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アイシテ☆knight 4

2016.06.26(01:30) 237




「迎えが来たようだから、帰っていいよ」

「え? いいんですか?」

下手すりゃ留置所に一泊か、と覚悟していたのであっさり解放されたことに直樹は思わず驚きの声をあげた。
刑事の前で人を殴ったのだ。傷害の現行犯である。手錠を掛けられた訳でも酷く叱責を受けたわけでもなかったのも意外で、「こんなん殴っても手が痛いだけだろう」と強面のゴルゴな刑事に呆れられただけだった。
一泊するくらい仕方ないしいい経験とも思ったが、その間、琴子を捜すことができないことに焦燥を感じずにはいられなかった。正直安堵した。

そして、制服警官に案内された部屋で、迎えに来たのが紀子ではなかったことにさらに驚きに目を見開く。

「お義父さん………」

「直樹くん。大丈夫かね?」

座っていたパイプ椅子から立ち上がり、心配そうな顔で駆け寄る重雄に、直樹は深々と頭を下げた。

「ご迷惑をおかけしました」

「いやいや。元はと言えば琴子のヤツがうっかりしすぎたせいなんだ。警戒心がないと言うか、なんというか……」

琴子の行方がわからないというのに、意外にも重雄は呑気そうに頭をかく。

「お義父さん……琴子は……」

もしや、見つかったのだろうか?
いや、だったらここに来るのは真っ先に琴子の筈である。
自分を騙した男を直樹が殴って警察に連れて行かれたなどと知ったら、真っ青になって泣きながら飛び込んで来るはずだ。
一刻も早く返せとわめき散らして、それこそ警官と騒ぎを起こすかもしれない。

「今、紀子さんが色々手を尽くしてくれている。なに、すぐに見つかるさ。話に聞くと、助けにきてくれた人と何処かに行ったらしいじゃないか。きっと、いい人なんだよ。だから、きっと大丈夫だろう」

あくまで呑気である。

「……お義父さん、でも……」

「琴子は強運の持ち主でね。不思議なことに悪い人間は近寄らないんだ。悪い心を持ってたとしても、何故かあいつと話してると毒気を抜かれちまう。いや、小学生の頃も、あいつ人を疑わないから、結構ほいほい知らない人に付いていってしまって」

……………昔から変わらないらしい。
いや、お義父さん、その辺りは大都会東京に住んでる以上、きちんとしつけておいてほしかった! 知らない人に付いていくな! これ、子供の常識な筈だ!

直樹は心から思った。
人を疑わないのは美点だか、あまりに警戒心がないのも危険極まりない。よく今まで無事で過ごせたものだ。

「可愛いウサギの赤ちゃんがいるからおいで、とか、道が分からなくて困っているから一緒に車に乗って案内してほしいとか、お母さんが病院に運ばれたからだから付いておいで、とかーーその時もうあいつの母親は死んでるのに何故か真っ青になってついてく」

「そ、そんなに?」

いや、いくらなんでもそんなに何度も変な声かけに遭遇するもんなのだろうか?
警察がレクチャーする声かけ常套句の見本市のようじゃねえかと呆れる。

「……それで、何もなかったんですか……?」

そんなに、何度も怖い目にあっていれば妙なトラウマになるのではないかと思うが、琴子にはそのような陰りは一つもない。

「よくわからないが、危険な目にあったことは一度もないようで、どの人もちゃんと嘘付いて悪かったな、と謝ってもらって家まで送り届けてくれたようなんだ。まあ最初は良からぬことを考えて車に乗せたのかもしれないが、どうも琴子と話しているうちに改心してしまうらしい」

それはたまたま運が良かっただけではないのか? と、思わずにはいられない。本当に、今までよく無事にこれたと天を仰いで感謝してしまう。

「とりあえず、出ようか」

まだ警察の玄関先だったので、そのまま二人ならんで外に出る。
もうすっかり日が落ちて、冬の大気は凍りつきそうなくらいに肌を突き刺した。
吐く息が白く流れる。
駐車場に行くので、おやと不審に思ったら、父、重樹のお抱え運転手が、自宅用のベンツに乗って待っていた。

「イリちゃんが乗ってけって、な。イリちゃんにも散々頭を下げられたよ。バカ息子のせいでこんなことにってな……ああ、悪いな、おれは別にバカ息子なんて思っちゃいねぇから」

ベンツの後部座席に乗り込むと、薄く苦笑いをする重雄に、逆に直樹は不可解さを感じた。

自分のせいで琴子は家出したのだ。
紀子からどんな辛辣な言葉を琴子に浴びせたか聴いているだろう。
プロポーズの時、琴子の全ての欠点をわかっていると受け入れて了承してもらったくせに、何故そんな仕打ちをしたのかと責められても仕方ないと思っていた。

「元は全部琴子のせいだからなあ。あいつがあんまりにも自分に甘すぎたせいだ。そーゆー風に育てちまったおれの責任だから文句はいえねぇよ」

「いえ……」

「みんながちゃんと就職活動してる時期に、おれもあいつは何してんだか、とは思ってたんだよ。とはいえ、あいつも結婚してもう一人前の大人だからなー。おれが差し出たこというもんじゃねえと黙ってたんだが」

「すみません。おれがもう少し早くちゃんと琴子と将来について話し合っていたら……」

「なんだ、わかってるんじゃないか。そもそも君たちは夫婦のくせして思ってることお互いに言わなさすぎるなぁ、って感じてはいたんだ。もっと言いたいこと言い合わなきゃ、夫婦とは言えないだろ。琴子も余計なことはうるさいくらい喋るのに、肝心なことは言わねぇしな。あいつはあいつなりに悩んではいたようだが、悩みがあるならきちんと君に相談すれば良かったんだよ」

「しづらい空気を作っていたのかもしれません。おれも自分のことはきちんと自分で考えるべき、と思ってましたから」

「なんだ、色々自覚はあったんだな」

嫌味かと一瞬焦ったが、そういう訳でもないようだった。

「おれの言葉があいつを追い詰めて、家出させたようなものです。実家のないあいつを追いかけもせずに。お義父さんにも余計な心配をさせてしまって申し訳ありませんでした」

再び謝る直樹に、「実は、おれはそんなに心配してねぇんだよ。あいつの家出は初めてじゃないし」と、重雄はあっさりと答える。

「ええ?」

驚く直樹に、
「琴子は中学の時にも俺と大喧嘩して家出したことあるんだ。あんときは友達んちに一泊したんだが、中学生だから長々と置いてもらうことが出来なくて、2日目からは街をうろうろしてて補導されちまって」と、あっさりと答える重雄。

「……中学の時はなんで……」

「やっぱり進路のことで揉めてな。いや、あいつ、馬鹿なくせして突然斗南高校受験したいなんて言い出すから」

「ああ」

実は密かに、よく琴子は斗南に受かったものだと思っていた。
斗南大学付属高校は決して偏差値の低い学校ではない。一般の外部入試はそこそこのレベルがないと合格は出来ないだろう。
ほぼ半数以上は中学からのエスカレーターで枠は埋まる。
外部受験の方が門戸は狭い筈だ。

「いや、馬鹿っつっても、中学の成績は中の下くらいで、まあ選ばなければ都立でも余程か大丈夫だろうって云われてたんだ」

確かに、斗南で100番以内に入れたのだ。馬鹿ではない。ただやる気になるのに時間がかかるだけなのだろう。あとは勉強の要領がわかっていないだけだ。

「元々は、悦子があいつにはちゃんと大学まで行かせてやりたい、って生前話してたってこと、琴子にいっつも聞かせてたんだ。おれも悦子も高卒で学がなくて、色々苦労したからな。料理だけならともかく、店の経営始めたら、経理だの税金だのややこしいことだらけで。
で、琴子にはきっちり教育受けさせようって」

「そうだったんですか」

「だから、琴子も何がやりたいって訳でもないのにとにかく大学には行かなきゃって思い込んでたフシがある」

昔のことを懐かしむように重雄は話し続ける。

ーー初めは都立の普通科高校って希望出してたのに、突然斗南行きたいとか言い出したんだ。
しかもその理由が仲の良い友達が行くから、というのと、制服が可愛いからときたもんだ。そのうえエスカレーターで大学に行けるから大学受験をしなくて楽ができるかも、なんてズルいことを考えてる。
思わず、そんな理由じゃダメだ、もっと自分に合ってるとか、将来の道に生かせるとかそういうことで選べとおれも偉そうに言い聞かせて、結局大喧嘩さ。

「とにかくなんでもいいから大学行けっていったのお父さんじゃないっ」

「そんな下らねぇ理由で学校を決めるな! もうちょっと真面目に将来のこと考えろ!」

「考えれるわけないじゃない、まだ14歳だよっあたし! みんなからはどうせ親の店継げばいいじゃんとか云われるしさっ」

「おまえみたいに料理のセンスないやつに俺の店を継げるか!」

「そんなのわかってるわよっ店なんて死んだって継がないから 。とにかく、斗南じゃなきゃもう高校も行かない!」

その後売り言葉に買い言葉みたいになっちまって、あいつは家を飛び出して、そのまま友達の家に転がり込んで。
結局その子の親から連絡あって迎えに行ったら、また逃げ出して。

