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ラブレターから始まるkiss

2015.12.15(22:32) 194


イタズラなkiss期間2015




「入江先輩!」

それは3年生に進級してまもない4月のある日のことだった。

登校してきたばかりの学校の玄関先で、唐突に呼び止められ、振り返るとそこには真っ赤な顔をした男の子が、あたしの目の前に一通の手紙を差し出したのだ。

「へ?」

あたしは間の抜けた声をついつい出してしまった。

一瞬、きょとんとしてその手紙と男の子を交互交互に見つめる。
知らないコーー一年坊主?
………なんか、小学生にも見えそうな背丈なんだけど。あ、でも新入生にしては制服がピッカピカじゃないかも。でも、かなり目線が下。いや、あたし中三にして身長165近くあるけどさ。


これってーーもしかしてラブレターって奴?

うわーラブレターって漫画やドラマでしかみたことないわー。
だって、今やLINEで告白、LINEでサヨナラの時代だよ?
アンジーなんて、一ヶ月付き合った高校生から、連絡ないと思ったらLINEで突然別れを告げられたらしくて、かなり憤ってたわ。

「2年E組、島田奏太です。これ、読んでください!」

げっ、E組だってーー!

琴美ってば、何ちびっこにつかまってんのーー

いつの間にか周囲に集まっていたギャラリーたちからくすくすっと笑い声が漏れた。

E組は偏差値順のクラス編成の最下位層。少子化のお陰で、去年から一クラス減って、かつてのF組が受けていたお馬鹿レッテルは、今はE組のものだ。

あたしはE組だからって馬鹿にする気は全然ないけどーーなんといっても、うちのお母さん、高校3年間F組だった人だし。そして、お母さんの友達のF組仲間の理美おばちゃんもじんこおばちゃんもみんないい人だし。

にしても、こんな目立つとこでそんなもん渡してきて、ほんと馬鹿だわっこいつーーと思ってしまったことは否めない。

でも、ここで「いらない」ーーなんていおうものならーーお父さんと同じだよね。
ええ、ええ、その件に関してはお母さんからそれはもう何度も聞いてますから!
そして、お母さんと一緒に「えーパパ、なんで受け取らなかったのー? ひどーい! 」なんて、云ってた記憶はしっかり心に残ってるものだから。

つい。

「読むだけだよ。返事は期待しないで」

あたしは一つため息をついてその真っ白いシンプルな封筒を受け取ってしまった。

「あ、あ、ありがとうございます! 」

その島田ってコは真っ赤な顔を満面の笑みに変えて、バタバタと走り去っていった。



そして次の瞬間から、あたしが1コ下の後輩から告白された話は、あっという間に学校中を駆け巡っていたのだーー。




親友アンジーの情報では、その島田奏太という少年は、身長148センチのクラス1のチビで、天文部の次期部長だそうだ。(2年生部員が1人しかいないから)
何しろ地味で目立たなく、印象があまり残らないタイプらしい。情報通のアンジーもこれ以上の詳細は分からないくらい、これといった特徴のない子。

その日1日、みんなから「琴美、2年生からラブレターもらったんだって~?」とからかわれた。

ラブレター。
ラブレターねぇ。

実はトイレでこっそり読んだ。
一応生まれて初めて貰ったラブレターじゃない?
どんなこと書いてあるのかな?って。


そしたらね。

たった一行だけだった。

「入江琴美さま。あなたが好きです」

ーーおい。
そんなの、言葉で云えよ。

思わず手紙に向かって突っ込んでしまった。

普通、まず自己紹介とか。
あと、いつどこで何故にあたしのこと好きになったのかとか。
手紙というアイテムを選択した以上、そういうことを書き連ねるもんじゃないのかい?

「意味不明やけど、インパクト大やね。で、どないすん?」

アンジーに訊かれた。

「どないすんもなにも。読むだけ、としか伝えてないもん。向こうも好きって言いたかっただけみたいだし。思いが伝わって満足なんじゃないの?」

付き合いたいとか、彼女になって下さいとか、何かを求められた訳じゃない。

そーゆー気持ちよくわかんないけど。
だって、あたし、まだ誰も好きになったこと、ないから。

「琴美。おまえ、ラブレター貰ったって?」

今度は昼休みに、隣のB組から幼馴染みの花村一斗がやってきた。
因みに、あたしはなんとか3年間A組を維持してる。
お父さんみたいに天才じゃないから程々に努力しての、A組キープだけれど。

「いっくんも聞いたの? ほんと、学校中に知れ渡ってるわね、きっと」

ため息をついてるあたしに、微妙に不機嫌ないっくん。
彼は、お母さん同士がマタニティの頃からの付き合いで、共に悪阻で入院し、さらには出産も1日違いで、新生児室ではお隣同士。幼稚園も小学校も一緒。そんな腐れ縁が中三の今まで続いている。

「なんて返事するんだよ?」

何怒ってんの?
つっかかる言い方にあたしもちょっといらっとする。

「しないよ。何も」

「だって、そいつおまえのこと好きな訳なんだろう?」

「そうみたいね」

少なくともそれしか手紙の中には書かれてないのだから。

「物好きだな……」

「うるさいよ」


あたしといっくんのやり取りをアンジーが肩を震わせて聞いている。

「心中穏やかやないクセに。 花村、もちっと素直にならんとアカンよ」

「何がだよ」

ほら、始まった。アンジーはあたしといっくんをやたらくっつけたがるけど、あたしたち、そんなんじゃないのに。
付き合い長すぎて、今さらそんな風に思えない。

「顔は結構可愛かったやろ。将来イケメンになりそうやし。身長なんて一年であっちゅう間に伸びるさかい」

アンジーの言葉に「え? イケメン? そうだっけ?」とあたしが反応する。実は顔を全然覚えてないことに気がついた。
背の小さいことと、やけに顔が真っ赤だってこと。

「ま。2年坊主なんて相手にしないか」

「うーん、2年とか3年とかじゃなくてね。好き、って言われても、だからどうなの?って感じで」

「琴美は、『恋』ってどんなもんか分かってぇへん、恋愛感情未発達のお子ちゃまやもん」

「うるさーい」

「でも、きっといっぺん誰ぞに惚れたら、母親譲りで、しーつこく思い続けてど根性で追いかけるやろ」

「それはどうかなーー」

お父さんはお母さんに出会うまで誰も好きになったことなかったらしいし、情緒欠落度合いは半端ない人だったらしいから。(おばあちゃん情報)そのお父さんの血も半分入ってるわけで。

とにかく、今のあたしには、恋ってよくわかんない。
お母さんみたいにずっと一途にお父さんだけ思い続けることも。
お父さんみたいに、結婚22年たっても未だにお母さんだけしか見えてなくて、溺愛していることも。
そんな風にお互いを思い続ける両親って素敵だなーっとは思うけど。(まあ未だに娘の前でイチャイチャするのは勘弁)

「 でも、ある意味強者やね、島田奏太。今まで誰も琴美にアプローチかけて来ぃへんかったんは、みんな琴美のパパが誰かよう知っとるし、琴美と付き合うにはパパ以上の男じゃなきゃダメや、ってみんな思うとるもんな」

思うとるっていうより、外野が勝手に思い込んでるんじゃない? と思うのだけど。
だって、お父さん以上の男ーーなんて云ってたら、あたし、多分一生誰とも付き合えない気がするわ。

あたしはお父さんのいいとこも悪いとこも全部知ってるから。
お母さんみたいに、長所短所ひっくるめて丸ごと好きになれないと、お父さんみたいなタイプは絶対しんどいと思うのよねー。












「みーちゃん、みーちゃん、今日、ラブレター貰ったんだって?」

きゃーなんということでしょう!

家に帰った途端、お母さんが満面の笑みで出迎えてくれた。4月から育休が明けて看護師に復帰したのだけれど、そういえば今日はお休みって云ってたっけ。

………ってか、なんでもうここまで情報が回ってるのーーっ

アンジーからクリスへ行ったのか。
いや、初等部にも噂が回ってハルの口から聞いたのかーー

「好美ちゃんから聞いたの」

みっきいまっきいかーー!!

