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個別記事の管理2018-04-21 (Sat)
あとがきすら遅くなってしまいました。いやーちょっとオマケ書いてたもんでね~~へへっ



さて。
直樹さんのbirthdayに合わせて始めたお話で、結婚記念日あたりの二週間くらいの物語の予定だったので、イタキス祭り中に書き終えられたらいいなーと思いつつ、いや、そりゃ、無理さとわかってましたよ。イタキス月間なんてもう遥か過去ですねぇ。(というか、もう五ヶ月後には今年のイタキス月間がやってくる。はやっ笑)
正月も節分もバレンタインも雛祭りも通りすぎ、桜のシーズンも終え、案の定半年近くかかってしまいました。結構昔からあたためてたネタでサクサク行けると思ったんだけどなー………

はじめはかをる子さんの存在抜きで考えてた話だったので、とりあえず彼女がいるとさっさと解決しそうで、暫く撤退してもらってましたf(^_^;かをる子さん、ごめんよ。でも、やっぱりうちの神戸にかをる子さんは必須でしたわー。〆のかをる子!(笑)
コメントいただいた皆さまにもそう思っていただけたようで、オリキャラの割には人気者です(^-^)v素直にうれしい♪(リコメ、滞ってますが、必ず返信いたしますので!しばしお待ちを~~)


琴子の声が出ない原因は、当初はよくある心因性の失声症をイメージしていたけれど、二次ではよくあるし、どうしても二番煎じになってしまいそうで、色々模索したあげくの声帯結節ですが、いかんせんポリープと一緒で職業病的な病なので、若干無理はあるなと思いつつ、強行しちゃいました。そのうえあまり自分もよく知らないので相変わらずのネット頼みです。そして調べると大抵なってる人は歌手の方ですね~~f(^_^;一般人の方の闘病ブログはとうとう見つけられなかったけど、やっぱり強行ですf(^_^;まあ、フィクションだから許してね、といった感じでございます。(身近で結節になったかたがいて、全然違うよーと思った方いましたらすみません。結節で検索してここに来た方はすぐに撤収しましょう!)

今回色々明らかになったかをる子さんの事情ですが、かをる子さんの実家を設定していたかどうか記憶になく、お友達の面々に確認してみるという体たらく……f(^_^;(読者頼みのブログです)
みんなも記憶になかったので、多分設定してなかったのでしょう。なんとなく北陸か北関東のあたりだったような気もしたのですが、お友達たちが埼玉あたり?といったのでそう決定しました。(安直笑)多分埼玉の上尾市あたりかと(昔私がファンだった同人作家さんが埼玉県上尾市だったんですよ。かをる子さんと同じ発想やな~~しかし昔の同人誌は普通に住所と本名を奥付けに記してましたね)。

しっかし神戸では随分あまあまになってしまった入江くんですが、斗南にくるとまたツンデレに戻るんだもんなーf(^_^;



さてさて、次に何を書こうかは模索中ですが……(書きたいものはまだまだある。時間がないだけ……(-_-))
未完のアレとか、ずっと書きたかったアレとか、唐突にネタ思いついたアレとかね……

(なんか、夏休みのあとがきにも同じようなこと書いてますがf(^_^;進歩ないな……)

すぐに書きはじめてアップするか、GWあたりまでこっそり書きためるか……何にしろ相変わらずのカメ子なので、どうなるか未定ですがf(^_^;とりあえずしつこく続けると思いますので、お暇なおりにでも訪問くださるとうれしいです。


ではでは、いずれそのうちに!



そして、オマケの小話は上の赤い拍手ボタンをポチッとな~~
琴子、神戸再襲撃の夜です(^w^)えろを書くつもりが玉砕しました。(でも一応R15くらいかな? )すっかりギャグなオチになってます( °∇^)]

タイトルは『声を抑えて………』です(爆)






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* Category : 1日で終わらない西暦シリーズ
* Comment : (9) * Trackback : (-) |

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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

ふふ、琴子のことであたふたする直樹さん、ほんと好物ですよねー(私も♪)
心因性の失声症も考えてはいたのですけど、不倫の疑惑だけで声を失うほど琴子ちゃんは柔じゃないだろうなーという気もして……というわけで喉のトラブルを琴子の誕生日の頃から伏線として仕込んで置きました……f(^_^;
でも、琴子の声が聴けないって、直樹さんにとって拷問ですよねー。結局、神戸を選んだ選択ミスを思いしるという……(^w^)

オマケの感想もありがとうございました。
ふふ、タイトルはこれしかないと……笑
普段、声を気にしないでいい環境(自宅は完璧な防音設備だろうし)なので、思う存分絶叫していたことだろうと〜(防音の効いていなかった時の隣室で寝られなかったかをる子さん、体感済み笑)勝手に想像してます。やっぱり結節の原因はそれしか……(爆)

Re.さち子ママ様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

オマケも堪能していただいたようでよかったです(^w^)
はーい、これからもラブラブなイリコト、書いて行きたいと思ってます♪

Re.heorakim様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪

完璧な充電で、おそらく執刀医よりいい働きをきたことでしょう(^^)
私もボイトレの呼吸法とかよくわきってませんが……確かに出産の時にうまく使えるかもですね〜〜(^-^)v

管理人のみ閲覧できます * by -

Re.紀子ママ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
お返事遅くなって申し訳ないです。

多分お忙しいのだろうなーと思っておりました。大丈夫でしょうか? 体調もお悪かったようなので、ご無理されないでくださいね。
かをる子さん、好きといっていただいて嬉しいです。
彼女の今後もどうしようかなと思いつつ、オタクの道を行くのかイリコトに感化され、ちゃんと恋愛するのか、まだ定まってませんが、いつか決めてあげたいなーと思ってます。

直樹さん反省させるにはいっつも琴子ちゃんに不憫な想いをさせてしまってますが、今回は予定通りヒッチハイクさせることが出来て満足な私です笑

はい、いつか直樹さんが神戸を去る日のかをる子さん目線書きたいと思ってます。救命メンバーたちもまじえてねー。(うちのオリキャラたち気に入っていただけて嬉しいです!)気長にお待ちくださいませ(^^)

イタキス大好きです * by ゆきえ
こんばんは!
ここ1週間で初めてイタズラなkissを見て
それから毎日エンリピしてます♪
このブログに出会うことが出来て幸せです♡
琴子ちゃんと直樹くん関係が理想的に表現されてて大好きです!
素敵な作品をありがとうございます!
ところで……作中に出てきました
琴子ちゃんが火傷を負う話と慰安旅行で男風呂に入っちゃうお話って
ブロクの作品ではないですか……?
ブロクを何回か読み直させて頂きましたが見つからず……(><)
もし良ければ教えていただきたいです!
そして、まだ作品化されていなければ
是非!図々しいながらもリクエストさせて頂きたいです\(^o^)/
とても引き寄せられる文章なので
ののの様の文章で是非読ませていただけたら嬉しいです♡
突然で申し訳ありません。。
これからも素敵な作品入江夫婦を待ってます!
ありがとうございました!

Re.ゆきえ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪

初めまして。そんなにエンリピしてくださったのですね。うちのブログに出会えて幸せといっていただけて嬉しいです。
火傷エピと慰安旅行エピですか? 回想とかでは書いたかもしれませんが(←記憶力低下により、自分の書いたものも片端から忘れてます( °∇^)])メインでは書いてないかな〜〜? 原作の慰安旅行あたりは二次では書きつくされてる感はあるので、書くはなら別の年代かな〜〜? って、あまり期待しないで待っててくださいませ。

でも、嬉しいお言葉の数々、お話を気にいってもらえたようで、そしてこのようにコメントくださって本当にうれしいです。
はーい、これからも地味に頑張って書いていきますね!

Re.ゆう様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました!

過去作にコメントうれしいです。
はい、これからもラブラブな入江夫妻を描いていきますね(^^)d

個別記事の管理2018-04-15 (Sun)


すぐに更新できると思いきや、結局一週間かかりました。
ようやく最終話です!








※※※※※※※※※※※※※※※





11月27日 P.m.2:05


わーホントにもう着いちゃったよ……

琴子は神戸医大付属病院のエレベーターの中で、ぼんやりと階数を示す表示がひとつひとつ上がっていくのを見つめながら、初めてここを訪れた時の緊張と高揚を思い出していた。

ほんの数時間前には斗南付属病院の診察室にいたのに、今は直樹のいる神戸にいる。本当にひとっ飛びで着いてしまった。

な、なんか緊張するな~~


直樹の誕生日にサプライズでここを訪れて、結局会わずに帰ってしまったのは二週間前のことだ。なんだかあっという間のような、物凄く遠い昔のような……この二週間の間にあまりに色々なことが有りすぎて、時間の感覚がおかしくなっている。


……入江くん……明日は難しいオペで、今日はその準備でほぼ医局にいるって云ってたよね………医局に行けば会えるのかなぁ?


昨夜は『明日、いよいよ術後一週間! 先生からOKもらえたら話せるようになるよー。いつ電話したらいいかなぁ?』というファックスを送ったら、珍しくすぐ電話がかかってきた。
紀子から替わってもらい、直樹の声を久しぶりに聴いた。聴くだけで話せない、一方通行の電話であったが直樹が電話をしてくれただけで幸せな気分になる。
ただ淡々と明日の予定を教えてくれただけではあるけれど、わざわざそんな電話をくれるなんて極めて稀なことなので、それだけでも嬉しくて笑みがこぼれ落ちてしまう。

『ーー手術前日はしっかり休養とらないとマズいから、なるべく明日は早めに帰って、おれから電話するよ。もっともおれは単なる助手だから、なんだかんだ緊急事態が起きて駆り出される可能性は限りなく高いけどな。もし夜10時過ぎても電話なかったら、留守電に声をいれといてくれよな』

そんな直樹のリクエストに、(ああ、入江くん、ほんとにあたしの声を早く聴きたいのね~~待ってて、待ってて、待っててね~~!!)とひそかに最速で声を届けたいという野望が生まれたのであった。

そして、その野望を叶えるべく、今琴子は直樹に刻々と近づきつつあるーー。









「じゃあ、入江先生、明日はたのんだよ」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

直樹は部屋から出ていく執刀医の教授に頭を下げる。小児心臓外科医の中でも年間オペ数は院内随一だ。今回は循環器外科との合同チームで、明日の手術の為の入念な打ち合わせを行っていた。
症例数の少ない難治性の心臓病を抱える乳児のオペはいよいよ明日行われる。
まだ経験の浅い研修医の直樹がチームに選ばれ、第1助手として前立ちを行うのだ。簡単なオペなら早々に前立ちを任され、その手際の良さはすでに伝説になりつつある直樹であったが、新生児の先天性心疾患のオペは初めてであった。ずっとあらゆる事態を想定してシミュレーションを重ねてきた。まだ胡桃の大きさくらいの小さな心臓にメスをいれるのだ。医師になり初めて『生きている』患者の皮膚にメスを入れたあの日以上の緊張を強いられるだろう。
手術前に少し患児の容態が不安定になったが、とりあえず持ち直し、明日は漸く手術の運びとなる。



ーーもうこんな時間か……

直樹は時計を見て既に午後となっていたことに気がついた。
同じチームの器械だしのオペ室のナースに昼食に誘われたが断って(優秀だが少々馴れ馴れしく閉口気味)今まで執刀医と明日のオペプランについて議論を交わしていたのだ。

ーー琴子は……どうだったろうか?