「………変わりませんね、今と……」

なんとなく目に見えるようだと思う。
会ったこともない、中学生の琴子の様子が。

その後、街でうろうろしてるうちに迷子になったらしくて、警官に補導されて。
で、結局は迎えにいってな……

「ほんと、変わらない」

なんだかハワイのハネムーンの様子を彷彿とさせ、ぷっと思わず吹き出す。
いや、何事もなくて良かったわけなのだが。

「……結局、お父さんは斗南の受験を認められたんですね」

「いや、実はおれ、あまり斗南高校のこと知らなくてな。そしたら周りから、行きたいからってすんなり行ける高校じゃないから安心しなとか云われてなぁ。逆に、それなら死ぬ気で勉強して入ってみやがれ、って応援することにしたんだ」

「それて、死ぬ気で……?」

「イヤイヤ、まだその後に一波乱あってな。ほら、三者面談って奴だよ。琴子の担任ってのが、合格率あげること重視で、本人の希望をあまり聞き入れないタイプの女教師でな。とにかくワンランク下げたとこをオススメしてくるんだ。
そして琴子が斗南高校に志望を変えるって言ったらもう鼻で笑われて、行けるわけがない、何考えてるの? ってもうあっさり一蹴で」

お父様、自営業なら都立の商業科あたりはどうですか? ここくらいなら琴子さんのレベルにあってますよ。お父様のお仕事の役にたちますよ。
琴子さん勉強はキライでしょう。無理して大学に行くことなんてないのよ?
ほら、あなたの成績は、123451234。並びが良いから良いってもんじゃないです。これじゃ斗南なんて逆立ちしたって無理ですよ。
それにね、私立ってお金もかかるのよ。特に斗南は制服の他にも備品は指定が多いし、行事も多いの。寄付や協賛金の援助要請も多いわよ。
あ、実は私も斗南出身なのよ。だからよーく知ってるけど、あなたみたいなレベルの生徒はいなくってよ。

「……教師が金の話までしだしたんですか?」

普通なら金銭的な問題で私学を躊躇する生徒には助成金や奨学金の話をして励ますものだ。
それに成績に関しても「このままではもう少し頑張らないと難しい」などと婉曲な言い回しをして、一応励ますものだろう。
いくら合格率をあげたいが為に不合格確実なものに受験をさせたくないとはいえ、そんな言い方をする教師がいるとはにわかに信じがたかった。

「それが、まあいたんだな。琴子もさすがに金の話になった時は真っ青になって。多分それまで気にもしてなかったんだろう。周囲には私立が第一志望の友達が多かったし。おれの顔をすまなそうに見つめるんだよ。
その琴子の瞳を見て、おれもぶちキレてついその女教師に向かって啖呵切っちまって」

金のことなら心配ご無用! これでも築地に店を構える一国一城の主だ。娘一人、高校だの大学だの行きたいところに行かせてやるだけの蓄えくらいある!

そして、こいつも、動機は不純だが、やるといったら必ずやり遂げる娘だ。
馬鹿だが根性はある。
斗南に行きたいとなればそれなりに頑張る筈だ。
先生、とりあえず秋まで様子見てやってくれませんか?
もし、全然成績が上がらないようなら、諦めるよう諭して、こいつの実力に見合う学校を受験させます。どうか、試すこともせずに子供の希望を蔑ろにするのだけはやめていただきたい。
お願いします!

「………おれがそう先生に頭を下げたら、琴子も涙ポロポロ流して、絶対がんばるからって」

ーーそしたら、本当にがむしゃらに頑張って、成績ものすごくあがって、学年で40番以内くらいになったかな。
本当は、まだ斗南は厳しいですが、その調子で気を抜かないように、って12月の最後の三者面談では受験を許してもらえてなー。
琴子と合格したみたいに喜んだよ。
塾に行くわけでもなく、自力であそこまで頑張ったんだ。
あいつは何かの切欠や餌の人参があればそれはもう驚くほどの成果を見せる。いや前から分かりやすい授業をしてくれる先生やイケメンの先生の教科は成績良かったんだがね。

そして、受験はギリギリだけどなんとか希望通り斗南に合格したんだ。
みんなからは奇跡って云われてたけどな。
最初に一緒に行こうって云ってた友達は不合格で、結局うちの中学からは琴子一人だったけど、それでも春には希望通り斗南の制服着られてーー
まあ、当然ながらはじめっから最後までF組だったがな………

あいつは、だから本当は馬鹿じゃないんだよ。
そんな風に何かがなければ頑張れないだけで。

「……… はい。知ってます」

そう、知っていたはずだった。
F組で初めて100番以内に入った時。
絶対無理と思っていたのは自分の方。まさか、まともに公式すら覚えてないやつがあそこまで成績をあげるとは思いもしなかった。

「……あのとき斗南に入ってなかったら、琴子は君とは知り合ってなかったんだよなー」

それは、知り合って良かったと言う意味なのか、知り合っていなければ、こんなに娘は辛い想いをしなくてすんだのに、という意味なのかーー

「琴子が、頑張って斗南に来てくれて良かったです。おれを見つけてくれてーー」

そう重雄に言い掛けた時、ちょうどベンツは自宅に到着した。

「紀子さんも戻ってるな。琴子のこと、何か分かったかも知れない。急ごう」

そして、重雄と二人揃ってばたばたと家の中に入っていった。




「 あ、お兄ちゃんおかえり。すんなり帰れたでしょ?」

紀子がにやりとほくそ笑みながら出迎える。やはり何か手を回したのか、と肩を竦める。

「相原さんもごめんなさい。迎えを頼んでしまって」

「いや、こちらこそ、琴子のこと色々と手を尽くしてらって……」

「おふくろ、それより琴子の行方は……」

直樹は焦ったように紀子の前に詰め寄る。

「 実は、琴子ちゃんの捜索を依頼した探偵から、見つかりました、という報告は受けたの」

「それで、琴子は……?」

「それがね。その探偵さんが云うには本人に戻る意志がないからと」

「え……?」

「とりあえず安全な場所にいるから心配しなくていいと」

「どういうことだ! 結局何処にいるんだよ」

そんなの、本当に安全なところにいるのかわからないじゃないかーー

直樹は心臓をぎゅっと掴みとられるような不安を感じた。

「あの場所から琴子ちゃんを救い出してくれたのは彼みたいね。とってもイケメンな若い探偵さんだったから、もしかして、とは思ったのよ。
ただ、別件で動いてて、琴子ちゃんを見つけたのは偶然のたまものなので、料金はいただきません、ってまあとっても律儀なのよ。探偵って、あこぎなイメージがあるけれど、流石、政治家や財界の大物が使ってる評判の探偵さんねぇ」

すっかりその探偵を信用してるのか、安心仕切っているような紀子の様子に、逆にイライラする直樹である。

「その探偵さんが、本人から電話させますので、って………」

「あったのか? 電話!」

「ええ、たった今。おにいちゃん、惜しい、一足違い!」

「琴子はなんて?」

「なんでも、助けてくれた人がピンチだからしばらく戻らないけど、心配要りません、大丈夫です、って。だから捜索願も取り下げたから」

「なんだよ、それ……それだけか?」

「大学にはちゃんと行くみたいだから会えるわよ。あ、土日挟んじゃうから、三日後ね。でも、本当に元気そうで安心したわー。琴子ちゃんの声聞いたら泣きそうになっちゃったわよ、あたし」

「何処にいるのか訊かなかったのかよ」

「教えてくれなかったわ、残念ながら。色々と落ち着いて、自分でちゃんとこれからどうするかしっかり決めるまで帰れないって………もう、なんて健気なのかしら。こんな自分勝手なお兄ちゃんの言葉をちゃんと受け止めて…………」

ハンカチを取りだし涙を拭う。

「……でも……琴子ちゃんの後ろで聞こえた声、男の人のような気がしたけど、まさか男の人と一緒なのかしら……」

「まさか、その探偵とっ!?」

「ううん。内藤さんの声じゃなかったわ。彼はもう少し低くてーー」

ーー琴子が………男と…… 一緒?