従兄弟の瑞樹と将樹は一卵性双生児。二人とも初等部6年生だから、きっと兄弟が中等部にいる友達から聴いたんだろう。まあ、同じ敷地内に住んでるから情報はあっという間に伝わるわね。
みっきいまっきいは、昔あたしたちが住んでいたおばあちゃんちで暮らしていて、あたしたちは同じ敷地に別棟を建てて住んでいるの。
無論しょっちゅう行き来している。
はあ。つまりはおばあちゃんにもバレてるよね。

「あ、さっきおばあちゃんからお赤飯が届いて」

やっぱり………

「今日はお祝いよ! みーちゃんが初めてラブレター貰った記念日」

「やめてよー! たかだかラブレターくらいで! それにお父さんに言わないでよー、絶対機嫌が悪くなるから」

だいたい初等部の頃からうちに男の子が遊びに来ると眉間に皺が寄るんだから。

「それもそうねー」

じゃあ、このお赤飯なんて云おう?……ぶつぶついいながらお母さん、一人で悩んでるよー。
もう、好きにして。

「で、どうするの? みーちゃん。付き合うの? 」

あれこれ訊きたそうなお母さんに、「付き合うわけないでしょ? 何にもそのコのこと知らないのに!」とだけ答えて部屋に戻ろうと階段に向かう。
こういうデリケートな問題はそっとしておいて欲しいけど、そうもいかないだろうな、この人の性格上。

「でも、みーちゃんが、ちゃんと受け取ってあげてよかった」

階段を上りかけたあたしにお母さんが嬉しそうに言った。

「……だって、受け取っても貰えないのって、悲しいんでしょ?」

「そうよ。返事はともかく、相手の気持ちを知ってあげるのは大事よ」

お母さんのレクチャーは染み付いてましたわよ。
お陰で『いらない』なんて、言えなかったもの。

でも、受けとるのって色々面倒かも………




部屋に戻って、再び何の情報も入ってないシンプルな手紙を一瞥する。
読むって程じゃない。一瞬で全文目に入ってしまう。

あなたが好きです。

ーー何を想って書いたのかな?

もしかして、ほんとはもっと、たくさん色んなこと書いたのに、何度も消したり書いたりして、結局あの一行になったのかもしれない。
ふと、何度も何度も書き直したというお母さんの手紙を思い出していた。


入江くんーーあなたが好きです。



実をいうと、あたしはお母さんが昔お父さんに書いたというラブレターを読んだことがある。

あれは震災のあった年だから、4年前だ。

あの日以降、何回も東北の方に赴いて留守がちだったお父さん。
お父さんがいない時は昔からよくお父さんの匂いに包まれてるみたいで、書斎で勉強をするのが好きだった。沢山の本に囲まれて、ちょっと賢くなれる気がしたし。
そして、その日も書斎で宿題をしていてーー調べものをするのに本棚を漁っていてふと見つけてしまったのだ。
分厚い広辞苑の箱の内側に、小さな鍵がテープで止められているのを。
あたしは一瞬で、それが書斎の机の一番上の引き出しの鍵だと直感した。

ずっと気になっていた。
その引き出しの中に何が入っているのかーー

あたしはドキドキしながらその鍵を開けてみる。
こっそり覗き見する罪悪感なんてなかった。好奇心の方が強かった。

中にはーー
謎の機械に、不細工なお守りらしきものにフェルトの人形。そして、一通の手紙。

これはお母さんがお父さんに当てた手紙だ、というのはすぐにわかった。

あの手紙、なくなっちゃったのよね。

お母さんがそう言ってたのを思い出す。
やだ、お父さんが持ってたんだー。
うわー。

そして、ついつい読んでしまった。
高校生の頃のお母さんの純真な思い。
好きだと伝えるだけで、何も求めていない、ただ自分の存在を知って欲しい、というだけのささやかな願いーー。
まだ当時小学生ながら、お母さん、可愛い、とか思ってしまった。(とはいえ、これは何も発展性がない、ただのアピール文だよな、とも今なら思うのだけど)

でも、読んでから唐突に、人のものを盗み見てしまったということに気がついて、罪悪感に捕らわれ始め、即効元の場所に戻し、鍵も同じように戻しておいた。

読んだ時はお母さんに教えてあげようと思ったのだけれど、どうしてなくしたと思ってたものをお父さんがこっそり隠し持っていたのかと考え始めたら、お母さんには教えてはいけないような気がしてきた。

いらない、と、受け取らなかった手紙を実はずっと大事に持ってたお父さん。
そして、それを勝手に見てしまったあたし。


あたしは見てはいけないものを見てしまったような思いにかられ、お父さんが家に戻ってからもしばらく態度がおかしかったかもしれない。
だから、お父さんにもすぐにばれた。

「琴美、ちょっと書斎においで」

お父さんに呼ばれた時、あたしは覚悟して部屋に入った。

「この鍵を琴美に預けるよ」

「え……?」

あたしは先手を打って謝るつもりだったのに、その前にお父さんから、例の引き出しの鍵を渡されて、一瞬固まってしまった。

「見た……? 引き出しの中」

お父さんは意外と笑っていた。
瞳の中にも怒りの気配はない。なまじっか綺麗な顔をしている分、この人が怒ると相当怖いのだ。
怒ってないことにほっとはしたけれど、それでも、勝手に見たことをきちんと謝らなくてはと、「ごめんなさいっ」と深々と頭を下げた。

「いいよ。別に。辞典の中はいつか子供たちの誰かが見つけるだろうと思ったし」

はは、お母さんは絶対広辞苑開かないと思ったのね。

「とりあえず、ママには内緒な」

「うん。でも、なんで? 」

なんでわざわざ隠しておくのかな? その時のあたしには全然わからなくて。

「夫婦でも秘密の一つや二つあった方が面白いんだ」

そういってにやっと笑う。

「でも、なんであたしに?」

「いつかパパが死んだときに、開けて、おまえの好きにするといい」

「死ぬなんて、言わないで」

そんな言葉は聞きたくない。

「人はいつかは死ぬよ。順番としてもお前よりは先に」

泣きそうなあたしにお父さんはあたしの髪を撫でながらそう優しく笑った。

「もしかしたら明日、何か起きて突然死ぬかもしれない」

「やだ、そんなの」

「 未来がどうなるかは、誰もわからないから」

それはお父さんが東北のサポートチームに入っていて、悲惨な状況を目の当たりにしてきたせいかもしれない。
お母さんもあたしも、それこそ日本中が胸が押し潰されるような想いを抱えていたあの時ーー。

「とりあえず今のところママより先に死ぬつもりはないから」

「ママが泣いちゃうから?」

「そう」

あたしも泣くけど。多分、たっくさん。
出来ればそれは遠い遠い遥か未来でありますように。

「でももしパパが先に死んだら、これをママに渡すもよし、こっそり開けて棺にいれるもよし。おまえの好きにすればいい。ママが先に死んだら、やっぱりこれはおまえの好きにするといいさ。人が一人死ぬとその人間の一生に纏わる思い出の品は、かなりの数になる。そのすべてを遺して置くわけには行かないし、遺された方も、その全てを受け取ることは出来ないだろう? 遺された人間の取捨選択に任されるんだ。だから、琴美の自由にすればいい。燃やすなり、ゴミ箱にいれるなり、棺に入れるなりーーたが、子々孫々に伝えるのだけは止めてくれ」

そう笑って鍵をあたしに託したお父さん。

あたしの曾孫とかにこれはひいひいばあちゃんのラブレターよ、なんて見せるのもいいとは思うのだけど。

「いいの? お父さん、自分で鍵を開けられなくなっちゃうよ」

あたしの問いかけに、

「今までも開けて見てみたことはないんだ。だって、手紙の内容は一字一句間違えずにはっきり覚えているし」

だから、鍵はいらないのだとーー答えるお父さん。

「ただ、ここにあるってわかってればいいんだ。ここに、『始まり』があるって」

そういって、何処か遠くを見るような瞳で、その引き出しを見つめていたお父さん。

この引き出しの中に二人の『始まり』があるーー何だか、深いな。







というわけで、両親の『物語の始まり』であるラブレターの鍵を託されてしまったあたしは、結局再び広辞苑の箱の内側にテープで止めて隠した。

子供ながらそのラブレターの存在の深さを思い知ったせいか、あの島田少年のラブレターを無下に出来なかった、というわけ。
けれど、それが、何かの始まりになるとは到底思えなかったのだけれど。


結局、その後、特に島田少年に敢えて何か返事をすることはなかったし、彼も何の答えも求めてこなかった。
ただ学校ですれ違う度に、(顔は覚えてないと思ったのに、会えばああ、あのコね、とわかった)会釈するし、話しかけられれば話もした。

「入江先輩、星は好きですか?」

そういえば天文部だっけ。

唐突に訊かれ、「あまり興味ないな。星座とかオリオン座くらいしか知らないし」と、正直に答えた。

「でも、弟が最近はまってて、おっきな望遠鏡買ってもらってたよ。ほら、何年か前、金環食があったじゃない? あれから天体に興味持ったみたいで」

その言葉に島田少年の顔がぱあっと輝く。

「え? どんな望遠鏡? 屈折式ですか? 反射式ですか?」

「知らないわよっ」

「弟くんに会ってみたいです」

おい………

とにかく彼は天文マニアらしく、語りだしたら止まらないようだった。
なんでも「 はやぶさ」の帰還に感動して、JAXAに見学に行き、さらには『宇宙兄弟』ですっかり嵌まったらしい。