仕事に向き合っている時はすっかり忘れていたことを、時計をみた瞬間に思い出した。
琴子の診察はもう終わっているだろう。朝一番で診療予約してあるとファックスに書いてあった。
おそらく沈黙期間が終わり、もう発声の許可が出ている筈だ。

今、家にいるだろうか?
電話をしてみようかーー

直樹がそう思って医局の受話器に手を伸ばしかけた時である。


がしゃがしゃっがしゃーーん

「きゃーっ」

「ご、ごめんなさい! だ、大丈夫ですか?」


(…………!)

何か倒れる凄まじい音がして、その場にいたスタッフ全員が何事かと腰を浮かせて音のした方を振り返る。

「今の声、城所さんじゃない? 騒がしいわね。なにかやらかしたのかしら?」

「あれ? でも彼女、もう実習、眼科に変わった筈じゃーー」

(違うーー城所じゃない。あの声はーー)

直樹は反射的に立ち上がり、医局から飛び出して、音のした方へと駆け出していった。

「こちらこそごめんなさいっ だめでしょ! たぁくん。廊下を走っちゃ。ほらお姉さんと看護婦さんにごめんなさいして!」

そこには半べその幼い少年とその母親らしき女性、そしてひっくり返ったナーシングカート、散らばったカルテや医療道具を拾い集める看護婦とーー琴子がいた。
どうやら走って突進してきた少年を避けた琴子がナーシングカートとぶつかり倒してしまったようだ。

「琴子!」

直樹が駆け寄り、倒れたカートを起こした。

「え? 入江くん……!」

「まあ、入江先生!」

床に這いつくばっていた琴子と看護婦が共に驚きの声をあげた。

「………ったく、おまえは何してんだ……」

「へへへ……しまった。入江くんに聴かせる第一声決めてたのになー」

ぺろっと舌を出しながら、琴子が立ち上がり、母親に叱られて半べその少年に声をかけた。

「君も大丈夫? 元気なのはいいけど、もう病院の中、走っちゃだめだよ」

「うん、ごめんなさい……明日退院できるってきいて嬉しくって」

「たあくん、がんばったもんね」

顔見知りらしい看護婦も少年の頭を優しく撫でた。

少年と母親は、琴子とナースに何度も謝って、母親に連れられて病室に入っていった。

「入江先生の奧さまなんですねぇ。ほんと、城所さんと声、似てますね。はじめ彼女が戻ってきたかと思いましたよ」

ふふふ、と笑ってナーシングカートを点検しながらナースが話しかける。直樹もよく知っている小児外科病棟のナースであった。

「よく聴くと全然違うんですけどね」

「あら、そうですかぁ? ま、お顔は全然似てませんよね」

顔といいつつ、胸をちらりと見て笑ったのは気のせいかしらと、琴子は軽く口元をひきつらせた。

「………ったく。留守電に声を入れときゃいいのに。なんでわざわざ来たんだよ……」

ナースが去ってから、直樹は琴子の頭にぽんと手を置いて、呆れ返って呟いた。

「へへ。だって電話の声ってちょっと違うでしょ? やっぱり生声届けたくって~~」

「それにしたって……」

まったく予想外の琴子の行動に、呆れる以上に胸に熱いものが込み上げてくる。しかし言葉にすると出てくるのはいつもの憎まれ口になりそうで、すんでのところで留めることに成功した。

「……迷惑だった? ……あ、ごめん、そうだよね。仕事中なのに……。明日大変なオペがあるんだよね? そのためにずっと忙しかったんだもんね。あ、いいの、いいの。とりあえず、ちゃんと声が出るようになったこと伝えられたらすぐに帰るつもりだったから! ってことで! じゃ、帰るね! 入江くん、明日のオペ、頑張ってねーー! あたし東京からずっと応援してるから!」

琴子は一気にまくしたて、手を振るとそのままくるりと踵を返して立ち去ろうとする。

「おい、まてよ!」

直樹は琴子の肩を掴んで自分の方に振り向かせた。
顔から零れ落ちそうな大きな瞳が少し赤く潤んで、そしてさらに大きく見開いた。

「入江くん……?」

「ったく。そんなに一気にわーっと話すの、喉に良くないだろうが。ちゃんと発声トレーニング受けたのか? それに、まだ、肝心な言葉、聴いてないんだけど……?」

振り向かせた身体をそのまま抱き寄せ、頬に手をかけその指でやさしく輪郭をなぞる。そして囁くように琴子の耳元にリクエストをした。

「入江くん……入江くん……大好き! 大好きだよ~~!!」

そう言いながら、直樹の腰に手を巻き付けてぎゅっとしがみつく。

「知ってる。……知ってるけど……もういっぺん……」

しがみついていないと腰砕けになりそうな直樹の低音ボイス。耳元に優しく振動する。

「……入江くん……だいすき!」

力いっぱい叫ぶ琴子を、直樹はそのままきつく抱きしめた。
ここは医局前の廊下で、いつの間にかギャラリーが遠巻きにこの二人を見つめていたけれど、そんなことはどうでもよかった。
今はただ 、聴覚だけでなく、視覚、触覚ーー全ての感覚で琴子を感じていたかったのだったーー。


















* * *






11月27日 P.m9:10


「やっと帰って来た……」

あたしは懐かしいマンションの前に漸く降り立って、ひとつため息をついた。
長かった怒濤の数週間。
一時はここを引き払わなきゃならないかしらと真剣に思ったわよ。
さよなら神戸。さよならオタク生活。さよなら同人誌。さよなら可愛いフィギュアたち。
頑なに関西弁に染まらずに生きてきたけど(なんちゃって関西弁、と揶揄されるのがイヤでねー)、10年近く暮らしてるこの街はもうすでに第2の故郷のようなもの。
何故、大学、神戸にしたかって?(と、質問があったから答えるわね)それはね、当時大ファンだったとあるサークルの主催の作家さんがその大学にいたからよ! そしてあたしの行きたかった学部もあったからなのね(ちなみにメディア芸術学部。就活の役には立たない学部だったわね……全く学んだこととは無縁の病院事務員)。そして、同じ大学のデザインコースで、そのサークルで売り子してたB子との運命的な出会いをして、そのまま神戸に住み着いて同人活動してきたというーーそんな神戸での(オタクな)日々を走馬灯のように反芻しながら、趣味に生きたあたしの青春に別れを告げる覚悟をしてたのよね。

でも兄夫婦の協力のお陰でなんとかあたしは神戸に戻れる見通しがついたのよ。
とにもかくにも母は斗南大病院に転院ができ、バイパス手術の日取りも決まった。
まだ何度か東京に戻らなければならないけど、とりあえず手術までは兄と義姉に任せて、今日、漸く神戸に帰ることができたのだ。

久しぶりのマンション。
あたしは自分の家の扉を開ける前にちらりと隣のドアを見つめる。
玄関の小窓から、かすかな灯り。あら、入江先生いるのかしら……


斗南大学の学食で謎な情報を耳にして以来、すごく琴子さんのことが気になってたものの、やはり転院して落ち着くまで東京と埼玉の実家を行ったりきたりしていて、なかなか連絡とることもできなかった。
明日、病院に行って入江先生に問い質さなければーーと思っていたけど、ご在宅なら今から訪問しちゃおうかしら? 埼玉土産の草加煎餅持って……九時過ぎだからまだ大丈夫よねーーーなんて、思いながら、玄関の鍵を探そうとごそごそとしていたらーー

がちゃっと唐突に隣の扉が開き。

「入江くん! 戻ってきたのーー?」

「ええっ?」

「わーかをる子さん!?」

「琴子さん!?」

「「大丈夫なのっ!?」」

あたしたちは同時に叫びーー
そしてがしっと抱き合った。






結局、その後、あたしは隣人の部屋に転がり込み、お互いの数週間の怒濤の日々について語り合った。
って、かなり琴子さんの話はぶっ飛びまくって何度か質問を繰り返さないと要領を得なかったけど。
けれど行きつ戻りつしつつも概ねのことは理解できて、やっと状況が把握できた。

あららー入江先生の不倫騒動にそんな顛末が。ふーん、その実習生、琴子さんと声がそっくりだったのねー。会ったことないから知らなかった。
そのうえ、琴子さんが声帯結節で声を出せなくなってたなんて。不思議な因果ね。今の琴子さんの声はいつもの少し高めの可愛らしい少女のような声で、そんな山姥のような嗄れ声だったなんて想像もできない。
「多分『ボヘミアン』を良い感じで歌えたかも……」
そう振り返る琴子さん。ちょっと想像できて、思わず笑ってしまう。でもきっと病気になった時はしんどかったんだろうなぁ。

「「はぁぁーほんっと、大変だったわね~~~」」

そして、もう一度がっしり抱きあい、お互いを慰めあって労りあった。


「で、入江先生は?」

肝心の部屋の主はお留守のようだ。

「えっとね。今日は定時で上がれたから、一緒に帰って来て、ごはん食べに行ってね……」

お部屋に戻ってから、二人で久しぶりにまったりして……
明日の手術のためにしっかり充電できそう、っていってたのに、一時間くらい前に病院から呼び出しがあって……

少し残念そうに琴子さんが呟く。一瞬、ぽおっと頬を染めたのは何を思い出したのかしら?
あたしは琴子さんのうなじに紅い花が散っているのを目敏く見つけていた。
外食の後、おうちに帰ってデザートですか? ふっ……しっかり食べられたわね。

おい、大事なオペ前は自重しろよ! (……って天才には関係ない突っ込みかしら)

「琴子さんはいつまでこっちに?」

「ほんとは今日は、入江くんに会ったらすぐに東京に戻るつもりではあったのよ。でも、明日は大学、午後からしか授業ないって話したら、泊まってけば?って云ってくれて。明日の朝の新幹線で余裕で間に合うし」

泊まってけば?って云うあたり、だいぶ素直になったわね。
この時期それどころじゃないだろうって嫌味っぽく云いそうなんだけど……

「今夜は明日のために多分呼び出しはないだろうって言ってたのになー。せっかく甘い雰囲気になって……」

と、言いかけてあわあわと口を抑える。
あら、未遂だったのね。
キスマークつけただけで呼び出しかーーどんまいっ入江先生!