「琴子ちゃんに、おにいちゃんが帰ってからもう一度電話して、二人でちゃんとお話してってお願いしたのだけれど……まだ、話せないって。おにいちゃんの声聞くのが怖いって。ああ、なんて可哀想な琴子ちゃん………」

琴子が……男と………


『入江くんの全然知らない男の人と不倫しちゃうかもよ! あとで後悔したって知らないんだから!』

琴子が涙を潤ませて顔を真っ赤にして叫んでいた言葉が、ふいに直樹の脳裏を掠め、そしてイヤな汗が背中をつうっと流れるのを感じたーー。






※※※※※※※※※※※※※※



ちょうどこの話を書いてる時に、e様やm様と斗南高校は東京のどのあたりとか、偏差値の話題が出まして笑
けいおーがモデル? いや、けいおーじゃいくらなんでも琴子ちゃん入れないでしょ?みたいな。

そして、m様が私の持ってないコミックのQ&Aのページを写真で送ってくれて。

そこに『何故琴子は直樹と同じ高校に入れたのか』という質問が載っていまして(うん、みんな謎だったのね)それに多田先生は 『エスカレーターで大学行けるから無理して受験してギリギリ合格』と答えてました。
うちの娘の中学は、あからさまに合格率をあげるためとはいわないものの、子供が不合格で衝撃受けると可哀想と、無難なとこをなるべくオススメして、あまり冒険させてくれないと有名だったので(特に息子の時は)いや、よく琴子ちゃん受験させてもらえたなーと。きっと三者面談揉めたに違いない、と。
もっとも娘の時代はわりと行きたいとこ受験させてもらえたようで。
受けるのは本人の自由でしょ?と思うのだけど。記念受験でもいいじゃん?
(うちの子らは本人たちがチャレンジャーではなく、行けそうなとこしか受験しなかったので、三者面談はあっさり5分でしたが、戦う人たちは随分長かった………)


と、まあそんなことを思い出しつつの琴子ちゃん斗南高校合格の謎の解明(笑)





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Snow Blossom


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アイシテ☆knight 3

2016.06.12(22:44) 235


相変わらずの亀更新……
リコメも遅れてスミマセン(T_T)
ちょっと仕事が忙しくて平日あまり進められなくて。


ema様宅の夏本も予約〆切ました♪
とりあえずゲスト小説原稿の〆切も今週いっぱいなのですよ。

一応3本お話送りました。(全部載せるかわかりませんが)
オール書き下ろしです。
そして、オールR18ですf(^^;
多分、ブログにアップはしないと思います。予約しそびれた方はBOOTHで購入できるそうなので、是非どうぞ♪
二段組の兼ね合いでもうちょっと書いてもよいですと云われましたが……多分私は無理……f(^^;むじかく様が頑張ってくれます!!(すでに私の倍以上のお話書いていらっしゃいます)





※※※※※※※※※※※※




「…………あれ? ここ……何処?」

琴子が目覚めた時、そこは全く見覚えのない部屋だった。
眼前には竹素材で格子に組んだアジアンテイストの天井が広がる。

ほどよいスプリングのベッドは家のものと同じくらいのキングサイズだったが、シックなアイアンのヘッドボードに、ダークブラウンのベッドカバー……明らかに我が家ではない。


ゆっくりと起き上がって自分を見ると、きちんと服を着ていてほっとする。

ぽんやりと部屋を見回す。

………ホテル……じゃないわよね?

ホテルのように生活感のない、綺麗で広々とした部屋だった。

そこは寝室らしく、ベッドの他にサイドテーブルとチェストとドレッサーしかない。
家具はどれも古びた猫足のアンティーク調のものだ。
部屋全体が和風モダンな感じで、古いものと新しいものがいい兼ね合いで混在していた。

大きな掃き出し窓には縦タイプのブラインド。家具と同じウォールナットカラーの木製だ。
隙間から差し込む光で今が夕暮れ時なのが分かったがーー

えっと……いつの夕暮れ……? 今日は何日……?

ーーあたし、いったい……?

頭がぼんやりとしてはっきりしない。

入江くん、入江くん、入江くんは……?

真っ先に思い浮かんだのは直樹の顔。
もう随分会っていない気がする。

ふと、ベッドの端をみると、モンステラ柄のカーペットの上に自分のボストンバッグがあった。

ああ。
ーーあたし、家出したんだったーー

その時、ばたんと扉が開かれて、背の高い人が入ってきた。

「あ、起きた~? 」

あーっこの声!

明るめの茶色いウェーブのかかった長い髪をシュシュでさっくりと留めている。
モデルのような身長に、真っ白いセーターにスキニージーンズ。カジュアルな格好だが、その美しい容姿がより際立って見えた。


「 えっと……えっと、あたし……」

「私、そろそろ出掛けないといけないのよ。どうする? 動けそうなら帰ってもらいたいのだけど」

「あの、すみません、あたしなんでここに……ここ、何処でしょう?」

「あら、覚えてない?」

うふふっと少し愉快そうな顔をする。いたずらっ子の瞳だ。

「えーと………なんとなく覚えてるんですけど。あの胡散臭いスカウトから助けてくれた人ですよね……?」

琴子はゆっくりと混沌とした記憶が鮮明になってくるのを感じた。

そう、あれはーー。









ーー本当に危機一髪だった。

「助けてぇーー入江くーーんっ!!」

そう叫んだ時、言葉巧みに自分をモデルに誘った男は、ベッドに押し倒し、セーターを脱がそうと手に掛けたところだった。

その時、ばぁーんという音とともに扉が蹴やぶられ、飛び込んできたのが彼?ーー彼女だったのだ。

オ、オ〇カル様っ?

着ているものはユニセックスなセーターとジーンズだが、颯爽とした態度と高い身長と、そのキリリとした風貌が宝塚の男役風の美人で、さらには明るい茶髪の靡かせ方がオス〇ル風だった為、ついそう思ってしまった。
美しいけれどーー女性的な顔立ちの男性なのか、中性的な顔立ちの女性なのかーーいまひとつ判別つきかねない容貌だった。
しかし線の細さは女性のようだ。

「ちょっと! ウチのマユミを何処にやったのよ! あんたたちが拉致ったのはわかってるんですからね! さあ、早く返しなさい!」

スキンヘッドの男に、つかつかと歩み寄ると、その胸ぐらをつかみ大声で捲し立てた。

………えっとやっぱり……男? 女? オカマ……?

一瞬琴子が混乱したのは、その声が綺麗な顔立ちとはギャップのある低めのハスキーボイスだったからである。
だが、言葉遣いは女性だ。

「な、なんのことだ? マユミなんて………」

その剣幕に気圧されたスキンヘッドがちらりと隣への扉を見た為に、その人は「あっちね?」と隣の部屋へと向かう。

「ママーーっ ママ、助けてぇ! こっちよ!」

「マユミ? マユミ? なの?」



………母娘?

琴子はさらに頭の中にハテナマークが飛び交った。

や、やっぱり女性?
え、でも……?
見た目はせいぜい30歳前後だけれどーー


「ママーー!」

「 マユミーーっ」

…………どうやら感激の再会を果たしているらしい。

「………晶(あきら)ママ、どうしてここが分かったの?」

「どうしたも何も! あんた、アフターをモモコと行ったんでしょ? 明け方まで飲み歩いて、帰りゲロゲロだったってゆーじゃない」

「ああ……タクシーで吐いちゃって下ろされて……モモコが別のタクシー呼んでくるから、っていなくなった後、あいつらに声かけられて……あんまり記憶がなくてよく覚えてないのよ」

「……ったく、モモコが、あんたが車に無理矢理乗せられてったって、あたしに連絡してきて、それからは大騒ぎよ! とにかく無事でよかったわ。さあ、帰るわよ! あんた今日は弁護士の佐々木さんとの同伴を約束してるんでしょ? 約束の反故は銀座のホステス失格よ」

ママって……そっちのママ!?
え? でもアキラママ……? え? え?

「待てよ。勝手に連れてかれちゃ困るな。その姉ちゃんはうちの事務所と契約したんだ。ほら」

部屋から出てきたオ〇カル様ならぬ晶ママは、ストレートの黒髪の綺麗なお姉さん、マユミを庇うようにして、スキンヘッドにばんと目の前に突きつけられた契約書を一瞥すると、ハン、と鼻で笑う。

「酔っぱらいに書かせた、そのミミズがのたくったようなサインが効力あるとでも?」

平然とそれを奪い取り、びりりと破り捨てる。

「それにマユミは本名じゃなくて源氏名よ? 有効なわけないじゃない」

ふうっと細かくちぎった契約書をスキンヘッドに吹き掛けると、わなわなと顔を真っ赤にした男は、「このクソアマぁ!!」と態度を豹変させて晶ママを殴り付けようとした。
しかし、フットワーク軽く、ひょいと避ける。

