Re.りょうママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪
リコメ物凄く遅くなって本当にスミマセン!

そう。10年経つとね~~年寄りには段差の多い昔の家は本当に暮らしにくいのです。五右衛門風呂なんて絶対入れないし、トイレも洋式でないとしんどいのですよ!…………などと、リアルに考えてしまいました笑。いや、戦前はそれでみんな普通に暮らしてたんでしょうけど。

小さい子どもほど見えるって聞きません? 琴子も母になるまでは子どものようだったので見えたのに、母親になってからは見えなくなってしまったようです。

ふふふ、入江くん……哀れなのは今夜だけではないかもです(^w^)

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪
リコメ、チョー遅くなってスミマセンでした!

紀子ママさんの怒りポイントですもんねーアケビ採り事件は! 本当に遭難したらどーなってたと思いますよね。地元の人間こそ危険を分かってるはずなのに。

まあ、そんなじーさんも変わりましたよ。年くって周りの環境も変われば、少しは丸くなることもあるでしょう。それに一番の原因は………(^w^)最終回のお楽しみなのです。
田舎の若者離れは田舎育ちなんで、リアルな問題ですf(^^;農家は特に厳しいですよね。

はい、もっともっと邪魔しちゃいますよ……(^w^)

Re.りん様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなって本当にごめんなさい‼

私も新参者なので、はじめての納涼祭りにワクワクしてます♪

そうなんですよ。10年の月日は大きいですね。生活も随分変わりました。
幽霊、大人になるとどんどん見えなくなるのかも……琴子ちゃん、やっと大人になったのねf(^^;
ふふ、りんさま、惜しい♪ハルくんは九州ベビーではなくて、〇〇ベビーでした♪


Re.ちょこましゅまろ様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

ドキドキしてくださいましたか(^w^)よかったです。日本家屋って隙間だらけだし、声とか丸聞こえだとおもうんですよねー
そうそう、琴子ちゃんは菊之助さん見えなくなったこと、ちょっとがっくしです。なのに入江くんときたら笑

ええ、二人の邪魔するやつは幽霊でもご先祖でも許さない‼………のですよ♪