「夢は、JAXAに入ることなんです」

「 ………E組は厳しいんじゃない?」

「僕、理科しかダメで」

「夢があるなら勉強しよーか」

少なくともE組だと、3年になって足切り通告される可能性もあるんだし。

「 じゃあ先輩、勉強教えて下さい」

ーー何故だか勉強教える羽目になった………。


猛特訓したお陰で彼は一学期末テストで初めて100番以内に入った。
決して馬鹿じゃないようで、頑張れば夢は決して無謀なものではないかもしれない。

時折、テニスの試合も見に来たり、あたしの帰りを待っていたりとかしていた。そんなに頻繁ではなかったし、いつも一緒にいるわけではなかったのに、夏頃にはすっかりあたしたちは付き合っているように思われていた。

でも、やっぱりあたしはただなついて来てる後輩の面倒を見ているだけで、島田少年に恋愛感情は持てない。
何となく誘われる度にそれはその都度はっきり言ってはいるのだけれど。

だいたい、デートらしきお誘いは、
「こと座流星群見ましょう」とか
「ブルームーン見ましょう」とか

夜ばっかじゃない!
健全な中学生は夜出歩かないのだよっ

「ブルームーンって何よ。青い月?」

「7月31日がブルームーンなんです。1ヶ月に2度めの満月をブルームーンって言うんです」

「暦の問題? 青くはないのね」

別にフツーの満月ならわざわざ気張って見なくても。

「 はい………あ、でも、今度、9月にはスーパームーンがあります。スーパームーン、一緒に見ましょう。地球に最も月が近付くんです。大きくて綺麗な満月の筈です」

「9月のいつ?」

「28日です!」

「あ、ダメ。お母さんの誕生日だもん」


その時はあっさり断ったのだけど、何だか世間がやたら中秋の名月とスーパームーンを取り沙汰すものだから、今年のお母さんの誕生パーティーは観月会にしましょう、なんて風流なことをおばあちゃんが言い出した。
そして、天文にはまってるハルもノリノリで賛同し、うちの屋上でパーティーを開くことになりーーまあ、仕方ないから島田少年も招いてあげた。
因みにその前にあたしの誕生日もあって、家族だけで御祝いしてるんだけどね。知ってるアンジーやいっくんからは誕プレ貰ったけど、訊かれてもないのにわざわざ島田少年には教えてない。

そして、何故だかあたしの母親の誕生日にあたしの友人たちが集まる(笑)それもよく考えたらおかしなシチュだよね。
アンジーやその弟たち、(金太郎、金乃丞)
いっくんにみっきいまっきい。妹の美紀(みのり)ちゃん。
お母さんの看護師仲間たち(日勤の人たちだけね)。いつものメンバーが我が家の屋上でバーベキューやりながらお月見してる。

「あーもうショックよねー」

モトちゃんの話題は、さっきから今日突然電撃結婚を発表したイケメン俳優のことばかり。確かにニュースはそのことで持ちきりで、日本って平和ね、と心から思う。
なんでもバースデー婚とかで、相手の女優さんはお母さんと誕生日一緒なんだねぇ、とそっちに驚いたのだけど。

「あたし、真剣に今日早退したかったわ」

「なんか、世間じゃ本当に早退した人いるっていうじゃない」

何だかそーゆーのって、よく分かんないなーあたし。
そこまで誰かに夢中になったりしたことないから。身近な人でも、アイドルでも。そこまでダメージを受けるものなのかしら、好きな人の結婚って。

「あら。でも、一昨年琴子が第三子懐妊を発表した時の方が、物凄い騒動だったじゃない」

「そうそう、ショックを受けたナースや女医や事務職員が軒並み早退したって話よね」

うーん、お父さん、結婚してるのに、何で~~?

「未だにあわよくば、って思ってる女が多いのよねー。結婚20年も過ぎてればそろそろ奥さんに飽きてるでしょ? とか」

「飽きないみたいなのよねーそれが」

残念そうにため息をつく、モトちゃん、真里奈さん。

飽きるわけないじゃない。
娘が呆れるくらい相変わらずのバカップルぶりだわよ。

「ま、琴子が化け物みたいにいつまでも若いのは、未だに入江さんから毎晩目一杯可愛がられているせいよね、きっと」

「馬鹿、子供の前で!」

お気遣いなく、お二人さん。
お母さんが目一杯可愛がられているのは、娘のあたしもよく知ってますから。(それって、どーなのよっ?)


さて。
案の定、島田少年とハルはかなり意気投合してずっと喋ってる。
でも、ハルってかなり飽きっぽいから来年同じ趣味だとは思えないんだけどな。
小さい頃はサッカー少年だったけれど、今はあたしや父さんの影響かテニスに目覚めてるし。

「 あら、彼氏を弟に取られちゃって」

「誰が彼氏よ」

アンジーの揶揄に素っ気なく答える。

「おまえ、本当に付き合ってんのかよ、あいつと」

「いっくん、目が怖いよー」

「な、わけないじゃん。彼氏なんていらないのーあたしにはぴよちゃんがいるもんねー」

一才半の我が家のアイドルぴよちゃんを抱っこしたまま、それでもお肉を焼いたりお皿に取ってあげたり忙しいのだ。

少年に、「ええ? 入江先輩の子供ですかっ?」とか訊かれちゃったわよ。
「んなわけないでしょっ妹だよっ」

「ぴよちゃん、ぴよちゃんってよく話に出てたけど……僕てっきり小鳥でも飼ってるのかと」

「……ことりなのは間違いないけどね」

「……へ?」

「名前が琴梨なの。だからぴよちゃん」

「そーなんですね。でもすごく可愛い。いやーお母さんみたい……いて」

確かにほぼ育児はあたしに任せて状態で、すっかり姉というよりは母の気分だけどさ。
もう、生まれたばかりの時は、お母さんとどっちがお世話するかで取り合いしてたもん。でもって一番美味しいとこお父さんが持ってくの。

「でも、本当にいいお母さんになれそうです。先輩、聖母みたいな顔してる」

もういっぺん叩こうとして、でもかなり誉めてもらった気もして、一応手は引っ込めた。

「中学生に聖母なんて、誉め言葉になってない!」

一言そう告げて。

「でも先輩のお母さん、スッゴク若いですねー。てっきり先輩のお姉さんかと」

「よく言われるよ。まだお姉さんだけマシ。たまに母の方が妹に見られるのよ。あたしの方がお姉さんですかって云われる時、あるもん。ただちょっと背が高いだけじゃん?」

「……僕たちも不釣り合いですかね?」

身長差のことを云ってるのかな。

「立派に、ただの先輩と後輩に見られてるんじゃない?」

「……はあ」

「島田くんってさ、あたしのどこが好きなの?」

初めて核心に迫ることを聞いてみた。
これまで一度もその辺りの話題をしてこなかったのだ。

「えーと、一目惚れしたのは図書室です。先輩、去年図書委員してたでしょ。僕、よく宇宙関係の本を借りに行ってて」

「悪い。まーったく覚えてない」

「………でしょうね」

へこむな、少年!

「それから気になって見ていたら、あ、性格も真っ直ぐでいい人だなーって」

「……そりゃ、どうも」

「今日は招いてもらって嬉しかったです。ただの後輩でも」

「そうそう、2年坊主。こいつと付き合うのは大変だぞ。あの人を越えなきゃならないんだから」

突然会話に割って入ってきたいっくんが、お母さんと二人並んで缶ビール片手に夜空を見上げてるお父さんを指差す。

途端に島田少年はひきつった顔になる。
いやいやそんなに萎縮しないでよ。
あたしは自分の今後にちょっと憂鬱になる。
この少年に限らず、この先男の子を連れて来た日にゃ、きっと紹介する前からビビるんだろうなーー

「今のところ、キミの最大のライバルはぴよちゃんだよねー」

あたしは腕の中の琴梨のぷにぷにしたほっぺにチュッとすると、琴梨はきゃっきゃっはしゃいであたしの髪を引っ張った。
もう達者に歩くくせに、抱っこされるのが大好きなちっちゃな妹。

そして、すっかり小生意気になったけれど意外と頼りになる弟、遥樹ーー。

それにお父さんとお母さんがいて、隣にはおじいちゃんおばあちゃんに叔父さんや従兄弟たちがいてーー

この大きな月に照らされた、その世界があたしの全てだ。

いまのところ、他の人間が入り込む余地はない。
無論、友人たちのいるステージは、家族とは別のところにちゃんとある。
この少年をそこに加えてあげるのは構わないけれど、それ以上の何かになることはあるのかな?