「この、オカマ女ーーっ」

「はあ? 今、なんてっいった?」

琴子には、スキンヘッドと晶ママのバッグに、海坊主と薔薇を背負ったフランス衛兵が火花を散らしているように見えたーー。



そして5分後。

「……………意外と弱いんですね」

一緒に3人まとめて縄で縛りあげられているこの状況に困惑しながら、思わず同じようにあっさり捕まって縛られた晶ママを恨みがましく見つめた。

「あらー、だって一応あたしもか弱い乙女ですもの。ドンペリ以上の重いもの持ったことないわよ」

てへっと可愛く笑う晶ママにぶっとマユミが吹き出す。

「か弱いって………」

「うるさい、マユミ! 一体誰のせいでこんなことになったのよ」

「ごめんなさい……」

「で、ところであなたは誰よ?」

改めて晶ママは琴子の方を見て、マジマジと上から下まで舐めるように査定している。

「えーと、入江琴子ともうしまして、あの人たちに街でスカウトされて……」

「はあ? あの胡散臭い連中に誘われてノコノコついてったの? ばっかじゃない!」

バッサリ一刀両断である。

もっとも過ぎて返す言葉もない。

「……で、撮られちゃったの? 恥ずかしいビデオ」

「いえ、なんとかまだ未遂で」

「それはよかった。にしても、あんなのに引っ掛かるなんて迂闊すぎるにも程があるわよ。もっと自分を大切にしなきゃダメよ」

「は、はい………」

縄に縛られた状態で説教を受けるというのもどうかという感じだが、一応殊勝に受け止める。全くその通りだと、今なら思えたから。

「それから、マユミも! アフターで飲みすぎるなんてホステス失格。いっくらアフターは営業時間外といっても今後の為の重要な布石なのよ?」

「はい、すみません」

「何を呑気にペラペラと説教大会してるんだ! おまえらまとめて香港に売ってやる。笑っていられるのは今のうちだけだ」

スキンヘッドが凄んでも、晶ママは全く意を介さず、琴子に話し続ける。

「あ、私銀座のクラブ『花宵』でママやってるの。あなたホステスはーーうーん………無理そうね。未成年雇ってると疑われそうだわ」

じろじろと値踏みされた挙げ句、あっさり拒否られて、その仕事には全く興味はないが何だか腹が立つ。

「……未成年なんて! 一応これでも人妻ですから」

「「ええっ見えないって!!」」

晶ママとマユミが声を揃えて叫んだ。

「そういう貴女は、銀座のクラブって……本当は新宿二丁目じゃ……」

思わず琴子は、この人を見たときから感じていた本音がポロリと出る。

「銀座『花宵』って……銀座トップの売上のクラブだろ……? オカマがなれる訳ない……」

「 はあ? 誰がオカマよっ」

「みんな、ダメよ! そこに触れたらっ」

慌ててマユミが制止する。

「何よ、その触るな危険みたいな言い方……」

「ええいっおまえらごちゃごちゃうるさ~~い!」

ニヤケ顔スカウトマンが怒鳴った時ーー

再び扉が蹴破られた。


「晶!」

「あ、内藤くんだー! おっそーい」

入ってきたのはやはり長身のイケメンの青年だった。
浅黒い顔立ちの眼光険しいハードボイルドな容貌である。


あ、カッコいい。
でも、やっぱり入江くんの方が………

イケメンはイケメンだが入江くんとは若干方向性が違うわね、と瞬時にイケメンレベルを測定する琴子である。


「何が『遅い』だっ! おまえ、勝手に一人で乗り込むなとあれほど云ったのに!」

「だって、私の方が近いとこにいたんだもの!」

「それで捕まってちゃ、しょーもないだろうがっ」

「あら、絶対内藤くんがすぐに来てくれると信じてたわよ」

「ここは結構ヤバイ連中と繋がってるから、近付かない方がいいといったろう」

「ヤバイ連中っても、こいつらはこんなんだし」

スキンヘッドとニヤケ男を見下したように顎で示す。

「こんなんって何だよっ」

「こんなんにあっさり捕まったクセに偉そうに云うな!」

イケメン青年がスキンヘッドを指差して怒鳴る。

「黙ってきいてりゃおまえら~~」

スキンヘッドが青年に殴りかかった。

すっと青年がその拳を避けーーそして。
僅か3分後には、二人は床に突っ伏して起き上がれなくなっていたーー。

「す、すご…………」

まるでイリュージョンのような早業に、琴子はしばらく呆然としていたが、いつのまにか縄が解かれ、そしてその縄は男二人に繰くりつけられていた。

「さあ、さっさと行くわよ」

晶ママがもたもたしていた二人を促した。

「そのうちここに警察が来る」

「内藤くんが通報したの?」

「いや、警察無線傍受してたから」

「とにかく面倒に巻き込まれないうちに行きましょう!」

「あんたはここにいて、警察を待ってた方がいい」

内藤というイケメンが琴子の方に顔を向け、そう忠告した。

「え?」

「家出中なんだろ? 警察来るのはあんたの家族が捜索頼んだからだ。因みに俺のところにも依頼があった」

「い、依頼?」

「内藤くんは探偵なのよ」

「たんてい~~?」

まあ、なんてハードボイルドなお仕事!

「じゃあな」

「あ、待って!」

置いて行かれそうになって思わず晶ママにすがり付く。

「置いて行かないで~~」

「は? こんな危ない目にあったんだから、さっさと家に帰りなさい!」

「ダメ~~こんなの情けなさ過ぎて帰れない……」

「何いってんのよ! 家族がどんだけ心配してると思ってるの?」

「入江くんは心配なんて………それにきっとまた怒られる……」

「知らないわよ、そんなこと。さあ、マユミ、内藤くんも行くわよ」

「待って………あ……」

その時、くらっと視界がゆがみ、足に力が入らなくなったのを感じた。

「ちょっと、あんた………やだ、どうしたのよっ!」

ーーフェイドアウト。

そこから意識が途切れた。








「…………思い出した?」

「あたし、倒れたの?」

「緊張と疲れのせいね。あまり最近寝てなかったんでしょ? 爆睡してたわ」

「ごめんなさい……ご迷惑かけて」

思わずしゅん、と打ちひしがれる琴子。

「ほんと、いい迷惑。なんで連れてきちゃったんだろう。寝てるだけならあそこに転がしとけば警察に拾って貰えたのに」

成り行きって怖いわね、とため息をつく。

「とりあえずさっさと帰ってね? 今から美容院に行って、私も出陣準備しなきゃなんないのよ」

そういってささっと部屋に入り、ウォークインクローゼットを開くと中にはぎっしりと華やかなドレスが掛かっていた。桐の箪笥も納められ、その引き出しを開けていた。
着替えるのだろうと琴子は寝室から出ていく。

寝室の隣のリビングも、和風モダンなインテリアで統一されていた。
窓の外の風景からここがマンションの高層階だと予想できた。

…………どうしよう……?

帰る?

でも、まだあたし、本当に考えが甘くて、ダメダメで……

ぼうっと窓の外の風景を眺めつつ、いつまでもうだうだと思考を巡らせる。

「あら、まだいたの?」

着替えを終えた晶ママが部屋から出てきた。
白と銀に桜の散った品のある訪問着を着ていた。
黒地の帯に金銀刺繍が施されている。
あの短時間にあっという間に着付けしたのかとびっくりした。

鍵を持って出掛けようとする晶の着物の袖をさっと掴み、琴子は懇願した。

「あの…… しばらくここに置いてもらえませんか? なんでもしますから!」

「はぁ? じょーだんじゃないわよ! なんで私が……」

「何かお仕事探しますので!」

「だから、さっさと帰りなさい! 家出中なんでしょ? 悪いけどうちの店じゃ採用できないわよ。銀座のホステスはそんじょそこらのアイドルになるよりハードル高いんだから!」

「……いえ、さすがに夜のお仕事は……」

尻込みする琴子に、「そうでしょ? 悪いけどここに居たってそっち系の仕事しか見つからないわよ」 そういい放った所に、バッグの中の携帯が鳴った。

「はい、晶……あら、美鈴ちゃん、どうしたの? え? インフルエンザ? それは仕方ないわね。……5日くらいは駄目ってこと? 分かったわ。お大事に」

そういえばそんな季節よね、と電話を切りながらため息をつく晶ママは 、もう一度琴子の方を見て「とにかくあなたのこと置いてあげるわけにいかないからーー」そう言いかけて、また電話が鳴った。

「え? ハルカ? あんたもインフルなの? ちょっと待ってよ、今日はT大の教授会の皆様が……あんたの指名も入ってるのよ? ええっマイコも? カウンターの中まで休まれたらお店が回らないわ!」

晶ママの悲鳴のような叫びが響き、呆然と暫く考えていた彼女は、ふうっと深呼吸をひとつしてから琴子を振り返った。

「………なんでもするっていったわよね?」

そして、晶ママはにっこりと打算と期待に満ちた瞳を琴子に向けて、艶然と微笑んだ。





※※※※※※※※※※※※※



琴子ちゃん、さっさと帰れよ……(((^^;)
そう突っ込みたいでしょうが、やっぱり原作通りに一つの店をどたばたに巻き込むのは必定なのです……まんぷく亭とは真逆な世界ですが笑



『お水の花道』も読んだことないので、そちらの世界のことはよく知らないのでf(^^;……… あくまで想像で突き進みます。
『ひみつの奥さん』なら持ってるけど……ちょっと読み返そう……





Snow Blossom


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アイシテ☆knight 2

2016.06.05(00:20) 234



ごろりと寝返りをうってみたものの、中々寝付けない。

いつもはほんのり室内を灯している豆球も点けていない。
室内は月明かりで家具の位置がわかる程度の心地よい闇の中だ。
隣でゴロゴロと動き回り、唐突に回し蹴りを仕掛けてくる無法者はいない。
「入江くん、大好き~~」はともかく、「月にかわってお仕置きよー!」とか「マディソン郡の橋が落ちた~~っっ」とか真夜中に意味不明な寝言を聴かされることもない。
安眠を得るには最適な環境の筈だった。

なのに。
今夜で3日目の独り寝の夜は、3日間余り眠れなかったにもかかわらず、心地よい眠りは訪れてはくれないようだ。

だいたい今は真冬なのだ。
いつもなら先にベッドに潜り込み、布団の中を程よい温度にしてくれている存在がないことが妙に腹立たしい。
豆球の灯りにも慣れたし、乗り上げてくる足を蹴り返し、ジタバタしないよう無意識にきつく抱き締めている裏技もいつの間にか体得していた。

………あのバカ……


ーー入江くんの全然知らない男の人と不倫しちゃうかもよ!