「結局もう今夜は帰ってこないのかなぁ? 明日は難しいオペのある日なのに……大丈夫かなぁ」

何度も時計の針を見つめてはため息をつく琴子さん。
せっかくお泊まりすることになったのに、残念ね。夏に来たときもそんなパターンばっかりだったもんね。

「でも。それがお医者さんの仕事なんだものね。たくさんの患者さんが入江くんを必要としているんだもの。妻として支えないと!」と、健気にガッツポーズを取る琴子さん。

うん、まだ研修医だけどね。心の中で突っ込む。でも確かに2年後には多くの患者さんが入江先生を必要とするようになってることだろう。

ーーでも、よかった………。
幸せそうな琴子さん。
どうやらかなり辛い数週間を過ごしたようなのに、(傍にいてあげられなくてごめん! あたしがいたらそんな誤解さっさと解いてあげれたのに!)そんな翳りは微塵も感じられない。
ま、入江先生にキスされたら一発でそれまでの不安なんて簡単に消えちゃうんだよね。

「それにねー見て見て、かをる子さん!
入江くんってばねー」

そういって琴子さんは寝室の扉をそーっと開ける。
ええっと!
夫婦の寝室そんなに簡単に見せていいのかなぁ?

あらまあ。ベッドの枕元には琴子さんの写真が飾られていた。
へえー多分夏休みの時の写真だね~~うん、意外だよ。入江先生が枕元に妻の写真なんて(えーと、まさかオカズ……? あ、ごめん、発想えろくて)……いやー病院中に広めてやりたーーい(でも瞳で殺されそうだからやめとく)!!
よかったわねー、琴子さん。

「なんだかんだいって入江くん、あたしにメロメロなのよね~~」

ふっふっふっと不敵な笑みを浮かべ自慢気に語る琴子さん。
知ってるけどね。めっちゃ知ってますけどね!
(ただこの奥さん、すぐに自信なくすんだもんなー)

でも、あたしはその寝乱れた感じのベッドが気になって……いかにもさっきまでここで……って感じの。(未遂のわりには……結構惜しいとこまでいった感じ?)
あのー琴子さん………独り身にはちょいと刺激的なんですけど……。


結局ーーその後。夜中11時前くらいまで琴子さんと長々とお喋りしていたら、もう今夜は戻らないかと半分諦めてた入江先生が帰宅してきた。

「入江くん、おかえりなさーい。帰って来れたんだね! よかった!」

ウサギのようにぴょんぴょん跳ねて入江先生に飛びつく。

「ああ。明日のオペに備えてさっさと帰ってちゃんと休めと言われた。人を呼びつけといて……」

「大丈夫だったの?」

「とりあえずヤマは越したかな。おれの担当じゃなかったんだが、当直の医者が、急変対応で手が離せなかったせいで、すぐに駆けつけられるおれが呼び出されたんだ。病院に近すぎるのも考えもんだな」

「入江くんが病院の近くに住んでたからその患者さんは無事だったんだよ。患者さんにとってはチョーラッキーだよ。よかったよねー!!」

そういって琴子さんは誰より嬉しそうに彼を見上げてそう云った。

「だな……」

そういって優しく微笑むと入江先生は琴子さんに顔を近づけーー

こほんっ

思わず咳払いしてしまうわよ、お二人さん。

「森村さん!?」

おい! あたしのこと、目に入ってなかったんかーい!

「いつ神戸に? 大丈夫なんですか? ご家族はーー」

「はい、まあなんとか。その辺はゆっくり琴子さんに聞いてくださいな。あたしも色々入江先生からも訊きたいことあるけど、それはまた後日に」

あたしはそういってから「じゃ、琴子さん、またね。では邪魔モノは退散しまーす。あ、入江先生。もう遅いですからね、オペに差し支えない程度に程々に~~」と手を振ってお隣から速やかに辞去したのだった。






さて、その夜。久々の自分の城のベッドで眠ったあたしは、隣室の気配を感じることもなくあっさり爆睡してしまった。

そして翌朝。
少し寝坊してしまって慌ててバタバタと身支度をして玄関を飛び出した。久しぶりのお仕事に遅刻なんて最悪だわ! ただでさえ月末で、あたしがいないことで事務局内は相当混乱していることだろう。

玄関を出たら、丁度隣の扉から出てきた琴子さんと会った。
今から東京に帰るらしい。
おおーお肌が艶っツヤだね。
しっかり充電しましたって感じで……

「入江先生は?」

「今朝はもうとっくに。オペの準備あるからって」

あたしが休みになる前から話題になってた例のオペね。
かなり稀有な症例で日本中の医師会が注目してオペもライヴで全国の病院に中継するとか。
そんなオペに一年目の研修医が第一助手が入るなんて、通常なら考えられないことだ。
いやーそんな大事なオペの前日にえっちしちゃっていいのかなー。
ほら、プロ野球選手なんて試合前日はセックス禁止っていうじゃない? 禁欲は体力温存と集中力を高めるって。
………って、あの入江先生にそんな一般概念は当てはまらないか~~
逆に充電できてエネルギーに満ち溢れてるって感じかしら?
まあ、無理はさせてないみたいね。琴子さんの腰も普通のようだし。(夏休みに腰砕けでバンビちゃんな琴子さんを何度か目撃)
声も……昨日と変わらずね。特に掠れもなく。
そりゃ、さすがに声は抑えさせるわよねー(笑)


「なんとか朝御飯も無事作れて、食べてもらえたし! 入江くん、オペも無事成功するといいなぁ……」

あたしの朝っぱらからの邪な想像など思いもよらないだろう琴子さんは、病院の方を向いて祈るように手を合わせる。

「じゃあ、そろそろ東京に戻るね」

「そっかぁ。あたしもまた来週東京に行くけどね」

「ああ、お母さんの手術? もし東京に来たら是非連絡してね!」

「うん。都合がつけばね」

とはいいつつ、色んなことに忙殺されそうで絶対に、とは云えないけれど。

「琴子さんは次に神戸に来るのはクリスマス?」

そう訊ねた途端に微かに表情が曇る。

「うーん、来たいのはヤマヤマだけど。さすがに国家試験も追い込みだし……入江くんにもクリスマスや正月も仕事だって釘刺されたし」

ただでさえ、こんな病気になっちゃって最近は落ち着いて勉強できなかったし……

ため息をつきながら首を竦める。

「そっか。でも試験まであとちょっとだもんね。頑張って!」

「うん!」

にこっと笑って軽くガッツポーズをとる。しんどい時期だった筈なのにあくまでポジティブ。
彼女のパワフルさをもってすればきっと間違いなく合格することだろう。
神戸で就職できるかどうかは……これはもう運次第だけどね。前情報だと今のところうちの大学の付属の看護学生が4人くらい落ちないと外部からの採用はないようだ。今年は定年退職者が少ないのだ。

「じゃあね!」

そして琴子さんは東京に戻りーーあたしは久しぶりに病院へと足早に向かう。(やばっマジ遅刻だわーー!)
月末月初の繁忙期、なんとか乗り越えねばね。職場に持ってく草加煎餅と東京ばな奈(知ってる?東京ばな奈は埼玉の工場で作られてるのよ)を携えて、いざ出陣!



ーーなんとか遅刻を免れて、久しぶりにバタバタと仕事をしているうちに1日があっという間に過ぎ去ってしまった。
結局今日は一度も入江先生に遭遇することなかったけれど、手術の成功の朗報は事務局にも届いた。
ーーよかったね。琴子さん。入江先生が執刀したわけではなくても、多分あなたの祈りが叶えられたのよ。


あたしは休憩時間に屋上庭園の喫煙スペースで煙草を燻らせる。晴れやかな秋空が神戸の街を見下ろしていた。
なんだかんだこの街が好きなんだよねーあたし。
来年もこの街で平穏な日常を過ごしていられたらそれだけで幸せだなと数日間の非日常を振り返り、そう思う。そして琴子さんもこの病院で働いていたら尚、楽しいだろうなぁ。
さすがに師走も近いこの時期、上着なしで外でタバコはちょっと寒くて、あたしは思わず身震いした。
それでも心はほんのりあったかいのは琴子さんが幸せそうに笑っていたからだろう。

入江先生に会えるかなーとわざわざここに煙草を吸いに来たけれど、流石に今日は無理なようだ。
ま、またじっくり話を話を聴かせてもらいましょう。
今回は蚊帳の外だったけど、これからはがっちり琴子さんをフォローするわよっ!(もう、気分は神戸の母ね……って、せめて姉よね?!)










ーーそして、蛇足ながら後日談を少々。


入江先生が助手に入った件(くだん)の手術の大成功はさらに彼の評価を上昇させた。そしてできる人間はどんどん仕事を押し付けられるという定石通り、相変わらず激務にさらされてる模様。
医療雑誌にも載って、その容姿も知られることとなり注目度もさらにアップ!
これはまたまたあわよくばと下心を持った邪な女子たちが小児外科に殺到するのでは、と思いきや。
院内にはまた新たな彼に関する噂が駆け巡り、ざわつかせ、そのせいなのか思いの外彼の周囲は妙に静かだった。
少し前に院内を席巻していた不倫の噂をあっという間に沈静化させ、どうやらアレはデマだったと院内にあっさり認知させた新たな噂。

入江直樹は公衆の面前で嫁にキスを5分以上するくらい、嫁を溺愛しているって!!

どうやら琴子さんに再会した時に、周囲の目を全く気にすることなくかなり長々とディープなヤツをいたしてたらしい。(病棟にも近い医局の前で……)
ギャラリーも随分多くて、入江ファンのナースや患者が卒倒しそうになったとか。いや殆どが当てられた上に、ドン引きしまくったんだろうけど。

夏休みの時に結構悪目立ちしてしまった琴子さんの武勇伝と嫁溺愛はかなり院内に浸透してるのかと思いきや(夏休みの時も結構、人前でイチャコラしてたよね?)、みんな目の当たりにしたことしか信じられなかったようなのね。
そして例の不倫の噂で『入江先生も男よね、やっぱり。あんな学生で落とせるなら私にもチャンスが……』と希望を持った女子たちを一瞬にして撃沈させたようだ。
計算なのかなんなのか、すごい牽制効果よね。


そんなあたしは最近その実習生の城所茜をよく見かける。
たまたま眼科の医局に資料を届けにいった時に、やっばり彼女の声が琴子さんに似ててびっくりして振り返ってしまったの。「琴子さん!?」と叫んだせいで
彼女から、「もしかして入江先生の奥さまご存知なんですか?」と声を掛けられたってわけ。

まあ。ほんとそっくりねぇ。
電話とかだったら区別つかないかも。
なんとなくそれが切っ掛けで少し仲良くなって遠距離の恋の相談受けたりして。
いや、あたしまともに恋したことないオタク処女なんですけどね。妄想だけは場数踏んでるのでつい知ったかぶりしちゃうけど。どうもそんな役回りばっかよねー。


ちなみにその城所さんの彼氏が、彼女に会いにこの病院を訪れた時に、たまたま入江先生に国家試験合格報告をしに来た琴子さんの声を耳にして、彼女と間違えて琴子さんに抱きついてしまい……「あれ? 胸がないっっ」と叫び、琴子さんにひっぱたかれ。そのうえ入江先生にも尻を蹴りあげられ。城所さんにもめっちゃ叱られたという楽しいエピがあったりするんだけど、それはまだまだーーもう少し先のお話。















※※※※※※※※※※※※※※※※



終わりましたー。
結局、話を締める為にかをる子さんを呼び戻したという感が否めませんがf(^_^;



あとがきはまた後日に( °∇^)]



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声を聴かせて * by 玉露蜜柑
誤解が溶けて良かった‼️
手術も成功でも最後にいつもの琴子の落ち
これからの物語楽しみにしてます。

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* by なおなお
アハハ!でも誤解とけて良かったねv-218

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Re.るなたま様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなって申し訳ありませんでした。

るなたま様にもそういってもらえて嬉しいです。やっぱりうちの神戸にかをる子さんは必須でした(^-^)v
そうそう、終わり良ければ……ですね。
常に注目の的のわりには、救命メンバー以外にはなかなか嫁ラブを認識されない入江くんですが、今度ばかりは浸透できたかなー?