あたしは来年、お母さんがお父さんに恋をした年になるーー。


引き出しの中に仕舞われたお母さんのラブレター。
あたしが初めてもらったラブレターは、どうしようかと悩んだ挙げ句、あたしの引き出しに仕舞われている。

その一文しかない手紙が、とても大切なものになる時があるのかしら?
あたしも、お母さんが恋した瞬間のような、狂おしいときめきを感じる日が来るのかしら?

ふと、両親の姿を探したら、いつの間にか見当たらなくなっていた。さっきまで手すりに凭れて二人仲良くスーパームーンを眺めていたのに。

「あ」

「どうしました? 先輩」

「 なんでもない」

あたしはくるっと踵を返し、「ほら、月を見よう、月を! ハル、望遠鏡見せて」
とわざとらしく皆の視線を月に持っていく。
いやー本当に綺麗だね、スーパームーン!

「ねーね、ママはー?」

「うーん、ママ、トイレかな~~?」

「 先輩、12月にはふたご座流星群が見られるんです! ぜひ一緒に!」

「やだよっ そんな寒い時期に! しかも真夜中なんて!」

「えーっ ! じゃ、じゃあプラネタリウムはどうですか? 世田谷の教育センターのプラネタリウムは世界最高クラスで1億4000万の星が見られる、全天周映像型で………」

「パス! あたしプラネタリウムってすぐ寝ちゃうから!」

と、そんな話をしながらも、あたしは屋上に設えてあるサンルームから皆を離すように手すりに誘導し、冴え冴えと輝くスーパームーンを見上げる。


いつか、誰かと二人っきりでこんな風に月を見たり星を見たりするのかな。
幸せなkissを交わしながらーー。








* * *




「 入江くん……こんなとこで ……みんなに見られちゃうよ」

「今更、だろ?」


屋上にあるガラス張りのサンルームの中には、階下に繋がる階段と、幾つかの熱帯植物とベンチがあるだけだ。

パキラと君子蘭の鉢植えの間の木製ベンチに腰かけて、二人は月の光を背に受けて熱いkissをしていた。

「みーちゃんの恋の話をしてたのに、なんで、突然………」


年頃になった娘がラブレターを貰い、その相手を家に連れてきた。
生まれた時から一緒の幼馴染みの少年も一緒にいて……

なんか、いっくん、島田くんに火花散らしてない?

ねぇねぇ、これってやっぱ三角関係?

いやーん、みーちゃん取り合ってる?

幼馴染みと年下少年~~なんか、少女漫画みたーい

ーーと、ちらちらと娘たちの様子を見ながら一人テンション高くなっていた琴子とうらはらに、直樹の方はどんどん眉間に皺が寄り、しかめっ面になっていった。

何処の世界に娘の男友達を快く迎える父親がいるっていうんだ。

あからさまに不機嫌な直樹に、琴子は「もう、みーちゃんだって15歳よ。来年は結婚出来る年なのよ? もっと娘の成長をひろーい心で見守りましょうよ」とその鼻を摘まむ。

「悪かったな狭量な父親で」

ぎろりと睨まれて、そのまま琴子の手を取って、皆がいる処からそっと離れサンルームに引っ張っていく。

「だいたい今日はおまえの誕生日だろ? 何だか琴美がメインになってる。琴美の誕生日会は先日やったろう」

「あの時は家族でお食事しただけじゃない。あの子ってば自分の誕生日に友達誰も呼ばないんだもん」

「誕生日は家族だけで祝いたいってのが本人の希望だろ」

「だから、逆にあたしの誕生日がいっつも派手になっちゃうのよねー。43にもなっていまさら、なんだけど」

「今年はちょうどスーパームーンに重なったしな」

「本当に綺麗な満月だよね」

「満月は昨日だ。今夜の月は十六夜月。正確には最も地球に月が近付いた今日の午前11時くらいがスーパームーンだったんだが」

「うん、もうー。そんなこと、どーでもいいじゃない。とにかく、綺麗なんだからそれでいいのっ」

膨れっ面の琴子の頬をぎゅっと引っ張って「ああ、確かにその通りだ」 と、笑う。

「……昨日の中秋の名月は曇って見られなかったから……あ……」

話そうとした唇が唐突に塞がれて、優しく肩を抱き寄せられる。
見る見るうちに真っ赤になる琴子。
結婚して22年にもなるのに、相変わらずこの反応。天然記念物ものだな、とほくそ笑む。

しばらくその唇をじっくりと堪能してからようやく離すと、やっと息継ぎの出来た琴子から「入江くん……こんなとこで ……みんなに見られちゃうよ」という冒頭のセリフが出てきた訳である。

「 今更だろ?」

そう、今更なのである。
みんな月を見ている振りをして、しっかり背中で今日の主役の気配を感じ取っている。

でもきっと、誰も何も言うまい。
何といっても、22年、こんな夫婦なのだから。
そして、この先も、恐らくきっとーー。


「誕生日おめでとう、琴子ーー」



ラブレターから始まった二人の物語は、まだまだこれからも続くのであるーー。



たとえ世界中の人々が夜空を見上げていても

ずっと見つめていたいのは十六夜の月光に照らされたキミの笑顔だけーー









※※※※※※※※※※※※


はあ。

やっとお題終了です。
たった4つのお題をクリアするのにどれだけかかったんでしょ(..)

とりあえず琴子ちゃんの誕生日から始まったイタキス期間2015は、スーパームーンの誕生日当日に戻っての帰着です。終われてよかった~~。


ラブレターの行方はイタキス二次界の共通認識で、直樹さんが引き出しに隠し持ってるってことで(笑)

さて、お約束の媚薬えろもまだ書きかけなのです。
ああ、なのに、来週もうクリスマスだよっクリスマスの話も書きたいっ! でもなんか、一話では絶対終わらない気がする~~
………… 『夏休み』の話は、はたして冬休み中に再開できるのでしょうかーー?(^_^;

恋愛音痴の琴美ちゃん。なにげにうちの娘と被ってます。(フクヤマさん結婚の報に「ショックで早退って意味わからんし、真面目に仕事しろっ! 」て怒ってましたよ。「あたしはね、しょーくんには早く結婚してもらいたいのにっ」……だそうな^_^;)

あ、天文少年、島田くんは、いつもコメント下さるm様に捧げます(^-^)勝手に息子さんをイメージしてしまいました。(いえ、チビで地味ではないと思いますが)

ふたご座流星群は見えたのかな~?




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Snow Blossom


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Zutto Mottoのkiss

2015.12.07(22:22) 176

イタズラなkiss期間2015










「いよいよ、明日なんだよね………」

琴子の顔はもう半泣きになっていた。

居間で催されていた壮行会と称する家族だけの送別パーティでは、妙にテンションが高くて、ひとりでカラオケを歌いまくり、ゲームを仕切りと、ヤケにはしゃぎ回っていたが、家族全員がその様に何処か痛々しさを感じとっていたに違いない。

ゲームが一段落したところで、直樹が張り出し窓の向こうのベランダに出ているのを見て、琴子も後を追うように外に出た。
3月末のまだ肌寒い夜の空気は、セーターを着ていてもひんやりと冷たかった。

あっという間の4日間。
卒業式からまだたったの4日だ。
なのにもう明日には神戸に行ってしまうなんて、何処か冗談のようで未だに信じられない。

その貴重な4日のうちの2日間、直樹は一人で神戸に行き、引っ越しの準備その他もろもろの手続きを行ってきた。
無論琴子も付いて行くつもりだったのだ。
妻としては単身赴任する夫の準備を手伝うのは当たり前だ。
残ると決めたからには、もう拗ねたりせずきっちり夫を送り出さねばと闘志を燃やしていたのに、肝心の夫からは、
「おれ一人十分だから。おまえが来ると仕事が倍になる」と、つれない返事。

実際、このあと数日しか一緒にいられない、という時に限って琴子もゼミ研の教授から頼まれた学会準備のバイトが入っていたのだーーそれを知っての直樹のセリフである。つまり一度引き受けたバイトをキャンセルしてまで来るなよ、と言いたかったのである。

そして、泣く泣く直樹にくっついて神戸で引っ越し準備をするのを諦めた。

「ねぇねぇ、入江くん、この部屋なんてどう? 日当たりもいいし、キッチンも
使いやすそうよ。 あたしがこっちに来た時に腕をふるうからね」

寂しさを紛らわす為に、神戸で仲良く新生活の準備を手伝う様子を妄想していた脳内劇場はうやむやにたち消えた。

ーー不動産屋をめぐって物件探し。なんか新婚カップルみたいじゃない?