ーーあとで後悔しても知らないんだからー!


売り言葉に買い言葉だって分かってる。
琴子にそんな相手も度胸もない。

おそらく一人暮らしの石川理美の家にまず行くだろうと思ったら、小森じんこの家に落ち着いたということで、少し驚いた。
確か二人とも彼氏がいるから、理美のところには彼氏がいたということだろう。
一人暮らしの友人の家には長く居付きやすいが、家族同居の小森の家には長居はしないだろう、と計算して少しばかり安堵していた。
そのうち居づらくなって早々に帰るに違いない。

昼間、大学で物陰からこっそり自分を盗み見していた琴子の様子を思い出す。

顔を真っ赤にして激怒しながら、不倫してやると言い放って出ていったくせして、不安そうに直樹の様子を窺っていた琴子。

……ったく、早く頭冷やして帰ってこい……

迎えに行けと紀子はうるさいが、迎えに行くつもりはない。
琴子が自分で気がつかなければ何も変わらないのだから。

ーーあたし……大学やめちゃおうかな……

簡単にそんなことを云う琴子に腹が立った。

おまえ、何のために大学行ったんだよ?
あんなに一生懸命、F組の連中と一緒に勉強して足切りから逃れて進学できたんだろうが。

ーー大学はやりたいことを見つけるためにいくのよ!

そう、おれに高らかに宣言していたのは何処の誰だ。

大学進学に意味を見いだせなかった自分に指標を示してくれたのは確かに琴子だった。
琴子に出会わなかったら医者になろうなんて欠片も思わなかったかもしれない。

それなのに、何故おまえが簡単に大学辞めるなんて云うんだ。

「……ったく……」

眠れないと諦めた直樹は、ベッドから起き上がり、琴子のデスクに向かった。
デスクライトを点けて、琴子の椅子に座る。

普段勉強しないせいか、綺麗に整理されてる机上である。
ディズニーの土産らしいキャラクターの缶を筆立てにして、その中には使いにくそうな装飾やマスコットがごてごてと付いた筆記具がぎっしりと入っていた。

放り出してあった大学からの通知書をぱらりと見て、「……ばあか」と呟く。

紀子からは何度も「なんでお兄ちゃんがちゃんと見てあげなかったのよ! なんのための夫婦なのよ。なんのためのIQ200よ? こんなときこそ助け合わなきゃいけないでしょ? 」と、詰られた。

試験前に教えを請われたことについては教えてやったつもりだ。卒論だってアドバイスもした。それらはそこそこの成績で、「入江くんのお陰でBもらえちゃった」と喜んでいた。
古典と英文については全く訊かれなかったから、本人にも想定外だったのだろう。

小学生じゃあるまいし、訊かれもしないことまで世話は焼かないだろう、普通。

ふと、気がついて直樹はブックスタンドの中の教科書と教科書の隙間に挟まっているクリアファイルを抜いた。

「………………………」

クリアファイルの中には、本年度の看護科転科試験の募集要項と願書があった。
看護科についての案内資料もある。
転科試験は前期と後期に一度ずつあって、とうに前期試験は終わっているが、受けようと思っていたのか願書に名前は書いてあった。
後期の試験はーーもうすぐだ。あと1ヶ月ほど。願書の〆切に至ってはもうまもなくだ。

ーーなんでおまえは肝心なことは相談しないんだ。

夏休み明けに、医学部が毎年恒例で他学部の学生相手に救命講習会を行っている。
それに琴子は昨年夏、参加したらしい。
直樹には内緒にしていた。

おそらく後から自慢げに話をして、看護科転科の話をする切っ掛けにしようと思っていたのかもしれない。
だが、琴子の口から、講習会に参加した話もナースになりたいという希望もついぞ語られることはなかった。

なんといっても講習会では、後々の語り草になるくらいの事件を引き起こしていた。
講習会の講師を担当していた救命センターの先輩研修医師から呆れたように告げられたのだ。

「おまえの嫁……うちのエリック三世をぶち壊しやがった」

エリック三世とは心肺甦生訓練用のマネキンである。
何故だかマネキン一つ一つに名前が付けられている。

「……確か、プリンター機能付きの全身モデルの……」

「そう、うちで一番お高い66万円だ。そいつを心臓マッサージしていてぶっ壊した。人間なら肋骨ぶち折って、心臓潰してるな……」

「 不良品だったですか? プロレスラーが心マしたって壊れないでしょう?」

「 そうなんだけどさ」

いくらなんでも女の力で壊れるものではない。

「でも、ベビーアンまで壊したんだよ」

「揃いも揃って耐久年数超過してたんですか?」

ベビーアンは乳児モデルである。

「いや。ほぼ新品。まあ不良品だったんだろうけど。にしても、あの心マのやり方じゃ、人間だったら一発で殺してるな……」

「まあ、あいつは加減を知らないし、何より不器用なんで」

必死にやって、それが裏目に出るのはいつものことなのだが。

にしても、女の力で壊れるものではないので、琴子のせいではない筈だ。しかし2体も不良品に当たってぶち壊すとは、そういうものの引きの強さは天下一だな、と妙に感心してしまった。

「琴子のせいじゃないなら別に弁償は」

「ああ、保証期間中だし、保険もきくし、弁償はいらないって言ったんだけど、2体で80万円近くするっていったら真っ青になって、『壊したものはちゃんと弁償しますっ』……ってきかなくて」

「あいつは変なところで律儀だから」

「払わなくていい、ってことに納得してもらうのに30分くらいかかってね、なんか疲れたよ、おまえの嫁さん」

ご迷惑をおかけしました、と頭を下げてその話は終わり、帰宅した琴子からへへへと笑いながら報告があるかと思ったが結局なかった。
数日間は少し落ち込んでいたが、いつのまにか元に戻っていた。
ナースへの自信を余計になくしただけだったのかもしれない。

落ち込んでいるのを励まして頑張れというのは簡単だ。
命を預かるという重大さを軽んじていないから迷っているのもわかってる。
だが琴子自身が自分で自信を持たなければ、この先不器用な彼女が看護技術を習得していくのは並大抵な努力では叶わないだろう。

いくつか付箋のついていた看護科の資料を一瞥し、それを元のところにしまった。


おまえからヤル気や根性抜いたら何が残る? そんなおまえなんか何の魅力もないね!


解き放った言葉が酷く傷つけたのだと、一瞬にして色を失った顔を見ればすぐにわかった。

奮起を促したつもりだったーーとは、云わない。
自分も売り言葉に買い言葉だ。


ーーったく。

琴子といるとどうしてこう感情の起伏が激しくなるのだろう。
苛立ったり腹立たしかったり。
かつては平然と抑止できていたことが、簡単に堰をきって溢れ出す。

直樹はまたひとつため息をついて、仕方なく冷えた布団の中に戻った。







「おにいちゃん……! おにいちゃん、どうしよう! 琴子が変な車に乗って行っちゃった!」

チビと散歩に行った筈の裕樹から電話があったのは翌日の午後のことだった。

「裕樹、どうした? 落ち着け!」

慌てていて要領の得ない裕樹を落ち着かせ、なんとか状況を聞き出して、裕樹と待ち合わせて琴子を見失ったあたりに駆け付けた。

「おにいちゃん、どうしよう………絶対怪しい車だったんだ」

半泣きの裕樹と情けなさげにくぅんと頭を垂れるチビを慰めて、直樹は「車のナンバーを覚えているか?」と訪ねた。
そのあたりは流石直樹の弟で、車種もナンバーもしっかり覚えていた。

「すぐに警察へ行こう……対処してくれるかわからないが……」

無理矢理にでも連れ込まれたのなら事件だが、自ら乗り込んだとなると簡単には動いてはくれないだろう。
だが一刻も早く琴子を探さないと、何かとんでもないことに巻き込まれた可能性は大きい。

二人と一匹はとりあえず最寄りの警察署へ駆け込んだ。

そして、案の定、事情を説明しても「え? 家出した奥さんが怪しい車に乗って消えた? 怪しいってそんな曖昧なことじゃ捜査できないよ。たかが夫婦喧嘩持ち込まれてもなぁ……警察は民事不介入なんだよ」と苦笑いとともに一蹴された。