色々お気遣いありがとうございました。仕事は相変わらずですが、家の方はまあなんとか(笑)マイペースでこれからも頑張っていきます。応援ありがとうございます♪

個別記事の管理2018-04-08 (Sun)



次、最終回、といいつつ、ちょっと挿入したかったかをる子さんの事情編ですf(^_^;
彼女がいたらきっとこんなにこじれなかった筈(でも話が成り立たないのである……)( °∇^)]

少し時間が遡ってますf(^_^;
もう1話前に挿れたかったな……失敗(-_-)



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




11月20日 P.m 2:15




「へぇーーここが斗南大学医学部付属病院かー」

タクシーを降りたあたしは、地元の市民病院で書いてもらった紹介状とカルテや画像フィルムの入った封筒を持って、大都会の病院の玄関扉をくぐる。

ふーん、エントランスロビーの広さやデザイン性なんか神戸医大付属病院と似てるな。 姉妹提携してる大学病院だから規模もだいたい同じようなものだ。
ってか、最近はずっと実家のある片田舎の市民病院通いだったから、久々の東京、大都会の雰囲気にちょっと高揚気味。(まあーイベントでちょくちょく来てるけどさ)気分転換も必要よね。流石に看病疲れもピークだったし。

エスカレーター下にある診療科一覧と院内案内図を見る。ついこういうのをチェックしちゃうのよねー。画像診断室がまあまあ広いな。MRIやCTの所有台数多いのかしら。医療機器メーカーの営業勢力図を思い返してしまったりして。


「森村さん。森村みどりさん……えーと娘さんですね? ◯◯市民病院から転院ということでよろしいでしょうか。ではあちらの説明室の前でしばらくお待ち下さい」

「あ、はい」

受付を済ませたあたしは外来ロビーの端にある説明室の待合いのベンチに腰をかける。
午後のため、患者は随分と少ない。会計待ちの人たちがちらほらといるくらいだ。これが午前中なら全ての椅子が埋まっていることだろう。

あたしは「はあ~」とため息をついて、この1週間あまりの怒濤の日々をぼんやりと振り返る。

そもそも事の起こりはあたしの勤めている神戸医大付属病院に、母親が倒れたという連絡があったことから始まったのだ。

うちの実家は埼玉の片田舎で、たった一人の兄は東京で就職した後に結婚し、新居も都内に構えた。あたしは大学が神戸でそのままそこで就職してしまったために、実家では両親が二人で暮らしていた。
その母親が心筋梗塞で倒れたのだ。幸い命はとりとめたものの、家事一切出来ない父親の世話と入院することになった母親の看病とがあたしの肩にどっとのしかかったというわけで。

緊急のカテーテル手術による再灌流療法で母の容態は一旦は落ち着いたものの、再狭搾の可能性が高いということでバイパス手術を薦められてーーとなると、暫く母についていなくてはならない。
これはもう真剣に神戸の病院を辞めて実家に戻らねばならないだろうかと相当悩んだわよ。
まあ年が年だからねー。いつかそういう日も来るかもとぼんやり思ってはいたけれど、まさかこんなに早くなんて……。
もう毎日ため息しかでなかったわ。
そしたら、今までたいして役に立たなかった兄さんがーーというか兄嫁が、東京の病院に転院してもらえるなら、父も母が退院するまで一緒に面倒見ると言ってくれてーーもう涙が出そうになるくらい感謝しちゃったわよ。
いっそのことこのまま同居してくれたらありがたいけど、そこまで望むのはまあ無理だろうなぁ。

というわけでバイパス手術を受けられる転院先の東京の病院リストに斗南の名前を見つけた時はソッコーで決めたわ。
なんといっても兄の家から一番近い。
それにうちの神戸医大と提携していてドクターの行き来もあるから、名前を知っている医者もいたりするし、神戸医大付属の知り合いの先生に確認すればある程度の医師の評判などを知ることができた。(ほんと、主治医のアタリハズレで運命決まっちゃうからねー)

そして、バタバタと転院の話が決まり、今日はとりあえず手続きだけの為にきたのだ。兄嫁ともあとで落ち合って色々今後のこと話し合わなきゃーー。仲はいいのよ、あたしたち。しっかりもののお義姉さまなので、任せとけば大丈夫、と思うけれど、長男の嫁だからといって実母の世話を何もかも押し付けるのはやはり気が引ける。お互い言いたいこと言い合って役割分担を決めないと今後の関係に亀裂を生じさせない。その辺りは慎重に対応しなくっちゃね。

そんなこんなで自分の事情でテンパっていて、すっかり入江先生と琴子さんのこと、頭からすっぽ抜けていたけれど、斗南に転院か決まった瞬間からあの隣人夫妻のことを思いだしてしまい、気にはなっている。

なんといっても1週間前、嫁溺愛の入江先生に不倫などという噂が病院中を駆け巡っていたのだ。そりゃびっくりだわよ。何か事情があるとはすぐに察したけどね。だって彼は嫁以外の女なんて『患者A』『看護婦B』『同僚C』という程度の認識しかないくらい興味はないのだから。
翌日の入江先生の誕生日に琴子さんが神戸に来ることを知っていたあたしは、彼女がその噂を耳にする前に、入江先生に真相を確かめねばーーと彼を捕まえて訊問しようとした矢先の出来事だったのだーー実家に戻る羽目になったのは。


ーーどうなったのかな?
大丈夫かな? 琴子さん………

気にはなっていたけれと、やはり他人のことを構っていられる状況じゃなかった。
けれど、さすが斗南病院に来ることになった途端、どうなったのか気になって仕方ない。

せっかくここまで来たのだし、後で大学までいってみようかな。確か隣だよね。
………っても、広い大学キャンパス、約束もしてないのに琴子さんと巡り会える自信はあまりない。
それに大学生って学内に1日いる訳じゃないのよね。四年生ともなると空き時間も多いだろうし。
自宅の電話番号とか住所とか、知ってはいるけれど。突然訪ねるのもねぇ。
行ってみようかどうしようか……少し悩んでる間に、母の名前を呼ばれ、あたしは室内に入っていった。




「じゃあよろしくお願いします」

転院の日取りの確認と入院手術のための資料一式をもらい、あたしは部屋を後にする。来週中には転院できるようだ。なんとか早目に手術の日程を組んでもらえれば私も再来週には神戸に戻れるかも。
とりあえず今日はこれだけで予定は終了。

さて、どうしようと思って、時計を見る。
琴子さんを探しに行く時間は……ビミョーだなー。
用事があって同行できなかった義姉とはこの病院のロビーで待ち合わせることになっていた。まだ少し時間があるとはいえ、あまりうろうろする余裕はなさそうだ。

でも、折角斗南に来たんだし……と少し迷っていると、ふと、見覚えのある顔が玄関ホールから入ってきたのが目の端に止まった。

大きな紙袋を二つも持ってバタバタと忙しなく駆けていく一人のご婦人。

(え? 入江先生のおかあさま?)

あの入江先生にそっくりな美しい顔立ち。上品そうないかにもマダムといった感じのーー。
夏に一度お会いしただけだが、忘れるはずもない。何につけても印象的な方だった………。

紙袋からはなんかキラキラしたモールやら折り紙で作った鎖みたいのがはみ出ていた。

???

小児科でボランティアでもなさってるのかしら?
確かに大会社の社長夫人ですもの、慈善事業とか積極的にされてそう。

あたしは一瞬追いかけようかどうか逡巡したものの、あっという間にエレベーターに乗り込んでいたようで、さすがに諦めた。




義姉との待ち合わせまで少し時間があったので、ちょっと散歩でもしようかと隣の敷地の大学へと探索を試みる。
とはいえ隣と思ったのが甘かった。
うちの大学病院は大学と隣接してるのだけれど、ここは徒歩で15分くらいはかかったのだ。
学内はひとつの街のように広く、構内を車で移動する人も多いようだ。東京のくせして何でこんなに広いのー。
そんなだだっ広いキャンパス内を案内表示だけみてぷらぷら歩いていたら、しっかり迷子になってしまった。疲れきってようやく学食らしき建物にたどり着いて、少し休憩。
さすがに大学のカフェテリアは病院の食堂と違って明るくてお洒落だ。あたしは自販機のドリップコーヒーを購入して、紙コップを持って窓際の席に座った。

なんといっても時間が夕刻に近いころで、お客の数はまばらだ。ランチタイムではないから、持ち込みのお菓子やジュースでお喋りしている学生が数人。大学内にはいくつか学食やカフェがあるけれど、この時間はきっとカフェの方が賑やかなんだろう。神戸でもたまに大学に資料を届けるついでに学内のカフェでお茶して帰ったりしたもんだわ。学生に戻った気分でちょっとリフレッシュできるのよね。


「おばちゃん、ガセつかませたらあかんやんか。わし、昨日あれから生きた心地せーへんかったわ」

少し休憩してから、紙コップを捨てるゴミ箱を探してキョロキョロしていると、厨房のほうから関西弁が聞こえてきて思わず振り返る。

関西弁は調理人らしいファニーフェイスの兄ちゃんだった。ファニーフェイス……うん、まあ猿顔……。
そういえば、大学の学食に高校時代からの同級生で関西弁喋る友人がいるって琴子さん、いってたよーな。お父さんのお店で修行もしてて、なんでもプロポーズしてくれたとかなんとか。……彼かしら?

「ええ? ガセだったん? じゃあ琴子ちゃん、癌じゃなかったの?」

琴子?
え? 癌?

やっぱり彼だ、と思うと同時に、飛んでもないワードに思わずどきりとする。

「声帯なんちゃらちゅう、ただの喉の病気やて。簡単な手術ですぐ治るらしいわ。大将に確認したら、おれの娘を重病にするなとえらい怒られたわ」

「そーなの? どこでそんな間違った話が流れたのかしらねぇ? でもまあよかったわよ~~ ホッとしたわー」

よくわからないけど、癌じゃないらしい。あたしもホッとしたわ。
ってか、なんでそんなことに?