必死にそちらへ思考をシフトしていたのに。

「………マンションはもう決まってる。アメリカに留学するドクターの部屋をそのまま借り受けるんだ。病院から近くて便利だし。家具も家電も要らないし、殆どの備品も揃ってる。明日は鍵の引き渡しと病院に挨拶に行くだけだ」

つい最近神戸行きを聞かされたばかりなのに、もう住むとこまで決まってるとはどういうことなのかーーその辺りはもう突っ込まない琴子なのである。

でも、揃いのカップとか、クッションとか枕とかシーツカバーとか、そーゆーの、一緒に買いに行ったりとか…………ね? ね?
神戸にならお洒落な雑貨屋さん、たくさんありそうよねーー

しっかりガイドブックを眺めてチェックをしていた琴子のささやかな夢をばっさり絶ち切って、直樹は一人で準備を何もかも済ませ、そして、残り数日の東京での日々も出発の支度であわただしく過ぎた。

少しは妻らしく手伝いたいと、ダンボール箱にいそいそと、衣服とかタオルとか詰め込んで、それすらも「嵩張るものは向こうで買うからいい」と必要最低限に絞られて、琴子チョイスのものは大半箱の外に戻された。
確かに琴子に任せると下着ひとつ選ぶのにも時間がかかる。さらにどの自分の写真を荷物に忍ばせるかで、半日近く悩んでいて、一向に作業は進まない。

結局手早い直樹の手によってあっという間に荷造りは終わり、宅配便で送る手配も完了。

明日持っていく手持ちのバッグだけが寝室に置かれてあった。


何だかそんな準備万端な寝室に戻るのがイヤで、いつまでも直樹とこのベランダで二人で話していたいと思ってしまう。

「それでね、お義母さんが宝塚友の会に入会してね、これからちょくちょく宝塚まで見に行きましょうって」

「三宮のこのお店がとっても有名らしいの。ぜひ行ってきてね」

「そーいえば、この間北海道に遊びに行った真里奈がすっかり関西弁になって帰ってきたのよ。なんでも旅行中に仲良くなった人が関西人らしくて。ほら、関西弁ってうつるじゃない。入江くんも関西弁になっちゃったりするのかしら?」

とりとめなく喋り続ける琴子。
明日から直樹が神戸に行ってしまうことなんて気にもしていないように。


暫くただ黙って琴子のお喋りを聞いていた直樹だが、ふと、突然静かになって夜空を見上げていた琴子が、うるうるとし始めたのに気づいた。

「いよいよ、明日なんだね」

星を見て堪えきれなくなったのか。
今夜は東京にしては星がまだ綺麗に見えるのは、月が夜空を照らしていないせいだろう。

明日はもう、この場所には直樹はいない。

考えまいとしていたけれど、ふとした瞬間に思い出してしまう。

「今、新月なの? 明日は同じ時間に一緒にひとつの月を見ようと思ってたのに」

「星なら見えるだろ」

「星だと東京じゃあまり見えないし、ってか鳥目であまりよく見えないし……星座を探す自信もないし」

離れていても見ている月は同じよね、という乙女なことを考えていたようだが、乙女のクセに星座は自信がないらしい。尤も果たして神戸でゆっくり夜空を眺めている余裕があるものなのか。

「……多分今日は、月齢23日くらいかな。二十三夜は月の出が真夜中0時過ぎだから、月が出るのはこれからだ」

「そっか……でも、今は新月に向かっているんだね。どんどん細くなって消えてなくなっちゃう」

「太陽と地球と月の位置関係が変わるだけで、宇宙から月の存在が消える訳じゃない」

「そりゃそうだけど」

同じ月を見て、なんてロマンチックなことを言っていられるのも初めのうちだけだろう。
四月になれば互いに日々に忙殺されてくるのは目に見えている。


「……琴子……最後の夜を一晩中ここで喋り倒して終わるつもりかよ?」

そういって、琴子の唇をむぎゅっと指で摘まむ。

「ふがっ」

「風邪引くぞ。中に入ろう」


リビングはすっかり片付けられ、もう誰も居なくてしんと静まりかえっていた。
あとは二人で最後の夜をまったり過ごしてね、と言わんばかりに早々と撤収した感がある。

「お風呂、先に入って」

「おまえの方が身体冷えてたぞ。先に入れよ」

お互いそう言ってから顔を見合せ、「一緒に入る?」という直樹の問いに、珍しく琴子は恥ずかしがらずに頷いた。

家人が居るときに一緒に入るのは滅多にないことだけど、さすがに今日は紀子もそっとしておいてくれるだろう。







そして、1時間後。
お風呂ですっかり逆上せてしまった琴子にバスローブを着せて抱え上げると、直樹はそおっと二人の寝室に戻った。

「大丈夫か?」

冷たいミネラルウォーターのペットボトルを頬に当てられ、「……わー冷たくて気持ちいい……」と琴子はそれを受けとる。一口飲んで喉を潤してから、「………大丈夫じゃない」と恨みがましく呟いた。

「じゃあ、今日はもう寝る?」

久しぶりに一緒に入浴したせいか、家人は一階にいないと分かっていたせいか、浴室で妙なテンションになってしまったのは否めない。
琴子もいつもより羞恥を忘れて素直に直樹の求めに応じて、普段以上に乱れてしまった気がする。

「……それはイヤ」

ベッドに横たわったまま少し切なそうに直樹を見上げる。
いつもなら「……もう、無理」と及び腰になるところなのに。

「……大丈夫じゃないんだろ?」

意地悪そうに琴子の頬を擦りながら問いかけると、

「とりあえずキスはいっぱいしておきたいの」

ーー出来れば一晩中。

「キスしたら、キスだけじゃすまなくなるけど?」

浴室でたくさん愛し合ったけど、まだ足りないのはお互い同じ。

「………いいもん」

また、泣き出しそうな顔になり、自分の顔を枕で隠す。
直樹には出来るだけ笑顔だけを覚えてもらって行ってほしいのに。

顔に押し付けた枕をあっさり直樹の手によって取り払われると、涙に濡れた目尻に優しく唇を這わせてきた。

「じゃあ、まずはキスだけ」

水を飲んだせいか少し濡れそぼった桜色の唇をちゅっと啄んでから、直樹は解きほぐすように琴子の唇を押し開いていく。
侵入してくる舌をあっさりと受け入れて、激しく追い回してくるそれを自らも大胆に絡めとってくる琴子。
長い長いキス。

鼻から抜けるようなくぐもった声、時折息を継ぐ音、唾液が行きつ戻りつする水音が室内に響く。

舌が痺れて麻痺するくらいキスを交わして、それでも足りないと思う。
無論キスだけじゃすまなくなるという宣言通り、いつの間にかバスローブの紐はほどかれ、既に赤い花びらのいっぱい散った肌の上にもう一度刻印が付けられていく。

もっと、キスして。
ずっと、キスして。

うわ言のようにキスをせがむ琴子の唇を何度も絡めとり吸い付いて追い回す。細胞のひとつひとつが溶け合うくらいに。
火のついた身体は熱に浮かされどんどんお互いを求め合う。

今日の夜は何故こんなに時間が過ぎるのが早いの?

寝室に戻った時、漸く窓から見えるくらいの位置にあった下弦の月は、少しばかり高く昇っていた。

このまま時間が止まればいいのに。

この月が永遠にこの位置にとどまってくれれば。

太陽なんて昇らなくていい。

朝なんて来なければいい。

直樹の腕の中で、何度も快楽の世界に意識を飛ばされそうになりながらも、望んでも空しいことを心の片隅で切望する。


ずっと、キスして。
もっと、キスして。
たくさん、キスして。

一晩中キスしてても全然足りない。これからの一年を埋め合わせることなんて、全然無理。



どんなに望んだって、明けない夜はない。


それまでに。
あとほんの数時間の間に。
この部屋にいっぱい残して。入江くんの薫りを。
この身体にいっぱい刻みつけて。入江くんの痕跡を。

ずっとーー

もっとーー



そして、やっぱり無情にも朝は来るのだ。 朝焼けの紫とオレンジのグラデーションの空がうっすらと街を覆い始め、太陽がそろそろと昇り始めていた。
明け方の半月は、もうこの窓から見えないくらい高い位置に移動してしまったが、直樹が云った通り、月が世界から消えることはない。
直樹が旅立つということ以外、何一つ変わらない1日が始まる。



切ない今日の始まり。
そして試練の一年の始まる日。

それでもきっと大丈夫。
入江くんを好きって気持ちがあたしを強くするの。

一睡も出来なかった琴子は、直樹の寝顔をしばらく眺めてから、ちゅっとキスをする。



「おはよう、入江くん。早く起きないと新幹線の時間になっちゃうよ」


にっこりと微笑みながらーー





欠けていく月は、まるで欠けていく心を象徴しているよう。
でも今までの幸せな時間と記憶が、きっと欠けた部分を埋め合わせてくれるーー







※※※※※※※※※※※※※※

更新空いてすみません(..)