「車のナンバーは分かってるんです! すぐに所有者調べて下さいっ」

裕樹が必死の形相で訴えても「事件でもないのにそんな個人情報を教えるわけには……」とにべもない。

その時である。

「いいんですか? そんなこと仰って」

「え?」

「仮にも天下のパンダイの嫁が拉致されたかもしれないんですよ? もしこれが本当に事件だった場合、責任はとれるんでしょうね?」

直樹と裕樹の後ろに、竜神のようなとぐろを巻いたオーラを背負って、彼らの母親が毅然と立っていた。

「おふくろ……!」

思わず直樹たちも振り返る。

「パ、パンダイ……? いや、しかし身代金目当ての電話とかあったならともかく……」

と、その時、対応していた生活安全課の署員の上司らしき男が慌てて駆け込んできて、彼に耳打ちをした。

「ええ……! 警視総監直々にぃっ……?」

二人は真っ青になり、焦ったような顔で、その突然現れた美しい夫人を見つめた。

「す、すみませんっすぐに調べます!」

そしてバタバタと慌ただしく動き始めた。


「おふくろ……いったいどんなコネが……」

呆れ返る直樹に「オホホホ」と高らかに笑い「これでも大企業を背負っているのですもの、色々あるのよ」と紀子はふふん、と答えた。
「今は一刻も早く琴子ちゃんを救い出さないと! 警察だけには任せておけないわ。うちの顧問弁護士にも、探偵にも話をつけたから」

行動の早さは流石である。

しばらくして、先程の署員が戻ってきた。
私服刑事らしい、いかつい容貌の男二人も一緒である。

「えーと、この車のナンバーを調べたところですね、一応×××企画というビデオ制作会社の所有しているものだったんですが……」

おどおどと生活安全課が答えると、その言葉を奪い取るようにいかつい面構えの刑事が重々しく告げる。
なんだかあの漫画の〇ルゴに似ているぞ、と警察とは真逆な凄腕スナイパーを思い出した。

「私は刑事組織犯罪対策課の榊原といいます。実はーー」

刑事組織犯罪対策課ーーいわゆるマル暴である。直樹は思わず背筋にいやなものが走るのを感じた。

「実は、この会社、我々も捜査をしていたところなんです。指定暴力団の蟇蛇組の傘下の傘下のさらにその下の会社でしてね。以前から女性を言葉巧みに誘いだし、違法なアダルトビデオに出演させ、それをネタに脅迫したり、薬漬けにして風俗に売り飛ばしたり……まあ、暴力団の資金元になっている会社らしい、ってことで内偵していたんです」

「きゃあああ~~~琴子ちゃんっ琴子ちゃんがぁぁっ」

紀子がへなへなとその場にへたりこんだ。
裕樹の顔も真っ青だ。

「……琴子を……琴子を早く……!!」

直樹は胸ぐらを掴む勢いで刑事に迫った。

「もう、既に近隣を巡回中のパトカーを向かわせています。我々もすぐに向かいますので、お待ちください」

「おれも行きます!」

「いえ、危険ですからこちらでお待ちください。ドラッグや拳銃の密売にも関わっている可能性もありますので………」

そういって足早に立ち去る刑事の言葉を無視して、「……おふくろ、車で来たんだろ?」と、直樹が小声で耳打ちする。
「キーを貸してくれ。パトカーの後を追いかける。おふくろたちはここで待っててくれ」

「頑張って……! おにいちゃん!」

紀子が震える手で車の鍵を渡す。

「ああ。絶対助けるから」

「琴子は絶対無事だよ。あいつ、悪運強いから」

裕樹が不安を打ち払うように兄に話し掛ける。

「ああ、そうだな」

「……でも、おにいちゃん……もし琴子ちゃん、命が無事でも……もし………」

紀子がイヤな想像をしているのはわかる。

「……とりあえず命さえ無事ならいい。生きていてさえくれれば……どんな琴子でも琴子は琴子だから。おれが絶対守る」

「…… 頼んだわよ!」

「ああ」

ーーとにかく、今は余計なことは考えない。
琴子のところへ、一刻も早くーー





直樹がパトカーの後を追いかけ、10キロほど離れた閑静な住宅街のマンションの一角にパトカーが停まっているのを発見した。
黒塗りのベンツをパトカーの後ろに止めて、マンションの中へ入る。
郵便受けを確認すると×××企画は5階だった。
直樹はエレベーターをイライラしながら待った。



そして、ようやく辿り着いたドアの前に立った時ーー


「おい、これはどういうことだ!!」

〇ルゴ顔の榊原の恫喝するような声が響いてきた。

直樹が慌てて中に飛び込む。

「ん? 入江さん、なんであんたがここにーー?」

振り向いた榊原を無視して直樹は部屋の中をぐるりと見渡す。
部屋の中央にあるけばけばしいベッドに撮影機材にカメラーー
思わず直樹は眉を潜める。

琴子はいないーー

そして、ベッドの脇にはスキンヘッドの男と、にやけた顔の長身の男の二人が縄で縛りあげられ、顔に大きなアザをつくり、口元から血を流して転がされていた。

「………これは……いったい………」

「ここに来たときにはこいつら縛りあげられていて、女性の姿はありませんでした」

榊原が忌々しいものを見るように、二人の男を見下ろしている。

「琴子は……琴子は、何処に……?」

「おいっ一体何があったんだ? おまえらが連れてきた女性はどうした!?」

〇ルゴ榊原がヤクザさながらににやけ男の襟元をつかんで恫喝する。

「お、女は二人とも連れていかれた……」

「二人とも? 他にもいたのか?」

「いったい、誰に! 琴子は何処に連れていかれたんだっ」

直樹も凄絶に冷たい瞳で男二人を見据えた。それは榊原の恫喝よりも恐怖を感じるような怜悧な眼差しだった。
瞳で心臓を射ぬかれるのではないかと思うくらいの殺意を感じて、二人は震え上がった。

「へ、へんな奴らが助けに来たんだ! 」

「へんな奴ら?」

「男のような女のような、つまりどっちだかよくわからない美形と……」

「は?」

「戦隊もののヒーローみたいな格好いいニヒルな兄ちゃんが」

「いや、戦隊もののヒーローってより、あれは2番手ヒーローだね。寡黙でニヒルな陰のある、ヒーローのライバル的な立ち位置の」

「おお、まさにそんな感じだ!なんにせよ、その兄ちゃん強いのなんのって。おれたち瞬殺でのされてたもんな」

「そうそう」

二人が頷きあっていると、鑑識らしき警察官たちが、隣の部屋から出てきた。

「 ハジキやヤクは出てきませんね。あちらの部屋のビデオは全て押収します」

「ああ」

「とにかく、署でじっくり話を聴かせてもらおうか」

榊原に睨み付けられて、男二人は縄に縛られた状態ですごすごと立ち上がる。

「入江さん、あなたも外に。こちらの現場を今から検証しますので。奥さんの行方も必ず捜します」

榊原の言葉に、にやけ男がはっと顔をあげ、「あんたが『入江くん』か? あんたの胸のちっちゃい奥さん、おれがベッドに押さえつけた時、ずっと『入江くん、入江くん』って叫んでたんだ。まあ、ぎゃあぎゃあうるさいのなん……のっ……でぇぇーー!」

彼は最後まで言葉を放てなかった。
何故なら、直樹の拳が彼の顔面を直撃したからだったーー。






※※※※※※※※※※※※※


さて、琴子ちゃんは何処へ……?
(ひっぱってすみませんねぇ(^w^))





Snow Blossom


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アイシテ☆knight 1

2016.05.30(22:30) 233



ーーというわけで、連載始めます。

なお、前書きにも書きました通り、『IFもの』なので、原作とは異なった展開になります。

また、相も変わらずオリキャラがでしゃばります(((^^;)

苦手なかたはスルー願います。






※※※※※※※※※※※※※※※※








ーーどうしてこんなことになっちゃったんだろう……


琴子は小森家の一室で、天井の木目を見つめてため息をついた。

じんこのベッドの横に敷いてもらった客用の布団の中。さっきまであれこれ愚痴めいたことを聞いてもらっていたのに、唐突に寝落ちしてしまった親友の寝息を聴きながら、少し重い掛け布団を引っ張って布団の中に潜り込む。

兄弟の多いじんこは弟と部屋を共有していて、弟の淳平を追い出す羽目になってしまい、軽く嫌味を云われて少し肩身が狭い。
「気にすることないから、琴子が帰りたくなるまで居ていいからね」とはいってくれるものの、やはり大家族のこの家にはいつまでもお世話になるわけにはいかないだろう。

……… 明日から何処へ行こう…?

まだ、帰れない。
帰りたいけど、帰れない。
もしかしたら直樹が少しは反省して、あるいは寂しさに耐えかねて、迎えに来てくれるかもなどと甘い期待をしたのは家出二日目の話。
昼間、大学で見掛けた直樹の様子から、永遠にその日は来ない気がしてきた。

直樹はあの広いキングサイズのピンクとレースのベッドに一人で眠っているのだろうか?