あたしの頭はクエスチョンマークが飛び交っている。

「とにかく今日、無事手術終わったらしいで」

「よかったなー」

ーーよかった。よかったけど、手術って!? 何? 何? どーゆー展開!?
あ、さっきの入江先生のお母さん……もしかしてお見舞い?
ん? でも変なキラキラしたモールとか持ち込んでたよね? なんだろう?
ああ、気になる!

神戸の病院の不倫の噂はどうなったのだろう。琴子さんの耳に入ってないかどうか、それが物凄く心配だったのだけれど、それ以上に何か大変なことになっているような………
どうも琴子さんの周りには常にトラブルの種が芽吹くのだ。これは体質なのかなんなのか……

しっかし大丈夫なのかなー?
あたしがいないとあの二人、変にすれ違ったりするもんな。

とにかく事情を詳しく聞きたいと思い、彼に話しかけようと近づきかけた途端に、携帯の着信音が鳴り響いた。
げ、しまった!
義姉からだ! 待ち合わせの時間を少しばかり過ぎていたことに気付いて青ざめる。
しっかりものの義姉は、時間にはかなりシビアだ。これから母のことを頼むのに、不義理は許されない。
あたしは後ろ髪を引かれつつ、すぐに学食の外に出て携帯電話に出た。


ーーああ、琴子さん。
うちのことが色々片付いたら会いにいくから……それまで待っててちょうだい!何もトラブル起きてませんように!
あたしはそう祈るしかなかった。

無論、その時点でほぼほぼトラブル終了してたなんて、知るよしもなかったのだけどねーー。







※※※※※※※※※※※※※


次こそ最終回です。
多分早いうちにお届けできるのではないかと………(^^)d







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やっとPCで * by ルミ
やっと今日退院して、改めてPCから読もうと来ました。
【携帯だと中々…)次回も楽しみにしています。

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
毎回リコメが遅くなり申し訳ないです。

高校生の息子さんの勉強を見てあげれるなんてスゴいです!私にはもう無理だわー。化学なんてとくにf(^_^;
お疲れ様です。

ふふ、やっぱり他の病院の設備チェックってしちゃいますよね?
患者として渡り歩いても色々比べちゃいます笑
かをる子さんの素性は色々設定したようなしてないような。マロンさん頼みでスミマセン( °∇^)]ご質問などしっかり反映させていただきましたよ!
そうそう、かをる子さんはイリコト世界の目撃者ということでさりげなく遭遇してます笑
よくわからない事態になってましたが、まもなくスッキリすることでしょう。


Re.ちびぞう様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなって申し訳ないですm(__)m

そう、かをる子さんの親事情考えて、つい自分のこと考えてました。兄より兄嫁の方が頼りになるとめっちゃ助かりますよねー。
そうそう、何処にいっても入江夫妻は噂の的ですね。逃れられない運命〜〜
そして今回蚊帳の外だったかをる子さん、まあ丸くおさまってから知ったことなので、普通にほっとしたことでしょう。



Re.ルミ様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメが遅くなって申し訳ありませんでした。

わー退院おめでとうございました。無理されず、ゆっくりお読みくださいね。
少しでも癒しになればいいなーと思います。

個別記事の管理2018-03-25 (Sun)

大変長い間お待たせしました。
いつの間にか桜も咲き始めてますよ!

もう、バタバタでお花見どころじゃないけどねっ
いまはただ早くGW来ないかな~~とそれを楽しみに生きてます(-_-)


そして、お忘れかもしれませんが、まだまだ結婚記念日なままな二人でございます……( ̄▽ ̄;)








※※※※※※※※※※※※※※※※※




11月21日 A.m.0:00






『入江くん、朝だよー。起きて~~』

点滴も外れ明日の退院許可もおりた琴子と共に、紀子の用意してくれた料理を食べ、ささやかな結婚記念日前夜祭を病室で祝った直樹は、並んでソファに座りテーブルの上の小さな目覚まし時計の針が日付を跨ぐ瞬間を待っていた。


「朝じゃねぇけど、時間だな。四周年おめでとう」

きっちり真夜中0時にセットされた琴子の目覚めしボイスのアラームを合図に、缶コーヒーで乾杯する。
消灯時間はとうに過ぎているが個室なので大目にみてくれるとのことだった。
とはいえ、紀子の用意してくれたシャンパンを開けるわけにもいかないし、結局俺たちはこれだろうと談話室の自販機で缶コーヒーを買ってきたのだ。

(まさか、これわざわざ持ってきてくれてるとは思わなかったよ。よく見つけたね~)

琴子が自分のプレゼントした目覚まし時計を苦笑気味に指差す。直樹がそれを鞄から出した時、驚いてまた声を発しそうになったものだ。
内心こんな間の抜けた自分の声を聞きながら結婚記念日を迎えることになるとは思わなかった琴子は、せめてもうちょっと甘い声で『おはよう、入江くん、大好きだよ、ちゅっ』にしておけばよかった、言葉の選択を失敗したかも、と少々後悔していた。

「ネクタイピンもありがとな。でもどっちかってゆーとこっちの方が嬉しかったかも」

(入江くん、目覚ましなんて要らないかと思ってた)

「確かになくても起きれるけどな。でもおまえのすっとぼけた声を聴くと日常に戻ったようでみょーに和むわ」

(そお?)

その夜の直樹はいつもより饒舌だった。
普段は、黙れというまで止めどなくそして脈絡なく迷走し、あちこちに飛びまくる琴子のお喋りが聴こえないということが、実に間が持たないというか、物足りない妙な感じだったせいかもしれない。

琴子が一生懸命ホワイトボードに文字を綴り、直樹はその手が止まるの優しく見つめ待ってから言葉を返すという静かな会話のやりとりが、とりとめもなく続いていた。

(自分の声って何だか背中がむずむずするような変な感じだよね)

「普段耳に入る自分の声とは違うからな。違和感感じるんだろ?」

(あのこの声をきいたときもなんか気持ち悪かったもん……あたしに似てるなーって……この目覚ましの声に…)

琴子がつんつんと小さな目覚まし時計をつついた。

「……ちゃんとした会話をすると、全然イントネーションとか違うから、すぐ差異に気づくんだけどな。でも一言二言だと確かにドキッとするくらい似てたよな……でも、やっぱりおまえとは違う……」

例え一言でも琴子の声と(不覚にも)聞き間違え、他の女の手を取ってしまったことは直樹の人生の中では、ベスト5に入るくらいの失態と感じていた。ちなみにベスト1は母に言われるまま少女の格好をし、あの事件まで自分を女と信じていた思い出したくもない過去である。母親にも腹が立つが、すでに物心ついている歳でもあるのに、気がつかなかった己の迂闊さにも忌々しさを禁じ得なかった。それに匹敵するくらい、今回のことも自分の迂闊さが腹立たしい。

(たしかに胸の大きさは全然ちがうよね)

直樹が自責の念に駆られていることなど気づきもせずに自分の胸を悲しそうに眺めている琴子。

「あほっ そっちの『違い』はどーでもいい」

(そう? でも入江くん、あのこの胸をガン見してたって)

「それは悪意あるデマだ」

(でも、ほんとはC以上がいいんだよね?)

どうにも胸に食いついてくる。

「おまえ、まだあの時のこと根にもってるのかよ。あれはおまえが親父や裕樹もいるのにあまりに無防備すぎるから、つい嫌味をいっただけ」

(??)

一瞬どういう意味か分からずきょとんとした琴子の髪をくしゃっとかき回し、話を変えるように「とにかく、今回のことは全ておれの失態から始まった。それに関してはきちんと謝るよ。不安にさせて悪かった。電話でキツい言い方して悪かった。連絡とれなくて、ファックス気がつかなくて悪かった。おまえの体調にも気がつかなくて悪かった」と畳み掛けるように謝ってきた。

思わず琴子は直樹の額に手をやる。

(……大丈夫?)

目が訴えている。素直に謝る直樹がどうにも信じられなくて熱でもあるのかと疑っているようだ。

(まだ、疲れとれてないよね。ごめんね、めっちゃ忙しいのに……あたしのせいで)

「ばぁか。おまえは謝らなくていいんだよ」

直樹の謝罪も寝不足のせいと取られてしまうのも己のこれまでの不徳の致すところかと、ため息をつきながら自戒する。

(入江くんもあやまらなくていいよ。浮気してないのなら……)

「だから、してない!」

(うん、信じる。だからもうあやまらないで)

「じゃあ、もう、お互い謝るのはなしってことで」
ふわっと優しく抱き寄せる。
そして、うっかり話さないよう飲み食い時以外は口元を覆っているマスクをスッとはずして軽くキスをした。

「早く、よくなって、また声を聴かせてくれ………」









11月21日 A.m.5:00



『入江くん、朝だよー。起きて~~』

昨夜は病室のソファの上で眠り、琴子の目覚ましボイスで目覚めた直樹は、始発の新幹線に乗るべく準備をしていた。

(気を付けてね。お仕事も、無理しないでがんばって……)

「ああ。起こしちまったな。おまえはもう少し寝てろよ」

むっくり起きてベッドから降りようとした琴子を止めて、頭をポンポンと叩く。

「じゃあな」

着の身着のままで神戸から飛んできた直樹なので、たいして支度もない。

すでに半泣きの琴子をぎゅっと抱き締める。
(せっかく入江くんがいるのに勿体なくて眠れない~~)といっていた琴子だが、その五分後には爆睡していた。あまりに琴子らしくて苦笑を禁じ得ない直樹だったが、狭いベッドから落ちないか、寝言で声を出さないかとはらはらして自分は眠るどころではなかった。昼間しっかり寝てしまったので眠れなかったこともある。

「またしばらくは、忙しくて音信不通になるかもだから、まとめて充電しておかないとな」

おそらくはクリスマスも、正月も……
そういう意味なのだろう、と琴子も悟って(あたしも!)と心の中で叫び直樹の背中にぎゅっと手を回した。

(入江くん、大好き!)