媚薬えろを書きかけてて、もっとさくさく行けるかと思ったのに、色々ありましてちょっと中断(/。\)少々お待ち下さいませ。

なので、こちらも書きかけて止まってたイタキス期間の続きです。
まあ、これも不調ですが(^_^;

入江くんが神戸に旅立つ前夜。
琴子ちゃん、切ないだろーなー。
ってか、2ヶ月後に会いに行くまで住んでるところすら知らなかったんだよね。結婚前の一人暮らしの時みたいに………(..)普通旦那が単身赴任するとなれば引っ越しの日ぐらい手伝いに行くよね………それすらさせてもらえなかったんだろうな~~
と、まあそんな突っ込みしつつ思い付いたお話でした(^_^)

この時期の話は、翌年の琴子の看護婦合格も含めて、西暦シリーズで書きにくくて。
なるべく現実と融合させたいのに原作の日程、矛盾がいっぱいだから、日にち設定しづらいのですよ~~(^_^;











Snow Blossom


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絶え間ないkiss

2015.10.18(00:26) 173

イタズラなkiss期間2015



もう絶対

死ぬまで離れないからね



覚悟してるよ






手を繋いで歩いた。
大学の門を通り抜け、桜並木のプロムナードを(いや、桜は咲いてないけど、何だか満開の気分)二人並んで歩くのも本当に久しぶり。
しっかり指を絡めあったまま繋いでこの道を歩くのなんて、もしかして初めてかも?

どきどきする。

ちらりと横目で隣の入江くんの顔を見上げる。

すぐにあたしの視線に気付いて、「何?」と訊いてきた。

「う、ううん。何でもない」

真っ赤になって俯くあたし。
何だかふわふわしてまだ信じられない気分。

だって、だって、今朝、二日酔いの頭を抱えながらこの道を通って大学に向かっていたあたしはーー世界で一番サイテーサイアクな不幸のどん底にいたんだよ?



入江くんはあたしのこと好きじゃないのよ

あたしのこと好きじゃなくなったんでしょ

ううん、最初からあたしのこと好きじゃなかったんでしょ?

なんであたしなんかと結婚したの

あたしばっかり好きで もう もう いやだ




言ってしまった言葉は取り戻せない。
もうおしまい。
多分もう、無理。
夢だったんだ。この2年間の出来事なんて。
そう思って忘れてしまった方がいい。
きっとあたしは長い長い幸せな夢を見ていただけ。
そして、今、夢から覚めてしまったんだーー。
そう、結局あたしはずっと片想いだった。永遠に片想いのまんまだったんだ。
泣いてわめいてクリスや金ちゃんに管を巻いて、それでもどうにもならないってわかってた。
人の気持ちなんてどうこうすることは出来ない。
入江くんがあたしのこと好きじゃなくなったのなら、もうどうしようもないんだって………

だから、もう。
入江くんと並んで歩くなんて、二度とないと思っていたーー。


けれども。
今のあたしは朝のあたしと真逆で、世界で一番幸せな女になってる。
もうあたしのことなんて嫌いになったんだと思い込んでいた旦那様が、みんなの前で大胆な愛の告白してくれて。

あたしが必要なのだと云ってくれてーー

みんなの前で強く抱き締めてくれてーー

もう、それだけであたしの頭の中は沸騰しそうになっちゃったわ。

それからもうずっとふわふわ夢心地で。

二人で家に帰る道すがら、黙々と歩く入江くんをうっとり見つめるだけーー何だか2年前のあの雨の日を思い出す。

あの時もこんな風に、もしかして夢を見てるのかしらーーなんて、ひどく非現実で地面に足が付いてないような不思議な気分で入江くんと手を繋いで歩いてた。

2年前のあの時もーーそして今も、ほんの少し前まで、息をするのも苦しいくらいの絶望的な闇の中にいたあたし。
でもあの時も今も、結局、その闇からあたしを引っ張り出してくれたのは、この入江くんの手なんだよね。




あたしたちが二人一緒に帰ってきて、手を繋いだままの状態でリビングに入っていくと、みんながあたしたちの方を注目した。

あれ、やっぱりデジャブ?
何だか本当にあの雨の日をやり直しているみたい。

「仲直りしたのねっ?」

そういって両手を組んで泣き出さんばかりのお義母さん。
裕樹くんも驚いた顔からぱっと花が咲いたように笑顔になる。
お義父さんも凄くほっとした顔。
チビまで尻尾振りまくって!
ごめんね、みんな心配かけて。

そして、お父さんもーー

すると、入江くんがつかつかとお父さんの方に向かってーー

やだ、ほんと、あのプロポーズの夜みたいじゃない?

「お義父さん、ご心配おかけしてすみませんでした」

入江くんがお父さんに向かって深々と頭を下げる。
ええっ!入江くん……!?

「もう、大丈夫なんだな?」

「はい」

そしてあたしの顔を見て、入江くんはもう一度しっかり手を握りしめてくれた。あったかい、大きな手。

「もう、絶対琴子を泣かせません」

お父さんに向かって毅然と誓う入江くん。
やだ、そんな嬉しいこと云ってくれるとそれだけでもう涙が出ちゃうよ。

「それは無理だな」

お父さんがあたしの顔をチラッと見て笑った。

「こいつは泣き虫だから。嬉しい言葉でもすぐに泣くだろ」

ほら、もうほろっと涙が零れ落ちる。

「琴子。昨日お前が家を飛び出した後、直樹くん、すぐに店に電話をしてくれたんだ。多分店に来るからって。その時は冷静そうな口調だったけど、お前が来たことを伝える為におれが電話した時は、物凄く安堵した感じだったよな」

「……………」

ちょっと複雑そうな、照れくさそうな顔の入江くん。
へへ……嬉しいよ。
やっぱり涙が止まらない。

そのあとは、みんなでちょっとしたパーティ。
あっという間に沢山のお料理を作ってくれたお義母さんって本当に凄い。
何だか久しぶりに食べ物に味があることを感じられて、心から美味しいって思うことが出来た。
みんなの弾けるような笑顔が心地よい。
家族の食卓がこんなに明るく賑やかになったのって、いつ以来だろう?
ごめんね、みんな。あたしたちのせいで、ずっと陰鬱な雰囲気にさせてしまっていたんだよね。

入江くんもずっと優しく微笑んでる。
ただそれだけのことであたしはこんなにも幸せで心が温かい。
へへ。
やだ、嬉しくてやっぱり涙が出ちゃいそう。





食事を終えて、少しリビングでみんなとゆっくり過ごして……でもちょっと時計をちらりと見てしまう。
早く……二人っきりになりたいな……なんて。

「風呂、行ってくれば?」

「………うん」

入江くんに促されて、先にお風呂に向かう。
ちょっと長湯になっちゃうかもよ?
ぴっかぴかに磨きたいもん。
………ってなんかあたし、めっちゃ期待してるみたいなんだけど。……してるか……うん。してる………。してますとも!

………入江くんも……だよね?





お風呂から出た後、あたしたちの部屋に戻ると、入江くんは窓辺に腰かけてた。

窓の外には煌々と耀くまんまるお月さま。
今日は満月?

「満月じゃなくて、立待月だな。月齢14日。満月の一歩手前」

「ふうん。そういえば、ちょっと歪(いびつ)かも」

「正しくは満月イコール十五夜って訳じゃないんだけどね。月の公転速度は一定じゃないから」

「そ、そうなんだ」

よく、わからないけどーー。

よくわからないけれど、今日の完全無欠じゃないちょっとだけ欠けた月もとっても綺麗だよ。
少なくとも豆球の灯りも要らないくらい室内は仄かな白光に映し出されていた。

窓辺にぴったりと顔をよせて月を見つめていると、あたしの背後の入江くんが手を伸ばして、いつのまにかパジャマの釦を外し始めてる。

あたしの視線は月に向かったままだけど、意識はもう鮮やかな所作の入江くんの手の感触に掴まっちゃってた。
あっという間に釦は全て外されて、パジャマの上着は床に落とされる。
パジャマの下は花柄レースのオレンジのキャミソール。

そのまま入江くんの方に身体を向けると、ふわっと抱き締められて。
思わずうっとりと瞳を閉じてその入江くんの胸に引き寄せられた感触を味わう。
入江くんはあたしの頭を優しく撫でてくれる。



とびっきりのkissをしようね

たくさんたくさんしようね


ねえ、あたしたち今までどれくらいkissをしなかったと思う?

夏から秋に季節が変わって。
リップの色も少し変わったの、知ってた?