いつも必ず隣にいる存在が消えても、ちゃんと眠れているのだろうか?

くすん………

考えれば考えるほど涙が出てきて、おろしたての枕カバーを濡らしてしまう。

全然心配してる風じゃなかったもんなぁ……

昼間ちらりと覗き見た直樹は、友人と楽しげに談笑していた。全く普段と変わらぬ様子だった。

こんな時いつも思い知らされるのだ。

ーー多分、あたしが好きの半分も入江くんはあたしのこと、思ってるわけではないのだと。

きっと好きでいてくれるとは思う。

ただそれはもしかしてあたしの好きとは全然次元の違うものなのかもしれない。

時々、ふっとそんなことを感じてたまらなく不安になる。

馬鹿ねぇ、あんた、結婚してんのに。しかも、あんな才色兼備のお嬢様を振ってまでよ? ちゃんと愛されてるってば。すっごく分かり辛いケドね………

ずっとそんなことをぐずぐすと愚痴っていたらじんこに慰められたり、呆れられたり。

でも幸せの絶頂に浸っていたすぐ後に奈落の底に突き落としてくれるような態度に、時々どうしていいのか分からなくなる。

先月、赤ちゃんが出来たかもって時も、『焦ったけど、オヤジの気分になれて良かった』ーーといってくれた。
子供作っちゃおっか、て優しく笑ってキスしてくれて……たくさんたくさん愛してくれて………
あんなに幸せだったのに。それはほんのちょこっと前のことなのに。
なんで、こんなことにーー

ぐすん

ーーああ、ダメよ琴子。
泣いてばかりじゃ。

全部入江くんの言う通りなんだもの。

そう。
入江くんが反省なんてするわけはない。
いや、いっくらなんでもあの言葉は冷たすぎ!ってそこは思い返してもムカついてくるけど………

あたしがホントに情けないくらいダメダメだったのよ。
それは認めるわ。


教育実習受けたのに、『おまえは向いてない』の直樹の一言にあっさり採用試験は受けなかった。
尤も全く勉強してなかったから、間違いなく受からないだろうけど。
そのうえ単位が足りてないので卒業と同時に貰える筈の教員免許も取得できない。

就活も、理美やじんこにつきあって企業説明会に一度や二度は足を運んだけれど、結局これといってやりたいと思われる企業はなかった。

それで、まあいいや、と何もしなかったのは事実。
きっと結婚していなければ理美のように100社だって回って必死に就活していただろう。

みんなから、「いいじゃん、専業主婦になれば」と云われ、殆どその気になっていたのも事実。
結婚を逃げ道にしていると云われれば間違いなくその通りで、返す言葉もない。

毎日お菓子を焼いて、パンを焼いて、時には一緒に習い事にいったり買い物したりお芝居観に行ったりーー

それは紀子が夢見るように語っていた、琴子との卒業後の生活。
嫁と姑のワクワクライフよ~~

そんな風に小躍りしている姑の言葉を曖昧に笑って同調していたのも事実。

何となくそれでいいの? あたし? とは思っていたけれど、直樹の為だけに完璧な主婦になる未来も捨てがたくて、選択肢の一つから外せなかった。


でもね、ほんとはね、ほんとはね、あたしーー

ずっと云いたかったこと、相談したかったことは封印したままだ。
言葉にする勇気がなかった。

「馬鹿か、おまえは」

直樹に冷たく一蹴されるのが、何よりも怖かった。

ほんとに、馬鹿だよ、あたし。
馬鹿すぎて情けなさ過ぎて、自分がキライになりそうだ。

本当に、こんなんじゃ、入江くんに愛想を尽かされる。
ううん、もう尽かされたかもしれない。

ーーおまえから、やる気や根性抜いたら何が残るっていうんだよ?

ーーそんなおまえなんか、なんの魅力もないね。


ああ、あの冷たい衝撃の一言、思いだしたらまた泣けてくるし腹もたってくる。
どれだけ傷つけられたか、心の中を開いて見せてあげたい。

でも、今は腹立たしさより不安の方が大きい。
3日たっても自分の居場所さえ探す気もないらしい直樹に、やっぱり、入江くん
はあたしのことそんなに好きじゃないのだとーー
啖呵を切って売り言葉に買い言葉で飛び出したものの、もしかしたらあっさりこのまま、魅力のない自分なんて直樹に見限られるかも、と考えると怖くなる。

あれこれ考えてぐるぐる廻って、怒りがこみ上げてきたり、情けない気分になったり、分かってもらえないことが悲しくて、想われていないかもしれない不安に怯えて、だんだん地の果てに堕ちていくような気分になる。

ああ、もうぐちゃぐちゃだよ………


でも……やっぱり、帰れない。
こんな、あたしじゃまだまだ帰るわけにはいかない。
このままじゃ、本当に入江くんに見捨てられてしまう。

入江くんに相応しい女になるまでは帰れない。

ちゃんと自分の道をしっかり定めて、やる気と根性でその道を突き進まなきゃ。

そう固く決意して、ようやく眠りについたのはもう深夜を大分過ぎた頃だったーー。





翌日、心配そうに見送ってくれる小森家一同に笑顔で「ここは涙をのんであたしがおれて帰ります」と嘘をついて、とぼとぼと荷物を持って歩き出す。

実際のところ、行く当てはない。

でも誰かに頼ってばかりじゃ、何の進歩もない。
考えてみれば、僅かなアルバイト経験があるだけで、きちんと一つの仕事と真剣に立ち向かったことすらなかった。
琴子がアルバイトする理由はいつも、直樹に起因する。

入江くんにプレゼントしたいから。
入江くんと一緒に働きたいから。

そんな理由だから、目的が達成されたり、直樹が居なくなれば用はなく、長期間働いたことなど一度もなかった。
その『仕事』自体に遣り甲斐や楽しさを求めたこともなかった。

友人の中ではもう何年も一つの場所でバイトして、それなりのポジションを貰い、必死に稼いでいる子たちは沢山いる。
卒業後の目標の為に資格をとったり留学したり。夢を持って突き進んでいる友人たちを格好いいと心から尊厳する。
親からの仕送りだけではやっていけないからと、講義以外は働きづめで、危うく留年しそうになったり、就活が出遅れて本末転倒となった同級生もいる。
自分は本当に恵まれていると思う。
結婚していても、学費は父重雄がきちんと払ってくれている。それが親の本分だから、せめて卒業するまではそれを奪わないでくれ、と直樹に頼んでくれたらしい。
それなのに、何の資格も得ることのないまま、安易に大学を辞めると言った自分が恥ずかしい。
生活費だってそう。
直樹が今は親に貸与してもらってる、と話していたが、実際二人の生活にかかる経費がどれくらいのものか気にしたことはあまりなかった。


琴子はいいよね。
旦那がいて、いずれは医者でしょ? 一生働かなくて左うちわで暮らせるよね。
そのうえ親が大会社の社長で。
そんなに順風満帆な人生なら、旦那に愛されてなくっても良しとしなくちゃね。


そんな妬みが入り交じった意地の悪いことを時折云われるようになったのは、やはり就活が本格的になってからだろう。
2年ほど前から就職氷河期という言葉が踊り始め、バブル崩壊のツケが一気にこの時代の若者たちに回ってきた。

「気にすることないわよ。みんな入江くんのファンだったんじゃない? 人のこと羨んだって自分の就職が決まるわけでもないのにね」

そういって理美やじんこが睨みをきかせてくれたけど、よくよく考えれば、自分がちゃんと就活もせずにのほほんとしていたのが、余計に気に障ったのだろうというのが、今ならよくわかる。

甘えてる。

そうみんなも思っていたのだろう。

現状に胡座をかいて、何も動かずに……



ーーそう、変わらなきゃ。
きちんと、働いて、とにかくしっかり自立して、自分の足できちんと歩けるように。

まずは働き口見つけて、住むとこ探して……
できれば住み込みがいいけど、今時そんなのあるのかしら。

それからお金を貯めて自分でちゃんと学費を稼いで。
自分の力で生活できるくらい。


「さーて、どうしようかなー」

まず、右へ行くべきか左へ行くべきか。

とにかく前へ進み出さねばと歩き始めてすぐに、琴子の横に一台の車が止まった。

「お嬢さん、一人? 可愛いねぇ。今、モデルの子を探してるんだけど、ちょっと話、聞いてみない?」










「げぇぇ~~っ 琴子、車に乗っちまったっ!!」


密かにチビと共に後を付けていた裕樹は、琴子がナンパとおぼしき車にいとも簡単に乗り込んだことに、激しく驚愕した。

一応色々責任を感じていたのだ。

義姉が落第したというのを聞いて、思いっきり笑い飛ばして馬鹿にしてしまったし。
いや、流石に兄の刺すように冷たい一言は、兄を敬愛してやまない裕樹すら一歩引かせるものがあった。散々小馬鹿にしていた義姉に思わず同情してしまうくらいには。

それゆえ、チビの散歩と称して、琴子の様子を窺いに小森家周辺まで遠征していたのだが。

家出3日目を過ぎてようやく帰る気になったと思いきやーー

琴子は自宅へ帰る様子もなく、街へ歩き出し、そしていとも簡単に、見知らぬ男の運転する車に乗り込んでしまった。


ーーふ、不倫?