耳には届かなくても、琴子の心の声が直樹の胸にすんなりと届く。

病院の玄関まで見送るという琴子をベッドに押し込んで、直樹は静まりかえった廊下に出た。ナースステーションの灯りが仄かに光るだけの薄暗い廊下をエレベーターホールに向かって歩く。
働く病院は違えど慣れきった雰囲気の空間ではあるが、医師という立場で病棟を巡るのと、患者の家族という立場で訪れるのとは随分ちがうものだと今さらながら思う。
とはいえ、そんな立場で病棟を訪れるのは二度とごめんだとも思う。

ーーいや、産婦人科病棟ならありか。

いつかそんな日が来ることもあるだろう。
琴子が無事に国家試験に合格して共に暮らせる日がくればーー。










その日の午前中には予定通り琴子は無事に退院できた。直樹が無事に神戸に辿り着いたのと同じくらいの時間だった。
紀子と重雄に迎えにきてもらい、自宅に戻ると直樹からの留守電が入っていた。

『琴子? もう退院したか? おれは今、マンションに着いた。シャワー浴びてから病院に戻る。また連絡取りづらくなるけど、心配するなよ。あと、おまえも一週間は絶対に喋るな。ずっーとマスク外すなよ。それと、これから一週間はファックスはきちんとチェックするよ』

電話機の前で正座して、直樹からの留守電を10回くらい再生している琴子に、紀子がくすくすと笑いながら声をかける。

「珍しくマメに到着報告してきたのはいいけど、なんでそんなに偉そうなのかしらねぇ?」

そして、琴子はすぐにいそいそとファックスで送る手紙を書きはじめた。

(入江くん、留守電メッセージありがとう!! ちゃんと退院したよー! お仕事頑張ってね。心配してた心臓病の赤ちゃんは大丈夫だった? 手術成功するといいね。それからーー)

昨夜随分いろんなことをホワイトボードに書いては消してを繰り返し伝えた気もするが、どうにも文字だと微妙なニュアンスが伝えきれない気がする。
早く話せるようになりたい。
早く入江くんとちゃんとお喋りしたい。
早く一週間が経てばいいのにーー










11月27日 A.m.10:45


そして、一週間。
長かった絶対沈黙の期間が過ぎ、ようやく発声の許可を得ることが出来た。

「お義母さん! ただいまー!!」

「きゃー琴子ちゃん、琴子ちゃんの声だわ。おかえりなさい~~!」

一人で病院に向かった琴子を心配そうに待っていた紀子は、琴子の第一声を聴いて、歓喜の涙を流しながら抱き締めた。

「おかしくないですか? あたしの声……」

「ええ、もうすっかり元通りよ。よかったわねー」

主治医の前で初めて発声した時、自分の普段の声がきちんと空気を震わせるのを感じて、飛び上がりそうに嬉しかった。再発しないよう発声指導を受けるための通院はしばらくあるが、もう自由に話せる。お世話になったホワイトボードに別れを告げて、歌でも歌いたい気分だったが、カラオケとか大声で叫んだりとかはしばらく控えてねと釘を刺された。
とにかくあの潰れたヒキガエルのような声ではなくなったことに、思わずスキップして帰りたいくらい嬉しくてたまらなかった琴子である。

「もう今夜は快癒祝いね。ご馳走つくらなくっちゃ! 何食べたいかしら?」

楽しそうに話す紀子に、「えーと、お義母さん……」と、少し言いにくそうに琴子が口ごもる。

「あ、そうね、琴子ちゃん! 早く電話しないとね~~! 直樹、今家にいるかしら?」

すぐに察した紀子がふふふっと笑って電話の子機を差し出す。

「今日は病院って聞いてます。それで、あの……」

琴子は受け取った子機をしばらく眺め、そしてそれを充電器のところに戻した。

「やっぱり電話の音より生の声聴いてもらいたいので、今から神戸に行ってきていいですか?」

「あらーーすてきな計画! もちろんですとも! じゃあ完治のお祝いに私から交通費はプレゼントさせてね」

「いえ、そんな……」

まだ午前中なので、昼頃の新幹線で行って、直樹に完治の報告だけして最終でトンボ返りするつもりだった。誕生日のプランの仕切り直しである。

「遠慮しないでちょーだい。これくらいしかできないんだから」

「すみません、おかあさん……」

「さ、じゃあすぐに羽田に送るわね」

ぱっとエプロンを取り去り、キーボックスから車のキーを掴む紀子に、思わず目を丸くする。

「え? 羽田?」

「当たり前じゃない。私からのプレゼントが新幹線のチケットなんてみみっちいものの筈ないでしょ。飛行機なら一時間よ! 大丈夫、この時間ならきっと空席あるわよ。なくったって、なんとかしてみせるわよ!」



ーーそして、三時間後。
琴子は神戸医大に着いていたーー。







※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

この時間に神戸行きの便があるのか大いに疑問ですが(LCCのある今なら沢山あるようですが)この際そこはスルーで……f(^_^;



多分、次は最終話だと思いますf(^_^;






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ウフフ * by なおなお
紀子ママも、琴子ちゃんもある意味似た者同士なのかな?でも、琴子ちゃん生の声が一番の入江君への誕生日プレゼントだねv-274

Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

なんとか結婚記念日まで辿り着きましたよ。
紀子さんがシャンパン持ち込んだものの、飲むわけにはいきませんしね〜〜何で乾杯させよーかって、そりゃ缶コーヒーでしょう!となりました(^^)d
はい、琴子ちゃん、仕切り直しで神戸にゴーです。
ふふ、失態ベスト5ですか? あとがきに書こうかなーと思いつつ、皆さまの想像にお任せしましたが笑
一位は政略結婚しようとしたこと(安直な方法で周りを不幸に……)2位は嫉妬事件(青かったな、と今なら思える)、3位はハネムーンの麻里に振り回されたこと(今なら上手くあしらい最初から琴子を可愛がる自信あり)4位は披露宴を紀子に仕切らせて、機嫌を悪くしほんとの初夜を無駄にしてしまったことーーといった感じでしょうか笑(因みに未入籍事件のことはまだこの時には反省してません)

Re.なおなお様 * by ののの
コメントありがとうございます♪

ほんと、パワーと行動力は二人似た者同士ですね!はい、やっぱり生の声が一番の活力になるかと(^^)d

Re.heorakim様 * by ののの
拍手コメントありがとうございます♪

はい、なんとか落ち着きました。ご心配いただきありがとうございました(^^)d
ふふ、素直な直樹さん、なかなかレアですよね。こんな時くらいはねぇ〜〜
はい、紀子さんにかかれば、神戸になんてひとっとびですよ♪

個別記事の管理2018-02-25 (Sun)


更新空いてしまいました……^_^;

8割くらい先週に書いてたんだけど、その後仕事が怒濤なまでに忙しくなってちょっと放置でございました。

そのうえ、ちょっと確認したいことあって初めから読み返してたら色々ミスを見つけて、密かにこっそり修正してたりして。(あえて修正ありとは記してませんが、何話分かちまちま直してます……^_^;)

きっと読み返すとまだ突っ込みどころが出てくるかもですか、気がついた方、こそっと教えてくださいませf(^_^;









※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※







11月20日 A.m.8:55



「じゃあ、いってくるね……」

「ああ」

手術室の前で、まるで永の別れのようにうるうると涙ぐむ琴子の頭をくしゃっと掻き回してから、「すぐに終わるよ」と優しく笑う。

「う、うん。そーだね……」

「多分、オペよりその後の絶対沈黙の方が辛いだろ」

「そうかも……」

ここ数日筆談で、声を使わないように留意してきたが、やはりどうしても時折声を発してしまっていた。術後は傷が開かないよう完全なる沈黙が余儀なくされる。

「また、当分おまえの声が聴けなくなるのが残念だけどな……」

「こんながらがら声でも?」

「ハスキーボイスもなかなかのもんだな。その童顔とのギャップもいい」

手術前のリップサービスかもしれないが、直樹らしからぬ優しい言葉に琴子の顔に笑みが広がる。
そして、頬を赤く染めた琴子は直樹の耳元で囁くように告げた。

「入江くん、ありがとう。大好き」

「ああ。知ってる。さあ、いってこいよ」


いつまでも名残惜し気に振り返る琴子が手術室の扉の向こうに消えるのを見送ったあと、二人の後方に控えていた紀子(当然、遠巻きに今の二人のやり取りもしっかり撮影)と重雄の方につかつかと歩いていく。

「お義父さん、すみませんでした。忙しいのにかまけて琴子がこんなことになってるのに気づかなくて……」

「いやーよくこんな早い時間に来れたなぁ。まあ間に合ってよかったよ。そんな大袈裟な手術じゃないようだが、初めてのことで不安だったようだしな。琴子もこれで安心して手術を受けられるだろう」

「ま、相原さん、もっとがつんって言ってやっていいんですよ。こんな馬鹿息子」

「まあ、おれも人にがつんと云えるほどいい亭主じゃなかったからなぁ。昔気質の仕事馬鹿で。母ちゃんには随分寂しい想いをさせちまったと思うよ。あいつが病気になった時も店を軌道に乗せなきゃなんねぇ大事な時期だったからなぁ。あいつもおれが見舞いに行くと怒るんだ。こんなとこ来てる暇なんてないでしょ?って。その言葉に甘えて仕事優先にしちまってたから、後でもっと二人で過ごす時間を大切にすればよかったと死ぬほど後悔したもんさ。まあ、まさかあんなに呆気なく逝っちまうなんて思いもよらなかったしな」

笑いながらそう懐かしむように話す重雄だが、きっと当時は懺悔と慟哭の日々であっただろうと想像できた。琴子が癌かもと耳にした時の衝撃と動揺は言葉には表せない恐怖に近いものだった。

「琴子も悦子に似てるからなぁ。自分のことより直樹くんの仕事や患者さんのこと考えちまうだろ?
ついでに余計な心配もあれこれしちまうしな。お互い言葉が足りないし、離れてると思ってることを伝えあうのも不自由だから仕方ないんだろうがなぁ。
手術が終わって目が覚めたら、二人で色々溜め込んでたこと、とことん話し合ってくれ……って、琴子は話せねぇか」

頭をかきながら、「めんどくせー病気だなぁ。お陰で毎日静かすぎて敵わねぇ」と苦笑する重雄に、「ほんと、琴子ちゃんがお喋りできないと我が家は火が消えたようなのよ」と相槌をうつ紀子。

「筆談の方がちゃんと言いたいこと言えるかもしれませんけどね」

「ははは。失言する前に考えるからなーーーおい、直樹くん、顔色悪いぞ? 大丈夫か?」

「ああ、すみません。大丈夫です。単なる寝不足でーー」

「ふらついてるな。琴子のために無理して帰って来たんだろう? 終わるまで寝てていいぞ?」

琴子の顔を見て少し安心したのか、直樹は足が妙に力が入らず浮遊しているような感覚に襲われていた。

「いえ……結節の手術なんてすぐに終わりますから……終わるまで待ってます」

「そうか? いや、無理しない方が……あーーおい、直樹くん!」

「……お兄ちゃん!?」

二人の叫び声がひどく遠くで聴こえた。
床が崩れ落ちていくような感覚がして足元が揺らぐ。周囲の景色が灰色に替わりぐにゃりと歪んだ。
そしてーー唐突に視界がフェイドアウトしていったーー。
















「はい、ここが何処だかわかります? あ、喋らないでくださいねー」

琴子が看護婦の声で目が覚めた時には病室に戻っていた。
腕には点滴が刺されたままで、喉には若干違和感があるだけで特に痛みはない。

「じゃあ、絶対喋らないようマスクは常にしてくださいねー。咳とかしそうになっても頑張って踏みとどまってくださいね」
と、無茶なことを言われつつ、不織布マスクを渡された。

顔をひきつらせつつも、マスクを受け取ってつける。
ベッドの脇には紀子と重雄が見守っていた。

「琴子ちゃん、大丈夫?」

心配そうな紀子の問いにこくこくと頷く。麻酔から覚めたばかりで気だるいが、気分が悪いということもない。

(あれ? 入江くんは? もしかして、もう神戸に帰っちゃった? それとも、手術前に会えたと思ったのは夢だったのかしら?)