もし、1日3回kissしてたとして、3ヶ月くらいしてなかったならーーその分を取り戻すなら、あたしたちーー

「270回」

そう、270回はkissしなきゃ。

「えっちは月23回として(←生理を抜いたほぼ毎日計算)だいたい69回か。さすがに一晩に69回は無理だな」

……計算はやっ
ってか、何の計算してるのぉーー

「………kissだけで、いいです。取り戻すのは……」

「遠慮しなくていいのに」

「遠慮……なんて……あん」

あまやかなkissがあちこちに落とされる。

額に。頬に。唇に。鼻の頭に。もう一度唇にーー。


例えようもなく優しいkiss

堪らなく心を震わせるkiss

ただただ一途に追い求めてくるkiss

絶え間なく降り注がれるkissの雨ーー

あたしはもう訳が分からなくなって、受け止めるだけで精一杯でーー


とびっきりのkiss

たくさんのkiss

絶え間ないkissに翻弄されて、あたしは月の光に照らされたベッドの上で、あられもない肢体を泳がせていた。
シーツの海のなかで啼いて喘いで、溺れてしまいそうな身体を何度も入江くんに繋ぎ止められて、そのまま意識は深い海の底に堕ちていく。


「琴子………」

まるで波の音のさざめきのように、優しい入江くんの声が耳元に響く。


「琴子……ごめんな」


どうしたの? ごめん、なんて入江くんらしからぬセリフーー


ああ、あたし夢を見ているのね?

「叩いて……悪かった」

えーと……?
あ、そういえば本とか投げつけたとき、入江くんに叩かれたっけ。
ふと、記憶が2年前の雨の日と混濁する。あの日もひっぱたかれたよね。あたしってば2度もはたかれてるのね……
不思議。あの日と妙にシンクロしてるのは何故かしら。

でもズルいよね。叩かれた時は頭ぐちゃぐちゃであたしが一番混乱してる時ばっかだから、結局今となったら何にも覚えてないの。悲しくて腹立たしくてどうしようもなかった想いは、入江くんの驚きの告白にいっつもあっという間にかき消されちゃうから。
ーーだから、もう、忘れちゃったよ。叩かれた頬の痛みも、あの時の心の痛みも。


ーー琴子、苦しませてごめん

ーー悩ませてごめん

ーー泣かせてごめん


どことなく入江くんの顔こそ辛そうで苦しそうに見える。
ねぇ、そんな顔しないで。

いいの、もう。
謝らなくていいから。
入江くんがみんなの前で、あたしが必要だって、云ってくれただけで十分なの。あたしはもうその瞬間に何もかも許してしまってる。
それだけで数ヵ月の涙も悲しみも一瞬で消えてしまったから。

だからーー謝らなくていいから。



このまま永遠にあたしの傍にいてねーー







十三夜の月は悲しい涙しか知らないけど
十四夜の月は幸せな笑みしか知らない
十五夜の月は多分もっと幸せな二人を映してくれるだろうーー









※※※※※※※※※※※※※※


謝れよ。

と、いつもこのエピを読み返す度に思ってしまうわけですよ。
食堂での愛の告白も、感動もんだけど偉そうだし(ま、啓太にたいしてだからね)

なので謝らせてみた(笑)

ここで謝らないのがこの頃の入江くんの入江くんたるところなんだろうけれど。(まだまだ発展途上中)だから、ぼんやり夢だか現だかの感じで。
それでもね、重雄さんにはきっちり謝ってほしい。(台キスでは重雄さん殴ってたからね。それが当たり前の父としての感情です。嫉妬だろうがなんだろうが三ヶ月近く無視はやっぱりあんまりだーー!)

日キスドラマじゃ「とびきりのキスをしようね」のあまーいシーンがばっさりカットで少々残念だったので、きっちり入れてみました(笑)
原作じゃ入江くんは大学行ったままの格好なのに、琴子ちゃんはキャミ1枚。いつのまに脱がせたんだ! 時期的に風呂上がりでもキャミ1枚ってことはないわな~~なんてことを思いながら原作片手に書いてたお話です。

偶然導き出された数字に、思わずえろスイッチが入りそうになって、まずい! この話はリリカル目指してるのよ~~と必死に舵を切り直した……というウラもあったりして。
同じく妙な期待をしたソコのあなた! 私と一緒に反省しましょうf(^_^)


※10/20 加筆修正しました。(皆様からのコメントを読んで、ひっぱたいたことへの謝罪を忘れてたことに気付いて! いやーあれはアカンでしょーが!……てことで^-^;)






Snow Blossom


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ぺろりでコラボ♪

2015.10.08(07:33) 170


イタズラなkiss期間2015


ema様宅に、コラボ作品をアップさせていただきました♪

ema様のとーってもむふふな入江くんのイラストに妄想掻き立てられて、勢いで書いたものですが………(//∇//)
むじかく様も同じイラストでお話を書かれています♪
3人のコラボですね(^w^)

よろしければ、覗いてみてやって下さいませ♪
(あ、えろなんで、鍵つきです。ema様宅の鍵をご用意くださいね)

こちらからどうぞ♪






ema様、ありがとうございました♪



Snow Blossom


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イジワルなkiss

2015.10.04(02:07) 169

イタズラなkiss期間2015








「ふーん、忘れちゃうんだ おれのこと」


「じゃ 忘れてみろよ」


「ザマアミロ」






何が何だか分からなくて、しばらくぼーっと路地裏の壁に凭れたまま座り込んでいた。
まだ3月も初旬のこの季節。日も落ちて空気も冷えきった夜の8時過ぎ。
コートをカラオケ会場に置いてきてしまって、流石にブレザー1枚では寒いことに、くしゃみをひとつして気が付いた。

「さぶ………」

少しずつ頭が冷えてくると、薄汚れた路地裏の、すえた臭いが鼻についてくる。


「琴子ーー? 何処なの?」

心配したじんこと理美が捜しにきてくれるまで、もしかしたらそのままずっとそこで固まってしまっていたかもしれない。

それくらい衝撃的な出来事。

ーー夢?

ーーそれともあたしの妄想?

に、してもまだ残ってる唇の感触が生々しい。
かちんと歯が当たった気がする。
あまりに唐突に、嵐のように目の前に近付いた直樹の顔ーー。



「どうしたの? 入江くんは? 」

「びっくりしたわよ、突然入江くんに引っ張られてーー何かあったの?」

ぱたぱたとスカートの汚れを払って路地裏から出ていくと、理美とじんこが矢継ぎ早に質問してきた。

「何でもないよ。あたし、もう帰るね。なんか、疲れちゃった」

薄暗くて顔が赤いのは気がつかれなかった。察しのよい悪友に根掘り葉掘り訊かれずに済みそうだ。問い質されたらきっと事の経緯を話してしまうだろう。いや、話したいという思いもあるのだが。今はまだダメだ。ちゃんと説明できない。自分が全く理解できてないのだから。

「ちょっと凄まれただけだよ。大丈夫。入江くん、怒って帰っちゃった」

そう言って適当に誤魔化し、二人から逃げるように慌てて会場に戻って、金之助に気付かれないよう(いまだに熱唱中)こそこそと鞄とコートを持ってから、その場をそおっと離れた。




「あれ? 入江は?」

間の悪いことに、トイレにでも行っていたらしい渡辺と廊下ですれ違ってしまった。

「……さ、さあ。多分、もう帰ったんじゃないかと」

ぎこちなく答える。

「 ふうん。入江と何か話したの?」

「 え? う? な、な、何もっ? ただ怒ってただけ」

声が上擦ってる。
何かあったと丸分かりなくらいに明らかな挙動不審。

「さっきは、悪かったね」

「え?」

「A組の連中、よってたかって君を馬鹿にして」

「あ、う……うん」

漸く琴子はことの発端がそこから始まったことを思い出した。

「でも、別に渡辺さんのせいじゃ……」

そもそもはA組とF組の担任教師の下らないいがみ合いのせいだ。

「いや、おれもあのお守りの事とか面白半分に言っちゃったし。バレンタインのチョコのこと訊いたり……」

ああ、そうそう。
その辺りの成り行きをリピートされるとまた怒りがこみ上げてくる。
渡辺にではなく、鼻で笑うように小バカにしていた直樹の態度に。

そーよ。
あんなに人のこと馬鹿にして!
せせら笑って!

なのに。
なのに、どーしてキスなんてすんのよー!

「琴子ちゃん?」

突然怒りの形相になったり赤くなったりしている琴子を、不思議そうに渡辺が窺い見る。

「ううん、何でもない。あたし、帰りますねっ」

あの後あたし入江くんにキスされたんですけどっ!

そう言ったら渡辺はどう思うだろう?