いや、まさか、そんな馬鹿な。
兄一筋の琴子がナンパ野郎に簡単に引っ掛かって浮気なんて!

焦りながらも、とにかく追いかけねばと、チビと共に走り出す。

チビがたどり着いたのは乗り込んだ場所から程近い街中の喫茶店だった。

怪しい場所ではなくて一瞬ちょっとほっとしたが、着いてすぐ、まだ走った息が整わないうちに琴子は妙ににやけた顔の男と店から出てきた。
そして、再び車に乗り込むのをみて、また慌てる。

ーーな、何してんだ、あいつ!


どうみてもあのにやけ男、怪しいぞ!

中学生の自分ですらそれくらいの人を見る目はある。

それなのに、なんだ、あいつは!

勝手に連れ去られてヤクザにでも売られてろっ

あまりの無防備さに呆れ返り、思わず見捨てようとした裕樹だが、その瞬間、チビが走り出していた。

「あ、待てよ、チビ!」





10分後ーー

「チビ ………どうした?」

交差点の赤信号で止められた後、チビは困ったように尻尾をふってうろうろしていた。
必死で鼻をくんくんさせて、右か左か迷っているようだ。

「チビ………もしかして……わかんなくなっちゃった?」

荒い息をはぁはぁさせながら、裕樹は、目の前が真っ暗になるような気がした。

いくらかチビが名犬だって、車を追いかけるのは無理がある。琴子の臭いはまず拾えない。
排ガスの臭いでなんとか車を識別していたようだが、交通量の多いバイパスの分岐点でとうとう分からなくなったようだった。


「ど、どうしよう……………」

とにかく、とにかくーー兄に連絡しなければ。

裕樹は、公衆電話を探した。







「あ、あたし、やっぱり、このお仕事向いてないみたいだから帰ります!」

琴子はスタジオと称する部屋に連れてこられていた。その部屋の中央にどどんと鎮座しているキングサイズのベッドは、妙に扇情的な紫色のカバーがつけられていて、(自宅のベッドに雰囲気は似ているものの)使用目的はいかにも、といった態である。

琴子は一瞬で騙されたと悟り青ざめた。

にやけスカウトマンと、カメラマンと称するスキンヘッドにサングラスに右耳ピアスのうろんなオッサンは、出ていこうとした琴子の前に立ちふさがり、

「何いってんの、今さらーーさぁさぁ我儘云わないで。あんただって金が欲しいんだろ?」

下卑た笑みを浮かべて、スキンヘッドが琴子の腕をつかんで、ベッドに押し倒す。

「だ、誰かーーっ」

「叫んだって、誰も来やしねーよ」

スカウトマンがにやにやと笑って背広を脱ぎ捨てた。

「あ、おれ、スカウト兼男優ね。ここの一番熟練だから安心して。女優のイク時のいい顔引き出すナンバーワンって言われてるから。
でもって、一応本番専門で、ボカシナシね」

「そうそう、なんといってもこれはアートだからね。へんなモザイクはいれちゃいかんのだよ」

「やだ、離してっ 入江くーんっ」

首を振って逃れようとする琴子の手首をにやけ男は押さえつけ、ベッドの上に張り付ける。

「うーん、どうみてもこのビジュアル、人妻じゃねぇよなぁ」

スキンヘッドは琴子のツインテールのリボンをしゅっと外した。

「髪を下ろしてもやっぱ高校生にしか見えねぇ……」

「お、そういや、セーラー服あったよな」

「よし、やっぱ女子高生もので行くか」

「や、やだぁ~~!!」

「やだって云われてもどのアングルからも人妻には見えないもんなぁ」

「『家出女子高生のイケナイ旅行記』うーん、いいねぇ」

「セーラー服コレクションはあっちの部屋だったよな……」

スキンヘッドが隣の部屋に向かった。

琴子はスカウトマンに手首を強く押さえつけられ、ベッドの上で身動きがとれない。
じたばたするが、にやけた顔の男はやさ男のようで意外に力が強くてびくともしない。

琴子はリアルな恐怖をひしひしと感じ始めていた。

入江くんっ!!!

助けて助けて助けて、と何回も心の中で念じても、ドラマみたいに颯爽とヒロインを助ける為にヒーローが駆けつけて危機を回避してくれる…… なんて、そうそうあるわけはない。

改めて自分の愚かさを身に染みて感じる。


どんっーーと、隣の部屋から大きな物音がして、琴子はびくっと身を震わせた。

「ちょっとぉ! いい加減にしてよっ 早く出してよ、こっから~~」

扉の向こうから女の怒鳴り声が聴こえた。

「うるせぇ、このアマ、大人しく待ってろ! あんたの相手はうちのボスがするから、手ぇつけるなって言われてんだよ」

そうスキンヘッドも怒鳴り返し、こちらの部屋に戻ってきた。
芸術家気取りのオカマっぽい男かと思ったら、その口調はどう聴いてもヤクザである。

………どうしよう……あたし……本当にこのままこいつらに……

「今朝、銀座で拾った酔っぱらい女ですか?」

「そうそう。あきらかにどっかの店のねぇちゃんだがな。顔がめっちゃボス好みのお嬢様系美女だから拾ってやったんだ。案の定、一目見てお気に入りだ」

「お水やるより、ボスの愛人の方が金になる。女にとっちゃ儲けもんだろ」

どうやら向こうの部屋にも自分と同じように拉致されてる女性がいるらしい。
つまりはーー想像よりかなりヤバイ筋の男たちなのかもしれない。

琴子はその扉の向こうをじっと見つめるが、しばらくどたばた物音が聴こえた後、
もう怒鳴り声は聴こえなくなった。


「さあ、その服を脱いでこっちに着替えてもらおうか」

スキンヘッドが持ってきたのは、都内の女子高のセーラー服だった。
紺の襟に白の2本ライン。リボンはワインカラーで可愛いと評判の制服だ。

「あと、こっちもな」

ぴらっと摘まむように見せたのは、ピンク色で黒のレースがたっぷり付いた透け透けなブラジャーとショーツのセットである。かなりなセクシー系のものだ。

「セーラー服の下がこんな色っぺえ下着って絶対萌えるよな」

「いやよ、そんなのっ」

「選ぶ権利がおまえにあると………いや、待て。おまえ、胸のサイズは幾つだ?」

「そんなのどーでもいいでしょっ」

「アニキ、これどう見てもAあるかないか……」

ニヤケ男が琴子の胸をガン見する。

「ち。このブラ、Cカップだ。使えねぇじゃないか」

「いや、これは逆にお子様用のソフトブラとかブラつきキャミソールとか着せて、中学生ちっくに……」

「そうだな。この顔なら中学生でも行けそうだ」

「当初の予定通りロリ向けの……」

「家出中学生の危ない旅行記。15歳の処女喪失紀行……うーんいいかも。相手は大学教授とか」

「あたしは22よっ人妻よっ 15歳なんていっくらなんでも」

無理があるでしょっーーと、鼻息を荒くして憤る。

「大丈夫、大丈夫。全然見えるから。ってか、100パー人妻に見えない」

「 そうそう、人妻の持つ色香ってのが欠片もない」

スキンヘッドが琴子の身体を舐めるように見たあとふっと残念そうにため息をつく。

「まあ、失礼ねっ これでも毎晩入江くんに熱烈に愛されて……」

と、言いかけて、絶賛家出中でここ最近はすっかりご無沙汰だったのを思い出す。

「そんな見栄張らなくても……」

「人妻ってのも妄想だったりして……」

「確かに経験値高いとは思えない」

「とりあえず、うぶな感じの方が、らしくていいだろう。さ、じゃあ下着はこっちのスクールブラで」

真っ白な中学生向けの肌着を琴子の目の前に突きつける。

「い、いやよっ」

「自分で脱がなきゃ脱がせるまでだ」

スカウトマンが、琴子のセーターの裾に手をかけた。

「や、やだ~~離してっ」

さらにじたばたと身を捩るが、男の手は簡単にセーターをたくしあげようとーー


いやぁぁぁっ
入江くん入江くん入江くんっ
助けてぇ!!!



その時。

ばたんっ!!と玄関の扉を蹴破るような大きな音が響き渡ったーー。






※※※※※※※※※※※※※



琴子危機一髪!



……ところで、どうでもいいことなんですが、じんこの弟淳平くんは琴子に部屋を取られたとブツブツ言ってるけど、琴子はじんこのベッドの隣で寝てるっぽい。まあ普通は友人ちに泊まらせてもらえば友人の部屋で寝るよね……てことはじんこは弟と同室だったのか? じゃあ末っ子のひろこが一人部屋? で、淳平がその部屋に移されて????等々と、小森三兄妹の部屋割りの謎に頭を悩ませていました………f(^^;







Snow Blossom


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