視線をあちこちに泳がせているのに気がついたのか、紀子が「お兄ちゃんならここよ」と指差す。

(えーー?!)

思わず叫びそうになって慌ててマスクの上から口を押さえる。
なんと、直樹は琴子の隣のベッドに横たわり眠っているではないか。
しかも直樹も点滴の管が繋がれている。

(な、なんでーー?)

目をまんまるくして紀子と重雄の顔を交互に伺いみる。

「睡眠不足と過労ですって。琴子ちゃん手術室に入るの見送ったあと、ぶっ倒れたのよ。まーったく医者のくせに何やってんだか」

(い、いりえくーーーん!!!)

一瞬にして青ざめた琴子の顔が泣きそうに歪む。

「ご主人のほうは、そのうち目が覚めると思いますよ。目が覚めて点滴終わったら帰ってよいとのことですので。処置室でそのままでもよかったんですけど、こちらに運んでくれとご家族の方に希望されたのでお連れしました。琴子さんも点滴終わったら動いても大丈夫ですからね」

点滴のチェックをしながら担当ナースが説明してくれた。

「退院は明日の朝を予定しています。 一応、あとで先生に診てもらってから許可が出ると思いますけど。今のとこ問題なさそうですから、多分大丈夫ですよ」

自分のことより直樹の方だ。
琴子はベッドから身をおこし、傍らのベッドで眠っている青白い顔の直樹を見つめ続けていた。

(倒れるほど忙しかったのに……東京に戻らせて……あたしのせいだーー! ごめんね……)

ぽろぽろと涙をこぼし始めていた琴子に、「琴子ちゃんが気にすることないのよ。いくら忙しすぎても自己管理ができてないのはお兄ちゃんのせいなんだから」と、背中をさすって慰める。

「そもそも神戸になんか行ったのが間違いなのよ。こっちにいればある程度は家族でフォローしてあげれるのに」

紀子の言葉に琴子は首を振る。
今さら直樹の選択を否定するつもりはなかった。直樹がどんな思いで神戸を選んだのか、神戸での数ヶ月、どれほど頑張っていたのか琴子も十分にわかっていた。

「それを言っちゃあいけないよ、奥さん。直樹くんには直樹くんの考えがある。そして最後には琴子も納得して、見送ったんだから。こうして帰って来てくれただけで十分だろう? なあ琴子」

父の言葉に琴子もうんうんと頷く。

「ほんとに、琴子ちゃんってば健気なんだから……変な不倫疑惑の挙げ句、お兄ちゃんから連絡なくて、そのうえこんな病気になっちゃった琴子ちゃんの方がずっと不安で心細かったのに……」

紀子は優しく琴子の髪を撫でる。

「もう、どうせなら、お兄ちゃんもこのまま一緒にここで泊まってけばいいじゃない。ランクの高い個室にしてよかったわーー。ベッドもう一ついれても、ほら、全然余裕だし。あーーベッドもっと引っ付けちゃいましょ? お兄ちゃんが近い方が琴子ちゃんも安心よね」

部屋はVIPルームほどではないにしろ、ソファやリビングテーブルの調度があり、自宅の寝室並みの広さはあった。
紀子は二人の点滴台の位置を反対側にずらして、少し離れた位置にあった直樹のベッドを琴子の側にぴたりとくっつけた。そして互いに接する方の柵を外してしまう。

「ふ、これで完璧ね」

にやりと笑って、並んだ医療用ベッドに横たわる夫婦二人の不思議なツーショットをぱしゃりと一枚撮ってから、「じゃあ、ちょっと売店に行ってくるわね~」と部屋から出ていった。

「じゃあ俺も仕込みがあるからそろそろ行くな。明日の朝は一緒に迎えにくるよ」

重雄も出ていくと、琴子は病室に直樹と二人きりで残された。
部屋はしんと静まりかえっている。昼間のせいか、夜中にうるさいほど聴こえたナースコールも気にならなかった。
いやーーただ琴子の耳には死んだように眠っている直樹の寝息の音しか届かないだけなのかもしれない。

(……入江くん……前に会った時より顔がやつれてるよ……救命にいる時も相当ハードワークだと思ったけど、それより忙しいなんて……ごめんね。あたしのせいで。こんなに無理させちゃって)

琴子は話せない替わりに、心の声でずっと直樹に話しかけ続けていた。

(でも、窶れてもやっぱ綺麗だなぁ。髪も少し伸びてる。カットになんてなかなか行けないよね。あ、ちょっと不精髭が……)

少しざらっとした顎辺りをつんつんと触ってみる。
手術前にキスした時になんとなく気がついてはいたけれど。

(へへへ……入江くんだぁ。ほんものだよ、ほんもの! 夢じゃないんだよね……)

ようやく少し実感がわいてきたのか、すりすりと頬を撫でる。

(起きちゃうかなー? 大丈夫だよね? こんなに爆睡してるし)

そして段々大胆にペタペタと触りだすとーー

「ばーか。流石に起きるぞ」

その手をぐっと掴まれた。

(ひゃーーごめんねーーっっ!!)

辛うじて声を出さずにすんだけれど、かなりヤバかった。発声寸前の寸止めである。

「ああ。驚かせたら不味いな。無事にオペは終わったんだよな……」

直樹もむくりと起き上がり、自分の腕に刺された点滴を見つめて顔をしかめる。

「……ったく。とんだ失態だったな……」

(大丈夫? 入江くん)

琴子が枕元に用意してあったホワイトボードに書いた。

「ああ。単なる寝不足。そういえば2日くらいまともに寝てないかも……」

(無茶だよーー死んじゃうよー)

半泣きの琴子に、「そう簡単には死なない」と軽く頭をぽんと叩く。

(そういうの『医者の不用心』って いうんだよ)

「不養生だろ?」

ペンを奪い取り添削する。

(もう少し寝たら?)

「ああ。でも点滴終わりそうだし。終わったら病院に電話しないとな。そういえば、おれ、今日休むって連絡してなかった」

(無断欠勤? あたしのせいで?)

おろおろと青冷める琴子に、「別におまえのせいじゃないよ。しいていえば金之助のお陰かな」と苦笑混じりに告げる。

(金ちゃん?)

文字にはしなくても琴子がきょとんとした様子からそう問うているのは簡単にわかった。

「誰のせいかといえば、完全自業自得だしな。忙しいからと、まともに家に帰らず、ファックスも全く見てなかった。おまえはちゃんと病気と手術のこと知らせてくれてたのにな。前もって状況を把握してたらきちんと申請して休みを奪い取って帰ってたよ」

(入江くん……)

点滴が終わったあと、直樹の様子を見に来た救急処置室のナースに抜針してもらう。別に自分でやっても良かったが、まだ新人らしい彼女の仕事を奪っても、と思い直した。

「えーと、ベッドやけにくっついてますねぇ? これ、処置室のベッドなのであとで回収しますけどいいですか?」不思議そうに2つ並んだベッドを見つめるナースに、二人は苦笑するしかない。

「すみません、もう少しベッド置かせてもらっていいですか? まだ少しふらふらするので」

「あら、大丈夫ですか?」

「はい。もう少し横になれば治るかと」

「じゃあ、調子が戻らなければ遠慮なく呼んでくださいね~」と話すナースはぽっと頬を染めて、直樹の顔に見とれている。
琴子は(そんなに見ないでよ~~さっきも針抜くだけで、やけに時間かけてたけど!)と言いたいが声が出ないので軽く睨みつけるだけにとどめた。

(ふらふらするの? 大丈夫?)

「大丈夫。せっかくだからもう少し寝たかっただけ」

心配そうにおろおろする琴子に、いたずらっぽく直樹は笑った。

「とりあえず病院に電話をしに行く」と出ていって、しばらくしてから戻ってきた直樹は、「なんとか今日は休みにしてもらった。出勤は明日の午後からでいいってさ。だから明日の朝イチで神戸に帰るよ」と琴子に告げた。

琴子は驚いたように(じゃあ今日はずっと居てくれるの?)と記した。

「ああ、そのつもり」

(うれしいーー!!!!!)

文字には表さなかったが、琴子の心の声が飛び込んでくるような満面の笑みを携えて、直樹に飛び付く。

「と、いうわけで……」

直樹は琴子を抱き締めながら呟くように云った。

「……もう少しだけ、寝るーー」

そして、琴子を抱き締めたまま崩れるようにベッドに撃沈していく。

(ーーー入江くん………)

一瞬で寝入ってしまった直樹の寝顔を少し驚いてしばし見つめる。

(そういえば、結婚したばかりの頃もこんなことあったよね……)

会社を立て直すために不眠不休で新作ゲームを作り家にも帰ることができなかった。
ようやくすべてが終わりやっとハネムーン以来初めて自宅のベッドで二人で過ごす夜に、直樹は琴子に寄りかかって寝落ちしてしまった。
甘い夜をひそかに期待していたものの、そんな隙を見せてくれたことに少しだけ嬉しかったことを思い出した。

しれっと何でもソツなくこなしてしまうし、感情を表さない冷血漢と思われている直樹だが、その裏ではかなり自分の身体を酷使して無理をしているのだ。天才だからってスーパーマンなわけではない。
あまりに平然としているので、誰も気がつかないだけで。

(入江くん、お疲れ様……)

琴子は軽く直樹の額にキスをして、自分も横たわる。
ずっと寝顔を見ていたいけど、やはり麻酔が覚めたばかりの気だるさには抗えない。そして、自分も昨夜はあまり眠れなかったのだ。
琴子もいつの間にか眠ってしまい、自分の担当ナースが点滴を外しに来たのすら気がつかなかった。




「あら、素敵じゃない~~」

紀子が部屋に戻ると、琴子と直樹は隣り合ったベッドで手を繋いだまま熟睡している。

二人とも点滴は終わっているようで、管から外れているせいで、琴子の寝相の悪さは大胆に復活し、足は完全に直樹のベッドに侵入しようとしていた。

「ふふふ。流石に自宅で夫婦の寝室に眠る二人は撮れないけと、ここでならばっちりよねー」

そしてしばし手を繋いで眠る二人をシャッターに収めたあと、紀子は満足げに部屋を後にしたのである。










琴子が次に目を覚ました時は午後もだいぶ過ぎた頃だった。
主治医の回診が来たのだ。

そして、隣にあった筈の直樹のベッドはすでになく、替わりに椅子に座って琴子のベッドの傍らにいた。流石にベッドは処置室に戻してもらったようである。

(入江くん、もう起きてたんだ……)