信じないよね……多分。
あたしも信じられないもん。

「琴子ちゃん。あいつ、あんな言い方してたけど、そもそもはT大受験しなかったのが、琴子ちゃんのせいって集中砲火浴びてたの助けたかったからじゃないかな」

「え?」

意外な渡辺の言葉に帰りかけた足を止める。

「ま、なんとなくだけどね」

「で、でも、入江くんはあたしなんかのせいで、人生変えられたなんて思われるのが我慢ならなかったんだと……」

「……あいつは自分が他人にどう思われるかなんて、ほんとは気にしてないと思うよ」

「……………そうですか……? でも、あの写真はスゴく見られるの嫌がってたケド」

幼い頃の黒歴史をつい腹いせにみんなに暴露してしまった。
弱点のないように見える直樹の、唯一の弱味だ。

「うん、あれには驚いた。どうせ、あいつのオフクロさんの仕業だろ? 気にすることないとは思うけど、自分ではどうしようもなくて抗うことができなかった頃のトラウマって大きいのかな?」

確かに、いつも冷静で腹立たしいくらいの直樹が、あの写真を見せた時、ひどく慌てて狼狽していたのを思い出した。そして、ついつい面白がったし、それを盾にして脅迫めいたことまでしてしまった。
そのうえ、今日は白日の元に晒してしまったし。
お陰で最大級に怒らせた。

「あんな写真ひとつでみんなのアイツへの評価が変わるわけでもないのにね」

少し反省気味の琴子に、渡辺がくすっと笑いかける。

「……でも、あいつが慌てたり怒ったりあんなに感情的になるのってスゲーなってそのことにちょっと感動した……琴子ちゃんと同居しはじめてから随分変わったと思うよ」

なんだか感心するような眼差しで渡辺から見つめられて、それに少し戸惑う。

「……これから大学違って君たちの様子を見られないのはちょっと残念かも」

屈託なく、渡辺が笑った。





渡辺と別れた後、ぼんやりと考え事をしながら家路を辿る。
電車の中でも、駅からの道筋も、ただひとつ、今日の出来事と直樹のキスだけが頭から離れない。
家に着いてから紀子にあれこれ話しかけられた気がするが、どんな受け答えをしたのかさっぱり覚えていない。
お風呂に入って、髪を乾かして、ベッドに入ってーーいつも通りの夜は更けていく。
違うのは、もう女子高生ではなくなったこと。
そしてーーキスをしてしまったこと。




電車の中で窓ガラスに映る自分の顔を見つめながら、つい唇に触ってしまっていた。
お風呂の中でもそう。
鏡に映った自分の顔、唇ーー何か変わったのかひとつひとつ確かめたくなる。

時間が経つにつれ、唇の感触が薄れていくと、どんどん記憶に自信がなくなってくる。
夢なのか、現実なのか、わからないくらいに。


ーーううん、夢じゃない。

確かに直樹の唇は、自分の唇と重なった。
ほんの一瞬だったけれど。
冷たい唇だった。

初めてのキス。

自分は大きく目を見開いていた。
直樹はしっかり瞳を閉じていたこともちゃんと覚えている。

ザマアミロ、の言葉も耳にずっと残っている。

夢じゃない。
夢じゃない。
夢じゃない。

じゃあ、なんで?
なんで、入江くんはあたしにキスしたの?

怒ってたよね?
すっごく怒らせちゃったよね?
それが、なんでキスになるの?
いや、怒ってたの、あたしもだよ?
だって、あたしのこと散々馬鹿にしてさ……
もう、入江くんのこと、好きなの止めるって、ほんとに思ったんだから。
なんであんなサイテーな性格の人、好きなまんまでいられるの? って真剣に自分に問い掛けちゃったわよ。
そうよ、もう止めるって、止めるって、止めるってーー。

なのに、なんで、なんで、キスなんてするのよーー!

思考はどうどう巡り。
答は永遠に出てこない。
布団の中で悶々と過ごす夜は長い。

眠れなくてふとベッドから起きて窓の外を見つめる。

少し半月よりふっくらした月が、完全な漆黒にはならない仄昏い東京の夜を微かに照らしていた。

「お月さまもあたしたちのキスを見てないってことか……」

深夜2時を回ってもまだ少し低めの位置にいる月は、ほんの数時間前に 夜空に現れたばかりのようだった。
更待月と呼ばれるその月は、夜もかなり更けてからの月の出となる。

証人はいない。
知っているのは二人だけーー。


直樹は起きているだろうか。
結局、帰ってから1度も会ってない。
明日会ったらどんな顔をすればいいのだろう?
何を話せばいいのだろう?


ぐるぐると思考は巡る。

初めてのキスが直樹で嬉しいのか。

あんな路地裏で腹いせのようなキスが悲しいのか。

ザマアミロなんて捨て台詞が腹立たしいのか。

怒っていいのか、笑っていいのか、泣いていいのか、喜んでいいのか、わからない。
何がなんだかーーもう。
もう、ぐっちゃぐちゃだよ!


イジワルなキス

いい加減なキス

意味不明なキス

それでも
いちばん大好きな人からの初めてのキス



ねえ、あたしはこの日のことを一生覚えていても、いいの?


無論、月は何もこたえないーー。







* * *




何度も寝返りをうって、それでも寝付けなくて、直樹はふっと窓の外を見た。
月齢20日程の半月が、天頂よりまだ大分低い地点で深夜の空を冴え冴えと照らしていた。




やめるっ もう入江くんのこと 好きなの
やめる


そ、そうよ
入江くんの性格なんて よーくわかったもの

すぐに忘れて、大学でカッコイイ人を見つけて…………





わからない。
なんで、突然あんなことをしたのか。
全ての行動を理路整然と統括するだけの理性を持ち合わせていた筈だ。
無意味なことも、衝動に任せるようなことも、自分の世界の中にはない筈だった。

自分のしたことが、理解できないなんてーー。

琴子が現れてからそんなことばかりだ。
声を荒げたり、羞恥に震えたり、馬鹿みたいに笑ったりーー思いもよらぬ自分の感情の起伏に、何度戸惑ったことだろう。



極めつけがーー。

他人と唇を合わす行為の意味もよくわからなかった。
別に潔癖症ではないが、わざわざ他人の粘膜部位と重ね合わせて、ミュータンス菌やピロリ菌のあるかもしれない唾液を交換する行為の不合理さを感じていた。
性衝動も人並みにあるし、生殖行為の必要性は種の本能として当然なものだと理解しているが、キスの意味は全くわからなかった。


ただ、イライラした。

腹が立った。

人の生活をあれだけ引っ掻き回して、挙げ句に「好きなのやめる」などと宣言する琴子に、無性に苛立った。

だからといって、何故それがキスに繋がるのか、理解不能だった。

導きだせない答えなんてない筈だった。

例えば小説の中で登場人物が恋情によって全く理解できない行動をとったとしても、恋愛とはそういものなのだという解釈は出来た。理解しているつもりだった。それは現国の設問で答を想像し、読み解くレベルの理解だった。

琴子と出会ってから、そんなことばかりだ。
理解不能の未知なるものに振り回されてーー

好きなの止めるなら止めればいい。
全くありがたいね。
清々するさ。

何故そう言い返さなかった?
今なら確実にそう言うのに。

わからない。
自分のしたことの意味が、全くわからないーー。

思いもよらぬ程柔らかかった唇の感触。
許容量の多い記憶倉庫の中心に、今どっかりと居座って睡眠を阻害する甘やかな感触。
押し倒したり、背負ったりと接触自体は多々あったから、その髪の甘い香りも、華奢な身体も知らない訳ではなかったがーー


こんな風に理性を凌駕した情動と衝動が自分の中に存在することが、不可解で気持ちが悪い。しっくりしない。
わからない問題が存在することが妙に恐ろしい。


綺麗に半分ではなく中途半端な半月が、曖昧模糊な感情の象徴のような気がして、シャっとカーテンを閉めて再びベッドに入る。



あいつはさぞ悶々と眠れぬ夜を過ごしていることだろう。いい気味だ。
いや、もしかしたらあっさり爆睡しているかも。
有り得る。
もしかしたら、ちょっと得しちゃったー♪ なんて、ルンルン気分で浮かれてるかも。
それはそれで腹が立つ。
ふん。
どうせ、2度とあいつとキスすることなんてないんだし。最初で最後だ。噛み締めてろ。


ぐるぐると、思考は巡る。



彼は知らない。


一途なキス。

可憐(いじら)しいキス。

いっぱいの愛溢れるキスを彼女から与えられ。
そして、幾千幾万ものキスを未来永劫、彼女に与え続けるーーそのはじまりの日だったことを。



知っているのはーー月だけかも知れない。





※※※※※※※※※※※※



渡辺くんと廊下ですれ違ってしまった時点で、予想外に長くなりました…f(^_^)





Snow Blossom


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イタkiss期間2015
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  4. ぺろりでコラボ♪(10/08)
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