しっかり睡眠が取れたようで幾分スッキリとしていた直樹の様子に安心した。

「入江さん、どうですか? あー、喋らないでね」

(大丈夫です。ちょっと違和感あるけど)と主治医の問いかけにホワイトボードでささっと答える。

「うん、特に問題ないです。傷口もキレイですよ。退院は明日の朝で大丈夫ですね」
嶋田医師は喉の奥を診て、にっこり告げた。

「みます? タコちゃん」

そういって医師はちっちゃな瓶を琴子の前に差し出した。

「それが琴子の結節ですか」

琴子より直樹の方が興味深げに小瓶の中で泳いでいる小さなピンク色の物体を眺めた。

「小さいですね」

「まあ、なかなかこのサイズで切る人はいませんけどね。嗄声が酷かったですからねぇ。すぐ話せるようになりたいということで」

「……確かに自然治癒や投薬療法は時間がかかりますが」

その後直樹は主治医の嶋田と専門的な話を延々と話し始めてしまった。

琴子はひたすら医師の顔つきとなって主治医と論議を交わす直樹の顔をうっとりと見ていると、何処かに行ってた筈の紀子が大きな紙袋と風呂敷をかかえて部屋に入ってきた。

「あら、先生。診察中だったのね、ごめんなさいね。あの、琴子ちゃん、もう普通に食事しても構わないんですよね?」

「はい。夕飯から食べていいですよ」

「あらーよかったわー。この子たち明日結婚記念日なんですのよ。前祝いにちょっと病室でプチパーティーしていいかしら?」

「へ? あ、まあ騒がなければ……」

「騒ぐったって、二人きりでさせますから。琴子ちゃんは話せないから騒ぎようはないですよ」

そういってころころ笑って、紙袋の中から横断幕を取り出す。

「おふくろっ」

怒鳴る直樹とあっけにとられ目を白黒させている医師やナースのことなど全く気にすることなく、紀子はあっという間に部屋に飾りつけを施してしまった。

『祝4周年! 花実婚式おめでとう』

そう書かれた横断幕には布で作られた色とりどりの花が貼り付けられていた。

そして、扉の外に置いておいたらしい大きな袋を取りに行き、中からハート型のバルーンを取り出すと、部屋のあちこちに飛ばした。

「ほら、華やかでしょ~~」

(おかあさん! すごいです。ステキです)

両手を組み、瞳を潤ませて感激する琴子である。

「おふくろっここは病室だぞ!」

「だからぱあっと明るくしなきゃ!」

そして、風呂敷からケーキの箱と重箱を取り出す。

「私のお手製のケーキと、ちょっとしたご馳走。相原さんも手伝ってくださったのよー」

ケーキにはたっぷりのフルーツと食用花が飾り付けられ、『花実婚式おめでとう』と書かれたプレートが付けられていた。

(おいしそう! ありがとうございます!めちゃめちゃうれしい)

「あとでお花も届くようにしてあるから。なんといっても花婚式ですもの」

「明日の朝には退院するのに、こんなに持ち込んでどうする!?」

「あら、持ち帰ればいいだけの話でしょ?」

眉間に皺を寄せている直樹のことなど構わずに、紀子は冷蔵庫にジュースやシャンパンを入れる。

「えーと、流石にお酒は……」

顔をひきつらせながらナースが止めにいく。

「シャンパンは形だけよ~~こんなとこでもムードは重要ですものね」

と、シャンパングラスをリビングテーブルに並べる。

「結婚4年目はね、花も実もなり幸せに溢れた家庭を築けるよう花実婚式と言われるのよ。ほんと、そろそろ実もなって欲しいわね~~」

にやにやと笑みを浮かべる紀子に「病室でどうしろと……」と小声で突っ込む直樹であった。

「さ、お邪魔虫はさっさと撤退しますわよー。先生たちもあまり二人の邪魔はしないでくださいね。なんといっても織姫彦星のようにひっさびさに会えた夫婦なんですからね!」

「いえ、あの……でも、ここは一応、病室なんで……」

度肝を抜かれ過ぎてポカンとしている医療者たちの背中を押して、「わかってますって。大丈夫、非常識なことはこの夫婦、しませんから」と追い出そうとする。

「えーと、とりあえず術後は安静でお願いします……」
振り返って念押しする医師に、

「まあ、ほんとは久々の愛妻、可愛がりたくて仕方ないとは思いますのよ。でも琴子ちゃんに声出させるわけにはいかないものねぇ。そのへんは一応医者ですから弁えているかと。ほんと、残念……」ちろりと息子夫婦を伺いみて、ぼそっと呟く紀子。

直樹は「おふくろっいい加減にしろ!」と思わず声を荒げた。

「はーい、いい加減にして退散するから、ごゆっくり。今夜は私もパパと経団連のパーティーに出掛けなきゃ行けないのよ。だからビデオ撮れなくて残念だわー。あ、お兄ちゃん、ちゃんと琴子ちゃんに不倫の噂の釈明をして謝るのよ」

「おれは謝るよーなことはしてねぇよ」

「噂になること自体、隙があるの。自分の詰めの甘さを恥じて素直に謝りなさい。じゃ!」


ばたんと扉がしまり、室内は唐突に静寂に包まれた。

「………ったく」

忌々しそうにため息をついた時、琴子がホワイトボードに書いた文字を見せる。

(別に謝らなくていいからね。入江くんのこと信じてるし)

「ほんとに? 一ミリも疑ってない?」

意地悪そうに訊ねる直樹に、琴子は一瞬怯む。

(あの実習生の女の子と一緒に話してるの見た時は、ちょっと疑ったの)

「え? なんだよ、そこまで近くに来てたのか? 声をかけてくれれば良かったのに」

(だって……)

琴子は考えあぐねながら、言葉を綴る。

(あのこが、入江くんの腕の中の感触知ってるって……)

「ああ。ーーあのとき、おまえ、居たのかよ……」

ちゃんと会いに来てくれたら、きっちり説明できたのに、と思うが、やはりそんな場面に居合わせてしまったら声はかけられいものなのだろうと、想像はできた。
しかし間の悪いことこの上ない。

(入江くんが実習生と不倫してるとか、巨乳好きとか、変なウワサも聞いちゃって……入江くんのこと信じようとは思ってたけど、やっぱり不安で)

「……ったく、巨乳好きなわけないだろうが」

(あのこを見る目が違うって評判だったって)

「仕方ないだろ? 彼女の声がおまえにそっくりで、声が聴こえる度に反応して振り返っちまうんだから」

(……ほんとに? あたしの声と間違えただけ?)

「そうだよ。噂のきっかけも寝惚けておまえと間違えて腕を掴まえて抱き寄せただけで………だから腕の中の感触ってその時の……わー、泣くなっ! だから間違えただけだってば!」

声を押し殺してぽろぽろと涙をこぼす琴子を直樹は慌てて抱き寄せる。

「ちょうどおまえの夢を見たところだったから、つい反応したんだ。でもすぐおまえと違うとわかって、突き飛ばしちまって、それで慌ててもう一度彼女を引き起こして……その時誰かに見られたみたいで」

それが噂になっただけだと、ようやく釈明ができた。

(入江くん……あたしの夢を見るくらい会いたかったの? ねぼけてまちがうくらい会いたかったの?)

涙から少し復活した琴子が、瞳を輝かせて問いかける。

ホワイトボードに書かれた文字と琴子の顔を交互に見つめ、いつものように琴子の想いに素直には同意しない天邪鬼の虫が疼きかけるのを辛うじて抑えた直樹が、諦めたようにひとつため息をついてから、優しく応えた。
琴子を再び強く抱き寄せながら。

「……そうだよ。おまえの声を聴きたかった。会いたかった。ちょっと似てるだけで間違うくらい、渇望してたんだ」

そっかぁ、あたしだけじゃなかったんだ。あたしもね、入江くんに会いたくて声が聴きたくて、たまらなかったのーー

琴子はそう文字に書きたかったのだが、直樹が自分の腕の中にきつく閉じ込めるので、言葉に綴ることはできなかったーーー。









※※※※※※※※※※※※※※※※※※


やっと結婚記念日に突入できそうですf(^_^;
誕生日直前に始めて結婚記念日当日にこの話を持ってこようなんて、どだい無理ってもんでした。まあ、無理だろうとは思ってたけどね……
さて、あと1話か2話で終われるかな~~






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* Category : 1日で終わらない西暦シリーズ
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* by なおちゃん
取り敢えず命にか変わる病気じゃなくって良かったね?さすがの入江君も寝不足にはかなわない、琴子ちゃんのことが気がかりで会うまではて思った( -_・)?ですね、琴子ちゃんの事が、安心したら倒れちゃったんですね‼️相変わらずママのパワー凄い二人この事は、二人に任せればいいんですよね🎵

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Re.マロン様 * by ののの
コメントありがとうございます♪
リコメがめっちゃ遅くなりまして、申し訳ないですm(__)m

20年前の研修医って過酷だよね、マジ三十時間寝れなかったりするんだよね、と思ってたら今でも医者の過労動、問題になってますねぇ。斗南は直樹さんのお陰で労働環境改善されてるかも〜(^^)

解せませんか? まあ直樹さんも禁断症状(琴子中毒の)で相当参ってたってことでf(^_^;
琴子は直樹が素直に謝りゃ許しちゃいますよ。というか、浮気でなければオールOK笑 浮気でも身を引いてしまうかも(-_-)

ええ、紀子ママですから! 横断幕はきっと毎年家族全員分のアニバーサリー、しっかり準備てるかも笑 横断幕コレクションルームあったりして笑

はい、なんとか結婚記念日までたどり着きました〜〜(^-^)v国家試験合格までは遠いなぁー。

Re.ちびぞう様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメ遅くなって申し訳なかったですm(__)m

ふふ、ほんと看護婦さんはびっくりですよね。紀子ママには度肝を抜かれます。
そして、自分で書きながら、直樹さん、こんなに素直でいいのかーーと思ってましたけど、ま、色々弱ってるんで笑
あ、目覚まし時計、見つけてますよ〜。すでに何回リプレイしていることか(^^)dそしてちゃっかり持ってきてます笑 琴子の生声まだまだ、聴けないものね〜〜




Re.さあちゃん様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメ大変遅くなりまして申し訳ないですm(__)m

はい、なんとか手術も終わって、イチャイチャしたいとこですが、術後なんでできません。入江くん、もうよろよろですが、琴子に会えればなんとかチャージ出来るでしょう(^^)d
ほんと、すぐにとんぼ返りですが、自分で選んだ道なので〜〜(どんまい)
ほんと、紀子ママ、ナイスなお姑さんですね。おおー紀子ママさんのようなお姑さん目指しますか?そりゃ、琴子ちゃんのようなお嫁さん募集しないとね〜〜琴子ちゃん以外受け入れてくれないかも!

続き、なかなかアップ出来ずに申し訳なかったです〜f(^_^;楽しんでいただけたかしら〜〜。

Re.なおちゃん様 * by ののの
コメントありがとうございました♪
リコメ遅くなって申し訳なかったですm(__)m

はい、ただの声帯結節でよかったです。癌騒動はきっとうやむや……f(^_^;
そうそう、紀子ママのパワーで全て解決。いざというときの紀子ママなのです!

Re.ルミ様 * by ののの
拍手コメントありがとうございました♪
リコメ遅くなって申し訳ないですm(__)m

読めるようになってよかったです。なかなか更新出来なくて申し訳ないですが、頑張ります~~f(^_^